アーチェリーの歴史は人の歴史
歴史上は世界最古の武器だった
アーチェリーは、一定の距離から弓で的の中心を狙い、標的に当たった矢の数を点数に換算して競うスポーツです。観客は、選手の緻密で高度な技に驚かないではいられません。
歴史上「世界最古の武器」と言われる弓矢。狩猟や戦いの道具で、歴史の中で人の生存にかかわるツールでした。今ではオリンピック競技にもなっています。
アーチェリーが、どのようにしてスポーツとして世界中に普及していったのか、その長く興味深い歴史を振り返ってみましょう。
起源前2万年に始まった歴史
歴史を振り返ると、旧石器時代の紀元前1万年~2万年には、弓矢の歴史もスタートしたと考えられています。スペインのアルタミラ洞窟の動物壁画や、スペインカステリョン洞窟にある弓矢を持つ人の壁画が歴史上有名です。
さらにルーブル美術館に行けば、アッシリアのダリウス1世の宮殿にあった、狩猟や戦さの様子を描いた歴史的壁画(紀元前500年)にも、格好いい射手の姿を見ることができるでしょう。
アーチェリー発祥の歴史とは?
歴史上、戦いの技術がスポーツになった例はいくつかありますが、アーチェリーもその1つですね。長い歴史の中で、私たちが見慣れた形で弓矢が登場する、いくつかの歴史的ストーリーをみていきましょう。
アーチェリー起源の歴史①エジプト
古代エジプトでは紀元前3,000年に、狩猟や戦いに弓矢が取り入れられた歴史があると考えられています。特に騎馬戦や海での戦いには優秀で技術の高い射手が活躍し、ギリシャ、ローマでも射手隊があったそうです。
弓の材質は本体が木製、弦は羊の腸、射程距離は350mほどでしたが、馬の戦車に乗った射手は、さぞかし敵の脅威だったことでしょう。
アーチェリー起源の歴史②ギリシャ
ギリシャ神話に登場する、狩猟と貞淑の女神アルテミスをご存じでしょうか?ディアーナとも呼ばれるゼウスの娘で、ギリシャの12神の1人。
弓矢はギリシャの人々にとって、人知を超えた脅威の道具で、宗教上の儀式にも使われたそうです。
アルテミスは豊穣の神でもあり、銀色の矢を携えています。神話の歴史に出てくる女神には珍しい短めな衣装と背負った矢に、活動的なキャラクターを感じさせますね。
アーチェリー起源の歴史③日本
日本では「和弓」が行われた歴史がありますが、和弓はまた「大弓」とも呼ばれました。世界的視点からみると「長弓(ちょうきゅう)」として分類されています。
日本の長弓はバイキングや、百年戦争でのイングリッシュロングボウと並んで、世界3大長弓の1つとして「Yumi」と呼ばれているのだそうです。
流鏑馬(やぶさめ)の歴史
鎌倉時代には騎乗して弓を引けるように訓練した弓騎兵(きゅうきへい)の歴史がありました。彼らの使う弓は、弓本体の中央より下方に「矢番え(やつがえ)」の位置があるという点が特徴だといいます。
流鏑馬の歴史は、平安時代にさかのぼり、武士が戦において使用した弓術だということです。馬上から射る技の高さやフォームの美しさが大変印象的ですね。
騎射三物(きしゃみつもの)の歴史
馬上から射る歴史上の弓術には流鏑馬のほかにも、騎馬して30m先の距離に設置された的の中心を狙う「笠懸(かさがけ)」もありました。
馬場に犬を放ち「犬追物(いぬおうもの)」という弓の鍛錬法もあり、的となる犬を傷つけない工夫を施した矢で行いました。
以上「流鏑馬」「笠懸」「犬追物」を合わせて「騎射三物」と呼びます。
アーチェリー起源の歴史④遊牧民たち
馬に乗って矢を射る、という高度な技術は外国の歴史でも見られ、紀元前8世紀から数世紀にわたってスキタイ人が騎射を行いました。
トルコ人が弓をコンパクトにしたり、モンゴル人もさらに改良したりして、歴史の流れの中で騎射技術が発達したようです。
アーチェリーの語源
アーチェリーの起源や歴史を振り返りましたが、アーチェリーの語源も確認しておきましょう。
アーチェリーは英語で「archery」、語源はラテン語で「円弧」という意味の「Arcus(アーカス)」が由来なのだとか。広く「弓」そのものを指すこともあれば、弓を引く動作を意味することもあるようです。
日本では「和弓」と区別して、アーチェリーを「洋弓」と呼ぶことも多くあります。
アーチェリー競技発祥の歴史はイギリス
弓はとてつもなく長い歴史の中で、狩猟や戦の道具だった年月が過ぎ、12世紀後半のイギリスを舞台にロビンフッド伝説が登場しました。王様の悪政に立ち向かい、貧しい人々の闘うロビンフッドはイギリス歴史上のヒーローとして描かれています。
ロビンフッドは素晴らしい射手でしたが、モデルは歴史的にみて諸説あり、特定されていません。戦いの多かった中世のイギリスで、弓の存在が大きかったことは確かでしょう。
競技会の歴史はヘンリー8世から
16世紀のイギリスでは、アーチェリー競技の発祥と思われる歴史的なできごとありました。アーチェリーを好んだヘンリー8世が、競技会を開催した歴史があるといいます。
その後王室や上流階級の娯楽として広まりましたが、イギリス国民の間でも、オウムの形をした的を撃つ弓の射撃大会が流行っていたのだとか。
またイタリアでも、お祭りでは、中世のアーチェリー競技を再現してみせるイベントがあるそうです。
新大陸アメリカで広く普及した
アメリカの歴史をひもとくと、アメリカ大陸にはネイティブアメリカンがいて、狩りや戦いに弓が使われていました。彼らは食料となる動物がどこに集まるか、どう動くかを熟知した優れたハンターだったという歴史的背景がありました。
アメリカへの入植者の中には、祖国イギリスでアーチェリーを嗜んだ人々もいたことでしょう。しかし動物の狩りについてはるかに詳しい知識と技をもった先住民が、狩猟方法を伝授した歴史もあったそうです。
アーチェリーが武器から人々の娯楽へ
アメリカ国内での狩猟や戦の道具は、徐々に弓矢から銃へと変わっていき、アーチェリー技術を本格的に、競技や娯楽で楽しむ時代が到来しました。
19世紀の歴史の中で、アーチェリーはアメリカで社交的なスポーツとして普及していきました。アーチェリーのクラブが多数でき、次第に統括する組織が必要となった歴史的背景があります。
アメリカアーチェリー協会(NAA)の創立
1879年にアメリカには、トンプソン兄弟たちを創設者としてNAA(National Archery Association)が設立されました。以来アメリカでは、健康面や精神面にもよいと、幅広い年齢層の人がアーチェリーを趣味としているそうです。
日本ではターゲットアーチェリーが主流ですが、フィールドアーチェリーのような楽しみ方が、今後さらなる普及が見込まれています。
日本にアーチェリーが普及したのは?
日本アーチェリーの歴史において、在米邦人の方たちの存在が重要な役割を果たしました。日本で和弓を学んだ人たちが、アメリカでも和弓の道場で、修練を続けたといいます。1931年(昭和6年)ころのこと。
日本の弓道と、アメリカのアーチェリーは、本質的には異なるスポーツでしたが、日米アーチャーたちの交流がはじまったということです。
戦後の日本アーチェリー
1936年にはアメリカで日米親善競射試合が行われ、帰国した在留邦人の人の中により、アーチェリーが日本国内に紹介されました。
その後、アーチェリーの国内普及は戦争により中断されることとなりましたが、戦後1947年(昭和22年)に「日本洋弓会」ができました。
1956年(昭和31年)には「日本アーチェリー協会」と名前を変え、さらに「公益社団法人全日本アーチェリー連盟」となり、現在に至っています。
1900年にはオリンピック競技に
オリンピックにアーチェリー競技が登場したのは1900年、パリ大会からです。途中ストックホルム大会では実施されなかったものの、1920年のアントワープ大会まで継続して行われました。
しかし1924年のパリ大会から、オリンピックでのアーチェリー競技の歴史は途絶えたかのように見えました。
人の歴史とかかわりあった弓の競技ですが、再開されたのは、なんと1972年のミュンヘン大会からという近代歴史があります。
歴史上の道具からアーチェリー競技へ
アーチェリーの種類
アーチェリーの歴史をお伝えしてきましたが、長い歴史的背景があるのですね。アーチェリーには大きく分けて3つの種類がありますので、みていきましょう。
アウトドアターゲットアーチェリー
屋外のフラットなグラウンドで行われる競技で、弓の種類により、2つの部門に分かれています。
1つは弓の端が軽く反り返った弓で行う「リカーブ」。オリンピック競技はこのタイプで、サイト(照準器)や弓のバランスを保つスタビライザーを使用するのが特徴です。
2つめは「コンパウンド」といい、弦を引く時の力を軽減できる構造になっていのが特徴で、観戦すると見応えがあるでしょう。
フィールドアーチェリー
フィールド楽しんできます🏹#フィールドアーチェリー pic.twitter.com/5BjhAAIbzg
— Ryo.pooh_cp (@Ryo_poohcp) May 16, 2021
フィールドアーチェリーは、起伏のある山やなだらかな草原のあちこちに設置されているターゲットに矢を射り、その点数を競います。最大の特徴は、自然の中に身を置き、さまざまな角度から矢を射るという点でしょう。
フィールドアーチェリー場には、ファミリー向けの場所から選手権大会が開かれる本格的なフィールドまで数多くあり、探すのは難しくありません。ビギナーはフィールドに出る前に打ち方を教えてもらう機会があり、道具は借りられることが多いです。
インドアアーチェリー
室内で行われるアーチェリーで、体育館などの施設で行われ、リカーブとコンパウンドの2部門。アメリカで発祥した歴史があり、20ヤード(18m)の距離からターゲットを狙う競技です。
2分という制限時間に3回発射し、10回リピートして点数を競うもので、世界選手権大会なども開かれる、とても人気があります。
アーチェリーの道具とは?
旧石器時代から続くアーチェリーの歴史やその種類をお伝えしました。ここでアーチェリー本体の、各部分についてご紹介します。
オリンピック選手から、レクリエーションでアーチェリーを楽しむ人まで、ほぼ同じ構造をしているのがアーチェリーの特徴です。アーチェリー本体の3大パーツをみていきましょう。
ハンドル
ライザーとも呼ばれる部分で、持ち手部分のこと。リカーブの材質はマグネシウム合金を鋳型に流して冷やし固めたものと、アルミニウム合金を形成したものの2種類。本格的に競技をする場合はアルミニウム合金のものが多く選ばれているようです。
一方コンパウンドではアルミ合金削り出し加工という素材が使用され、重視する点をスピードに置くか、使用感や使用勝手に置くかでデザインが選ばれるといいます。
リム
リムとは、アーチェリーの両端にある細い羽のようなもので、弦にかかる力でしなり具合が変化する部分です。リムの素材は、従来ウッドコアで、高密度のハードウッドを素材とし、ハードな引き心地や安定感が特徴でした。
現在ではハードウッドの芯にFRP(グラスファイバー)を貼り合わせたり、FRPとカーボンの複合素材になったりしています。
今ではリムが取り外して組み立て式になったので、ハンドルから独立した存在となりました。
ストリング
ストリングは弓に適したものを厳選したり、自作したりするのが理想的で、材質、本数、長さが選ぶポイント。初心者のうちはダクロン(テトロン繊維)が多く選ばれます。
上級者は、複数の原糸をブレンドするのだそうです。初心者のうちからストリングの作り方を教わり、自分の弓に合ったストリングを作れる技術を身につけるのが1番でしょう。
【アーチェリー動画】若き射手の世界
アーチェリー競技で70mという距離の先にある的の中心を狙う能力とはどのようなものなのでしょうか。若き選手のショットをぜひご覧ください。矢が的の中心を射貫く、職人技のように見事なショットです。
アーチェリーをオリンピックで観よう
はじめは狩猟用の武器だった、アーチェリーの歴史をお伝えしました。狩猟用道具としての役目を終えたあとは、スポーツやレクリエーションとして人気のあるアーチェリーは、体力や経験に応じて楽しめます。
フィールドアーチェリーに行ってみて、アーチェリーを始めた方もいるのではないでしょうか。アーチェリーの歴史を知ってから、オリンピックのアーチェリー競技をみれば、今までよりもっと楽しんで観戦できるにちがいありません。
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出典:photo-ac.com