坂道ダッシュを行う意味
坂道ダッシュは見た目にもきつそうなトレーニング。実際にやってみると、足が重くなったり、心臓がバクバク言ったりします。練習後の疲労もかなりのものです。猛練習とか地獄の特訓なんて言葉を連想する人もいるかもしれません。しかし、必ずしも「きつい」イコール「効果がある」とは限らないことは、皆さんもご存知の通りです。
坂道ダッシュを行うことにはどのような意味があるのか? どのような効果があるのか? よくある「?」マークへの答えを列挙してみました。
坂道ダッシュでスタミナはつく?
坂道ダッシュは当然ですが、平地を走るより、足にも心肺にもより多くの負荷がかかります。より多くの体力を使いますので、疲労も大きくなります。毎日行うことができるトレーニングではありませんが、ポイント練習として取り入れると、アスリートのスタミナを大きく向上させる効果が期待できます。
ただし、それは同じ距離を同じスピードで走るとすれば、坂道ダッシュは平地を走るよりスタミナアップの効率が良いという意味です。
坂道ダッシュは筋トレになる?
坂道ダッシュをすると、足や腰など、下半身全体に大きな負荷がかかります。具体的には大腿四頭筋、臀部、ハムストリング、ふくらはぎなどの筋肉群です。どの部位をより効果的に鍛えることができるかは走り方によって異なりますが(下で詳しく説明します)、筋トレ効果を目的として坂道ダッシュを行うことに意味はあります。
もっとも、坂道ダッシュでは通常は筋肉の疲労より先に心肺の疲労が先にやってきますので、筋力向上を優先させたい人は、やはり筋トレを別に行う方が良いでしょう。
坂道ダッシュで減量できる?
坂道ダッシュはジョグなどのゆっくりしたペースのランニングより、時間あたりの消費カロリーがはるかに多くなります。従って、減量を目的として坂道ダッシュを行うことには意味はあります。しかし肥満している人には負荷が大きすぎるかもしれません。
毎朝のようにジョグを行うことはさほど難しくありませんが、毎朝のように坂道ダッシュを行うことは、肥満していない人にとっても、かなり困難です。減量するには毎日のカロリー収支がポイントですので、坂道ダッシュ「だけ」では減量には向いていないと言ってよいでしょう。
坂道ダッシュで走り方は良くなる?
坂道ダッシュと言えば、上り坂を連想しがちですが、実は下り坂を走ることにも、身体に効果的な走り方を覚えさせることに大きな意味があります。下り坂でスピードを落とさずに走ろうとすると、ランナーの身体は自然に前傾するからです。
逆に身体を後傾させるとブレーキがかかりますので、スピードも出ませんし、膝や足首に過大な負担がかかります。スキーの直滑降を連想してもらっても良いでしょう。上手なスキーヤーはすねをブーツにくっつけて滑っています。
坂道ダッシュの目的別メニュー
体力には様々な側面があります。短距離のスピードを高めることが目的のランナーと、中距離や長距離のスタミナをつけることが目的のランナーでは、要求される体力も、それを高めるためのトレーニングメニューも異なってきます。
坂道ダッシュをトレーニングに取り入れる際には、1回のトレーニングで走る距離やインターバル本数が大きな意味を持つポイントになります。そして週に何回坂道ダッシュを行うかの頻度と回数も長期的なトレーニング計画の中で決めていく必要があります。
坂道インターバル走
通常の坂道インターバル走
100m~300mぐらいの距離がある坂をなるべく速く走って上り、下り坂をゆっくりしたジョグで元の位置に戻ります。それを1セットとして、5~10セットぐらいの本数を繰り返します。短距離や中距離のインターバル走と同じように、心肺能力の向上が第一の目的ですが、臀部やハムストリングスなどの足の部位に大きな負荷をかける筋トレ効果もあります。
かなりきついトレーニングですので、毎日行うことはできません。ポイント練習として週に1,2回程度の頻度と回数で行うのが良いでしょう。
逆の坂道インターバル走
通常の坂道インターバル走とは逆に、下り坂を速く走り、上り坂はゆっくり走るか、歩いても構いません。ここでの目的はよく速く走るための走り方と速いスピードで走る感覚を身体に覚えこませることがポイントで、体力向上は副次的になります。1回あたりのインターバル本数、頻度と回数などは通常の坂道インターバル走と同程度でよいでしょう。
下り坂では心肺機能への負荷は小さくなります。しかし、着地衝撃は大きくなります。太股の前面の部位である大腿二頭筋へ大きな負荷がかかりますので、筋トレ効果もあります。
坂道ロングラン
坂道ダッシュと呼ぶよりは、ロングランや峠走と呼ぶべきかもしれませんが、坂道を多く含む長い距離のコースを走ることは、特に長距離走のランナーにとっては大きなメリットがあります。
箱根駅伝で上り専用ランナーと下り専用ランナーがいるように、上りと下りでは走り方が異なりますし、求められる体力、そしてメンタルも異なります。その両方を高めるためのトレーニングを別々に行うのは市民ランナーにとっては時間的、体力的にも困難ですので、一度に両方のトレーニングができてしまう坂道ロングランは一石二鳥なのです。
上り坂の目的と走り方
上り坂では心肺機能を高めることと、前に進むパワーを高めることの2つを主な目的とします。重力に逆らって上に向かって走るわけですので、同じ距離を同じスピードで平地を走るより心拍数は上がりますし、足の筋肉への負荷は大きくなります。
筋肉の部位で言えば、上り坂では臀部とハムストリングスが鍛えらえるのですが、これらの筋肉はスピードを出すときに使われる部位ですので、上り坂を走ることで平地でのスピード強化にもつながるのです。従って、長距離だけではなく、短距離や中距離のランナーにもメリットがあります。
下り坂の目的と走り方
下り坂では逆に重力を味方にして走ることになります。ここでの目的はスピードをつける走り方のフォーム習得と着地衝撃に耐える筋力の向上の2つです。
前述した通り、下り坂を走るときの自然な前傾姿勢は平地で速く走るためのフォームに直結します。その意味では、下り坂も長距離だけではなく、短距離や中距離のランナーにもメリットがあります。
またスピードが乗る分、着地衝撃は大きくなります。その衝撃に耐えるのは太股の前面部位である大腿四頭筋です。つまり、この部位を鍛える筋トレ効果も大きいのです。
坂道ダッシュの注意点
坂道ダッシュには上に挙げたようにたくさんのメリットがありますが、他のトレーニングと同様、メリットと裏返しのデメリットもいくつか存在します。トレーニングとは諸刃の剣なのです。
坂道ダッシュに限りませんが、効果の高いトレーニングも頻度や回数が適切なレベルを越えてしまうと、疲労からの回復が間に合わず、オーバートレーニングの状態に陥ってしまいます。そうなるとパフォーマンスの向上が足踏みするだけではなく、故障のリスクも高まります。特にインターバルではやみくもに本数を増やさないようにしましょう。
坂道ダッシュで上り坂を走る際の注意点
上り坂を走るのは負荷が大きいトレーニングです。その苦しさに耐えるのは良いことなのですが、それが限度を越えてしまうと、知らず知らずのうちに走りのフォームが崩れてしまいがちなことに注意が必要です。
上り坂で腰が折れ曲がってしまい、オーバーストライドになってしまうランナーを見かけることがよくあります。いくら体力と根性がついても、悪い走り方を身につけてしまっては、かえってメリットよりデメリットの方が多くなってしまいます。
坂道ダッシュで下り坂を走る際の注意点
下り坂ではスピードが簡単に出ますし、またスピードを出すことが目的のひとつなのですが、その分だけ安全には注意しなくてはいけません。転倒などすると大怪我の可能性がありますし、膝や足首にかかる着地衝撃も大きいので、筋肉や関節の疲労度は見た目より大きくなります。
かと言って、下り坂でスピードを抑えようとすると身体が後傾した走り方になってしまい、かえって悪いファームを身につけてしまうことがあります。
坂道ダッシュでメンタルの保ち方
上り坂を走るメンタル
上り坂を走るのは当然苦しいわけですけど、下を向いたり顔をしかめたりしていると、よけいに疲れて自分自身を苦しめることになります。そのような時こそ、あえて背中を伸ばして視線を上げ、周りの景色に目をむける余裕がほしいものです。終わらない坂はないって言い聞かせるのもよいですし、こんな坂走ってるなんて凄いぞって自分を褒めでもいいでしょう。要は上り坂では苦しさにとらわれないことが重要です。
下り坂を走るメンタル
下り坂はもちろん上り坂より楽なのですが、速く走れる分、自分や周りの状態に目がいかなくなることがあります。流れに乗ることと調子に乗ることを隔てる壁はとても薄いのです。自分の筋力以上のスピードで走ってると、知らず知らずのうちに脚に負担がかかり、その後で必ずつけが回ってきます。何かにつまずいて転倒でもすると、スピードが乗っている分、深刻な怪我に繋がる可能性もあります。そのスピードは自分本来の力で出しているのではないことを常に意識し、注意を怠らないことが重要です。
坂道ダッシュを行う時間と場所の選び方
坂道ダッシュに相応しい時間帯
長距離ランナーの多くは、朝は比較的ゆっくりしたペースでジョギングを行い、午後にはスピード系やパワー系のトレーニングをこなします。体内にエネルギーが少ない朝は脂肪を燃やし、摂取したエネルギーを午後のハードな練習に利用するのが基本的なセオリーです。その意味では坂道ダッシュ、とくに短距離や中距離のインターバル走は午後に行った方が良いでしょう。
肥満している人やダイエットが主な目的の人は、坂道ダッシュでも距離の長いコースを朝の時間に走る方が向いています。毎日走る必要はありません。
坂道ダッシュに向いた傾斜と距離
インターバル形式の坂道ダッシュには長い距離は必要ありません。100mあれば十分ですし、300m以上となると長すぎます。負荷は本数で調整します。傾斜は上り坂と下り坂のどちらを重視するかで変わってきます。上り坂では傾斜が急な方が効果は高くなりますが、急すぎる下り坂は危険が伴うからです。そのときの目的に応じて場所を選べたら、それがベストです。
長い距離の坂道ダッシュを行う場合は、立ち止まらずに走れるか、休憩するポイントはあるか、緊急時に連絡ができるか、といった要素も大きなポイントになるでしょう。
坂道ダッシュとトレイルラン
トレイルランにはふつう坂がつきものです。従って、トレイルランは坂道ダッシュを行う場所として良い選択肢になり得ます。ただし、トレーニングの目標をロードレースに置く人はトレイルランは坂道ダッシュのメリットが少なくなります。
まず、トレイルでは地面に注意を払わないといけないので、スピードをある程度抑えないといけないことが挙げられます。特に下り坂では危険が伴います。トレイルとロードでは走り方が微妙に異なるのです。
坂道ダッシュの本数や距離を調節できないこと、トレイル用のシューズをロード用のシューズと別に必要なこともデメリットになるでしょう。
坂道ダッシュはトレッドミルでできる?
毎日トレーニングを続けていると天気が悪くて外を走れない時もあります。そんなときにトレッドミルは便利ですが、上りの傾斜しかつけられません。つまり、坂道ダッシュの下り坂の練習ができません。
上り傾斜のときも、本当の坂道ダッシュとまったく同じと言うわけではありません。足元のベルトが動いていますので、そこからシューズが滑り落ちないようにするために、ふくらはぎで強く蹴るようなフォームになりがちなのです。
トレッドミルでの走りと実際の走り方は違うことを前提に、体力アップに目的を絞る方が良いでしょう。
坂道ダッシュまとめ
坂道ダッシュはランナーの心肺機能と脚力を同時に鍛えることができる便利なトレーニングです。体力面だけではなく、効率的な走り方を身体に覚えさせる技術的な効果もあります。短距離から長距離まで、数多くのランナーがこの坂道ダッシュを練習メニューに取り入れています。ランナーだけではなく、他のスポーツのアスリートにも坂道ダッシュは有効です。毎日のように行えるものではありませんので、他の筋トレなどのトレーニング種目と上手く組み合わせることが重要です。
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