マラソンスイミングは意外と長い歴史
「マラソンスイミング」は日ごろあまり耳にしない競技ですが、オリンピックの正式種目です。2008年の北京大会から採用されています。陸上競技のマラソンのように長い距離を泳ぐのです。
マラソンスイミングはプールで泳がず、川や海や湖など自然環境の中で泳力を競う競技といえます。まさに、陸上競技のマラソンのように時間をかけて泳ぐ水泳競技です。
マラソンスイミングは10キロメートル
マラソンスイミングは、男子も女子も10キロメートルです。周回コースを泳ぐことが多く、2時間近く長時間泳ぎ続けることになります。
コースは屋外にあり、自然環境のなかを泳ぐため、波、風、潮流や風向きなど、刻一刻と変化していきその都度適切な対応が求められるのです。
そのため、泳力やスピードはもちろん、陸に残るスッタフを含め、いかに戦略を練って環境まで味方に付けられるかも重要な戦略といえます。
マラソンスイミングはオープンウォータースイミングの1種
水泳には、自然の中を泳ぐ競技としてオープンウォータースイミング(英語: open water swimming)、略してOWSがあります。こちらも川や湖や海などの自然の水域で長距離を泳ぐ水泳競技で、ヨーロッパで人気が高いスポーツです。
5キロメートル・25キロメートルの種目もある
国際水泳連盟(FINA)の競技規則では、オープンウォータースイミング(OWS)は「10キロメートル以外の競技」を指し、10キロメートルの水泳競技をマラソンスイミングと呼んでいます。
世界水泳選手権ではマラソンスイミング以外に、男女ともに5キロメートルと25キロメートルのオープン・ウオーター・スイミング(OWS)が行われているのです。
マラソンスイミングの歴史
オリンピック競技としてのマラソンスイミングは比較的短い歴史ですが、その起源となる泳ぎ方は古代から泳がれていた歴史があります。
マラソンスイミングが正式な水泳競技として確立し、いっぽうで、市民スポーツとして楽しむ方も増え、一定の泳力を持てば参加できるレースも増えてきました。この章では今日のオリンピックの水泳種目として確立するまでの歴史を紹介します。
マラソンスイミングの歴史①:古代は全てがOWS
古代の人類の歴史を見ると、家族が生きていくために魚介類を求めて、海や川や湖に入って泳いでいました。
また、よりよい生活環境を求めて川を渡って移動し、時には、生きていくために戦うこともあり、川を泳いで渡り攻め込んだり、川を渡って逃げていくこともあったのです。古代のOWSは競技の歴史というより、生きる手段の歴史といえます。
マラソンスイミングの歴史②:海峡横断遠泳
日本では、水産学校や海上自衛隊などで遠泳を行っていた歴史が残っています。また、約27キロメートルの津軽海峡横断や本州と九州の関門海峡横断に、鹿児島湾横断などはオープンウォータースイミングといえます。
世界ではドーバー海峡横断が代表的な遠泳で、横断すると歴史名を残すことがで、挑戦する勇者が多数です。そんな背景がありマラソンスイミングが誕生するきっかけとなりました。
マラソンスイミングの歴史③:世界初の水泳大会は屋外
国際水泳連盟(FINA)は、2008年の北京オリンピックでマラソンスイミングを水泳の正式種目として採用しています。そのように新しいオリンピックの水泳種目としながら、古い歴史を誇る種目であるという見解があるようです。
確かに、歴史に残る1837年に世界で初めて開催された競泳大会はロンドンのハイドパーク内にあるサーペンタイン・レイクで行われています。この会場は自然の中にあり、屋外で泳いでいるので広い意味でいえば、オープンウォータースイミングといえるのです。
マラソンスイミングの歴史④:第1回オリンピックはOWS
オリンピックの水泳は、1896年第1回のアテネ大会、1900年のパリ会、1904年のセントルイス大会までは屋外で行われていました。この3回のオリンピックは人工的に作られたプールではなく、自然の水域を利用して競技を行っています。
このような屋外の水泳競技は、広い意味でオープンウォータースイミングといえなくもないようです。オリンピックでマラソンスイミングの歴史が長いという説の根拠といえます。
マラソンスイミングの歴史⑤:1980年ころOWSが人気に
1980年代ころに、海や川や湖などを泳ぐ水泳大会が人気になり、世界各地でさまざまな大会が独自に開催されていました。このような潮流から、国際水泳連盟がこのようなアウトドアの水泳大会に統一性をもたせて、ルールも整備され水泳競技として成立しています。
マラソンスイミングの歴史⑥:歴史に残る1991年の大会
自然の中にある水域で行う水泳が公式種目になったのは、1991年にオーストラリアのパースで開催された国際水泳連盟が開催した世界選手権でした。当時は男女ともに25キロメートルのレースが行われ、5時間以上かけて泳ぎ切る過酷な競技だったのです。
2001年に10キロメートルのレースが公認された歴史があります。現在は、世界各地でマラソンスイミングはじめオープンウォータースイミングの大会が開催され、いっそう人気になっているのです。
マラソンスイミングの歴史⑦:マラソンスイミングと競泳の二刀流
マラソンスイミングがオリンピック競技になった2008年の北京大会当時は、マラソンスイミング専門の選手が多く入賞していました。
その後、競泳の1500メートルなどの長距離種目が得意な選手がマラソンスイミングでも活躍するようになり、プールでの長距離種目を泳ぎながら、オープンウォータースイミングに出場する二刀流の選手も出てきています。
マラソンスイミングの歴史⑧:日本のOWSの歴史
オープンウォータースイミングの日本の歴史は、平成8年(1996年)8月10日に福岡市で開催された「1996年福岡国際オープンウォータースイミング競技大会」が本格的な初めての大会です。
また、平成10年(1998年)の世界選手権でオープンウォータースイミングに初出場した歴史があり、初出場ながら男子10位という記録が残っています。
マラソンスイミングの歴史⑨:日本のオリンピックの歴史
日本選手がオリンピック種目のマラソンスイミングのレースに初出場したのは、平成24年(2012年)のロンドンオリンピックです。それ以降の2016年のリオデジャネイロ大会、2020年の東京オリンピックに男女ともに連続出場しています。
マラソンスイミングのルール
マラソンスイミングは競泳レースの一種類とはいえ、自然の水域で競うレースです。プールと異なりコースが決まっていないだけに、他の選手と接触する危険があり、泳法も特有な部分があります。そんな、マラソンスイミングのルール紹介です。
ルール①:競技エリア
競技エリアはプールを使用せず、海や川や湖などの自然の中の水域に、ブイを設置して周回コースとなる10キロメートルのコースが設定されます。水泳の邪魔にならないように、波や急流を避けてコース設計されるので、安全性を考慮して流れがゆるやかな水域で行われることが基本です。
また、マラソンスイミングの競技が行われる水温は、16℃以上31℃以下と規定されています。水温はかなり幅があり、温度により事前対策が重要です。
ルール②:泳法
マラソンスイミングの泳ぎ方に規定はなく自由に泳ぐことができます。実際には大部分の選手はクロールで泳ぎます。
マラソンスイミングのクロールは「ハイエルボー」といわれる、空中で肘を曲げる泳法が大多数です。肘を曲げないストレートアームは他の選手とぶつかることもあり、妨害行為とみなされやすくなります。
海底に立つことは許されていて、失格にはなりません。ただし、歩いたりジャンプすることは禁止され失格となります。
ルール③:ウエア
マラソンスイミングは長時間の競技だけに、ウエア(水着)は重要です。泳ぐのに有利となる浮力を増すようなウェットスーツは認められていません。
基本はワンピースまたはツーピースの水着1枚だけで、男女ともに首を覆ったり、肩を超えたり、足首を超える水着を着ることは禁止です。
ただし、水温が20℃未満の水中を泳ぐ場合は、男女ともにウェットスーツを着用します。ウェットスーツは胴体、背中、肩、膝を完全に覆い、首、手首、足首を超えないサイズです。
ルール④:ゴーグル・耳栓の使用可
スイミングキャップは2枚までOKです。ゴーグル、耳栓、ノーズクリップの着用も認められています。
2時間弱の競技だけに、擦れて皮膚が傷むこともあり、スタート前にワセリンやなど軟膏の使用は可能です。日焼けを防止の日焼け止めも使用できます。
ルール⑤:両腕にマーキング
競技に参加する選手は両手の甲と両腕の上腕に選手番号をマーキングして、計時用のマイクロチップトランスポンダーを両手首に装着します。
フィニッシュ(ゴール)は選手がフィニッシュラインに達し、タッチパネルに触れたときがフィニッシュです。10キロメートルも泳いでまさにタッチの差で順位が決まることもあります。
マラソンスイミングの競技特性
自然の中で行われるのがマラソンスイミング、経験が重要です。設定された水域の特徴を事前に把握しておくと、競争を有利に展開できるケースが多くなります。
天候も重要で、晴れ、曇り、雨などで海や川の状況が変わり、ベストポジションが変化することもあります。
選手間の駆け引き
マラソンスイミングでは相手選手との位置取りが重要で、ポジショニングによって泳ぐことが楽になり、スタミナが温存できることがあります。
また、他の選手との駆け引きが重要で、ブイを回る位置取りや、ラストスパートのタイミングなど、単純なスピード競争ではありません。10キロメートル泳いで写真判定になることもよくあるのです。
給水がユニーク
マラソンスイミングは2時間近く泳ぐだけに水分補給は欠かせません。給水は独特で、給水用桟橋から5メートル以内の給水用竿か、手渡しになります。多くの選手は給水用竿で給水するのです。
マラソンスイミングの給水方法は競技の歴史が生み出した光景ですが、カツオ釣りのように多数の竿が並びます。
マラソンスイミング優勝者の歴史
競技としてのマラソンスイミングはヨーロッパで誕生した歴史があり、オリンピックでも、歴史ある第1回のマラソンスイミングはヨーロッパ勢がメダルを独占しました。
マラソンスイミングは、2008年北京オリンピックから正式に採用された競技で、2020年東京オリンピックまでで、男女合わせて24名の金メダリストが誕生しています。
最近は中国選手やアメリカ選手の活躍もあり、日本人選手もマラソンスイミングで着実に力をつけ、世界での活躍が期待できそうです。
マラソンスイミングの優勝者の歴史(男性)
大会 | 順位 | 選手 | 国 | タイム |
北京(2008) | 金 銀 銅 |
マーテン・ファン・デル・バイデン デービッド・デービス トーマス・ルルツ |
オランダ イギリス ドイツ |
1:51:51.6 1:51:53.1 1:51:53.6 |
ロンドン(2012) | 金 銀 銅 |
ウサマ・メルーリ トーマス・ルルツ リチャード・ワインバーガー |
チュニジア ドイツ カナダ |
1:49:55.1 1:49:58.5 1:50:00.3 |
リオ(2016) | 金 銀 銅 |
フェリー・ウェールトマン スピリドン・ギャニオティス マルクアントワーヌ・オリヴィエ |
オランダ ギリシャ フランス |
1:52:59.8 1:52:59.8 1:53:02.0 |
東京(2020) | 金 銀 銅 |
フロリアン・ベルブロック ラショフスキー・クリシュトーフ グレゴリオ・パルトリニエリ |
ドイツ ハンガリー イタリア |
1:48:33.7 1:48:59.0 1:49:01.1 |
マラソンスイミングの優勝者の歴史(女性)
大会 | 順位 | 選手 | 国 | タイム |
北京(2008) | 金 銀 銅 |
ラリサ・イルチェンコ ケリアン・ペイン カサンドラ・パッテン |
ロシア イギリス イギリス |
1:59:27.7 1:59:29.2 1:59:31.0 |
ロンドン(2012) | 金 銀 銅 |
リストフ・エバ ヘイリー・アンダーソン マルティナ・グリマルディ |
ハンガリー アメリカ イタリア |
1:57:38.2 1:57:38.6 1:57:41.8 |
リオ(2016) | 金 銀 銅 |
シャロン・ファン・ロウエンダール ラケーレ・ブルーニ ポリアナ・オキモト |
オランダ イタリア ブラジル |
1:56:32.1 1:56:49.5 1:56:51.4 |
東京(2020) | 金 銀 銅 |
アナ・クーニャ シャロン・ファン・ラウエンダール カリーナ・リー |
ブラジル オランダ オーストラリア |
1:59:30.8 1:59:31.7 1:59:32.5 |
マラソンスイミング日本選手の成績
マラソンスイミングで活躍する日本人選手も多数です。オリンピックのマラソンスイミングでは、日本人選手は2012年のロンドン大会から参加しています。
ロンドン大会は平井康翔選手と貴田裕美選手が参加しました。平井選手は15位、貴田選手は12位でフィニッシュしています。マラソンスイミングで歴史となる初出場ながら、堂々と泳ぎ切っているのです。
リオオリンピックで歴史に残る8位入賞
リオオリンピックのマラソンスイミングでは、平井選手はトップ選手と4秒8差で8位入賞し、歴史に残る活躍を遂げています。貴田選手は女子マラソンスイミングで12位の成績を残しました。2020年の東京オリンピックでは、男子は南出大伸選手が13位、女子は貴田選手が13位になっています。
マラソンスイミングの歴史を知ってファンになろう
マラソンスイミングの歴史について広範囲に紹介しました。オリンピック種目としては短い歴史ですが、競技以外でも新しい水泳の楽しみ方として人気になっています。
マラソンスイミングの歴史を知って、世界大会から全国各地で開催されているマラソンスイミングを楽しく鑑賞しましょう!
マラソンスイミングの歴史が気になる方はこちらをチェック!
マラソンスイミングの歴史を中心に取り上げました。マラソンスイミングはオリンピックの歴史は浅いのですが、起源となる自然界での水泳は古代まで歴史を遡ります。
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