前回までのあらすじ
忙しさにカマかけてすっかり運動不足の僕。登山はおろか、普段のお散歩でも息が切れる。
どうにかしないといけない…
持病の影響もあり、メンタル崩壊寸前だったので、思い切って旅に出ることに。
10年前に北海道縦断をした。ノウハウはある。今回はその半分以下の日程だ。不安はない。
前回旅した時はまだ小学生だった息子もいまは専門学生だ。変わらない寝顔にしばしの別れを告げる。
早朝の出発にも拘わらず、見送ってくれた妻に、ほんの少しの申し訳なさを差し出し、ペダルを踏んだ。
交通量の多い国道を抜け、道端に座って休んでいると、どこからか僕を呼ぶ声がする。
きょろきょろ辺りを見ていると…
おじさんの博物館と甘酒
出展:pixabayこちらの画像はイメージです
「こっちだって!」
ようやく見つけた声の主は、二階の窓から手を振っていた。
手招きされたので、自転車を押しながら信号を渡る。
「どっから来たのさ」
お決まりの質問に、旅を始めたばかりの申し訳なさを隠しつつ素直に話すと、「そっか、まあいい。休憩がてら甘酒飲んでいけ。2つ目の信号のとこだから」と言って路地へ入って行ってしまった。
甘酒は好き嫌いがある飲み物だ(僕は米麹の甘酒なら飲める)
しかし、こういう場面で好き嫌いを言うほど野暮なことはない。
遠慮せずに「はい!いただきます」と言うのが礼儀だ。
怪しさ満点。骨董品の数々
出展:pixabayこちらの画像はイメージです
ちょっと迷っておじさんの家に着くと、「さ、入れ入れ」と招き入れてくれた。
おじさんの家の前には狸の置物や、謎の人形がたくさんあり、入口の薄暗さと相まって若干不安がよぎる。
挨拶と共に中に足を踏み入れると、案の定、山の様に骨董品が並んでいた。
骨董品に興味が出るまでもう少し時間がかかる年齢の僕は、それでも「スゴイッスね~」と言いつつご機嫌を取る。
しかし二階に上がるとそのテンションは逆方向に、一気に、最高潮に、跳ね上がる。
レアなフィギュアが並ぶ夢の博物館
階段の壁にはガンダムや仮面ライダー、ヤマトなどのポスターが貼られている。しかも一目でレア品と分かる品。
さらに奥に行くと同じく仮面ライダーやエヴァンゲリオンのフィギアが文字通り所狭しと並んでいる。
そして僕を最も興奮させたのが、合体ロボの超合金。
ロボットアニメ世代の僕が、幼いころ憧れていたおもちゃの数々が、かなりよい保存状態で陳列されていた。
大騒ぎしたい気持ちをグッと抑えてここでも「スゴイッスね~」で留めておいた。
おじさんは「私設の博物館なんだ。誰も見に来ないけど」と少し寂しそうにしていた。
おじさんの甘酒
「したら甘酒飲んでけ。うまいぞ」というのでご馳走になった。
コップ一杯の甘酒に口をつけた。
おいしい!サラッとしていて、甘酒が好きな人なら、いくらでも飲める味だ。
「なして自転車で旅なんかしてんのさ」
おじさんは僕に対して当然の疑問を投げかけてきた。
この質問はこの先出会う人には必ず聞かれることだろう。
その答えは予め用意している。
「ストレスで気が狂いそうになった。見かねた妻が行って来いと背中を押してくれた」
当たり障りのない、しかし正直な気持ちを話すと
「あんたも苦労したんだな。奥さんもがんばった。なんもしてやれないけどもう一杯飲んでいくか?」
それからまたしばらくお話して、二杯目の甘酒を飲んだところでようやく腰を上げた。
「気ぃ付けれや」
二時間も話し、すっかり心が通ってしまった。
親子ほど年の離れた僕とおじさんは言葉少なに別れを告げる。
「また来ます」
甘酒は飲む点滴と言われている。その栄養は心にも効くらしい。
僕はどこへ行くんだ?
おじさんに別れを告げてペダルを踏んだ。
ここまでは普段から車でよく来る範囲だ。
坂を登り切りホッとしたところで、後回しにしていた大きな問題を片づけることにした。
実は旅のゴールを決めていなかったのだ。
期間は3泊か4泊。その中で周れる範囲。そこまでは決めていた。
でもどのルートを通ってどこから折り返すか、本当に決めずに家を出てしまった。
でもそろそろ決めなくてはいけないだろう。
なにより家族が心配する。
よし、秀岳荘まで行こう!
秀岳荘は札幌にあるアウトドアショップだ。
数年前に偶然見つけた、北海道では大きなお店。
思いっきり何となくだが、20年以上使った銀マットもそろそろ買い替えたい。
けれどどこにあるのか何となくしか分からない。
そんなとき自転車なら道を聞きやすいし、聞かれた方も親身になって教えてくれる。
人に話しかける口実と目的地が決まり、僕の旅は本格的にスタートした。
さあいよいよ行くぞ
目的地が決まったとはいえ、進む道と方向は同じだ。
信号も交差点もない果てしなく続く一本道を行く。
この先。地平線の向こうに何が見え、何を体験し、僕は何を感じるのだろう。
ストレスでカチコチになった僕の心は癒されるのだろうか。
それも全て僕次第だ。
たくさん見て、体験し、全身で感じてこよう。
そんなことを考えながらアラフィフのおっさんチャリダーは旅に出たのです
前回のお話はこちら
アラフィフチャリダーが行く!北海道小旅行【第一夜】
齢46。イイおっさんが自転車に乗って北海道で自転車に乗って小旅行をしてきた記録です。北海道を自転車に乗って旅するなんて若者の特権と思われるか...
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アラフィフチャリダーが行く!北海道小旅行【第三夜】
齢46。おとうさん、旅に出ます。旅に出ると言ってもそこは世帯主、半年も一年も行けるわけじゃありません。ちょっと遠くまで3泊4日のショートトリ...
撮影:ライター