障害馬術とは?
障害馬術は馬術競技の1つで、人と馬とが一体となって馬場に設けられた複数のハードルを飛越してゴールするスポーツです。
大きな馬が高いハードルを飛び越えていく姿には迫力があります。しかしその魅力にもかかわらず、ルールが分かりにくいのがなじみの薄い原因です。そんな障害馬術のルールをできるだけわかりやすく解説します。
障害馬術の基本ルールについて
基準Aと呼ばれる標準ルールがあり、これを用いた試合が多いです。13個設置されたハードルを決められた順に跳びます。飛び越すのを失敗したり、馬が嫌がって跳ばなかったりするとどんどん減点され、最も少ない減点の人馬が優勝です。
なお、障害馬術のルールは国際馬術連盟(FEI)のルールに則っており、国内では日本馬術連盟の独自ルールもよく使われています。
ミスをした際のルールはこちら
障害馬術のルールには、いろいろなミスに対する罰則が用意されています。それらには減点の対象となるものと、失格にされてしまうものとがあり、選手はそれらを防ごうと慎重に試合に臨むのです。
減点の対象となるミスとは?
ポールの落下、破壊は4点減点となり、馬が跳ぶことを嫌がっても4点減です。馬の反抗は不従順と呼ばれ2回目は失権となります。また、オープンウォーターがある時に馬の脚が水に着くとこれも4点のマイナスです。
コースによって規定タイムが決められていて、それを超過すると4秒ごとに1点ずつ減らされます。例えば、規定が60秒であれば60秒01から64秒でゴールすると1点減となるルールです。
失権の対処となる行為とは?
障害馬術では試合中に馬が転倒してしまったり、落馬してしまったりすると失格となります。また、跳ぶ順番や方向を間違えてしまったり、馬が障害を2回続けて跳ぶことを拒んだりしても同じ扱いになるルールです。
さらには、走行中に馬が立ち止まり、45秒以上そのまま動かないでいても失格ですし、規定タイムの2倍が制限タイムとしてルールで設定されていて、超過は失格になります。
決定戦の第2ラウンド
参加が多い標準の試合で減点0が多く出ると、タイムで順位をつけるか第2ラウンドとして決定戦を行うルールがあり、ジャンプオフと呼ばれています。第1ラウンドでの成績はリセットされ、このラウンドでの成績で順位が決まるのです。
このラウンドでは決着をつけるためにタイムが重要となるので、第1ラウンドよりもゴールするまで果敢に動く姿が見られ、試合が盛り上がります。
服装やそのほかのルール
服装は基本として馬術との伝統ルールが用いられ、色が決められているジャケット・乗馬ズボン・長靴・シャツを着用し、白いタイかチョーカー、アスコットタイを含むハンティング・ストックを着用します。そして試合時の主審への敬礼もルールの1つです。
また、試合前にはコースの下見ができ、コーチなども一緒に見て歩けますが、ルールでは障害物に触れられません。
障害馬術のそのほかの種目とルール
日本馬術連盟のルールでは基本の種目は基準Aの標準、それとスピード&ハンディネスの2つです。また、ほかに国際馬術連盟(FEI)のルールによるものが加えられることがあります。
日本では標準およびスピード&ハンディネス以外はアトラクション扱いです。しかし、独自ルールの単独イベントが各地で開催されていて、それらに注目して観戦を楽しむファンも数多くいます。
駆け引きが面白いスピード&ハンディネス
スピハンとも呼ばれるスピード&ハンディネスは走行タイムで順位が決まります。ポールを落とすなどの1ミスにつき4秒がタイムに加算されるルールです。基準Aのルールではミスが順位に大きく影響しますが、スピード&ハンディネスでの順位は速さに左右されます。
選手が飛越の失敗を気にせずにアタックするのか、慎重に走行させるのか、その駆け引きに注目が集まるのです。
戦略が注目されるトップスコア
国体では正式に採用されており、障害馬術と違い飛越順は基本的に自由で同じものを2度まで飛越可能です。その難易度で点数が違い、飛越成功で得点が加算されます。なお、失敗しても点は減りませんが同じものは跳べないルールです。
ルールでは特に難易度が高く、落とすと減点されるジョーカーが1つ設置されます。これらを選手がタイム内にどう組み立てるか、その戦略が注目される種目です。
自然の障害を楽しむダービー
国体で開催され、全長1kmほどの区間に丘・竹垣・池など自然地形に似せたハードルが設置されます。基本的にはゴールするまでのタイムを競うルールです。
ほかに、落とすことや破損、着水をマイナス加算とするか、スピード&ハンディネスのように加算するか、クリアした数を加算するトップスコアかのいずれかのルールが採用されます。
クロスカントリー的な面白さが注目されていて人気がある種目です。
ひたすら跳び続ける六段飛越競技
ラウンドを重ねるにつれてだんだん高くなる6つのハードルが設置され、低い方から6つ連続で飛越できるとコンプリートです。クリアする人馬が生き残りをかけて跳びますが、ハードルはどんどん上がります。
クリアし続けて最後まで残った人馬が優勝です。ハードルの高さにおける日本記録は199cmで、大きな馬がそれを飛び越える姿には迫力があります。
障害馬術に使われるさまざまな障害物
垂直障害
障害馬術においては標準的なもので、地面と垂直に2本から4本のポールがかけられるのが一般的ですが、ルールに本数の記載はありません。
板タイプのものに絵が描かれているのは、観客の目を楽しませるためです。全体のデザインも含めて、試合で異なるので注目するファンもいます。
オクサー障害
縦に2つ並べられていて奥行きがあります。飛び越えるには高さだけでなく距離も必要となり、障害場馬術では難易度が高いものです。高さだけなく遠くに距離が必要なので、1つだけの垂直とは跳び方が違います。
ルールでは幅の決まりは特にありませんが、80cmくらいで作られることが多いです。
オープンウォーター障害
水濠とも呼ばれ、地面を掘って作られた池を飛び越えます。池が縦に長いと馬を遠くに跳躍させることが必要です。
障害馬術のルールでは池の長さの記載はありませんが、試合で使用されるのは基本的に2m程度になります。着水してしまうと4点マイナスです。
コンビネーション障害
障害馬術では垂直やオクサーを2つから3つ連続で置かれ、これはコンビネーションと呼ばれます。踏み切りや着地にちょっとした誤差があるだけでもクリアは困難です。
選手が馬をどれだけ制御できるかがポイントとなり、障害馬術ではその難しさを知る観客がそこに注目して観戦しています。
趣向を凝らした障害馬術の障害物デザイン
障害馬術のハードルには標準的なデザインがなく、基本的には試合が行われるその土地の名物などがデザインされ、個性豊かなものがさまざま作られるのです。
ロンドンオリンピックではビッグベンやお城がかたどられたものや2階建てバスの上を跳ぶようなものがありました。また東京オリンピックでも咲き誇る桜の木や相撲の力士、芸者の顔、和太鼓、こけしなど日本を象徴するデザインでした。
障害馬術の競技大会とは?
日本国内で開催される障害馬術の試合とは?
障害馬術を含む試合には4段階のカテゴリーがあり、開催数や賞金総額、観客収容能力などで分けられます。国内では国民体育大会や全日本障害馬術大会が全国規模です。
ほかに全日本障害馬術大会出場に必要なポイントが加算される日本馬術連盟公認の試合が各地で開催されます。そのほかにも独自運営でルールが異なるローカルイベントも盛んです。
また、国際馬術連盟(EFI)認定の国際馬術掛川には海外選手が招待されます。
海外の障害馬術の試合もご紹介
障害馬術の国際大会として日本からの参加も多く見られる試合は、世界馬術選手権大会やアジア競技大会などです。
そのほか、年間チャンピオンを決める16の地域リーグ上位選手によるFEIジャンピング・ワールド・カップや、国別の団体戦で4地域の予選を経てファイナルラウンドを制した国がチャンピオンとなる、FEIネーションズ・カップなども開催されています。
障害馬術競技を観戦するには?
障害馬術のイベントは春・夏・秋の3シーズンのほぼ毎週末に各地で、冬でも雪がない地方では開催されています。ほとんどのイベントは基本的に入場無料で入退場は自由です。
日本障害馬術大会や国民体育大会などの各種イベントを探すには、日本馬術連盟サイトのイベントカレンダーが便利で、ルールも記載されています。
障害馬術観戦の前に調べておきたいこと
障害馬術の試合の日程と開催会場がわかったら、交通手段を調べておくことをおすすめします。障害馬術に限らず会場は交通の便がよくないところが多いです。
また、公共交通機関利用では最寄り駅からタクシー、バスでの移動になるので詳しく調べておきましょう。マイカーでの観戦がおすすめですが、駐車場の有無の確認が必要です。
障害馬術観戦のポイントと観客のルールについて
障害馬術観戦時のポイント
試合会場では運営事務所などで配られている「出番表」というタイムテーブルと人馬名の表を入手すると進行を把握できます。また、馬術協会サイトなどでの障害馬術ルールの予習は必須です。
座席は自由で、立ち入り禁止場所に入らないなどはルールとして必ず守りましょう。なお、屋外の会場では合羽やレインコートが、夏は日焼け止めや水が、冬は防寒着とカイロなどが必要です。
観客が守るべきルール
試合観戦の際に会場で守るべきルールがあります。馬を驚かす行為として、大声を出したりフラッシュを焚いて撮影したりすることは禁止です。馬場の中に入るのはもちろん、身を乗り出すことも止めましょう。
選手がゴールしたら拍手で迎えるのはルールではありませんが、観戦者としてのマナーです。そして、ゴミを残さず必ず持ち帰るなど、観客もルールやマナーを守りながら障害馬術を観戦しましょう。
オリンピックの馬術競技
東京オリンピックでも障害馬術を始めとする馬術が行われましたが、オリンピックでの種目には障害馬術のほかに馬場馬術と総合馬術があります。それぞれ個人戦と団体戦が行われ、合計で6種目です。
なお、日本馬術連盟ではこれらオリンピック種目の他に「馬のマラソン」と呼ばれるエンデュランスを正式種目として認定しています。
馬場馬術
障害馬術と異なり、人馬一体で華麗な演技を披露します。規定演技と自由演技があり、規定演技は馬の駆け足やステップ、描く図形の美しさを競うものです。自由演技はフィギュアスケートのように音楽に合わせ、設置された範囲内で規定の運動をこなします。
採点ルールは複数の審査員が10満点で評価、合計点を満点で割ったパーセンテージの高さが順位です。世界トップの選手たちは90%以上のハイレベルで争います。
総合馬術
馬場馬術と障害馬術にクロスカントリーを、3日間かけて同じ人馬がこなしていくルールです。3種目合わせた減点が最も少ない人馬が優勝で、高度な基本技術が人馬ともに要求されます。
3日間に渡って馬にかなりの負担がかかり、選手も消耗を強いられ、しかもオールマイティーであることを求められる大変な種目ですが、チャンピオンが最もリスペクトされる注目の種目です。
クロスカントリー競技のルール
6km以上のコースをゴールまで一気に駆け抜ける障害馬術です。40個以上設置される池・水濠・空濠・竹柵・生垣などの自然の障害物を飛越します。規定タイム超過は1秒につき0.4点減点、制限タイム超過と転倒や経路違反は失権となるルールです。
さらにルールでは不従順1回目は20点減点、同じ障害で2回すると40点減点で、3回で失権となります。障害馬術や馬場馬術と違い、自然の中を躍動する馬の姿を楽しめる種目です。
注目選手が出場した東京オリンピック
日本馬術連盟では障害馬術、馬場馬術、総合馬術それぞれに常設ナショナルチームを編成していて、先日開催された東京オリンピックではこのナショナルチームを中心に男子の注目選手9名(リザーブ1名)が参加しました。
しかし、表彰台はヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアが独占となり、日本選手は総合馬術個人で戸本選手が惜しくも4位で最高位でした。
オリンピックで注目されたレジェンドたち
日本の馬術界を支えてきた名選手をご紹介します。オリンピックの歴史で、障害馬術でただ1人のメダルを獲得した選手や、高齢になってもオリンピックに参加した選手などのレジェンドたちです。
日本人で唯一の金メダリストはバロン西
オリンピックの障害馬術で日本人唯一のメダリストが、バロン西こと西竹一選手です。ロサンゼルス大会(1932年)に愛馬ウラヌス号と出場し、障害飛越個人で金メダルを獲得しました。一躍注目選手となりましたが、次のベルリン大会では途中棄権でした。
1945年戦車連隊長として硫黄島で戦死、その1週間後に愛馬ウラヌス号が後を追うように息を引き取りました。バロンとは男爵のことで、華族だった西選手の正式な称号です。
オリンピックに最高齢で出場した法華津寛選手
法華津選手は1964年の東京オリンピックに23歳で障害飛越団体と個人に参加し、35歳の時に視力の衰えからそれまでの障害馬術から馬場馬術に転向したものの、さまざまな事情でオリンピックから遠ざかっていました。しかし2008年の北京オリンピックで44年ぶりに出場、そして2012年のロンドンオリンピックでは何と71歳で参加を果たしたのです。
障害馬術競技の基本ルールを解説!まとめ
障害馬術をはじめとする馬術種目は、馬を飼育できる環境が必要であるために選手層が薄く、ルールなども一般に馴染みがありません。しかし、人馬一体となって華麗なステップなどの技や、豪快に障害物を飛越する姿は感動ものです。
ぜひ基本ルールを勉強して一度は障害馬術などを観戦してその雰囲気を味わうことをおすすめします。
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