近代五種はオリンピックとともに発展
オリンピック種目に「近代五種(modern pentathlon)」があることを御存じでしょうか。近代オリンピックの創立者であるクーベルタン男爵が提案し、始まったとされる歴史正しき競技で、オリンピックとともに発展しています。
歴史をたどれば、古代ギリシアで行われていた五種競技のレスリング、円盤投、やり投、走幅跳、短距離走を参考にして、近代五種の競技種目として1912年の第5回ストックホルムオリンピックで正式種目に採用された歴史があるのです。
1人の選手が1日に5競技を行う
近代五種は1人の選手が「フェンシング」「水泳」「馬術」「レーザーラン=レーザーピストル+ランニング」の異なる5つの競技に1日で挑戦し、順位を決定します。
大変ハードで、近代五種の金メダリストは「キングオブスポーツ」と称されて称えられ、特にヨーロッパでは人気が高い競技です。
1912年の第5回ストックホルムオリンピックのときは、近代五種は男子のみの種目として採用されましたが、2000年のシドニーオリンピックから女性の競技種目にもなりました。
近代五種は近代オリンピックの歴史
まったく異なる5種類の総合点で競い合いという、近代五種がどうして誕生したか、その歴史はとても気になるのです。
近代五種が生まれた経緯は明らかでその歴史を知ることで、競技の性格やアウトラインなど理解できるポイントが明確になり、いっそう興味が湧きます。そこで、まず近代五種が誕生し発展していった、その歴史の紹介です。
近代五種の歴史①:古代五種競技
近代五種の起源となった古代オリンピックのペンタスロン(五種競技)は、紀元前708年の第18回大会から実施された歴史が残っています。
短距離競走(スタディオン走)、幅跳び、円盤投げ、やり投げ、レスリングの5種目を一人の選手がこなしていました。
3種目以上を制した者が優勝者とした説と、種目ごとに競技者を減らし、最後のレスリングの勝者を優勝者とした説がありますが、どちらも正式な歴史資料はないようです。
近代五種の歴史②:クーベルタン男爵の提案
近代五種の生みの親・フランスのピエール・ド・クーベルタン男爵が、近代オリンピックに良く似合うフェンシング、水泳、馬術、射撃、クロスカントリー(ランニング)の5種目を近代五種競技として提案し、正式種目になりました。
競技種目の由来はナポレオン時代に敵陣に乗り込んだ兵士が、馬に乗り敵の兵士と銃撃戦を交え、剣で戦い敵兵を倒し、川を泳いで渡り、丘を走って自陣に帰還したという伝えを参考に競技種目が誕生してしています。
近代五種の歴史③:貴族のスポーツ
1912年の第5回ストックホルムオリンピックから男子の正式種目となり、現在まで継続している輝かしい歴史がある近代五種は、スタートした当時は1日1種目を5日間にわたって行っていた歴史があります。
そんなところから「王族・貴族のスポーツ」ともいわれるような優雅さがあり、当時はイギリスやフランスの西欧諸国が強豪国でした。
馬術のフェンシングは費用が掛かる
馬術は費用が掛かる競技です。どのような施設を利用するか、使用する頻度でも変わってきますが、毎月の会費が数万円かかることもあります。
さらに、競技用馬術のシャツ、キュロット、乗馬用ブーツ、グローブ、ヘルメットなど、少なく見積もっても10万円ほどはかかりそうです。
また、フェンシングも日本では費用が掛かります。競技用のエペ用ユニフォームや防具類にエペ剣などで10万円ほどになるのです。こんな点からも貴族のスポーツといえそうですね。
近代五輪の歴史④:1日で5種目を競う競技に変更
1996年の第26回アトランタオリンピックから、オリンピックのライブ中継の関係もあって、近代五種のすべての競技を1日で行うルールに、歴史的変更が行われました。この変更で近代五種は「貴族のスポーツ」から、心身ともにハードな競技に変わっていったのです。
近代五種の歴史⑤:レーザーランに進化
2009年にも歴史的なルール改正がなされ、それまでの射撃とランニングのクロスカントリーを、射撃とランニングの両種目を交互に行う「コンバインド」に変更したのです。
また、それまでの3種目の合計点でトップの選手からスタートする方式を導入し、射撃はこれまでのエアピストルからレーザーピストルを使用するルールに変更になっています。
2012年になるとコンバインドから「レーザーラン」の名称となり、射撃とランの回数が3回から4回になりました。
近代五種の歴史⑥:しばしば削減種目の候補に
オリンピック種目の肥大化から、近代五種は古代オリンピックまで遡る歴史がありながら、しばしば削減される競技の対象になっています。
しかし、近代オリンピックの父・クーベルタン男爵創生の歴史ある競技だけに今も生き残っているのです。
また、近代五種は競技そのものをいっそうスポーツ性を高め、順位を競いやすくするルールー改正も行い、常により面白い競技に進化しています。
近代五種の歴史⑦:東欧にアジア諸国も競技に本格参戦
長く西ヨーロッパの国々やイギリスが近代五種の中心として活躍した歴史がありますが、最近は東欧諸国や南米やアジア、オセアニアからの出場も増え、アジアは日本だけでなく中国や韓国も近代五種の選手強化に力を入れています。
ヨーロッパではキングオフスポーツですが、日本ではキングオブマイナースポーツとも呼ばれることもありながら、好成績を残す選手も着実に増加中です。
近代五種の歴史⑧:オリンピックに新しい歴史誕生かも?
近代五種の新しい歴史として、最近は近代3種競技が人気になっています。近代3種競技は、水泳とランニングと射撃を交互に行う3種目です。つまり、近代五種の水泳とレーザーランだけで得点を競う競技といえます。
近代五種競技への入門といえる競技で、この近代3種で実力を養い、近代五種に移ってオリンピックへ出場している選手もいるくらいです。五輪の近代五種に歴史的な入賞を果たすために、近代五種の最初の第一歩という側面もある近代3種競技にトライしてみましょう!
日本の近代五種の歴史
日本の近代五種の歴史というと、ローマオリンピックの1年前、1959年(昭和34年)に日本で陸上、水泳、射撃、フェンシング、馬術の5競技団体の協力で、日本近代五種連合が結成されスタートしました。
日本がオリンピックの近代五種競技に参加した歴史は、1960年(昭和35年)の第17回ローマオリンピックが最初です。
2000年から五輪近代五種に女子参加の歴史
1968年(昭和43年)に冬季五輪のバイアスロン競技を加えた「日本近代五種・バイアスロン連合」となりましたが、2011年(平成23年)に分離し、日本近代五種協会と名称を変えた歴史があります。
近代五種は男子のオリンピック種目の歴史が長かったのですが、2000年のシドニーオリンピックから女子の種目として近代五種が採用され、競技が実施されるようになりました。
日本の近代五種の女子選手は2012年の第30回ロンドンオリンピックから参加した歴史があります。
日本は近代五種にメダル獲得の歴史はない
2018年の近代五種のワールドカップでは、岩本勝(いわもとしょうへい)選手が日本人として歴史にの織る6位入賞を果たしています。また、同じ年のワールドカップで山中詩乃(やまなかしの)選手など、女子選手も活躍できるようになりました。
日本はオリンピックの近代五種に選手を派遣していますが、近代五種でメダリストを輩出した歴史は残っていません。
近代五種の競技ルール
近代五種はフェンシングや乗馬や水泳などの競技を行いますが、近代五種ならではのルールがあり、競技を行う順番も決まっています。競技が誕生してから時代に合わせるようにマイナーチェンジした歴史もあるのです。そんな、近代五種のルールについて紹介します。
1種目:フェンシング
フェンシングには「フルーレ」「エペ」「サーブル」の三種目がありますが、近代五種のフェンシングでは「エペ」が採用されています。エペは身体の全身が有効面になり、対戦相手のどこの部分を突いてもポイントがゲットできるのです。
フェンシングランキングラウンド
近代五種のフェンシングランキングラウンドとは、フェンシングの「エペ」で参加する選手全員が総当たりで、1分間の制限時間で1本先勝で戦います。
総当り戦の結果、勝率が70%を250点として1勝あたり6点を増減してランキングを決定するのです。勝率によって得点が与えられるシステムで、短時間に次々と何試合も戦うため、技術力だけで無く瞬発力も集中力もスタミナ配分も必要になります。
2種目:水泳
水泳は200mの自由形で、男女ともに2分30秒が基準タイムになり、そのタイムよりも1秒ごとの増減に合わせて、2点ずつ増減します。
200m自由形では水泳の技術とともに、スピードとパワーとスタミナが必要です。フェンシングで使った瞬発力とは異なる体力も頭脳も求められます。
3種目:フェンシングボーナスラウンド
フェンシングボーナスラウンドは、ランキングラウンドの成績下位選手から30秒一本勝負で順次対戦し、勝ち残りで選手が代わっていきます。1勝するごとに1点獲得し、ランキングラウンドの持ち点と合計した得点が、近代五種フェンシングの得点になるのです。
4種目:馬術
馬術競技は馬で障害飛越する競技で、水濠や柵など12障害、15飛越を行います。高さが120cmの障害まであり、点数は障害飛越に失敗すると減点され、制限時間もあり超過すると減点対象です。
近代五種の馬術は、抽選で競技当日に馬が割与えられ、短時間で馬に慣れ信頼関係を構築する必要があります。
短時間で馬と良好なコミュニケーションを作り、冷静に馬を操る能力が求められるのです。馬術の得点は持ち点300点からの減点方式のみになります。
5種目:レーザーラン
レーザーランは射撃5的と800mランニングを4周回=3,200m走る競技です。これまでのフェンシングと水泳と馬術の3種目の合計得点から、1点を1秒にタイム換算し、時間差を設定して成績上位の選手からスタートします。
射撃はレーザーピストルを使用し、10mの距離にある直径約6cmの的にレーザーを5回命中させ、5回的に当たるとランに進めるのです。5回命中しない場合は50秒の制限時間射撃を続けます。
近代五種は歴史に甘んじることなく常に進化!
近代五種の最終競技は射撃とランニングを交互に4回行うレーザーランで、そのレーザーランの結果で競技全体の着順を競うことから、レーザーランの着順が競技の最終成績になるのです。
それだけ、競技性が高まり、観ていてもワクワクする競技に進化しています。近代五種は輝かしい歴史に甘んじるだけでなく、より時代に合った競技になるよう進化しているのです。
近代五種の興味深いポイント
近代五種は5種目が全く異なる競技で、使用する体の部位や筋力が大きく異なります。また、各競技にはそれぞれに固有の技術と理論があり、それをマスターすることも求められるハードな競技です。
さらに、競技の進行にあわせて自分の体力や精神力をコントロールすることも求められ、体力、知力、精神力が必要となる、まさに、キングオブスポーツといえます。
馬術の馬は抽選
近代五種の馬術競技で使う馬は、主催者側から貸与されます。その貸与の方法は抽選で決められます。
通常は馬の能力がほぼ均一になるよう担保されていますが、馬は動物で生き物です。微妙に異なる馬の性格や個性があり、馬と対面したときから速やかに馬の性格や特徴を見極めなくてはなりません。
こように、馬術は抽選で馬が決まる点があり、乗馬技術とともに運も得点に左右する競技といえそうです。
近代五種は競技人口が少ない
近代五種の最大の悩みは競技人口の少なさです。これは日本だけでなく世界も同じことがいえます。
近代五種の競技人口は世界で14,000人といわれ、数億人の競技人口のバスケットやサッカーに比べると、確かに競技人口は多くありません。
日本の競技人口は男女あわせて50人弱と推測されます。2018年の全日本選手権の出場者は男女合わせて46人(男子29人、女子17人)と、日本でも競技人口は多くないのです。
競技用具の変更で人気拡大を狙う
日本を含め世界的に銃の取り扱いが厳しい国が多く、そんな点もあって近代五種の競技人口の増加や若手選手の育成などが難しくなっていました。
そんな背景もあり、国際近代五種連合は競技人口増加も狙いレーザーピストルを採用したのです。レーザーピストル採用で若者や女性の競技への参加が増える傾向が見られます。
近代五種の歴史を知ってもっと楽しもう!
キングオブスポーツといわれる「近代五種」について、その歴史を中心に紹介しました。近代五種は古代オリンピックまで歴史が遡り、近代オリンピック生みの親である、クーベルタン男爵が創出した競技という輝かしい歴史があります。
近代五種の歴史やアウトラインを理解して、地味で目立たない競技といわれる近代五種を楽しく観覧しましょう!
近代五種とその歴史が気になる方はこちらをチェック!
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