レスリングは日本のお家芸の歴史
最近は女性の活躍が光るレスリングですが、男女ともに日本が得意とするオリンピック競技の一つです。9mのマットの上でシングレットを着用して戦います。体全体を使って戦うフリースタイルと上半身だけを攻め合うグレコローマンの2種類です。
オリンピック連覇のメダリストもいるほど、日本で話題になることが多いレスリングですが、ルールなど詳しい方は少数派といえます。今回は知ると納得できる事柄が豊富なレスリングの歴史やルールの紹介です。
レスリングの歴史:中世以前のレスリングの歴史
レスリングは数あるスポーツ競技の中でも1、2の歴史を誇ります。約5000年前の紀元前の時代からレスリングは行われていたという説があるほどです。
しかし、一般的にレスリングの歴史は古代ギリシア時代まで遡り、人類最古の格闘技ともいわれています。
紀元前3000年のシュメール文明の頃には、一つの競技として成立していたと伝えられています。古代オリンピックでも主要競技のひとつで、当時から人気が高かった競技です。
レスリングの歴史古代①:文武両道の必須科目
シュメール人の古代ギリシャ時代、レスリングは科学と神の領域と見なされ若い男性にとって欠かせないトレーニングで、文武両道の面からもレスリングは自己鍛錬のための重要な武道になっていました。
当時は男性が全裸になり、全身にオリーブオイルを塗って戦っていたそうです。戦い方は現在のフリースタイルに似て、相手を投げるか地面に押さえ込んだ選手が勝ちとされていました。
レスリングの歴史古代②:プラトンは強豪選手!
紀元前776年に始まったとされる古代オリンピックの歴史では、五種競技としてレスリング、走り幅跳び、円盤投げ、やり投げ、短距離走があり、その5種の中で最高の人気があった競技でした。
有名な哲学者も参加しています。中でもプラトンはレスラーとしてよく知られていたそうです。また、ピタゴラスの弟子にあたるクロトン生まれのミロンは古代オリンピックのレスリングで6回の優勝したレスラーです。
レスリングの歴史古代③:393年に禁止令
古代ローマ時代にもレスリングは若い貴族や兵隊や羊飼いに大変人気が高い競技で、熱心に競技に励む若者が多数いました。
しかし、393年になると古代ローマ帝国の皇帝テオドシウス一世が、当時は衰退傾向にあった古代オリンピック競技そのものを禁止しています。
それでも、レスリングは消滅せず、貴族などの武道の一つとして密かに引き継ぐ者がいました。レスリングにとって厳しい歴史の時代です。
レスリングの歴史古代④:ハイソ社会で生き残り
ルネッサンス期といわれる時代になると、レスリングは当時のハイクラスで社会的地位のある者だけが親しむ競技となり、城内や宮殿で大会が開催され多くの画家や作家がレスリングに挑戦していました。
また、レスリングは中世の騎士にとって身につけるべき必修の武術で、その習得が奨励され、1500年頃からマニュアルまで発行されています。
レスリングの歴史:近代レスリングの歴史
レスリングはオリンピックと関わりが深い競技で、第1回のアテネオリンピックから採用されてた歴史があります。
現在、世界のアマチュアレスリングを統括している、世界レスリング連合(UUW)の規定では、男子の種目はフリースタイルとグレコローマン、女子はフリースタイルだけが認められているのです。
レスリングの歴史近代①:グレコローマンはEUで人気
グレコローマンはフランス語で「ギリシャとローマの」という意味で、レスリングが盛んであった古代ギリシャと古代ローマ帝国に敬意を表したネーミングで、腰から下の攻撃は禁止されています。
グレコローマンを確立したのはフランス人の興行師・ジャン・エクボラで、レスリングを見せるスポーツとして捉え、上半身のみの攻防で競う、今のグレコローマンスタイルの基礎を確立した歴史があり、ヨーロッパ大陸を中心に人気が拡大しました。
レスリングの歴史近代②:フリースタイルの起源は英国
1896年の第1回アテネオリンピックでは、フランスはじめヨーロッパで人気が高いグレコローマンでレスリング競技が行われていました。しかし、イギリスだけは別で、グレコローマンは不人気だったのです。
イギリスはフリースタイルの原型となるキャッチ・アズ・キャッチ・キャン(CACC)のレスリングが好まれていました。キャッチスタイルは下半身の攻撃も認めるルールで、1870年頃にイギリスで確立したレスリングスタイルです。
レスリングの歴史近代③:フリースタイルは米国で発展
現在のフリースタイルの原型はアメリカのフォークスタイルのレスリングに由来しているといわれています。アメリカに移住したイギリス人が持ち込んだキャッチスタイルを基にして、アメリカ人がアメリカ風に進化させた歴史がありました。
アメリカのフォークレスリングはカレッジレスリングとも呼ばれ、フォールで勝敗を決着するスタイルです。
レスリングの歴史近代④:日本はフリースタイルが得意
フォークレスリングをさらに発展させたのが現在のフリースタイルで、正式にオリンピック種目となったのは、1904年の第3回アメリカ、セントルイス大会からです。
1912年第5回ストックホルムオリンピックで再び除外され、1920年のアントワープ大会から再復活した有為転変の歴史があります。
そうして今は、レスリングの主流になっているのです。どちらかといえば足腰の強い日本選手はフリースタイルが得意といえます。
レスリングの歴史:日本の歴史
日本のレスリングの歴史は、1924年(大正13年)のパリオリンピックに参加した内藤克俊(ないとうかつとし)氏が始まりです。
内藤克俊氏はアメリカのペンシルベニア州立大学に留学していた身分のまま、日本代表としてフリースタイルのフェザー級に出場し、銅メダルを獲得しています。
日本のレスリングは戦前から活躍
日本にレスリングが本格的に広まったのは1931年(昭和6年)に、八田一朗氏が中心となり早稲田大学にレスリング部をスタートさせた頃からです。
本格的なレスリング選手の育成を行い、1932年のロサンゼルス大会、1936年のベルリン大会に参加しています。
日本のレスリングは金メダル量産の歴史
日本は第二次世界大戦中の不毛の歴史を経て、戦後、現在の世界レスリング連合(UWW)へ復帰し、1952年(昭和27年)のヘルシンキ大会で、フリースタイルバンタム級で石井庄八氏が金メダルを獲得しています。
以後、レスリングは日本のお家芸といわれ、2016年リオオリンピックまでに32個の金メダルを獲得した歴史があるのです。
レスリングの歴史:女性編
女性とレスリングに関しては、紀元前7世紀のスパルタで女性がレスリングを行っていたという歴史が残っています。当時の女性アスリート・アタランタ(Atalanta)は屈強な男性レスラーにも勝利したと伝えられているほど最強でした。
しかし、女性選手が活躍したスパルタは例外であって、女性のレスリングが正式な競技となったのは1970年頃からです。
1970年代から国際化した歴史
1970年代に女性のレスリング大会がヨーロッパで復活し、それ以降、レスリングの女子国際大会が定期的に開かれました。
ただし、女子レスリングはフリースタイルのみでグレコローマンスは今後の連盟の課題になっています。
1987年からは世界選手権も始まり国際化が加速し、第1回大会から日本の女子選手は参加しました。さらに、2004年アテネオリンピックから女子レスリングが正式競技として加えられ、日本の女子選手が大活躍した歴史が残っています。
レスリングの勝敗ルールは細かい
レスリングは直径9mの円形マットの上でピリオド制で行われ、3分×2ピリオド、インターバルは30秒で戦われます。
全身を使い、全身を攻めることができるフリースタイルは、男女の競技があり、オリンピックの階級は、男子は57~125㎏級までの6階級です。女子は50~76㎏級の6階級になります。レスリングはフライ級やフェザー級の呼称は使用しません。
四角いマットから円形に変更された歴史
レスリングには上半身だけを攻め合うグレコローマンスタイルもあり、こちらは男子のみのオリンピック種目です。
オリンピックで行われるグレコローマンの階級は60~130㎏級の6階級です。クラス分けはフリースタイルとグレコローマンで異なります。
階級の分け方も、四角いマットから丸いマットに変更されているように、レスリングはルール変更が多い競技です。
相手の両肩をマットにつけるとフォール勝ち!
レスリングの試合は規定の競技場で、3人の審判(レフェリー、ジャッジ、チャーマン)のもとで1対1の対戦で行われます。
勝敗は相手の両肩を完全に1秒間以上マットに押しつけた場合、押しつけた選手がフォール勝ちとなります。
ポイントを多くとった選手が判定勝ち
フォールが無く試合が終わった場合は判定になります。判定は2ピリオド終了時点で取得したポイントの多い選手が勝者です。
ポイントは技ごとに1点、2点、3点、5点と細かく規定されていて、3審判のうち2審判の同意で点数が決定されます。
コーション(警告)を3回受けるとで負け!
フォールとならない場合でもテクニカルフォールがあり、その時点で勝敗が決定します。テクニカルフォールにはポイント差がフリースタイルで10点、グレコローマンで8点差がつくとその時点でテクニカルフォールが成立し試合終了です。
同点で試合時間が終了した場合は、大技を決めビッグポイントが多い選手、警告が少ない選手、最後のポイントを取った選手が勝利します。また、3回の警告(コーション)を受けた選手はその場で敗者です。
技のポイント区分は細かい
フリースタイルでポイントがゲットできる主な技は、立った状態で相手を場外に出すと1ポイントになります。投げ技を決めた場合も1ポイントゲットです。相手のバックを取り、両手、両膝のうち3点をマットにつかせると2点ゲットできます。
グラウンド状態から相手の胴を決めて1回転すると2ポイント。相手を投げて、一瞬でも相手の両肩をマットに90度以上近づける、デインジャラスポジションに追い込むと4点になります。
レスリングの禁止事項・基本ルール
レスリングの試合着は上半身と下半身一体型の仕様のシングレットと呼ばれる試合着を着用します。また、試合はトーナメント形式で行われ、トーナメント表の上段の選手が赤色、下段の選手が青色の着用です。
また、選手は白いハンカチを持たないと試合ができません。試合中に流血した場合に拭きとるために使います。
さらに、紐付きのシューズを履いて試合をする場合は、怪我防止のため紐をテープで巻くことが必要です。靴紐が解けた場合は相手選手に1点が入ります。
レスリングで反則となる禁止ルール
レスリングには禁止されている反則行為があります。レスリングではパンチやキックは絶対に使えません。
また、首を絞めることも禁止ルールで、噛みつきに、髪の毛を掴むことも禁止されています。さらに皮膚をつねることも禁止され、ユニフォームのシングレットをつかむことも禁止行為です。何れも歴史から生まれたルールといえます。
レスリング観戦に役立つ情報
戦前から歴史がある日本のレスリングは、興味を惹くさまざまな薀蓄(うんちく)があり、知っておくとレスリングを見るときの参考になります。
まず、日本のレスリングが強くなったのは「八田イズム」といわれる、八田一朗氏の功績が大きく影響しています。現在も生きるその精神と合理性は日本のレスリングにとって貴重な歴史であり遺産です。
レスリングのシングレットは不人気
最近レスリングで話題になっているのが、レスリング独特の「シングレット」と呼ばれるユニフォームです。世界レスリング連合のルールでは、連合が公認した赤、青のシングレットとシューズを着用することが国際ルールで決められています。
動きやすいパンツなどを着用して戦っていた歴史もありました。現在のワンピース型のシングレットが登場したのは1960年代後半になってからです。最近は各国独特のデザインをあしらえたシングレットもあります。
女性選手のユニホームはセパレート式も?
シングレットは不人気といわれています。シングレットを着たくないのでレスリングを止めた有望な選手がいたという歴史もあるくらいです。
新しいユニホームとしてセパレートタイプが候補に挙がっているようですが、脱げやすいのではないかと心配されています。レスリングの人気アップの狙いもありますが、歴史あるスポーツでも、もっと魅力的なタイプに変更するのが人気アップにおすすめのようです。
レスリング日本女子は最強
レスリングの日本女子は選手層も厚く、強豪がひしめいています。オリンピック4連覇の伊調馨、3連覇の吉田沙保里、他にも金メダリストの登坂絵莉、川井梨沙子、土性沙羅など世界屈指の選手層で、各階級にメダリストが多数です。連続してメダリストが誕生している輝かしい歴史があります。
リオオリンピックまでに69個のメダル獲得の歴史
日本のオリンピックのレスリングの歴史では、男子は内藤克俊氏が1924年パリ大会のフリースタイルフェザー級で銅メダルを獲得し、1952年のヘルシンキ大会のフリースタイルバンタム級で石井庄八氏が戦後初めて、日本人として金メダルを獲得しています。
それ以降も日本のお家芸の一つで、2016年現在金メダル32個、銀メダル20個、銅メダル17個の合計69個で、体操98個、柔道84個、競泳80個に次ぐ多さです。
レスリングの歴史やルールを理解して楽しもう!
ヨーロッパや中東にアジア、アメリカと国際的に人気が高いレスリング、歴史がある競技で階級制で小さな体でも金メダルが狙えるスポーツです。
日本のレスリングは戦前から行われた歴史があり、オリンピックでメダルの期待が大きく、メダル候補の有力選手がひしめいています。レスリングの歴史やルールを理解して、レスリングを楽しく観戦しましょう!
レスリングの歴史やルールが気になる方はこちらをチェック!
オリンピックは最大の規模で開催される国際スポーツ大会ですが、そのオリンピックで第1回から実施されているの歴史ある競技の一つがレスリングです。レスリングの起源は紀元前まで遡り、近代から盛んに行われ今でも人気のスポーツです。
そんなレスリングやその歴史なからオリンピックそのものまで気になった方は以下の記事のチェックをおすすめします。
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