ランニングだけでは足りないわけ
ランニングの目的には人によって様々な違いがあります。例えば、痩せたい、健康になりたい、他のスポーツのために走力を上げたい、そうした違いはあっても、ランニングはそのどれにも効果がある運動です。スクワットのことを「King of Training」(トレーニングの王様)と呼ぶ人がいますが、ランニングにもその称号を与えるべきでしょう。しかし、人はあらゆることに慣れる動物です。どれだけ優れた、あるいはきついトレーニングであっても、そのメニュー「だけ」を、同じやり方で、毎日のように、あるいは同じ頻度で繰り返し行っていると、そのうちにダレが生じ、身体の反応は鈍り、成長は止まり、それどころか慢性疲労による故障まで引き起こすこともあります。
ランニングに必要なものとは
ランニング、特にマラソンなどの長距離走には器用さや敏捷性は必要ありません。必要なもの下半身の筋力と心肺能力の2つです。ひたすら走り続けていれば、自然にその2つのレベルは上がっていきますが、それは最良のやり方とは言えないでしょう。前述しましたように、同じやり方を繰り返すトレーニングのメニューから得られる成長効果には限界があるからです。マラソンを走るためにランニングは最適のメニューであるかもしれませんが、唯一のものであってはいけないのです。そこには補強と言うメニューが必要になります。
ランニングにスクワットが向いているわけ
スクワットは下半身強化を図るうえでもっとも代表的な筋トレですが、鍛えられるのは下半身の筋肉だけではありません。ランニング中の姿勢を保つために重要な体幹のインナーマッスルもスクワットによって鍛えることができます。運動量も多いので、脂肪を効率的に燃やして、ダイエットにも繋がります。マラソンなどの長距離走は体重が軽い方が有利なスポーツですので、このことは大きな要素です。そして、重量負荷を変え、回数や頻度などのメニューを組み替えることで、幅広いレベルのランナーのニーズに応えることができるのです。
スクワットの基本チェックポイント
スクワットには何も持たないで自重で行う場合とダンベルやバーベルを使って重量負荷をかける場合があります。どちらのやり方で行っても下半身強化に大きな効果がありますが、その違いとしては、前者は筋持久力、後者は瞬発力の向上がメインの目的になることです。まずはどちらのやり方にも共通する基本フォームのチェックポイントを挙げておきます。自重スクワットを例にします。
スクワットのセットアップ
両足を肩幅の広さで、つま先はまっすぐ前方に向けるか、やや外側に開きます。このときに膝とつま先が同じ方向に向けることに注意してください。背筋を伸ばし、視線は前に向けます。
スクワットの始動
まずお尻を後方に突き出すようして、次に膝を曲げて、体を下げていきます。この動作が上手く行かない人は、後方にメディシン・ボールやイスなどを置いて、それに浅く腰かけることをイメージして下さい。実際にそれをしても構いません。
スクワットのダウン動作
息を吸いながら、お尻が膝より低くなり、太股が地面と平行かそれ以下になる位置までしゃがみます。両膝はつま先より前に出ないようにし、お尻と太股の裏側の筋肉(ハムストリングス)を意識します。
スクワットの一旦静止
もっとも低い位置で1秒ほど静止します。背筋の自然なカーブを維持することと、踵が常に地面に着いて浮かないことを注意してください。この低さで姿勢を維持できない人は、筋力よりむしろ柔軟性に難があることが多いです。スクワットを繰り返すことで柔軟性も高まりますが、それとは別にストレッチなどを習慣にするとよいでしょう。
スクワットのアップ動作
息を吐きながら立ち上がり、膝と腰を完全に伸ばして、セットアップの姿勢に戻ります。踵は地面に着いたままです。
スクワットの基本フォームを守る重要性
目的によってスクワットのやり方や頻度には違いがあるべきですが、原則的にはスクワットは無理なくこなせるだけの回数で下半身強化に十分な効果があります。きついと感じる回数をこなすことより大切なのは、トレーニングの最初から最後まで、上の基本フォームをきちんと守ることです。正しいフォームのスクワットを行うことで、ランニングの蓄積疲労から起こる故障の予防にも繋がります。
ランニング初心者のためのスクワット
制限時間ぎりぎりでマラソンを完走したことがある人、あるいはゴール前で挫折してしまった人なら分かると思いますが、初心者ランナーでマラソンの最初から最後までずっと走り続けられる人はめったにいません。大抵の人はどこかの時点で立ち止まるか、歩いてしまいます。その原因はマラソンの距離である約42キロを走り切るための下半身の筋力がないためです。競技者とは違い、マラソン完走を目標にするランナーなら、スピードを心配する必要はありません。それよりもジョギングペースで長時間走り続けるための筋持久力がマラソン初心者にはもっとも必要なのです。
基本は低重量高回数
マラソンの終盤になって走れなくなってしまうランナーは、下半身と体幹に渡るまで広い範囲の筋持久力を鍛える必要があります。しかし、それらの筋肉の細かな違いを意識する必要はありません。スクワットはそれらの筋肉を同時にバランスよく鍛えられるメリットがあるからです。下半身強化と言っても、初心者ランナーには大きなパワーも必要ありません。従って、スクワットを行うときも低重量高回数が基本になります。つまり自重スクワットを行うか、ダンベルやバーベルなどを使うときでもごく軽い重量で十分です。毎日行うのではなく、頻度も無理のないペースで徐々に増やしていってください。
おすすめメニュー例
動作の種類 | 自重スクワット |
頻度 | 週に2,3回(2日連続では行わない) |
1セット内の回数 | 30~100回(無理なく続けられる回数から始め、徐々に増やしていく) |
セット数 | 3~5 セット |
セット間の休息 | 1分以内 |
ランニング中級者のためのスクワット
マラソンを完走したことがあり、次こそは自己最高記録を狙ってやろうと思うレベルのランナーなら極めて当たり前のことですが、トレーニングでもレースでも走行距離は自然と増えてきます。そして、初心者との違いは時間や距離だけではなく、スピード向上という要素が加わること。これもまた当然のことなのですが、速く走ろうとすれば、脚にかかる負荷も増えてきます。そして、筋肉、関節、靭帯に大きな負担が蓄積され、故障のリスクが高まります。スクワットは下半身強化だけではなく、筋力のバランスも整えてくれます。その結果として故障の予防やリハビリに大きな効果があります。
漸進性過負荷の原則
初心者との違いは重量負荷をつけることです。毎日走ってばかりのやり方だと走力の向上に限界があるのと同じように、自重スクワットもそれだけを続けるやり方では、下半身強化のトレーニング効果はある程度からは上がりません。回数や頻度を増やすことも有効ややり方ですが、それには時間の限界があります。それよりも効果的なのは重量負荷をつけることです。無理な重量に挑む必要はありませんが、きついと感じるレベルでのトレーニングは必要です。頻度を増やすことより、同じ頻度で負荷を増やすことに着目して、下半身強化のレベルを上げていきます。
ダンベルを用いるメリット
スクワットに重量を付加するためには、バーベルとダンベルの2つの器具が代表的ですが、その両者には違いがあります。自宅などで始めるのに向いているのはダンベルでしょう。ダンベルは広い場所を必要としませんし、軽い重量なら価格も手軽だからです。トレーニングのやり方も様々な動作から選ぶことができます。マラソンでタイムを狙うランニング中級者のメニューも低重量高回数が基本になりますので、それほど重いダンベルは必要ありません。1~3セットほど用意すれば、寒かったり、雨が降ったり、時間がなかったりで外を走れない日に、自宅でスクワットをするだけで下半身強化を図ることができます。
メニュー例
動作の種類 | ダンベル・フロントスクワット |
頻度 | 週に2,3回(2日連続では行わない) |
重量設定 | 10回続けてできる重量 |
1セット内の回数 | 10~20回 |
セット数 | 3~7 セット |
セット間の休息 | 1~2 分 |
ランニング上級者のためのスクワット
マラソンでサブスリーを狙うようなレベルのランナーなら、当然ながらスピードの重要性はさらに増してきます。そこで下半身強化のメニューも鍛える筋肉の違いに着目していくべきになります。筋肉繊維にはパワーに富む速筋と持久力に富む遅筋の2種類があります。ランニング中級者までは筋持久力の向上に重点を置いて、スクワットのメニューも低重量高回数が原則でしたが、タイムを狙うレベルのランナーなら下半身強化も前者の速筋を意識するべきです。従って、マラソン上級者はスクワットにも高重量低回数のやり方を取り入れるべきでしょう。高重量低回数のやり方には、下半身全体と体幹の速筋を強化し、ランニングのスピードを上げるために必要な瞬発系のパワーを増やす効果があります。初心者や中級者との違いは、筋トレの負荷を上げるために回数や頻度を増やすのではなく、1回ごとの負荷を増やすことが原則になることです。
バーベルを用いるメリット
高重量低回数のメニューでは重量の設定が大きな意味を持ちます。その点、バーベルは重量プレートを付け替えるだけで重量を調整できるので便利です。ダンベルとの違いはそこにあります。バーベルを担いで重さに耐えてスクワットをすると、下半身強化に重要な大きな筋肉を満遍なく鍛えられるうえ、体幹のインナーマッスルも同時に鍛えられます。つまり下半身強化がそのまま体幹の強化につながるのです。また、やり方もいくつか選ぶことができます。バーベルを首の後ろで担ぐバック・スクワット、肩の前で担ぐフロント・スクワット、頭上に持ち上げるオーバーヘッド・スクワットなどのバリエーションを用いて、主に鍛える箇所を変えることもできるのです。
最大挙上重量(1RM)を測定する重要性
高重量低回数でスクワットのメニューを組むときには、最大挙上重量(1RM)という言葉が重要なキーワードになります。1RMとは筋トレ用語で、一般的には正しいフォームで1回だけ挙げることができる最大重量のことを指します。下のメニュー例でも1RM を重量設定の基準に用いています。大体、月に1回ぐらいの頻度で測定することをお勧めします。
重量を徐々に増やしていくことの意味
高重量低回数の筋トレを始めると、身体はその負荷に適応し、筋肥大や筋力増加などの効果が身体に表れます。もちろんその成長軌道は永遠には続きません。どこかで停滞期がやってきます。その理由のひとつは、身体が筋トレからの刺激に馴化してしまうことです。その馴化を防ぐには、筋トレの頻度ではなくやり方を変えるか、もしくは挙上重量を上がるのがもっとも手っ取り早い方法なのですが、それでもある程度までからは急激な変化は起こりません。「マラソンにはまぐれはない」とよく言いますが、筋トレもそれと同じで地道な努力が求められます。
メニュー例
動作の種類 | バーベル・バック・スクワット |
頻度 | 週に2,3回(2日連続では行わない。例:ランニングと筋トレを隔日で交代) |
重量設定 | 最大挙上重量(1RM)の80~90%ぐらい |
1セット内の回数 | 1~5回 |
セット数 | 3~5 セット |
セット間の休息 | 2~3分 |
まとめ
ランニングもスクワットもある程度の日数をかけて継続して行わないと成長は望めません。継続するだけではなく、徐々に負荷を高めていかないと成長は止まってしまいます。そのためには生活のリズムが重要な要素になります。トレーニングの内容や強度だけにとらわれず、睡眠をしっかり取り、バランスがとれた食生活を心がけましょう。狙った効果を得るためには、適正なトレーニングと健康的なライフスタイルが不可欠な両輪の輪なのです。
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出典:ライター撮影