はじめに
雨の種類
日本語には雨を表現する言葉がたくさんあります。四季があり、一年中雨が降る国、日本。それゆえに昔から時には悩まされ、雨の恵みと共に生きてきました。
私たちの祖先は日々の生活の中で雨の違いを敏感に感じ取り、それぞれに情緒のある名前を付けて親しんできました。同じ降り方でも時期によって名前が違ったり、伝説に由来していたり、雨の名前は400種類以上もあります。その中の一部を季節別・降り方別に紹介します。
春・夏・秋・冬とは
分け方の種類
季節の分け方には様々な方法があります。気象学的な区分として、春=3月~5月、夏=6月~8月、秋=9月~11月、冬=12月~2月と分ける方法。二十四節気をもとに、立春・立夏・立秋・立冬という季節の始まりを表す日を基準にする方法。
俳句の季語はこの分け方で季節を考え使用します。その他にも4月からを春とする年度による区分や、夏至・冬至・春分・秋分を基準とする天文学的な区分があります。ここでは二十四節気の区分で紹介していきます。梅雨は春と夏の間ですが、関係する名前が多いので別に項目を分けています。
春の雨の名前種類一覧:春の始め
春時雨(はるしぐれ)
「時雨(しぐれ)」は各季節に度々出てくる呼び方です。元々秋の末から冬の初めごろに降るにわか雨のことです。これが2月4日の立春から桜が咲く前ごろまでに降ると春時雨と呼ばれます。時雨という言葉には寂しい雰囲気が漂っていますが、春と付くだけで木の芽や花が咲くような明るく華やいだ雰囲気に感じられるので不思議ですね。
桜雨(さくらあめ)
もう少し暖かくなった、3月終わりから4月初めの桜が咲く頃に降るにわか雨のことは花時雨(はなしぐれ)や桜雨といいます。桜雨が降ると桜の花を散らすと言われ、この言葉には少し寂し気な雰囲気も含んでいます。同じ季節に降る雨が微妙な時期の違いで呼び方が変わり、雰囲気までも変えてしまうとは本当に日本語は趣のある言語です。
春の雨の名前種類一覧:春の終わり
小糠雨・粉糠雨(こぬかあめ)
春の始まりに降る霧のような雨のことでで、細やかな雨粒の状態を糠に例えてこう呼びます。小糠雨という言葉は俳句や文学的な表現として用いられることが多いです。「親の罰と小糠雨は当たるが知れぬ」ということわざがあります。
これは、小糠雨は霧のように細かいので気にせずにそのままで居ると、いつの間にかびしょ濡れになっているということで、親不孝の報いはいつとはなく受けるという意味を表しています。
春霖(しゅんりん)
これは3月下旬から4月上旬にかけてぐずついた梅雨のような日が続くことをいいます。菜の花が咲く頃に降るので「菜種梅雨(なたねつゆ)」と呼ばれます。移動性高気圧が北に偏り日本列島を通るため、冷たく湿った風が吹くため前線が停滞しやすくなり、すっきりしない天気が続きます。
また、この時期の雨は桜を始め色々な花を咲かせることから「催花雨(さいかう)」とも呼ばれます。求められる状況で呼び方が変わることがわかりますね。
梅雨の雨の名前種類一覧:梅雨の始め
入梅(にゅうばい)
梅雨に入ることを入梅といいます。農作業をする上でとても重要な時期となるため雑節の一つとなりました。雑節とは中国から伝わった二十四節気や五節句とは違い、日本の生活文化から生まれた暦のことです。
季節の移り変わりをより的確に掴むために日本独自で特別に作られました。暦の上での梅雨入りは毎年6月11日ごろですが、南北に細長い日本は地域によって日にちが異なるため、実際には気象庁の発表する「梅雨入り宣言」に基づき判断します。
卯の花腐し(うのはなくたし)
卯の花腐しは旧暦の5月ごろに梅雨に先駆けて一時的に降る長雨のことです。走り梅雨とも呼ばれます。卯の花というのは空木(うつぎ)の花のことで旧暦の4月ごろに咲く花です。
適度な雨は花を喜ばせますが、その空木の花を落としてしまう、だめにしてしまうほど長い雨の降る季節になったという意味で「卯の花腐し」や「卯の花降し」と表現します。
梅雨の雨の名前種類一覧:梅雨の終わり
送り梅雨(おくりつゆ)
これには、梅雨を見送るという意味が含まれており、梅雨が終わる前に降る大雨のことを言います。時には最後の力を振り絞るように雷鳴を轟かせたり、非常に激しい雨となることもあります。
この頃の前線は陸地の上で活動をするため大雨や集中豪雨が起こりやすくなります。早く梅雨が終わってほしい、送り出したいという願いが込められている言葉です。
戻り梅雨(もどりつゆ)
梅雨が終わると一般的には夏の晴天が続きますが、太平洋高気圧の勢力が安定しない場合北から前線が南下し、再び梅雨のような状態になることを、戻り梅雨または返り梅雨と呼びます。梅雨明けは地域によって異なり沖縄では6月下旬、その他の地域では7月中旬~下旬頃が多く、その期間はどの地方でも40日~50日ほどあります。
空梅雨(からつゆ)
梅雨の期間にも関わらず、雨量がとても少ないかほとんど降らない現象のことです。前線の活動が弱かったり、太平洋高気圧が例年よりも早く発達して前線を早くから北上させた場合に空梅雨となることがあります。
このような年は真夏に水不足になり、農作物が育たなかったり、スズメバチが大量発生したり、人々の生活自体にも様々な影響があります。梅雨の間は憂鬱ですが日本の生活にとってなくてはならないものなのです。
夏の雨の名前種類一覧:夏の始め
虎が雨(とらがあめ)
旧暦5月28日の雨を虎が雨と呼びます。この日は鎌倉の武士である曾我祐成(そがすけなり)が父の仇を討ったものの亡くなってしまった日で、祐成に愛されていた虎御前が悲しむ涙が雨となって降ったという伝説からつけられた名前です。
旧暦の5月28日は現在では6月下旬から7月中旬となるので比較的雨の降りやすい時期ですが、地方によってはこの日は必ず雨が降ると言い伝えられています。
洗車雨(せんしゃう)
洗車雨は洗車した後の雨でも洗車代わりになるほどの雨でもありません。これは七夕の前日、つまり7月6日に降る雨のことです。七夕は織姫と彦星が一年に一度会える日とされています。
その日のために彦星が織姫に会うときに使う牛車を洗うのですがその水に雨をなぞらえており、この場合の車とは牛車のことを指しています。七夕を楽しみにしている様子が伺える、ほっこりする雨ですね。
洒涙雨(さいるいう)
洒涙雨は七夕当日の雨のことです。これは織姫と彦星が七夕の日にやっと会えた後また別れる際に流す涙である、雨が降って天の川が増水し会えなかった際の悲しみの涙、再開を喜ぶ嬉し涙、など様々な説があります。
この時期は梅雨の後半に相当し、沖縄と北海道以外の地域では毎年かなりの確率で愚図ついた天気となります。天の川が増水してもカササギが橋となり逢瀬を助けてくれる説もあるので嬉し涙だと良いですね。
青葉雨(あおばあめ)
夏の雨の名前は草木をつややかに見せる青葉雨や翠雨(すいう)、農作物・穀物を潤し成長させ恵みの雨とする瑞雨(ずいう)や穀雨(こくう)など植物と深く関係しています。どれも希望に満ちた名前で、この時期の雨は多くの農作物が成長する上で重要な役割をしていることが伺えます。
夏の雨の名前種類一覧:夏の終わり
喜雨(きう)
日照りが続き田んぼは干からび、草木がしおれて枯れてしまいそうになった時にようやく降る恵みの雨のことを喜雨や慈雨(じう)といいます。
日照りが続くと農作物に影響を及ぼしたり、生活自体も水不足になって困難となるため、文字通り喜びの雨となったことに由来しています。昔は日照り続きに雨が降った時に仕事を休んで祝うという風習があったほどなので、よほど嬉しく迎えられたことでしょう。
夕立(ゆうだち)
夕立は夏の午後から夕方にかけて激しく降るにわか雨のことです。夏の強い日差しによって発生した雲が、そり立つような積乱雲に発達して通る際に降ることから夕立と呼ばれ、夏の風物詩として親しまれてきました。最近では以前のように午後から夕方に限らず急に降ってくるため、「ゲリラ豪雨」と呼ばれるようになりました。
御山洗(おやまあらい)
富士山が閉山する陰暦の7月26日ごろの雨が御山洗です。では7月1日~10日までに富士山の各ルートで山開きが行われます。御山洗は開山期間にたくさんの人が富士山に登って汚れたとする霊山富士を洗い清める雨とされています。実際には9月10日ごろまでが夏山登山のシーズンで開山期間となります。
秋の雨の名前種類一覧:秋の始め
秋出水(あきでみず)
お盆を過ぎた頃の豪雨や、台風による強く激しい雨で河川の水があふれ出し洪水となることです。この言葉は一般的にはあまり使われませんが、俳句の中で洪水や河川の氾濫など災害を表した季語として使われており、収穫を控えた田んぼの稲や農作物が台無しになってしまう様子が詠まれています。
秋雨(あきさめ)
季節の変わり目の、暑さを和らげる雨で秋霖(しゅうりん)とも言われます。夏の間活躍した太平洋高気圧が南へ下がり、大陸の冷たい高気圧が張り出すことによって前線が発達し、秋雨前線となります。
梅雨前線と同じ様に地域によって差がありますが、9月初旬から10月頃にかけて降ります。文学的な表現としても用いられ、春よりも寂し気な雰囲気を持っています。
伊勢清めの雨(いせのきよめのあめ)
旧暦の9月17日に行われる宮中行事の「神嘗祭(かんなめさい)」の翌日に降る、祭祀の後を清める雨と伝えられます。神嘗祭は天皇がその年の新しい穀物で作った御神酒と神様に献上する御食事を伊勢神宮に奉納する祭りです。
雨は縁起が悪いと思われますが、神社で参拝する際にはお清めの力があり、悪い空気を浄化する効果があるため縁起の良いものとされてます。
秋の雨の名前種類一覧:秋の終わり
秋時雨(あきしぐれ)
これは秋の終わりごろに降ったかと思ったら止むにわか雨のことで、春と比べると寂し気な、哀愁の漂う言葉です。話し言葉としてはあまり使わず、俳句の季語として使います。よって二十四節気の区分を元に季節を考え、寒露(10月8日頃)~立冬(11月7日頃)に降るものを指します。
冷雨(れいう)
秋の終わりに降る冷たい雨のことで、降るごとに寒さが増し、木々の紅葉を促して冬へと移り変わる様子を感じられる言葉です。秋の終わりは暦の上では仲秋の翌日(9月下旬)から立冬の前日までとなります。主に文語として使われ、俳句における季語や11月頃に送る手紙の挨拶文の中でも使用します。
冬の雨の名前種類一覧:冬の始め
時雨(しぐれ)
「しぐれ」は「過ぐる」から転じた言葉で、元々は季節風に流された雲が日本海側から太平洋側へ移動する時(過ぎる時)に盆地で降るもののことでした。これは京都盆地や長野県など日本海側の山間部の盆地で見られる珍しい現象です。現在では秋の終わりから冬にかけて降水量は多くないがやや強く、すぐに通り過ぎるものとされています。
その他の時雨
これまでに紹介した以外にも色々な種類があります。一時だけ激しく降る様子を村時雨、強い風を伴い、横殴りに降るものを横時雨、ほとんどの場所は晴れているのに一か所だけ降っていることを片時雨といいます。寒くなり雪交じりになると雪時雨です。同じ降り方なのに前に付く文字によって言葉の持つ雰囲気が変わるところが不思議ですね。
山茶花梅雨(さざんかつゆ)
12月上旬の山茶花が咲く季節になると、移動性高気圧が北へかたより前線が本州の南の海上に停滞してきます。この時期の梅雨のような天候が山茶花梅雨です。これを経て季節は本格的な冬に向かいます。山茶花梅雨の間は寒暖差が大きく体調を崩しやすいので気温にも注意しましょう。日本の四季の移り変わりには常に梅雨がついて回るのが特徴ですね。
冬の雨の名前種類一覧:冬の終わり
寒九の雨(かんくのあめ)
太平洋側の地域では冬の間は晴天が続くことが多くこの時期の雨は冬野菜にとっての恵みです。昔から寒の入り(1月5日頃)から9日目に降る寒九の雨は豊作になる兆しとして喜ばれていました。
昔は寒の入りから立春までの約1か月間は冬本番の寒さで雑菌の繁殖が抑えられると考えられていました。そのためこの時期は一年の中で一番水が澄んでいて薬になるという言い伝えがあります。
凍雨(とうう)・氷雨(ひさめ)
直径が5mm未満で形状が様々な氷が降ってくることを凍雨といいます。天気予報では雪として扱われ、上空から落下中に雨となった物が地表付近で再び凍って氷となった現象です。地表に冷気がたまりやすい盆地などでまれに見られます。
ちなみに、落下途中で特に何の変化もせずに氷のままで落下するのが霰(あられ)や雹(ひょう)で氷雨と呼ばれます。霰は直径が2~5mm、雹は直径が5mm以上といった基準があります。
降り方を表現する呼び方一覧①強い雨
大雨
ここからは降り方による呼び方の違いを解説します。強い雨の呼び方は複数あり、天気予報でも頻繁に聞かれます。大雨とは大量に降って来る雨のことで、災害に発展する可能性があるという意味が含まれています。場合によっては気象庁から注意報や警報などが出されます。特定の時間や降水量などは関係なくどのような現象かを表します。
集中豪雨
同じ場所で何時間かにわったて100mm~数百mmの雨が降り続ける状態が集中豪雨です。最近ではゲリラ豪雨と呼ばれますが正式な用語ではありません。
この現象は数十キロ平方メートルの狭い範囲内で一時間に50mmを超える豪雨が短時間で、集中的に降ることです。不意を突くような攻撃をしてくるゲリラとかけて、予測が難しく局地的、突発的に発生するものをマスコミでゲリラ豪雨と呼びます。
激しい雨
この呼び方は強さと降り方を表現しており、一時間の降水量が30mm~50mmと定義されます。イメージはバケツをひっくり返したような降り方と考えるとわかりやすいでしょう。
前に付く言葉によって段階的に分け、やや強いから始まり、強い・激しい・非常に激しいと順に強くなります。最高水準の表現は猛烈な雨です。これは一時間の降水量が80mm以上で、息苦しさと圧迫感を感じる降り方です。
降り方を表現する呼び方一覧②弱い雨
小雨
これと似た言葉に弱い雨がありますが明確に区別されています。弱い雨は1時間に3mm未満と定義されていて、これよりもさらに少ない状態、何時間か降り続いても1mmにも満たないものを小雨と呼びます。では私たちの考える普通の雨はどのようなものかと言うと、1時間に3mm~8mm未満で地面に水たまりができるくらいのものです。
霧雨
霧雨は低く垂れこめる雲から霧状に降る、とても細かい雨のことです。気象庁の定義としては粒の直径が0.5mm以下のものとし、天気記号もあります。降り方が粒が見えるほどゆっくりなら霧雨で、棒の様に見えると小雨です。
また、霧との見分け方は水滴が浮遊している場合が霧、水滴が落下している場合が霧雨です。また、気象用語としてだけでなく、文学的な表現で使うこともあり風情のある呼び方です。
まとめ
奥深い雨の呼び方
日本では一年を通して雨が降ります。その名前の多さから昔から人々の生活に密接に関わっていたことがわかります。本来は「雨」と一文字で表せますが、文学的、季節的、降り方など様々な表現の仕方があり、とても奥深いです。昔の人にとって雨は恵みであり悩みでもあり、ある時は風情を感じ雨との生活を楽しんできました。
現代ではそのように楽しむ余裕がなく、逆にうっとおしく感る傾向にあります。ここで紹介した呼び方を今一度見直し、雨の風情を感じてみてはどうでしょうか。
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