孀婦岩(そうふがん)とは
伊豆諸島の南方の岩
海にそびえるこの謎多き孀がある場所は、温暖な空気と海と空の風景に満たされた伊豆諸島の南方です。最も近い鳥島からは南に76kmの距離があり、東京からの距離で言えばおよそ650kmも離れています。本当になにも目印のない場所に浮かぶ島なので、大型船とGPSがなければたどり着くのは難しいほどです。
東京都が管理するが所属市町村なし
人が住むには向いてなさそうですが、孀婦岩の住所としては何処かと調べてみると、実は所属市町村なしという結果が出ます。この岩は、隣接の青ヶ島村でも小笠原諸島の小笠原村でもないのです。では何処の場所に所属するかといえば、東京都総務局の八丈支庁。東京都が直轄管理する珍しい島のひとつです。
実は火山
こうして眺めれば単なる岩山にしか見えない孀婦岩ですが、実はその正体は火山だというから意外な話です。太平洋の真ん中の岩を下から頂上までジロジロ見ても全く火山には見えませんが、その地形や成り立ちを調べてみると、知られざるとんでもない正体も見えてきます。
孀婦岩の基本情報
【所在地】東京都の伊豆諸島南方(所属市町村なし)
【管理】東京都総務局の八丈支庁
【座標】北緯29度47分39秒、東経140度20分31秒
孀婦岩の地形と地質
水面上のサイズ
目にする写真によっては、それほど大きく感じられない孀婦岩。しかし実際のサイズは頂上まで99mもあり、大型の豪華なクルーズ船をはるかに超えるド迫力の存在感があります。幅は東西に84m、南北に56mあり、切り立った断崖絶壁は、頂上までほとんど垂直に近い印象でクライミングも難しそうです。
海底地形とサイズ
表面の部分だけで全てを判断してしまうのが人間ですが、裏側を知ってみれば誰もが驚きます。何しろ孀婦岩の見える部分はちょっとだけの頂上であり、海水面下の高さはおよそ2,500mにも達するからです。日本アルプスにあっておかしくないほど高く、頂上までは屹立する蝋燭のような形状をしています。
孀婦岩のサイズ
【標高】99m
【幅】東西84m、南北56m
【面積】0.01km2
【水面下の高さ】約2,500m
孀婦岩の成り立ち
海底火山による成り立ち
どうしてこんな謎に満ちた形をしているのかと言えば、全ては孀婦岩の古代の火山活動に関係していました。火山からマグマが噴出して硬化した状態が岩頸(がんけい)ですが、この物体は岩頸そのもの。全体像を見れば阿蘇山と同じカルデラ火山の種類で、今でも孀婦岩は火山活動を止めてはいません。
南西の火口
ではカルデラの火口が岩のどこにあるかと探してみても、孀婦岩自体には存在していません。孀婦岩の火口は、南西に2.6km離れた場所の海底で、水深240mの地点に確認されています。21世紀に変化は見られませんが、1975年に孀婦岩近海が、火山によると見られる活動で変色した記録が残っています。
地質
その地質を見れば、太平洋下のマグマの地質と岩の成り立ちをよく表しています。産業技術総合研究所やNHKが行った調査によれば、海上部分の黒みがかった岩の地質は安山岩で、柱状節理という珍しい自然地形も確認されます。一方で普段は目に見えない海面下の山体は、玄武岩でできているとのことです。
波・風・雨による侵食
現在見られるような細長い形状になった成り立ちは、火山活動だけが影響したのではありませんでした。その影響力の正体とは、太平洋の荒波や風雨。長い年月をかけて自然の力で孀婦岩が毎日毎晩削り取られて行った結果、こんな奇妙な形状を見せるに至りました。
孀婦岩の歴史
1788年の孀婦岩発見
もしかすると古代の縄文人の航海者も目撃したかもしれませんが、歴史上で孀婦岩の発見者として名を残しているのは、船で航海をしていたイギリス人の元海軍大尉、ジョン・ミアーズという人物です。それは日本では大飢饉が起きた天明の時代、徳川家斉(いえなり)が将軍だった1788年4月9日でした。
発見の経緯
当時ミアーズら商人の一行は、マカオを出発するとフィリピンのミンダナオ島を経て、太平洋を横断して北米大陸に向かう途上でした。遠方の海上にとんがった岩を発見すると、岩の場所に近づくごとにその威容は船乗りたちを驚かせました。後に述べる通り、孀婦岩の名の由来もミアーズに関わります。
かつては日本最南端だった時代も
発見から167年後は、太平洋戦争で日本が敗北した頃でした。伊豆諸島はGHQにより日本領土から離れてしまいますが、1946年に日本の統治下に復帰しました。この時に孀婦岩は日本最南端の島として記録されることになります。それは1952年に吐噶喇列島(とかられっとう)が日本に復帰するまでの間続きました。
孀婦岩のクライミング登頂の歴史
史上始めてのクライミングでの登頂
岩山があれば登りたくなる人もいますが、この海上の孀婦岩については上陸も困難な場所と地形のため、長い間クライミングを決行する人がいませんでした。しかし1972年に早稲田大学の無謀な学生が船で乗り付け、クライミングによる登頂に成功します。その後も何度か登頂に挑戦する人々が現れました。
2017年のNHKの取材による登頂
記憶に新しいところでは、NHKの番組制作のために、クライマーとカメラマンらが孀婦岩の断崖でクライミングを行った出来事もありました。NHKの取材班による珍しいクライミングの様子は、2018年のNHKスペシャル「秘島探検東京ロストワールド」にて放送されていました。
孀婦岩の名前の由来
Lot's wife
発見者がイギリス人だったことで、当初にミアーズらに名付けられた岩の名前は英名でした。その名もLot's wifeと言い、孀婦岩とは似ても似つかぬものです。Lot's wifeを直訳すれば「ロトの妻」となるわけですが、この謎の名前の由来は、旧約聖書に記録されている伝承にありました。
旧約聖書の「ロトの妻の塩柱」とは
欲望と悪にまみれたソドムとゴモラの街が、神の手により滅ぼされた時のこと。ロトの一家は神の啓示を受け、街を離脱している途上でした。その時に滅亡の光が発せられ、それを見るなという神の忠告を受けたのに、無視して直視したロトの妻は、塩の柱になってしまいました。(創世記19章より)
孀婦岩もロトの妻に由来
ミアーズらがロトの妻と表現したロッツワイフですが、実は孀婦岩という和名もこの英名に由来するものです。「孀(やもめ)」とは夫を失った妻、あるいは妻を失った夫を意味する言葉で、要するに「ロトの妻」を意訳した結果がこの名前でした。記録によれば、1885年頃には孀婦岩が使われ始めています。
孀婦岩上の謎の生態系
岩にひそむ動植物
こんな断崖の岩場に動植物なんかいないかと思いきや、実は孀婦岩には何種類もの生物が確認されています。それもNHKの番組での登頂による調査で判明したことでした。頂上付近には野鳥17種を筆頭に、昆虫もいるしイネ科の雑草も生えています。それらは波や風や鳥が、はるばる運んできたものでした。
巨大ウミコオロギ
調査では意外すぎる昆虫も発見されていました。それはウミコオロギと呼ばれる、コオロギの一種です。秋にはリンリンと鳴く昆虫ですが、孀婦岩で発見されたウミコオロギは、通常のサイズよりもずっと大きなものだったとか。こんなエサも少ない過酷な環境で、何故繁殖と巨大化ができるのか謎です。
巨大ハサミムシ
さらに別のNHKの番組のほうで紹介されていたのが、孀婦岩のハサミムシの謎。腹部の先端にハサミを持っている昆虫で、日本ではごく普遍的に生息しています。この岩の表面には頂上から下部までハサミムシの生息が確認されていますが、そのサイズも何故か通常より巨大化しているとのことです。
孀婦岩周辺の海棲生物
深海魚
やべぇワクワクするわ#秘島探検#東京ロストワールド#孀婦岩#古代魚 pic.twitter.com/GFYVKOGiP8
— やさぐれたAOONI@ぐれちゃんはよ帰っておいで〜 (@bananakumi) September 29, 2018
かなり深い場所を観察すれば、謎に満ちた深海魚もひそんでいるのが孀婦岩です。NHKの海底で行われた潜水艇などによる調査でも、その深海魚の存在に焦点が当てられました。緑の目をした深海魚、人面的な風貌の深海魚など、これまで見たこともない不思議なお魚が多数発見されていました。
クジラ
よくよく見ればどこかクジラが上体をもたげたような孀婦岩は、多数のクジラが出没するスポットでもあります。その種類は大型のザトウクジラを始めとし、イルカの群れまでやって来ます。クルージングでは深海魚は確認できませんが、ホエールウォッチは叶うかもしれません。
孀婦岩はダイビングスポット
到達困難な幻のダイビングスポット
日頃からダイビングを趣味にしている人にとっては、一度は潜ってみたいのが孀婦岩です。ここは本土から遠く離れたとんでもない僻地ですが、海のお魚の姿が多様で、透明度が高い温暖な海域が広がります。それがダイビングの聖地とまで呼ばれている所以です。
大海原の絶景が待っている
はるか遠くまで伸びる水平線と、孤立した孀婦岩は、船でたどり着いた時からダイビングの期待が膨らみます。水中に潜り込むことで、船上からは見えない、一般人が誰も知らない孀婦岩の地形があらわとなります。海域には無数のお魚がウヨウヨいて、クジラやイルカの群れと泳ぐ機会があるのも魅力です。
孀婦岩に行く方法
ダイビングツアーで
とにかく幻の海域に潜りたいなら、ダイビングツアーを見つけ出すことです。旅行会社やダイビングショップなどで、ごく稀に決行することがあります。八丈島などを船で経由して、数日の予定で孀婦岩を訪ねます。ダイビングの情報をネット検索したり、ショップに問い合わせて探してみてください。
クルーズ船ツアーで
最も確かな形で岩に近づける方法といえば、クルーズ船での海の旅が挙げられます。日本各地から出港するビルみたいな大型客船に乗り込んで、孀婦岩を含め6日程度をかける船旅です。ぱしふぃっくびいなす、日本丸、飛鳥Ⅱなどの有名どころが、定期的に伊豆・小笠原諸島の周遊クルーズを行っています。
個人的に船で
もし自家用の大型ヨットを所有しているなら、休日に自力で孀婦岩を目指せます。持ってなくても個人的にクルーザーをチャーターするなどで、伊豆や八丈島から現地に向かうこともできます。しかし安全にクライミングやダイビングを成し遂げたいなら、チームで訪ねる必要がありそうです。
謎の孀婦岩を見に行ってみる?
間近でじっくり鑑賞してみたい
太古のマグマに生み出された孀婦岩の、成り立ちから名の由来まで気になるところがざっと判明しました。しかし蝋燭のような地形や昆虫の巨大化、奇妙な深海魚が集まっているなど、まだまだ謎を秘めている場所なようです。頂上までの登頂は無理でも、クルーズ船で訪れてじっくり拝見したいものです。
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