そばとはどんな食べ物?
そばは江戸っ子の粋な食べ物
日本そばは江戸っ子のせっかちで粋を美德とする文化を象徴する食べ物です。素早くズルッと音を立てて食べるという作法は、世界でも珍しい独特の食べ方で、江戸っ子気質が現代のそば文化にも色こく影響している証になります。
日本そばは非常に消化吸収がよい栄養価の高い食品で、あまり噛まずに素早く食べても胃に負担がかからないのが、せっかちな江戸っ子気質にぴたりとはまり食文化として発展したのです。
江戸そば御三家
そばは、粋を美徳とする江戸っ子を象徴する食品です。現在も江戸前そばの伝統を守り継ぐ「更科(さらしな)そば」「薮(やぶ)そば」「砂場そば」の、そば御三家があります。それぞれに風味や香り、コシや色合いなど味わいに違いがあります。
更科そば
「更科そば」は1789年(寛政元年)に信州出身の堀井清右衛門が江戸の街に「信州更科蕎麦所 布屋太兵衛」という蕎麦屋を開いたのが最初と伝えられています。「一番粉」を使った白く上品な味わいが特徴のそばです。
つゆもまろやかな甘めで、たっぷりつけても基本の作法に反しません。繊細な味わいを楽しむ食べ方が更科そばです。現在の東京には創始者直系の「総本家 更科堀井」を始め、さまざまな更科系の蕎麦屋があります。
藪そば
「藪そば」は御三家の中で最も庶民的な下町の味で、そばの実の外側の甘皮を(三番粉)を適度に挽きこみ、色と香りと味わいが強いのが特徴です。それに負けないようつゆも濃くなっています。そばの先をつゆに少し付けるのが通で粋という食べ方は、藪そばから始まったのかもしれません。
「神田藪そば」や「並木藪蕎麦」など老舗蕎麦屋の元祖は、東京根津の団子坂にあった「蔦屋」が藪に囲まれていたことが発祥と言われています。
砂場そば
「更科は白、藪は緑、砂場は灰色」と言われ、この色の差は使うそば粉の種類が違うからです。更科は芯の部分だけの一番粉を使うので真っ白になり、藪は甘皮も一緒に挽くので新そばの時期には鮮やかな緑になります。
砂場は甘皮を除いた一番粉を使うので灰色と言われるのです。つゆの味もそばの食感もちょうど中間の味わいといえます。砂場そばは江戸御三家になっていますが、実は大阪城築城の砂置き場の砂場が名前の発祥です。
そばの歴史
もりそばの歴史
もりそばの名前が生まれたのは、江戸っ子のせっかちな性分に由来しています。当時は細長く切ったそばを茹でた「そば切り」をつゆに付ける食べ方が主流でした。
面倒くさがりでせっかちな江戸っ子気質に合わせ、最初からつゆをかけたぶっかけそばが登場したのです。屋台で立ち食いができるとたちまち人気になりました。ぶっかけそばに対抗して、つゆと別にそばを器に盛り差別化をはかったのが「もりそば」の発祥です。
山盛りと平盛り
もりそばには盛り方が2種類あり、それぞれで食べ方が違います。「山盛り」は名前のように山のようにそばを盛り、盛り上がった上から食べていけばそばが絡まることなくキレイな食べ方ができます。
「平盛り」は器に平にそばを並べてあるので、端から順に食べ進めばキレイに食べることができる盛り方です。今でも蕎麦屋さんによって、もりそばの盛り方が違うので食べ方も合わせるようにしましょう。
ざるそばの歴史
ざるそばは、江戸中期に深川の「伊勢屋」という蕎麦屋が粋を好む江戸っ子向きに、もりそばとの差別化をはかり竹ざるの器にそばを盛ったのが最初と言われています。当時の深川は海も近く江戸のリゾート的なスポットでした。
そのブランド感のあるざるそばは、粋好きの江戸っ子にたちまち人気の的になったのです。そば自体の味も質も変わらないのに器をザルに変えるだけで高級で粋なそばを演出しています。
ざるそばに海苔をのせたわけ
現在ではもりそばには海苔がなく、ざるそばには海苔がついているというのが基本定義になっています。当時は器の違いで高級感を出していたのがざるそばです。
しかし新そばの時期を過ぎると風味が落ちるので、その時期の風味を補いしかも高級感を保つために海苔を乗せたのが始まりと言われています。その歴史が今日のもりそばとざるそばの海苔の有無という基本的な違いになっているのです。
かけそばの歴史
かけそばは、先に紹介したぶっかけそばが起因となり、寒い時期には熱いつゆをかけたぶっかけそばを出したのが始まりです。江戸の寛政年間に、冷たいつゆをかけたぶっかけそばと、つゆにつける食べ方をもりそば、熱いつゆをかける食べ方をかけそばと言うように食べ方の区別が定着しました。
立ち食いそばの原型が既にあったのです。現在のかけそばはメニューバリエーションも増え、つゆとそばの調和を楽しむ食べ方になっています。
もり&ざるそばの食べ方【冷】
日本そばの味を一番堪能できるのは、何と言っても冷たいもりそば、またはざるそばです。食べ方に公式な基本ルールやマナーはありませんが、粋で美味しく食べる作法があります。そばを美味しく堪能するための基本となる作法を紹介しますので、食べ方をマスターして粋なそば通になりましょう。
①最初にそば本来の味を確かめる
そばは香りや食感を楽しむ食べ物ですが、お店によって提供されるそばはまちまちです。まずつゆや薬味を使用せず2〜3本つるりと食べて見ることで、そばの鼻に抜ける香りや喉ごしを味わい、提供されたそば本来の味を確認できます。
これが粋なそば通への第1歩となる食べ方です。つゆをつけずに食べることで、提供されたそばのベストな食べ方がおぼろげながら見えてきます。こうなればしめたものです。
②そばつゆの味を確かめる
そばつゆの味もお店によってまちまちです。まずつゆだけを唇に触れる程度味わって見ます。飲むというより舐めるイメージです。そうすることで辛口の関東風のつゆなのか、関西風の薄い甘めのつゆなのかが確認できます。このお店のそばは軽くつゆに浸す食べ方がよいのか、深く浸してもOKなのかベストな食べ方を見極めることができるのです。
③薬味はそばに直接乗せる食べ方が通
薬味は刻みネギや大根おろし、ワサビや七味唐辛子などが一般的です。薬味には、味にアクセントをつけ食欲増進や消化を助ける役割があります。薬味はつゆに入れず、都度ごとにそばの上に少しづつ乗せるのが通の食べ方です。
つゆに入れてしまうとつゆの旨味を消してしまい、そばの風味も半減します。そばに直接薬味を乗せる食べ方をすれば、周りの人から「お〜っなかなかそば通だね!」と言われること間違いありません。
④あまり噛まずに音を立ててすするのが通
そばは喉ごしを楽しむ食べ物なので、あまり噛まずに音を立ててすするのが粋で通の食べ方です。もちろん飲み込んではいけません。少し噛むことで鼻からそばの爽やかな風味が感じられ、ズルッと音を立ててすすることで喉ごしのよさを味わうことができます。
そばは消化吸収がよい食品なので、あまり噛まずに食べても問題ありません。他の食品でこの食べ方をすれば行儀が悪いと言われますが、そばでは許される日本独特の食べ方です。
⑤時間をかけずに食べ終えるのが通
そばは茹でたすぐそばから、コシが失われていく寿命の短い食べ物です。時間をかけすぎると最後にはのびてしまい、喉ごし爽やかな食感が失われてしまいます。
素早く短時間で食べ終えるのが粋な通の食べ方です。決してがっついているのではなく理にかなった食べ方と言えます。ちなみに、つなぎを使わないそば粉100%の十割蕎麦はのびやすく、更科はのびにくいので、ある程度ゆっくり堪能したい方には更科がおすすめです。
⑥最後の締めはそば湯
そば湯は蕎麦の茹で汁なので、ビタミン類などの栄養素が豊富に溶け出している健康ドリンクです。そばを食べ終わった締めには、残ったそばつゆをそば湯で割って飲みましょう。
冷たいそばで少し冷えたお腹を、出汁の風味が広がるほんのり温かいそば湯が優しく包みます。ただし、そば湯を飲むときにはズルズルと音をさせないように注意しましょう。音を立てても許されるのは、そばを食べるときだけです。
かけそばの食べ方【温】
つゆと蕎麦の調和を楽しむのが「かけそば」
日本蕎麦は温めるとコシが柔らかくなるのが通例です。そのため「かけそば」は、喉ごしや食感よりつゆの出汁の風味と蕎麦との調和を堪能する食べ方が基本になります。また、てんぷらやかき揚げ、鴨やカシワ、ワカメや蒲鉾など多彩な具材と一緒に味わうことができ、各蕎麦屋さんの特徴が色濃くでるのが「かけそば」です。
メニューをよく見てみよう
お蕎麦屋さんのメニューは冷たい蕎麦と温かい蕎麦に分かれているのが一般的です。その定番メニューの他に「当店のおすすめ」があれば、それがそのお店の特徴を最も表すメニューになります。
冷たいもりやざるそばは、使用するそば粉の材質に左右されますが、温かいかけそばはお店の調理技術が顕著に出るので、おすすめメニューに暖かいかけそばがあれば、注文してみる価値がある食べ方です。
てんぷら蕎麦の食べ方
そばは味わいが淡白なので、油であげたてんぷらと非常に相性がよく、不足する旨味を互いに補い合う理にかなった食べ方で、満足感を与える理想的なかけそばメニューです。
天ぷら蕎麦は人気メニューなので、蕎麦職人は必ずてんぷらの技術を身につけます。そのため天ぷら蕎麦を食べてみるのが、その店の調理技術を知る通の食べ方です。しかしてんぷらの衣は汁に浸かると柔らかくなるので、てんぷらを別に提供する店もあります。
てんぷらが上に乗っている場合の食べ方
てんぷらが上に乗って提供されるかけそばの場合は、衣がサクサクしているうちにまず一口食べます。しばらくして衣が溶けてきたら今度は衣の油分と汁との調和を楽しむのが通の食べ方です。
しかしドロドロに溶けた衣が好きな方も多く、その食べ方もOKなのがてんぷら蕎麦の魅力になります。またてんぷらの具材によっても食感や味が変わるので、食べ方も千差万別です。自分の好みの食べ方がベストと言えます。
たぬきそばとは?
たぬきそばときつねうどん
赤いきつね(うどん)と緑のたぬき(そば)のコマーシャルで有名のように、たぬきときつねは常に論争の種をまき散らしています。それは「たぬきそば」という「かけそば」の食べ方に火種があるのです。
関東(東京)で「たぬき」といえば、天かすを入れたかけそばをさしますが、関西(大阪)で「たぬき」は、油揚げが乗ったそばをさすのです。この食べ方の違いが混乱と論争を招いています。
たぬきときつねの違い
「たぬき」は天ぷらを上げる際に出る天かすを利用したのがかけそばです。淡白なそばに安価で旨味を追加する食べ方として考えられたました。たぬきそばは、関西のヒット商品「きつねうどん」に江戸っ子が対抗した食べ方です。
関西はうどん文化(上品な貴族文化)で、うどんに最適なのはキツネ(高価な油揚げ)でした。庶民の江戸っ子は油揚げと同等の旨味を、安価な天かすで引き出す食べ方「たぬき」を作り出し対抗したのです。
たぬきそばの語源
狐が油揚げを好むのは古来の常識で、油揚げが乗ったそばを「きつねそば」と呼ぶのは理解できますが、天かすが乗ったそばをなぜ「たぬき」と呼ぶのでしょう。
天かすはタネが入っていない「タネ抜き→たぬき」、世田谷の砧(きぬた)家が始めたそばなので逆さに読んで「きぬた→たぬき」、天ぷらの具が小さくて店主のタヌキに騙されたとする説などさまざまです。語源を想像しながら食べるたぬきは、一味違う食べ方になります。
そば屋で一杯やる食べ方
現在のような居酒屋がなかった江戸時代では、酒好きの江戸っ子は蕎麦屋で一杯やるのが楽しみでした。そこには粋を重んじる江戸っ子なりの作法や食べ方のルールがあり、現代でも通じる作法です。蕎麦屋で一杯やるときの食べ方を紹介します。
板わさと卵焼き
蕎麦屋のおつまみの定番といえば、板わさに卵焼き、鴨焼きに天ぷらなどがあります。最初はさっぱりした板わさや卵焼きから始め、次第に油っこいつまみに移行するのが通の食べ方です。
特にそばつゆを使った出し巻き卵はその店の看板とも言えるので、まず卵焼きで一杯ひっかけるのが粋な食べ方と言えます。酒はやはり日本酒で、常温でも、冷酒や熱燗、好みの温度でかまいません。常温は冷蔵庫がない時代の江戸っ子の意地です。
天ぬきとは?
「天ぬき」は酒飲み江戸っ子の通の中の通の食べ方で、「天ぬき十年」という言葉があるくらい、いかにも気取り屋の江戸っ子の食べ方です。
早い話が「天ぷら蕎麦のそばなし」天ぷらと汁で酒を飲む食べ方のことで、せっかちな江戸っ子が言葉を略して店主に「オヤジ!天ぬきで熱燗をくれ」という姿が目に浮かびます。ちなみに「天ぬき」の天は天ぷらではなく、そばの天井(てんじょう)にある具を抜いて出すという意味です。
最後の締め
酒を飲んだ後は「ざるそば」または「もりそば」で締めるのが通の食べ方、しかも素早く豪快に食べ切ってそば湯を飲み、あまり長居をしないのが粋と言われています。これは蕎麦がのびやすい食品なので理にかなっていますが、蕎麦屋からすれば回転がよくなるので、かえって都合がよい通の食べ方です。
そばの食べ方をマスターして粋に楽しもう!
まとめ
日本そばは江戸で生まれた江戸っ子文化の象徴とも言える食べ物です。そばの歴史やそばの粋な食べ方、蕎麦屋のおつまみで一杯ひっかける作法や飲み方などを紹介してきました。これらを参考にして、一杯ひっかけながらそばのウンチクを並べ、粋なそば通を楽しんでください。
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出典:photo-ac.com