お正月に飾る生花
正月らしい生花とは
日曜連載、前回は門松やしめ飾りなどのお正月飾りについてご紹介しました。今回は、お正月で使われる植物たちの名前や種類についてくわしく解説します。玄関やリビングに飾る、お正月のお花たち。それぞれの由来や歴史も紐解いていきたいと思います。
お正月って?
正月は、日本の年中行事の中で一番歴史が長いとも言われる行事です。かつては先祖を祀る行事だったと言われていますが、その後「歳神様」を迎えて一年の無事や豊作を祈る行事となり、現代に至っています。ただし起源は定かではなく、今でも地方によって特有の風習があったりもします。

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正月飾りとは
正月飾りは、歳神様を迎えるための儀式のひとつ。例えば玄関先に飾る門松は、歳神様がやってくるための目印であり歳神様が正月の間過ごす場所でもあります(くわしくは前回の記事をご覧になってみてくださいね)。それらに使われるのは、豊作や健康を祈るための縁起のよいとされる植物たちです。
縁起のよい植物って?
この「縁起のよい」というのは、植物の名前や性質を五穀豊穣や長寿、家庭円満などにかけたもの。古代からの信仰や民俗風習による言い伝えに加え、中国の伝説や謂れが由来しています。江戸時代には「縁起物」が流行し、それまでは名前や漢字が違った植物も、この頃に縁起のよさそうな名前に変わったものなどもあります。
手に入りやすくて飾りやすい切り花
その後さまざまな信仰や風習が混ざり合って、今日まで伝わり続けている「縁起物」。普段気にしていなくても、お正月には縁起のよいものを飾りたいという気持ちってなんとなくありますよね。今回は正月花がそれぞれどう縁起がよいのかも含めて、実際に花屋で買えて玄関やリビングにも飾りやすい切り花たちを解説します。
お正月に飾る生花といえば1:マツ
神を宿す植物
寒い冬にも青々としているマツは、不老長寿のシンボル。冬に葉を落とさない常緑樹を神聖な植物とするのは、世界各国で見られる考え方です。神が宿るとされるマツは、昔から正月飾りに使われてきました。切り花ではさまざまに仕立てられ、種類も豊富。地域にもよりますが、定番の種類をご紹介します。
お正月に使う松の種類①若松
全国で一番よく見かけるのが、若松です。枝がまっすぐなのが特徴で、門松や正月花に使いやすい種類です。若松という名前は仕立て方によるもので、クロマツという品種をタネから3〜4年で収穫したもの。花屋でも一番たくさん置いてあるマツです。若松を対で玄関に飾れば、それだけで門松になります。
お正月に使う松の種類②根引き松
根引き松は、根っこがついたままのマツの切り花。自然に近い樹形で育て3〜5年で収穫したマツで、クロマツとアカマツの2種類あります。京都をはじめ関西地方では門の柱に根引き松を飾って門松とする風習があり、クロマツとアカマツで対にすることも。名前からも「地に足がつく」といわれる縁起物です。
お正月に使う松の種類③大王松
大王松(だいおうしょう)は、アメリカ大陸が原産の松。葉の長さがとても長いのが特徴で、ダイナミックな印象です。しめ飾りに使ったり、数本の葉を輪っか状にしておせち料理の飾りにしたりもします。葉が広がる上に枝が重いので、花瓶に生けるのは難易度高め。スワッグなどには向いています。
お正月に使う松の種類④五葉松
日本の高地に自生する五葉松(ごようまつ)という品種の切り花です。枝が5つに分かれるのが特徴で、その樹形が美しく盆栽に人気の種類です。扇のように広がる葉は短めで、コンパクトに飾りやすいマツです。おせち料理の飾りにも使われます。切り花も年末にはよく出回りますが、盆栽のほうがよく見かけるかもしれません。
お正月に使う松の種類⑤そのほか
そのほか、斑入り模様の入った蛇の目松(じゃのめまつ)や、クロマツの葉を短めに育てた三光松(さんこうまつ)なども定番の種類です。正月花は、とりあえず松を入れておけばお正月感が出ます。まずは飾りやすい若松から挑戦してみるのもよし、花屋でお気に入りのマツを探してみるのも楽しいかも。
お正月に飾る生花といえば2:センリョウ
縁起のよい赤い実
センリョウは、お正月には定番の赤い実をつける植物。日本の暖地に自生し、常緑樹で冬に赤い実をつけること、千両という名前が縁起がよいことから正月花として使われるようになりました。赤い実の正月花はいくつかありますが、センリョウはツヤのある葉っぱの上に実がつくのが特徴です。
マツとセンリョウさえあればOK
切り花としても飾りやすく、花屋では一番よく見かける種類です。よく枝分かれしているので小分けにも飾れ、マツとセンリョウさえ生けておけばほぼ正月花の完成といってもよいくらい。赤い実の品種のほかに黄色い実の品種もあり、年末にはどちらも花屋に並びます。
お正月に飾る生花といえば3:ナンテン
「難を転ずる」縁起物
同じく正月の赤い実といえばナンテン。名前から「難を転ずる」という縁起物として馴染み深い植物で、育てやすく丈夫なことからも庭木としてよく使われます。葉は殺菌作用があるためお弁当の飾りに利用されたり、実はのど飴としても有名。日本人の生活に身近な植物のひとつです。
水につけなくてもしおれない
センリョウよりも実が大きく、房状にたくさんついているのが特徴です。切り花では葉だけの枝・実付きの枝・実だけの枝の3種類が出回ります。水につけなくても実も葉もしおれないという性質で、非常に長持ちするナンテン。実だけをお気に入りのお皿に乗せて飾ったり、しめ飾りにつけたりとおしゃれにアレンジしやすい正月花です。
お正月に飾る生花といえば4:ハボタン
ボタンのような豪華さ
花キャベツとも呼ばれるハボタンは、アブラナ科の植物。牡丹に似た葉っぱが特徴で、美しさが長持ちして育てやすいため冬の花壇などの定番です。江戸時代の園芸ブームでたくさんの品種が作出され、フリルやレースのような葉など、形・大きさともにさまざまな種類があります。
長持ちする
苗は寒くなると花屋にたくさん並びますが、切り花はお正月シーズンがメイン。門松の足元などにもよく使われ、よく長持ちします。色合いも紫・白のほかにピンクや黒などもあって、花瓶にさりげなく生けておくのもおしゃれ。マツ・センリョウと合わせると、派手すぎない印象の正月花に仕上がります。
お正月に飾る生花といえば5:キク
馴染み深い縁起のよい花
キクは平安時代に中国から伝来した植物。長寿をもたらし、強い香りで邪気を払うと言われる縁起物です。同じ頃伝わった重陽の節句(9月9日)は菊の節句ともいい、宮中でキクを使った風習が行われました。鎌倉時代には皇室の家紋となり、江戸時代には多種多様な品種が作出された、日本人には馴染み深い植物です。
彩りがほしいなら
仏花のイメージも強いですが、キクはさまざまな種類の色かたちがあっておしゃれに楽しめます。また、とても長持ちするので正月花にはぴったり。マツとセンリョウだけだと色合いが寂しいなあと思う方には、キクがおすすめです。キクの黄色やオレンジ、ピンクなどの色が入ると華やかな正月花に仕上がります。
お正月に飾る生花といえば6:スイセン
寒い時期に花を咲かせる縁起花
美しく香り高いスイセンも、正月花の定番です。寒さの厳しい時期に花を咲かせて春を知らせてくれることから縁起がよいとされる花です。世界中でいろんな品種がありますが、日本で主流なのはニホンスイセンという品種。白い花びらに黄色いリップで、お花が小ぶりなのが特徴的です。
和風にもモダンにも
スイセンはすっとした花姿で、お正月の空気感にはぴったりです。マツと組み合わせれば凛とした正月花に仕上がります。香りがよいので、福を迎える玄関に飾るのもおすすめです。スイセンだけをまとめてガラスの花瓶に生けるのもおしゃれで華やか。春の香りがして、気分も高まります。
スイセンを飾るコツ
スイセンには足元に「白根」や「はかま」と呼ばれる薄い皮のようなものがあり、これがないと茎がバラバラになってしまいます。生け花では白根を一度外し、組み直して長さを調整してから白根に入れ直して生けます。やってみると意外と簡単ですが、難しい方は輪ゴムやテープで茎をまとめると生けやすくておすすめ。
お正月に飾る生花といえば7:ラン
華やかで福を呼び込む
中国では、ウメ・タケ・キクとランを四君子と呼ばれる縁起のよい植物とする風習があります。日本でも祝い事によく使われ、福を呼び込むとして重宝される花です。切り花でもさまざまな種類のランがありますが、正月花に人気なのは華やかで長持ちするシンビジウムや、飾りやすいデンファレなど。
とにかく長持ちする
特にマツとセンリョウとシンビジウムは相性がよく、非常によく長持ちする組み合わせ。重厚で高級感のある正月花に仕上がります。鉢物のコチョウランも正月花として人気です。ランは多種多様に楽しめるおすすめの切り花。主な切り花の種類についてまとめた記事もありますので、気になる方はこちらもチェックしてみてくださいね。

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お正月に飾る生花といえば8:ヤナギ
生命力の強い神秘的な植物
原産の中国では、春の早い時期に芽吹く生命力の強い植物として、豊作や長寿の縁起物とされるヤナギ。切り花としてのヤナギはなによりとても長持ちするのが特徴で、1〜2ヶ月はゆうに楽しめます。種類も豊富ですが、正月花としては空間をダイナミックに使えるウンリュウヤナギがおすすめ。
高さを出したいときに
ウンリュウヤナギは玄関先など、床に置くような正月花で高さを出すときに使いやすい枝ものです。うねうねとした枝ぶりがおもしろく、華やかに演出してくれます。どのヤナギも枝がしなやかで、形を整えやすいのが特徴です。また、年末は餅花用にシダレヤナギの枝も出回ることがあります。
お正月に飾る生花といえば9:ウメ
春の喜び・希望のウメ
ウメはまだ寒い時期に花木のうちでもいち早くお花を咲かせるために、春の喜びや希望などの意味合いがつけられています。また、梅干しが平安時代や江戸時代の流行病に効いたために、縁起がよいとされたとか。マツ・タケとともに松竹梅として親しまれる植物です。
日持ちもする
白い花の白梅と、赤い花の紅梅があり、サイズもさまざま。枝ぶりがかっこいいものは、単体で生けてもマツと合わせても素敵です。正月シーズンに出回るウメは、蕾が固めで長く楽しめます。また、1年ものの新梢を特に「ズバイ」という名前で呼び、正月飾りにはこのズバイを使う地域や風習もあります。
簡単にできる、お正月の生花の飾り方
マツ・センリョウ+花がおすすめ
お正月にちょっとお花を生けたいけれどなにを選べばよいのか分からない…という方に勧めたいのが、マツとセンリョウ。まずはマツとセンリョウ、それにお気に入りの花を1輪入れるとそれだけでお正月ムードはばっちり。あまりたくさんのお花を入れるとまとまりにくくなるので、まずは3種類に絞ってみるのがおすすめです。
色数を絞るとおしゃれに
シンプルでおしゃれに決めたいなら、色数を抑えるのがポイント。マツの緑・センリョウの赤にプラスする花の色をボルドーや白グリーン系にすると、落ち着いたおしゃれな雰囲気になります。逆にもっと華やかにしたいなら、明るい黄色のキクやビビットなピンクのランなどを入れるのもおすすめです。
お正月アイテムをプラス
年末の花屋では、お正月モチーフのピックなども販売しています。「賀正」と書かれた凧風のピックや、餅花風のピック、扇型のピックなど種類もいろいろ。これを一緒に挿しておくとお正月感はぐっとアップ。また、マツに水引をあしらってシンプルに仕上げるのもおしゃれ。
さいごに
玄関やリビングに縁起物の花を
今年の年末年始は自宅で過ごす人も多いはず。いつもと違う年末年始を楽しむためにも、生花を飾ってみるのはおすすめです。玄関やリビングにちょっと正月花を飾るだけで、おうちが明るくなります。地域によって正月花の種類や飾り方も違うため、近所のお花屋さんに行ってみたらおもしろい発見もあるかも。ぜひ楽しんでみてくださいね。
過去の連載はこちらから
この日曜連載では、普通のお花屋さんで買えるお花たちをテーマにして記事をお送りしています。季節や行事ごとにおすすめのお花や、毎月実際に買える旬の花などもご紹介しています。気になる方は過去の連載もぜひご覧になってみてください。

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