サバイバル登山のパイオニア、服部文祥
服部文祥(はっとり ぶんしょう)は、日本の登山家です。1969年生まれ。横浜市の出身です。登山を始めたのは大学のワンダーフォーゲル部での活動がきっかけで、今では自らが考案した「サバイバル登山」、つまり、極力少ない荷物で山に入り、食べ物は自給自足してしまうというスタイルの登山を実践しています。この記事では、彼がどんな人なのかをご紹介していきます。
登山家としての活躍。K2登頂!
大学を卒業後、服部文祥は出版社の仕事で収入を得ながら、登山活動を続けていました。そして、26歳のとき、知人の紹介で日本山岳会青年部の遠征に参加し、パキスタンと中国の国境に位置する「K2」(標高8,611m)の登頂に成功しました。世界第二位の標高を誇る巨峰です。K2に登頂した人は、プロの登山家の中でも一目置かれる存在であると言われています。その後も、服部文祥は国内外の難しい登山ルートに挑戦していますが、本人曰く、登山家としては二流以上、一流未満なのだそうです。
作家という一面も
服部文祥は、登山家であると同時に、本を書く作家という別の顔も持っており、実は山岳雑誌『岳人』の編集者としても働いています。本の中では、自身の登山家としての活動はもちろん、彼のサバイバルな日常生活や生き方を垣間見ることができます。
『サバイバル登山家』や『ツンドラ・サバイバル』などサバイバル登山の経験を綴ったノンフィクション作品から、大都会・横浜でのサバイバル生活(!?)の実践を紹介する『アーバンサバイバル入門』、さらに2017年には服部文祥初の小説となる『息子と狩猟に』などがリリースされています。
服部文祥のサバイバル登山とは?
服部文祥が考案した「サバイバル登山」とは、一体どういうものなのでしょうか?
「サバイバル」は英語で"survival"です。意味は「生き延びること」。特に、遭難や災害など、生命に危機が迫っている状況で生き延びることを指して使われる言葉です。
「登山」は、文字通り、山に登ることです。
登山家である服部文祥は、ただ山に登るだけでなく、生き延びることに重点を置くことによって、「サバイバル登山」という日常から遠く離れた独自のスタイルを作りました。
普通の登山でも生き延びることは大事
サバイバルではない「普通の登山」であっても、言うまでもなく、生き延びることは重要です。山には自然の作りだす美しい景色や澄んだ空気があるものですが、その反面、常にさまざまな危険が潜んでいます。たとえば、遭難の危険です。広大な自然の中で道に迷ってしまえば、天候の変化や長時間の移動でみるみるうちに体力は削られ、いずれは食べるものも尽きて、命に危険が迫ります。悲しいことですが、毎年そういったニュースも耳に入ってきます。
そうした事態に備えるため、人間は知恵をつけてきました。つまり、山に入る前に綿密に計画を立て、地図とコンパス、そして十分な水と非常食をリュックに収めた上で、登山を楽しむのです。
自らを厳しい環境に置きにいくスタイル
一方、サバイバル登山は、必要最小限の荷物だけで山に入っていき、自然と真正面から向き合って生き延びていくというものです。非常食などは用意せず、山の中で自給自足の生活をします。自ら厳しい自然環境の中に飛び込んでいき、そこで生き延びる。そういう登山のスタイルをサバイバル登山と呼んでいるのです。
当然、服部文祥はそのための知識やスキルは豊富に持ち合わせており、素人には到底マネできるようなものではありませんが、独自のルールのもとでサバイバル登山を実践しています。
服部文祥のサバイバルルール①
サバイバル登山は服部文祥が自ら考案したものですから、彼は自分の中で独自のルールを作り、山に入ればそれにしたがうことで、自らの山での生活スタイルを貫いています。では、そのルールとはいったいどのようなものなのでしょうか?
まずは、山の奥で一晩を過ごすときのルールをご紹介します。
テントなし、ライトなし
普通、泊まりがけで山に登るとなれば、テントを張るか、山小屋があればその中で一晩を過ごすことになるでしょう。当然、暗いのでライトも必要です。
しかし、服部文祥のルールでは、なんとどちらも使用禁止。雨風をしのぐための人工物は本来存在しないもので、日が沈めば暗くなるのが自然だからです。
「生きていること」を実感する
テントもライトもない自然の中で生活をしていると、「寒い」とか「暗くて怖い」ということを敏感に感じるようになります。サバイバル登山を実践すると、自分自身が存在していて、生きているからこそ、そういった感覚をがあるのだということを実感できるのです。
服部文祥のサバイバルルール②
人間が生きていくために欠かせない、その最たるものは、やはり食べ物でしょう。普通の登山では、あらかじめ用意しておいたものをリュックから取り出して腹を満たしますが、服部文祥のサバイバル登山ではどのようなものを食べるのでしょうか?
ここでは、サバイバルにおける「食」に関するルールをご紹介します。
米と調味料以外は自給自足
服部文祥のサバイバル登山では、米と調味料のみを山に持ち込むことができます。とはいえ、白飯だけで何日も生活するわけではありません。そう、それ以外は自給自足です。シカやイノシシなどの動物を狩ったり、川でイワナを釣ったりして、お腹を満たします。
ちなみに、狩のための猟銃と、調理のための包丁や鍋などはしっかり準備して持っていってOKです。
自給自足で自然をより深く体験する
自然の中にあるものから食べられるものを見つけ出し、自給自足で食いつないでいくためには知識が必要ですし、技術的にも一筋縄にはいかないところがあります。しかし、だからこそ、自給自足はサバイバル登山の醍醐味のひとつといってもいいでしょう。
自らが生きるために、自らの手で動物の命をいただく。よく考えてみれば、これが本来の自然界の姿です。現代社会の日常をただ過ごしているだけだと気づくことのできない「自然」をより深く体験できるのが、サバイバル登山なのです。
服部文祥のサバイバルルール③
サバイバルと聞くと、ジャングルのターザンのように、ほぼ裸の状態で生活する人のことを思い浮かべる人もいるかもしれません。服部文祥は一体どのような格好で山に入っていくのでしょうか?
普通の登山では足を守る靴がとても重要なアイテムですが、サバイバルというからには裸足で駆け回る意気込みが必要なのでしょうか。
サバイバル登山における服装について、ご紹介しましょう。
服や靴は普通の登山と同じでOK
サバイバル登山は、パンツ一丁、ターザンスタイルの生活をするものではありません。服部文祥はシベリアなどの極寒の地でもサバイバル登山をしていますが、その地の気候に合わせて、通常の登山と同じような服を着ています。つまり、長袖長ズボンに登山靴を履き、レインコートや防寒具も用意しておきます。
最低限必要なものは持っていく
サバイバルといっても、本当に手ぶらで何日間も山の中をさまよったら、いくらベテランの登山家でも無事では済まないでしょう。特に服や靴を身に付けることは、怪我や急な天候の変化から身を守るための最低限のラインですので、登山をする以上、絶対に外せないものだといえるでしょう。
服部文祥の登山家としての心得は、このようなところにも表れてきています。
服部文祥のサバイバルルール④
ここまでサバイバル登山の衣・食・住に関するルールをみてきましたが、もうひとつ、サバイバル登山をする者の心得のようなものをご紹介します。
都市生活の日常から離れ、食べ物を自分で調達しながら数日間を過ごすときの、ある考え方があります。
自然に対してフェアに
服部文祥が提唱するひとつのルールは、「自然に対してフェアであること」です。サバイバル登山で動物を狩って食べることは、人間が偉いからやっていいというものではなく、自然界の中に混ざり込み、動物たちと平等であるという考えを持って行わなければならないのです。服部文祥は、クマに襲われるかもしれないという危険を犯して山の中で過ごすからこそ、シカを捕らえて食べてもいい、という考え方でサバイバル登山をしています。
服部文祥の生活スタイル①
サバイバル術を身につけていればどんな環境でも生きていけるでしょう。それだけで一生を過ごすという生き方もあるのかもしれません。
しかし、服部文祥には家庭を持った父親という一面もあります。当然、家族を養う必要がありますが、どのような生活をしているのでしょうか?その生き方を少し覗いてみましょう。
気になる収入源は?
服部文祥は、山岳雑誌『岳人』の編集部員として働いているので、そのお給料が毎月安定して入ります。また、自分の本も出版しているので、その印税収入もあることでしょう。登山家といえど、山に登るだけでは収入は得られませんから、家族のためにもそういった収入源は大切ですね。
服部文祥の生活スタイル②
服部文祥は、『岳人』の編集部員として会社勤めをしています。それでは、いつ、どれくらいの期間、サバイバル登山を実践しているのでしょうか?土日だけでは遠い山の奥深くまでは行けないようにも思えますが、実際はどのような生き方をしているのでしょうか。
毎月10日間のサバイバル生活
なんと、服部文祥は会社から毎月10日間もの休みをもらって、サバイバル登山を実践しています。月の3分の1は非日常的な生き方をしているということになります。本人にとってはもはやサバイバル登山が日常になっているのかもしれません。
自分の好きなことをして、安定した収入も得ながら生きる。なかなかマネできませんが、そういう生き方はうらやましいものです。
服部文祥の生活スタイル③
最後に、彼の作家としての生き方をご紹介しましょう。
服部文祥は、サバイバル登山を通して体験したことをそのまま本に書いています。山の中で食料を手に入れる方法、調理方法、さまざまな道具の使い方など、読む人にとっては非日常的な世界を、リアルに綴っています。そうした本を書けるのも、サバイバル登山を実践し続けるからこそできることなのでしょう。
好きなことを仕事にするのが一番いい
好きなことを仕事にすると、それが嫌いになってしまうのではないか、好きなことと収入源は分けた方がいいのではないか、という意見について、服部文祥は、インタビュー記事で次のように語っています。
「それは端的に間違えていると思う。自分のしたいことでお金を稼ぐのが一番いい。そのほうが、好きなことに対して目一杯の時間がかけられるしスキルもアップもする。好きなことと稼ぐことを分けたほうがいいと思うなら、それはそもそも本当に好きなことではないのでは、と疑ったほうがいいかも」
まとめ
サバイバル登山を実践する上での独自のルールとスタイル。そして、私たちのよく知る日常とは一線を画す服部文祥の生き方をご紹介しました。
普通の登山に飽きてきてしまったそこのあなた、まずは彼の本を手にとってみてはいかがでしょうか。サバイバル登山を自分でできるかどうかは別にしても、これまでと違った目線で山を楽しめるようになるかもしれませんよ。
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