氷河が作った大自然の絶景スポット
登山者を魅了するカール
カールという登山用語に耳慣れない方が多いのではないでしょうか。おそらく、日本では北海道と日本アルプスの特定地域にしか存在しないため馴染みが薄いためでしょう。
カールとはある特徴を持った地形を表す言葉で、その地形が形成する絶景は、四季を通して登山者を魅了してやみません。
カールは氷河が存在した証
かつて日本に氷河は存在しないと言われていましたが、近年立山連峰の万年雪の下に氷河があることが発見されました。また日高山脈や日本アルプスにカール地形があるということは、このエリアは数万年前の氷河期に確かに氷河が存在していたという証です。
今回は登山用語カールの意味や由来・語源、地形の特徴と形成のプロセス、カールの絶景スポットなどを紹介いたします。(当記事は2022年9月10日現在の情報をもとに制作)
登山用語のカールとは
①カールの意味と由来・語源
カール(Kar)はドイツ語で、英語ではCirque(サーク)日本語では圏谷(けんこく)と言い「雪や氷の影響で浸食しできた谷」という意味です。
この語源・由来はラテン語の円形競技場を意味する「circus」と言われています。カールの地形が円形に湾曲していて周りを取り囲む岩壁の景観が古代ローマ時代の円形闘技・競技場に似ていることから来ているのでしょう。
②地形の特徴
カールは雪が圧縮されて固まった氷河の重たい氷が、標高が高い山頂付近の山肌を長い年月をかけてゆっくり削り取ってゆき次第に深くなっていった地形です。幅がある氷河の重みで削られたカールは、丸みを帯びたお椀のようになだらかな形状になり、周囲の鋭い岩壁と湾曲した地形が独特の景観を展開します。
③季節ごとに変化するカールの魅力
カールはなだらかに湾曲した地形ゆえに、高山植物が咲き乱れる春から夏、紅葉の絨毯を展開する秋、一面の雪景色となる冬と四季を通して登山者を楽しませてくれます。周りを取り囲む絶壁とのアンバランスな大自然の圧倒的な景観が心を捉えて離しません。誰もが登山して一度は見ずにはおけなくなる絶景を生み出すのがカールです。
カールが形成される環境と条件
①カールができるプロセス
現在は氷期と氷期の間の温暖な間氷期に入っていますが、260万年〜数万年前まで想像を絶する長期にわたり地球は寒冷な気候の氷期の中にあり、大量の積雪と氷河に覆われていました。寒冷から温暖な間氷期に移行する過程で、氷河の氷が少しずつ溶けてカールの独特な地形を生み出したのです。
間氷期の現在氷河が存在する地域
間氷期の現在でも氷河が存在しているグリーンランドや南極大陸の氷河は大陸氷河と呼ばれ、標高が高いヨーロッパのアルプスやピレネー山脈、南米のアンデス山脈(パタゴニア地方)などの氷河は山岳氷河と言い、当然その地域にはカールも多く存在しています。
②カールが形成される条件
カールができる条件は過去に氷河があっただけでは満たせません。さらにその氷河が何万年という長い年月の間溶けずに山肌を削り続ける必要があるのです。
そのためには夏になっても雪が解けないほど気温が上がらないことが必須条件になります。毎年夏に雪が溶けてしまえば厚く重たい氷河は形成されません。つまり何万年もの間氷河が存在し続けることがカールを作る条件と言えます。
③日本にカールが少ない理由
日本は春夏秋冬がはっきりして夏と冬との寒暖の差が大きいのが特徴です。そのため氷河ができにくくカール地形も少なくなります。また3000mを超える高山が数える程しかないのも理由の一つと考えられています。そのため、日本でカールが存在するのは北海道の日高山脈と本州中部の日本アルプスの特定地域だけしかありません。
日本のカールの特徴
日高山脈のカールは規模は小さいけれど原型がはっきりしているのが特徴です。いっぽう飛騨山脈や木曽山脈などの日本アルプスのカールは規模が大きく下方の斜面と境界がはっきりせずに繋がっています。登山で人気が高いのは日本アルプスの「千畳敷カール」や「涸沢カール」などです。
カール(圏谷)と混同しやすい登山用語
①コルとガレ
コルとガレはよく耳にする登山用語ですが、カールとは全く違う意味の言葉です。コルは尾根上のピークとピークの間の標高が低くなった箇所を言い山の各所に存在します。ガレとは石や岩などがたくさんあり歩きにくい場所歩きにくい場所を意味します。一般的な言葉で瓦礫(がれき)を想像していただければよくわかるのではないでしょうか。
②峡谷・渓谷
峡谷や渓谷は圏谷(カール)と漢字のイメージが似ているので混同しやすい用語です。峡谷や渓谷は川の水の浸食によりV字型で狭く深い谷が形成された場所で、山頂付近にはなく山の麓に多く存在します。
一方圏谷(カール)は氷河の浸食により形成され、山頂付近に多く見られます。同じ谷でも形状と形成プロセスが全く違う登山用語です。
初心者でも登山できる絶景カール
①千畳敷カール(木曽山脈)
標高2956mの駒ヶ岳の山頂直下に広がる千畳敷カール(標高2612m)は、夏には高山植物が咲き乱れるお花畑になる人気の絶景スポットです。名前は畳を千枚敷いたくらい広いことに由来していますが、実際の計測値ではありません。
秋にはその広大なカール一面が黄金色に紅葉し、冬にはスキー客で賑わいます。日本一高低差があるロープウェイで一気に千畳敷まで登れるので登山初心者でも気軽にアクセスできます。
遊歩道も完備
カールを約40分で周遊する遊歩道が整備されているので、四季折々の雄大な自然の絶景を求めて全国から多数の登山者で賑わいます。
もちろん山頂を目指す登山コースもあるので足に自信がある方は近くにある山小屋に1泊して挑戦して見てください。カール地形が生まれたプロセスや特徴を理解して散策するのも一味違う感動が得られるのではないでしょうか。
千畳敷カール
- 住所〒399-4117
長野県駒ヶ根市赤穂1番地 - アクセスJR飯田線駒ヶ根駅からバスで45分、中央アルプス駒ヶ岳ロープウェイ「千畳敷駅」下車 目の前車:)駒ヶ根ICから車で5分(⇒バス・ロープウェイ52分)
- 定休日通年営業(ロープウェイ利用の場合にはメンテナンス運休あり)
②白馬大雪渓(木曽山脈)
白馬岳(しろうまだけ)にある大雪渓は幅100m長さ3.5kmに及び、カールを作る氷河のように見えますが、氷が流動しないので氷河ではありません。
ロープウェイはありませんが大雪渓の入り口まで歩きやすいトレッキングルートが完備されています。夏でも残雪が残り周囲は高山植物が咲き乱れる圧巻のスケールに絶句すること間違いありません。大雪渓の上部からは、白馬岳山頂を目指すメイン登山ルートになっていて本格的な装備が必要です。
白馬大雪渓
- 住所〒399-9301
長野県北安曇郡白馬村北城白馬大雪渓 - アクセスJR大糸線白馬駅→バス30分→猿倉→徒歩1時間→白馬尻→徒歩20分→白馬大雪渓
- 定休日休業:11月~翌6月※要問合せ
③涸沢カール(飛騨山脈)
日本第3位の高峰・奥穂高岳(標高3192m)への登山の中継点にある涸沢カールは「涸沢の紅葉を見ずして穂高を語ることなかれ」と言われ、日本有数の紅葉スポットとして登山者の憧れの地です。
しかし涸沢カールに至るには、上高地を登山口とし約6時間の道のりが待っています。ただ登山道が整備され急斜面や危険な箇所がないので、初心者の方は山小屋で1泊すれば無理なく登山でき絶景を堪能できます。
幻想的な夜景と早朝のモルゲンロード
涸沢カールの夜は満点の星空の元、雄大な自然の中に色とりどりのテントの灯が繰り広げる幻想的なシーンが展開されます。翌朝夜が明けきらないころ朝日が穂高連峰の山肌を赤く染めるモルゲンロードの光景は、忘れることができない息を飲む瞬間です。この絶景は山小屋に宿泊した者だけが味わうことができる特権と言っても過言ではありません。
涸沢カール
- 住所〒390-1516
長野県松本市安曇上高地 - 定休日営業:4月下旬~11月初旬、以外は積雪のため休業
- アクセス上高地より徒歩約6時間
- 公式サイトURLhttps://www.kamikochi.or.jp/article/show/153
氷河が作った大自然の絶景を堪能しよう!
カールは氷河が長い年月をかけて作り出した大自然の絶景です。ここまで日本のカールが存在する地域や山脈、初心者でも登れるおすすめの絶景スポットと周辺の山小屋情報を紹介してきました。これらを参考にして大自然の絶景「カール」を堪能してください。
カールの紅葉時期や登山コースが気になる方はこちらをチェック!
当サイトではカールに関する記事をたくさん掲載しています。涸沢カールの紅葉時期やコース情報、テント泊や混雑時の注意点などを知りたい方はぜひ参考にしてください。
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出典:unsplash.com