涸沢カールとは
涸沢カールは標高約2300m地点にあり、周りを北アルプスで最も高い3000m級の穂高岳連峰に囲まれた日本最大級のカールです。カールとは氷河の侵食作用によって山肌が削り取られた谷状の地形になっている場所を指します。
氷河時代の名残である涸沢カールは谷状であることから、水脈が豊富でさまざまな高山植物が10月ごろには色づきはじめ、日本一の紅葉との声が高い大景観を見ることが可能です。
足に自信がある初心者なら日帰り登山が可能
穂高岳登山は岩場や急斜面が続き中・上級者でも1泊〜2泊するコースが多い中、涸沢カール登山ルートは唯一足に自信がある初心者なら日帰りが可能なコースです。もちろん後半には穂高岳特有の急傾斜の難所があります。
足に自信がない初心者の方は、無理をせず山小屋で1泊することをおすすめします。それでは初心者向き涸沢カール日帰り登山コースガイドと、登山道状況や山小屋情報を合わせて紹介しますので参考にしてください。
涸沢カール登山初心者の3つの注意ポイント
①北アルプスの玄関口上高地が出発点
涸沢カール日帰り登山コースは北アルプスの玄関口、アクセスがよい観光地の上高地(標高約1500m)が出発点です。上高地までは電車とバスでアクセスし、涸沢カールまで距離15km標高差約800mを約6時間半かけて登ります。
上高地の河童橋からは3000m級の穂高連峰5山が望め、中央にそびえているのが日本で3番目の高さを誇る最高峰(標高3190m)奥穂高岳です。
②日帰りコースの前半はなだらかな初心者向き
涸沢カール日帰りコース前半〜中半の本谷橋までの12.5kmは、初心者でもハイキング気分でゆったり登ることができる、なだらかな森林コースです。
本谷橋までの歩行距離12.5kmは全行程15kmの8割強ですが、標高差は上高地から280mほどしか登っていないのです。涸沢カールまでは残りわずか2.5kmですが、実はここからが日帰り登山の本番になります。
③日帰りコースの後半は初心者には少々きつい
本谷橋から涸沢カールまで2.5kmで520m登るということは、かなり急斜面を登らなければならないということです。しかも登山道は次第に樹木が低くなり足元は岩場が多くなります。足に自信がある初心者でも日帰り登山は慎重に気をつけてゆっくり登ることが必要です。途中で休憩をはさみながら無理をせず時間をかけて登りましょう。
(日帰り前半)上高地〜徳沢2つの行程
アクセスがよい上高地から本谷橋までの日帰りコースの前半は、約6.2kmを約2時間かけて標高差60mを登るコースです。森林内を緩やかな傾斜を歩くのがほとんどなので初心者でもハイキング気分で楽に登れます。途中の休憩地点や見どころポイントなども合わせてコース行程を2つ紹介しましょう。
①上高地〜明神/距離約3.2㎞
上高地〜明神までは標高差30mのなだらかな行程なので、一般観光客が散策する姿が多いコースです。明神には山小屋「明神館」がありここで休憩して観光客のほとんどが戻ります。標準目標タイム約1時間の行程で、ほとんど平坦でよく整備された遊歩道のような道なので、登山初心者だけでなく観光客も楽に歩けるコースです。
明神は観光客と登山者の分岐点
明神の山小屋は観光客と登山者の両方で賑わう休憩所です。ここで気持ちを観光気分から登山に切り替えて、涸沢カール登山の次のポイント徳沢に向かいましょう。徳沢までも森林内のなだらかな道が続きますが、日帰り登山を気にして急ぎ足で歩くと無駄な体力を消耗し、後半の難所に備えることができなくなるので注意してください。
②明神〜徳沢/距離約3km
明神を出ると登山装備をした人が目立つようになり、登山をするぞという気分になります。1ヶ所だけ急な登り坂がありますが標高差で20mなので5〜10分で通過でき、あとは平坦な山道なので安心です。
途中に澄んだ湧き水で満たされている小さな池「古池」がありここで少し休憩を取るのもよいでしょう。徳沢に近づくと視界がしだいに開け前穂高岳のギザギザの尾根の全容が見えてきます。明神から約1時間で広沢の到着です。
徳沢は広々とした草原
徳沢(標高約1580m)は広々とした草原が広がり夏から秋にはカラフルなテントで賑わい、以前は牧草地として利用されていたと言います。徳沢には2件の山小屋があり、休憩やトイレをすませ次に向かいましょう。初心者の日帰り登山では、楽といって休憩を取らないのは危険です。日帰り後半に備え体力を使い切らないことが大切になります。
(日帰り中半)徳沢〜本谷橋2つの行程
徳沢〜本谷橋までの日帰りの中半は、約6.3km標高差約220mを標準目標タイム2時間10分で登るコースで、前半よりやや標高差がありますが、まだなだらかな登山道が続きます。しかしこの中半は後半の難所に備えるため最も体力を温存させなければならない行程です。
①徳沢〜新村橋〜横尾/距離約3.5km
徳沢を出てしばらく進むと新村橋という吊橋があります。これを渡ると通称「屏風パノラマコース」という魅力的なコース名の入り口がありますが、名前とは裏腹に切り立った岩場をロープ頼りで登る難易度の高いコースなので初心者はパスしましょう。
パスして進めば横尾までは平坦な森の中の登山道です。お椀のような丘が見えてくれば間もなく横尾に到着します。約1時間の歩行行程です。
横尾の山小屋「横尾山荘」
横尾には横尾山荘という山小屋があります。この先の本谷橋から涸沢カールにアタックする本格的日帰り登山に備え、横尾山荘でしっかり休息を取り体力を温存しましょう。日帰り登山にこだわらず無理をせずここで1泊するのも初心者登山の選択肢の1つです。
また翌早朝、朝日に染まる幻想的な前穂高岳の絶景は、横尾で宿泊した人のみが味わえます。初心者に限らず日帰りor宿泊は体力を考え選択しましょう。
②横尾〜本谷橋/距離約2.8km
横尾から槍ヶ岳と涸沢経由穂高岳に向かう登山道が分岐します。涸沢カールに向かう場合は山荘前の横尾大橋を渡って進みます。いくぶん道幅は狭くなりますが、歩きやすい平坦な森の中の登山道です。
途中にアルピニスト憧れの圧巻の「屏風岩」が進むごとに角度を変えて見えてきます。横尾から約1時間進むと日帰りコースの岐路となる、コース前・中半の終着点本谷橋に到着です。
(日帰り後半)本谷橋〜涸沢2つの行程
前半とはガラリと変わり、本谷橋(標高約1780m)から涸沢カール(標高約2300m)まで520mの標高差を2.5kmの歩行距離で登り切るので、急傾斜が増え体力と慎重さが求められます。初心者でも登坂可能ですが、休憩をはさみながら無理をせず登ることが大切です。2つの行程をガイドします。
①本谷橋〜Sガレ/距離約1.6km標高差約300m
本谷橋から前半とはまったく違う急傾斜になり、初心者にとって本当に頑張りどころの本格的登山が始まります。標高差300mを標準目標タイム約1時間で登り切るのですから覚悟が必要です。初心者の方は目標タイムを気にせず、体力に合わせ休憩を取りながらゆっくり慎重に登りましょう。
屏風岩〜Sガレは落石と滑落に注意
登山道しばらく進むと最初の難関「屏風岩」があります。中腹を回り道するように進みますが、足元は岩場になり谷側が崩落している箇所もあり、落石や滑落に注意しましょう。
しだいに山々の展望がひらけてきます。北穂高岳の荒々しい岩壁や、北アルプス最高峰奥穂高岳がそびえる雄大な展望は絶景です。低木の広葉樹が目立つようになると涸沢カールの入り口Sガレに到着します。
②Sガレ〜涸沢カール/距離約0.9km標高差約220m
いよいよ日帰り登山目標の涸沢カールにアタックです。距離はわずか0.9kmですが220mを登る最後の頑張りが必要になります。標準目標タイムは約1時間ですが、初心者の方はタイムを気にせず休憩を何度もはさみましょう。
石だらけのSガレを登り切れば涸沢カールに到着です。眼前にそびえる穂高岳連峰や、眼下に登ってきた道程が広がる絶景と達成感はたまりません。
涸沢ヒュッテと涸沢小屋
涸沢カールには涸沢ヒュッテと涸沢小屋の2つの山小屋があります。食堂に休憩と宿泊設備が整っているので、ここで食事をとり下山に備えて休みましょう。
初心者の方は日帰りにこだわらず1泊するのもおすすめです。滑落事故は下山途中に多く発生します。登りで体力を消耗し下山という気のゆるみからです。初心者に限らず中級者でも日帰りにこだわらず宿泊する方が多くいます。
初心者に優しい涸沢カールの4つの山小屋
初心者向き涸沢カール日帰り登山で紹介したコースには、ポイントごとに山小屋が設置されています。山小屋は登山者の疲れをいやす休憩や宿泊だけでなく、安全を守る緊急避難の役目もある施設です。そんな中から初心者の日帰り登山に優しい山小屋を4つ選んで紹介します。
①徳澤園(徳沢地区)
涸沢カール日帰り登山の出発点の上高地より約6.2kmの地点にあり、観光客と登山者の分かれ目にある山小屋です。徳沢の草原の奥に建つ宿で、山小屋の雑魚寝のイメージを感じさせない、個性ある2段ベットの相部屋や個室があります。
お風呂も利用でき、涸沢カール下山後の疲れを癒してくれる初心者にも優しい山小屋です。食器までこだわった食事メニューは必見の価値があります。日帰り登山後に宿泊するのもおすすめです。
②横尾山荘(横尾地区)
槍沢ルートと涸沢ルートの分岐点に位置する山小屋で、これから難所に日帰りで涸沢カールに向かう初心者の、体力を温存するのにぴったりの山小屋です。日帰り登山にこだわらない初心者の方が1泊するのもおすすめします。翌朝には穂高連峰の絶景が楽しめ登山の活力が湧いてくる初心者に優しい山小屋です。
③涸沢ヒュッテ(涸沢カール地区)
涸沢カールの下方にあり雪崩の危険から建物を守るため、石積みの上に立てられているのが涸沢ヒュッテです。売店や食堂と宿泊設備が完備され、新館の屋根の上にある展望テラスから3000m級の山々が連なる穂高の絶景は、まさに初心者の日帰り登山の疲れをいっぺんに吹き飛ばしてくれます。
もちろん日帰り休憩だけでなく宿泊もでき、初心者に優しいちょっぴり贅沢な気分になれる山小屋です。
④涸沢小屋(涸沢カール地区)
涸沢カールの上方、標高約2350mの切り立った断崖に建てられているのが涸沢小屋です。これも雪崩を回避するための立地で、高い断崖にあるのでテラスから涸沢カールの湾曲した谷や、カラフルなテントが張りめぐらされている幕営場を眼下に見下ろせます。
涸沢ヒュッテの見上げる絶景と対照的に、涸沢小屋は見下ろす絶景が素晴らしい山小屋です。初心者でなくて一度は泊まってみたくなる魅力にあふれています。
初心者向き日帰りルートで涸沢カールを攻略
初心者の涸沢カール日帰り登山のまとめ
アクセスがよい上高地から登る涸沢カールルートは初心者でも日帰り登山が可能なコースです。しかし前半は初心者がハイキング気分で登れますが、後半には急坂の難所があります。
日帰りで涸沢カールが攻略できれば初心者の自信になりますが、体力を考え日帰りを断念し宿泊する勇気も初心者には必要です。無理な日帰りで涸沢カールはもうコリゴリにならないよう、ここまでの記事を参考にして日帰り涸沢カールを攻略してください。
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出典:photo-ac.com