ツェルト
北アルプスの盟主「奥穂高岳」
穂高連峰は、飛騨山脈(北アルプス)の南西部に位置し、西穂高岳、前穂高岳、北穂高岳、で富士山、北岳に次いで日本では3番目の標高3,190mを誇る「奥穂高岳」を主峰とする山脈です。
日本百名山、花の百名山にも選ばれている穂高連峰は、山岳リゾートとして名高い上高地からも、奥穂高岳を主峰とするその雄大な山容を眺めることができ、槍ヶ岳と同様に登山愛好者にとって憧れの山。
奥穂高岳を主として、険しい岩稜帯を踏破して各ピークの縦走は、アルピニストを惹き付けて止みません。また、多くの峻険な岩壁群には多くのクライマーが登攀を競う名所となっています。
奥穂高岳の登山装備
主峰「奥穂高岳」へは、どの登山ルートからも日帰りはできません。連なる岩峰の岩場などを踏破しなければならず、難易度レベルが高い危険と隣り合わせのボリューム感があり、装備もそれなり十分に整えることが大切です。
登山靴はガレ場でも足首をしっかりホールドできる“ハイカットモデル”や靴底、つま先の素材もしっかりしたものを用意。基本装備の他にヘルメット、高山の日射しはかなり強いですから、目を痛めない様にサングラスも必要です。
ツェルトの用意
奥穂高岳登山ルートは距離が長いため、登山路の途中で日没になってしまうことも想定しなければなりません。また、天候の異変などでもビバーク(野営)する事態となることも考慮して、”ツェルト”も重要な装備のひとつです。
ツェルト
簡単設営できるビバーク用ツェルトです。
奥穂高岳登山について
奥穂高岳への登山は、険しい岩場の登山路が多く、長時間歩行となるため、日帰りは難しく、難易度が高い上級者向けコースとなっています。初心者がいきなり奥穂高岳など各峰々に登るのは、危険が多く、体力的にもかなりのハードさがあります。
アルプス級の高山頂上に挑むには、経験を積み重ね、自身の体力の判断や適切な行動ができるかが重要ポイントです。標高2,500m以上の登山経験や岩稜帯の歩き方、長い時間歩けることの経験が必要条件となります。
無理のない登山計画を
奥穂高岳への登山は、十分に余裕を持った計画を立てましょう。高山では特に天候が急変しやすいですから、状況を判断して、登山を続けるか、引き返すかなど判断力が必要です。登山は早出、早着が原則です。山小屋へは15時頃には着く様にしましょう。
奥穂高岳登山ルート・各コース解説
1:前穂高岳~岳沢コース
行き方は、近代登山発祥の地とされる上高地から岳沢へ向かい、岳沢小屋で1泊します。翌日、重太郎新道を登り、紀美子平から前穂高岳に登頂。紀美子平に戻り、吊尾根から奥穂高岳に登頂し、穂高岳山荘に2泊目の宿泊をします。
3日目は、ザイテングラードと呼ぶ岩尾根を下り、涸沢へと進んで横尾から梓川沿いに徳沢を経て上高地に下山する、奥穂高岳への2泊3日のコースとなります。初心者向けには岳沢までの往復でしたら日帰り可能でしょう。
岳沢から重太郎新道
装備の再チェックを行い、上高地の河童橋を渡り、自然遊歩道を歩いて岳沢登山口をスタート。冷涼な空気が漂う樹林帯を抜け、冷たい風が吹き出る岳沢の名所“風穴”を過ぎて、ガレ場を渡り灌木帯を過ぎると岳沢小屋到着。1日目の宿泊場所です。
翌早朝、重太郎新道へと向かい、ダケカンバの樹林のなかジグザグの急坂を登ります。夏の始めは高山植物のお花畑が見られるでしょう。”カモシカの立場”からハシゴ場とクサリ場の連続する岩場の急登ですので、特に初心者は注意して登りましょう。
岳沢パノラマから前穂高岳
あまり高度感が感じられないクサリ場やハシゴを登りきると岳沢パノラマに着きます。これから行く前穂高岳や吊り尾根から奥穂高岳の展望を楽しんだら、ハイマツ帯の稜線を歩き、雷鳥広場を過ぎ、長いクサリ場を乗り切ると紀美子平に到着。
紀美子平に一時的に荷物をデポし、急な岩場に注意しながら30分ほどで“前穂高岳”に登頂。一等三角点のある山頂からは奥穂高岳から槍ヶ岳へと続く稜線がくっきりと望めます。紀美子平に戻り、吊尾根から奥穂高岳へ向けて登山開始です。
紀美子平から吊尾根
紀美子平からは、まず簡単な岩場を登り、左側下方に上高地が見えるトラバース状の稜線の登山道を進みます。“最低のコル”から緩い登りのトラバース道となり、いくつかのピークを乗り越えて、奥穂高岳へと続く吊尾根の稜線に上がります。
しばらく稜線をトラバースしながら登ります。クサリ場のあるザレた岩場に行き着き、ペンキの指標のある数箇所あるクサリ場を、初心者は浮石などに気を付けて登りましょう。“南稜ノ頭”まで登ると奥穂高岳の山頂が眼前に見えます。
南陵ノ頭から奥穂高岳山頂
奥穂高岳の手前”南陵ノ頭”からは緩やかな登山路を進みます。左方向に西穂高岳からのジャンダルム(特異な形をした岩稜の連なり)が見えるでしょう。奥穂高岳頂上に到達。360度の素晴らしい絶景を達成感とともに味わいます。
奥穂高岳から穂高岳山荘に下って宿泊。小屋直前のクサリ場を注意して下降しましょう。奥穂高岳の山稜に建つ山小屋で、設備も展望も抜群なのがうれしいですね。翌朝は涸沢からの奥穂高岳へのメインルートである”ザイテングラード”から涸沢に向かいます。
涸沢から横尾を経て上高地下山
穂高岳山荘からザイテングラード(岩壁の支尾根)に進みます。岩尾根の急坂を浮石に気を付けて慎重に降りましょう。奥穂高岳など絶景が間近に見られる涸沢に到着。涸沢ヒュッテで休憩したら、涸沢沿いにガレ場の岩石や落石に注意しながら降ります。
ダケカンバ樹林の急坂を下りて本谷橋を渡り、歩きやすい登山路を梓川の支流“横尾谷”の沢沿いに横尾に向かいます。横尾山荘で休憩後は梓川沿いに林道を歩いて上高地に下山します。
アクセスルートDATA
登山口への行き方 | JR松本駅から上高地線で約30分・新島々からはバス利用で上高地約65分 車:長野自動車道松本ICから約45分、沢渡駐車場から 上高地約30分 |
山行 | 2泊3日(中・上級者向け) 難易度:☆☆★★★ 体力度:☆☆★★★ |
アクセス情報 | 距離:26.8km 累積標高差:上り・下り2,376m 地図上標準コースタイム:約15時間35分 |
コースタイム(1日目) | 【約2時間30分】 上高地岳沢登山口スタート⇒(150分)岳沢小屋(泊) |
コースタイム(2日目) | 【約6時間35分】 岳沢小屋⇒⇒(130分)岳沢パノラマ⇒(50分)紀美子平⇒(30分)前穂高岳頂上⇒(25分)紀美子平⇒ (30分)最低コル⇒(90分)吊尾根・奥穂高岳山頂 ⇒(40分)穂高岳山荘(泊) |
コースタイム(3日目) | 【約6時間30分】 穂高岳山荘⇒(30分)ザイテングラード取付⇒(60分)涸沢ヒュッテ⇒(70分)本谷橋⇒(50分)横尾 ⇒(70分)徳沢⇒(60分)明神⇒(50分)上高地ゴール |
2:新穂高温泉~白出沢コース
行き方は、新穂高温泉口から出発して右俣林道を歩き、奥穂高岳登山口からは白出沢に沿って登り。白出ノコルに建つ穂高岳山荘を経て、奥穂高岳に登頂する最短コースですが、登山道の途中に山小屋はなく、標高差も大きい難関ルートです。
奥穂高岳に向かう難路の登山路ですので、難易度が高く、ルートファインディングの技術と、かなりの体力度も必要とする、上級者向けのコースですので、初心者は必ずベテランとの同行が望ましいでしょう。
白出沢出合から重太郎橋
登山届を提出し、装備など荷物もチェックして新穂高ロープウェイの発着駅からスタート。右俣谷沿いに林道を歩き、穂高平小屋からも続く林道をひたすら進んで奥穂高岳登山口(白出沢出合)に着きます。
白出沢沿いに、熊笹やシラビソなどの樹林帯の登山路を登っていくと、左上方にジャンダルムの岩稜が見えてきます。崩落個所に注意して登り、樹林帯を抜けてガレ場を下ると、沢筋に架かる重太郎橋を渡ります。
岩切道から鉱石沢
重太郎橋は増水時には渡れませんので、事前の確認が必要です。重太郎橋を渡るとすぐにハシゴが架かる急斜面となり、すぐに岩場のクサリ場を登ると、やはりクサリが設置された岩切道を注意して進みます。
右下に名所の“白出大滝”を眺めながら、落石などに気を付けて更に登ると鉱石沢に至りますが、道迷いしやすい(特に下山時)ので、目印に気を付けましょう。沢を渡るとクサリやハシゴが設置された急登です。
荷継沢から穂高岳山荘
急斜面の登山路を進み、木のハシゴを登りきると、以前に小屋が有った“荷継沢”に到着。登山路はここからが核心部となり、ガレ場の急登が続きます。セパ谷出会いを通過。初夏まで雪渓が残るガレ場をジグザグにひたすら登ります。
「スベル、アビナイヨ」と書かれた名所の大岩を過ぎると、穂高岳山荘はもうすぐです。振り返ると、遠く“笠ヶ岳”が望め、登ってきた登山路があまりにも急斜面だったかが伺えます。穂高岳山荘に到着。宿泊します。
奥穂高岳登頂
穂高岳山荘に荷物をデポして未明に出発。奥穂高岳頂上に登頂してご来光を拝し、360度の絶景を楽しんだら、穂高岳山荘に戻り、往路を戻って下山します。下山路は急斜面や岩場の難路ですから、登りよりも十分注意して下りましょう。
アクセスルートDATA
登山口への行き方 | JR高山駅よりバス利用約1時間30分 車:中部縦貫道高山ICより約70分(駐車場:新穂高温泉及びしらかば平) |
山行 | 1泊2日 難易度:☆★★★★ 体力度:☆★★★★ |
アクセス情報 | 距離:18.4km 累積標高差:上り・下り2,406m 地図上標準コースタイム:約15時間10分 |
コースタイム(1日目) | 【約7時間50分】 新穂高温泉駅スタート⇒(45分)穂高平小屋⇒ (70分)奥穂高岳登山口⇒(100分)重太郎橋 ⇒(80分)荷継小屋跡⇒(180分)穂高岳山荘 (泊) |
コースタイム (2日目) |
【約7時間20分】 穂高岳山荘⇒(50分)奥穂高岳頂上⇒(40分) 穂高岳山荘⇒(120分)荷継小屋跡⇒(60分) 重太郎橋⇒(70分)奥穂高岳登山口⇒(60分) 穂高平小屋⇒(40分)新穂高温泉駅ゴール |
3:新穂高温泉~西穂高岳コース
新穂高ロープウェイを利用して西穂山荘に1泊し、西穂独標から西穂高岳に登頂。間ノ岳、天狗のコル、ジャンダルム(スイス・アルプスのアイガーの岩壁に由来する名前)を乗り越えて奥穂高岳に登頂し、穂高岳山荘に宿泊します。
下山路を奥穂高岳の分岐から吊尾根を下り、紀美子平、岳沢を経て上高地へ下山します。西穂独標からは、ジャンダルムなどの非常に険しい岩場の難路を踏破して奥穂高岳に至る登山路ですので、経験を要する上級者向けのコースです。
西穂山荘から西穂独標
新穂高ロープウェイを利用して、新穂高口駅より出発。登山届を提出し、樹林帯のなか千石尾根登山道を1時間半ほどかけて登り、西穂山荘に着いて宿泊します。翌日から奥穂高岳に向けての険しい登山路に備えて早目に就寝します。
西穂山荘を早朝にスタートします。ハイマツ帯の広がる登山路を歩き丸山にまず到着。西穂独標までは緩やかな登山路が続き、岩石だらけですが、丸太で階段が作られていて良く整備されています。
西穂高岳から天狗の頭
西穂独標で折り返すと日帰り可能です。独標からは8峰のピラミッドピークなど、大小13のピークが連なる、足場も悪く、クサリ場が連続する岩場を登り降りしながら進み、標高2,909mの西穂高岳に登頂です。
西穂から奥穂高岳には険しい岩場のの登下降がまだまだ続きますので、天候の変化や、体調の具合、恐怖感を覚えたりしたら、迷わずに引き返す勇気を持ちましょう。間の岳手前のスラブ状の岩場、天狗の頭へは逆層スラブを注意して登ります。
ジャンダルムから奥穂高岳
畳岩尾根ノ頭の急登は浮石や落石に注意。コブ尾根ノ頭からジャンダルムが見えます。ジャンダルム山頂基部の長野側の巻道を進み、痩せ尾根を進んで“ロバの耳”の切り立つ断崖の縁をトラバースします。
一番の難路と言われる“ロバの耳”からは、浮石だらけの岩場を注意しながら下降します。ナイフエッジの様な馬の背と呼ぶ、左右に切れ落ちた稜線の登山路を乗り切ると、ようやく奥穂高岳に到着です。
穂高岳山荘から上高地
奥穂高岳頂上で達成感と360度の絶景を味わったら、穂高岳山荘に向かい宿泊します。翌日は奥穂高岳の分岐から吊尾根に降り、前穂高岳手前の紀美子平から、穂高の名ガイドと呼ばれた「今田重太郎」氏の名が由来の重太郎新道を辿り、岳沢から上高地に下山します。
アクセスルートDATA
登山口への行き方 | 【新穂高温泉:登山口】JR高山駅よりバス利用約1時間30分 車:中部縦貫道高山ICより約70分(駐車場:新穂高温泉及びしらかば平) 【上高地:下山口】JR松本駅から上高地線で約30分・新島々からはバス利用で上高地約65分 車:長野自動車道松本ICから約45分、沢渡駐車場から上高地約30分 |
山行 | 2泊3日 難易度:★★★★★ 体力度:★★★★★ |
アクセス情報 | 距離:15.3km 累積標高差:上り1,822m・下り2,465m 地図上標準コースタイム:約19時間 |
コースタイム(1日目) | 【約1時間30分】 新穂高ロープウェイ新穂高口駅スタート⇒(90分) 西穂山荘(泊) |
コースタイム(2日目) | 【約10時間10分】 西穂山荘⇒(80分)西穂独標⇒(120分)西穂高岳 ⇒(170分)天狗のコル⇒(90分)ジャンダルム⇒ (110分)奥穂高岳⇒(40分)穂高岳山荘(泊) |
コースタイム(3日目) | 【約7時間20分】 穂高岳山荘⇒(50分)奥穂高岳⇒吊尾根(80分)最 低コル⇒(30分)紀美子平⇒(40分)岳沢パノラマ ⇒(90分)岳沢小屋⇒(150分)河童橋⇒(5分)上 高地バスターミナルゴール |
穂高岳山荘
- 住所〒506-1111
岐阜県飛騨市神岡町東町504 - 電話番号0578-82-2150(穂高岳山荘事務所)
0578-82-4970(ファクス) - 公式サイトURLhttps://www.hotakadakesanso.com/
まとめ
奥穂高岳への登山ルートをご紹介しました。行き方には、その峻険な山容と、岩場の多い登山路によって、ほとんどが山小屋泊りの山行となり、日帰りはできません。日帰りをするには、どのコースも途中のビューポイントで、奥穂高岳など穂高連峰の雄姿を望見し、登ったつもりになって登山口に戻るのがおすすめです。
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