愛や命のシンボル「宿木」とは
宿木(ヤドリギ)とは葉を落とす冬の時期によく目につく植物です。落葉した木にもかかわらず、枝のところどころにぽんぽんと緑色をした植物らしきものを見かけたことがある人は多いのではないでしょうか。
一見すると、まるで鳥の巣にも見えますがれっきとした植物です。この宿木はその珍しい生態から古くからさまざまなシンボルとして儀式に使用されてきました。そのため数々の伝説も持っています。
宿木の特徴
宿木とは鳥の巣のように木の上で息づく植物です。種類は6亜種または4亜種に分類され、ヨーロッパで有名なのは「セイヨウヤドリギ」と呼ばれる亜種でしょう。日本にも宿木は存在し、こちらはセイヨウヤドリギの亜種と考えられており、そのまま「ヤドリギ」と呼ばれています。
日本では宿木(ヤドリギ)を「寄生木」と呼ぶこともあります。宿木とはどんな生態を持っているのか特徴に迫りましょう。
宿木とは①常緑半寄生植物
宿木はビャクダン科に分類される半寄生植物です。日本名で「宿り木」や「寄生木」と呼ばれるのはこの「寄生」という生態が由来となっているのでしょう。宿主に選ばれる樹木の種類はさまざまです。
ただし、寄生するといっても「半寄生」というのも特徴です。宿木は光合成をしてエネルギーを作り出します。そのため、寄生される樹木があっという間に枯れてしまうということは珍しいでしょう。
宿木とは②木の上で育つ
宿木は樹木に寄生しないと生きていけません。そのため、地面から直接芽を出している宿木を見ることはないでしょう。どんなときも木の枝の上で発芽し、そこへ根を下ろします。鳥の巣と間違えられやすいのもこうして常に木の上に見つけることが多いというのもあるかもしれませんね。
高い木の上につくことが多いため珍しい入手困難な花材でもあります。
宿木とは③鳥の巣のような見た目
宿木を遠くから見ると丸くてふわふわした鳥の巣のような形に見えます。近づいてみるとどうでしょうか。宿木の枝は30~100cmで枝分かれしながら左右対称に葉をつけています。丸い鳥の巣のようにも見えますが、よく見ると重力に従ってしだれるように枝をつけているのがわかるでしょう。
宿木とは④日本全土に自生する
宿木は北海道から沖縄まで日本全土に自生しています。そればかりか、日本でヤドリギ(宿り木・寄生木)と呼ばれる種はヨーロッパから日本、つまりユーラシア大陸の端から端まで存在し、これは植物の分布において非常に珍しいといえます。
万葉集でも読まれた宿木
日本最古の歌集と呼ばれる万葉集にも宿木は登場します。当時はホヨ(保与)、ホヤ(保夜)と呼んでいたようです。大伴家持が残した句に次のようなものがあります。
あしひきの 山の木末(こぬれ)の ほよ取りて かざしつらくは 千年(ちとせ)寿(ほ)くとぞ
枝についた宿木をとって髪につけると長寿のおまじないになるという意味です。万葉集が誕生した8世紀にはすでに宿木は生命を意味する存在であったことがうかがえます。
宿木とは④丸くて小さい実がたくさんつく
宿木の花の時期は2~4月。多くの種は黄緑色の小さな花を咲かせます。その後、小さな丸くて白い実を11月ごろにつけます。まれに赤い実をつけるものもありますが珍しいでしょう。
宿木を使ったリースやスワッグがクリスマスシーズンに多く店頭に並ぶのはこういった実が付く時期がクリスマス前であるということも関係しているといえます。
鳥に強く依存した植物「宿り木」
冬の餌が少なくなる時期、宿木の白い実は鳥たちのごちそうです。宿木の実のなかにある種はねばねばした粘液質に包まれており、鳥がフンとともに種を落とした時しっかりと樹木に付着します。
鳥のお尻から離れず、鳥が木にこすりつけるようなしぐさをすることもあり、いずれにせよこの戦略は宿木に特徴的といえるでしょう。日本ではヒレンジャクやキレンジャク、ヨーロッパではヤドリギツグミが宿木のみを好むといわれています。
寄生植物ナンバンギセルについて気になった方はこちらもチェック
世界の寄生植物は想像以上に存在します。日本最古の歌集万葉集にも登場するナンバンギセルは宿木とは違い、完全寄生植物の1つです。栽培するときはナンバンギセル以外に宿主も準備する必要があります。
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宿木にまつわる伝説
植物は地面から芽吹くものという先入観を取り除いてくれる宿木。白い実はかわいらしく、常緑のためクリスマスシーズンの花材として人気があります。
しかし、ただかわいいからクリスマスシーズンに多用されているわけではないのです。宿木にはさまざまな伝説が残されており、人々が宿木にさまざまな意味を見出して扱っていたことがよくわかるでしょう。
伝説①クリスマスの日に飾る
クリスマスの植物とはヒイラギやポインセチアのイメージが強いですが、ヨーロッパなどでは主役ともいえる植物が実は宿木です。根を張らずとも常に青々と茂り、完全さを思わせる「球」の形をしていることから「生命」や「再生」「永遠の命」を意味していました。
そのため、クリスマスには宿木をスワッグやリースなどにして壁やドアにつるす習慣があります。この宿木の下をくぐればその祝福を受けとれると考えたのです。
祝福を受けとれる「宿木」の下のキス
宿木の下をくぐると祝福を受けられるということに由来して、宿木の下でキスすると神様に祝福され2人の愛は永遠に守られるという伝説があります。
恋人同士のキス以外にも親しい人同士がハグしてもその祝福を受けられるという言い伝えも。ヨーロッパでは定番の伝説ですが日本のクリスマスにはまだまだ珍しい文化かもしれませんね。
伝説②ケルト人が信じる不死のシンボル
永遠の愛や再生を意味する宿木はクリスマスシーズンにはさまざまな場所に飾られ、神からの祝福を待ち望まれます。クリスマスといえば、教会でのクリスマスミサが有名ですが実は教会に宿木が飾られることはありません。
ゲルマン人たちにとって、宿木が寄生している樹木自体が神聖な木であり神が宿っていると考えていたからです。ケルトの伝説で、宿木は「不死」や「再生」を意味しています。
伝説③北欧神話では武器に使われた
神々の長オーディンの息子バルドルは「土・水・火・空気」から忠誠を誓われた不死身の神でした。神ロキは宿木を使った槍でバルドルを殺してしまいます。万物を意味する四大要素から忠誠を誓われたバルドルにもかかわらず、なぜ宿木で命を落としたのでしょうか。
伝説上は「宿木は幼くバルドルと契約していなかった」と表現されていますが、宿木が土からも水から芽吹かない異端な植物であったことを意味しているといいます。
「契約」からはずれる宿木
北欧神話において「契約」のシーンは非常に重要な意味がこめられています。覆えせる「命令」に対して、「契約」は絶対的。「土・水・火・空気」という自然すべてをつかさどる「四大元素」からはずれ、不死身の神の命を奪うのが半寄生植物の宿木であったという点は非常に興味深いといえるでしょう。
北欧神話が紡がれる頃から宿木は存在し、人々は宿木を見ながら不思議さと珍しさを感じていたのかもしれませんね。
伝説④キリストの十字架に使われてから宿木が生まれた
宿木はイエスキリストの処刑ともかかわりがあります。「はりつけにされた十字架に宿木がついていた」「もともとの宿木は大木で十字架に作り替えられイエスの命を奪ったことを悔やんで今の宿木の形になった」「間接的であってもイエスを殺してしまったため、ほかの神々の怒りを買い、寄生しないと生きていけないようにされてしまった」などです。
ほかの伝説に比べて悲しい一面を持つ宿木の伝説といえます。
宿木の花言葉とその由来
「宿り木」や「寄生木」とも呼ばれる宿木はその不思議な生態から生命や永遠を意味する植物として長年人々に愛されてきました。そんな宿木につけられた花言葉はどれも魅力的なもので、これまでご紹介した伝説に基づいていると考えられます。
クリスマスシーズン以外にも宿木がフラワーショップで販売されていることもあるので、花言葉を込めてプレゼントするのもおすすめです。
宿木の花言葉と由来①「困難に打ち勝つ」
1つ目の宿木の花言葉は「困難に打ち勝つ」という力強い物です。これは冬にも葉を落とさず青々と茂っていること、植物にとって必要な土から離れてもたくましく生きていること、永遠を思わせる球状に枝を茂らせることなどが由来でしょう。
大きな挑戦をしている友人や、これからの人生の門出を迎える大切な人に贈りたい花言葉といえますね。
宿木の花言葉と由来②「忍耐」
2つ目の宿木の花言葉は「忍耐」です。この花言葉の由来は土から離れてもたくましく育つ姿や、冬でも葉を落とさない常緑性、イエスキリストの処刑に使われた十字架にちなむといえます。
1つ目の「困難に打ち勝つ」に共通する点も多く、応援のエールの気持ちを込めて贈りたい花言葉といえるでしょう。
宿木の花言葉と由来③「キスしてください」
2つ目の花言葉は「キスしてください」というストレートな珍しいものです。この花言葉の由来は当然、前述した「クリスマスの日に宿木の下でキスをしたカップルは永遠に祝福される」という伝説に由来しているといえます。
なお、クリスマスイブの誕生花は宿木です。ヨーロッパや北欧のクリスマスでいかに宿木が愛されているかが伝わりますね。
宿木は栽培できる?
宿木は「宿り木」や「寄生木」と表現されるように樹木に寄生しないと生きていけない植物です。クリスマスシーズンには花材として人気がありますが、入手困難な場所につくことがほとんどのため、栽培を考える人もいるかもしれません。
自分で宿木を栽培することはできるのでしょうか。宿木の栽培事情について迫ります。
土にまいても発芽しない宿木
宿木は実をとってその中の種を土に植えても芽を出しません。鳥が樹木の枝につけるように枝に付着させると発芽する可能性もありますがかなり低く、栽培はかなり困難です。
また、芽をだしたとしても宿木の成長はゆるやかで、大きなボール状にまで成長するには20~30年かかるといわれており栽培が成功することはほとんどないでしょう。切り花として販売されている宿木も栽培されたものではなく樹木から採取したものが主です。
ヤドハンで宿木を探そう
近年のSNSの浸透により、「ヤドハン」という言葉が誕生しました。これは「ヤドリギハンティング」の意味で自分の住んでいる地域の宿木を探し、場所を共有しながらマップ作りを楽しむという遊びです。
鳥の生態にも必然的に触れることになり、宿木の分布を通じて多くの気づきが得られるそう。採集したときは持ち主の許可を得て、安全な枝を選びましょう。
付きすぎる宿木は問題になることも
宿木は半寄生植物で、樹木を枯らすことはほとんどないと前述しました。しかし、1本の樹木に何個も宿木が寄生している場合、樹木を枯らしてしまうこともあります。
とくに、地域に古くから根付いている大木や神木に多くの宿木がついていると樹勢を衰えさせる原因となることも。しかし、高所につく宿木を採取するのは非常に困難で、樹齢のある木の保護という側面から見ると宿木の大量発生は問題ともいえるでしょう。
木の上を見上げて宿木を探してみよう
永遠の命や再生を意味する宿木。クリスマスの本場ヨーロッパや北欧では古くから人々の信仰の対象でもあります。珍しい生態故、つけられている花言葉も特徴的で由来となる伝説も非常に興味深いものですね。
日本にも「宿り木」や「寄生木」と呼ばれる宿木は多く自生しています。冬、落葉した木を見上げると見つけやすいですよ。スワッグなどを手作りする人はクリスマスシーズンに実付きの枝を探しにヤドハンにでかけてみましょう。
宿木について気になった方はこちらもチェック
日本でもハンドメイドブームを受け、リースやスワッグの手作りが一般的になりました。クリスマスシーズンに手作りのリースやスワッグがあると部屋が華やぎます。宿木はこの季節にかわいい実をつけていることもあり、花材としても人気です。
宿木の枝が手に入ったらぜひリースやスワッグ作りに挑戦してみましょう。詳しい作り方について解説した記事はこちらからどうぞ。
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