クリスマスツリーに使われるドイツトウヒ
ドイツトウヒ(別名:オウシュウトウヒ、ヨーロッパトウヒ)とは、アルプスやスカンジナビア半島のヨーロッパが原産で、シベリアにも分布する、樹種がマツ科トウヒ属の常緑針葉樹です。
ドイツトウヒと聞いてもぴんと来ないかもしれませんが、ニューヨークロックフェラーセンター前のクリスマスツリーやドイツの黒い森「シュヴァルツヴァルト」の樹木といわれれば分かるかもしれません。堂々とした姿が人気のドイツトウヒについてチェックしましょう!(この記事は2021年5月8日時点の情報です)
ドイツトウヒは日本では北海道や東北に多い
原産地がアルプスなどの北方圏のため耐寒性があり、根が浅くて生育も早いことから、日本では北海道や東北を中心に、防雪林として明治時代に導入されました。
九州や広島などの南日本でも植栽されていますが、昔から身近にドイツトウヒを観られるのは、本州よりも北国といえるようです。観光などで北海道や東北の鉄道を利用するときは、鉄道沿いに植栽されている防雪林の樹種にも目を向けてみるとよいでしょう。
モミとの違い
ドイツトウヒの属である「トウヒ」と「モミ」は似ており、秋に付ける特徴的な球果がないと一見では判別できません。モミの樹種はマツ科モミ属の常緑針葉樹で、日本の分布は秋田県から屋久島まで。
ドイツの名曲クリスマス・キャロルの歌にもなっているように、クリスマスツリーにするにはドイツトウヒよりも人気があるのです。モミの一番の見分け方は、葉先が二つに分かれていることと葉裏が白いこと。ドイツトウヒとモミを観る機会があれば、ぜひ違いを探してみましょう。
ドイツトウヒの名前の由来
ドイツトウヒは日本だけの固有名詞
原産地はドイツではないのに名前にドイツと付いているのは、次のような理由が考えられます。日本が明治時代に北海道や東北などの雪国へドイツの鉄道防雪林の仕組みを取り入れた際に、ドイツで植林されていたヨーロッパトウヒも導入して植栽されたことが由来と考えられます。
現在のように当時は、さまざまな樹木に多くの人が接する機会は滅多にありませんでした。林業分野の人たちが「ドイツから仕入れたトウヒ」ということで、ドイツトウヒの名称が定着したようです。
ドイツでもほとんどが植栽されたものだった
ドイツにおけるドイツトウヒの分布はごく一部で、しかも人工的に植栽されたものだけといわれています。自然に分布している有名な場所は、1,493メートルと標高の高い「シュヴァルツヴァルト(黒い森)」です。
ドイツトウヒの原産地はアルプス山岳地やスカンジナビア半島、ドイツの高地などのため、ドイツトウヒと呼ぶよりもオウシュウトウヒ、またはヨーロッパトウヒと呼んだほうが合っているかもしれませんね。
英語名には「ノルウェイ」が付く
日本ではドイツからもたらされたトウヒのため「ドイツトウヒ」の名前が付いていますが、英語名は異なります。一般的に英語名では、イギリスへの木材供給地がノルウェイだったことから「ノルウェイ・スプルース」(スプルースはトウヒのこと)と呼ばれているのです。
原産地の一つであるノルウェイの隣国、スウェーデンやフィンランドでも独自の名前ではなく「ノルウェイ・スプルース」と呼ばれている点も興味深いですね。
ドイツトウヒの特徴
ドイツトウヒの性質
ドイツトウヒ(オウシュウトウヒ・ヨーロッパトウヒ)は耐寒性があり、浅根性、成長が早いという特徴があります。このことは、寒冷地でも丈夫に育ち、植栽しやすくて育てやすいことを意味しているのです。しかし根が浅いということで、強風で倒れやすいという点も指摘されています。また酸性雨や排気ガスには弱いという短所も。
公園などでは植栽されていることも多いのですが高さがあることから、スペースに限りのある個人宅では扱いにくいという短所もあるといえそうです。
ドイツトウヒの外見的特徴
見上げるほどの高さがある幹の先端から、地面に向かって流れるように張る特徴的な枝は、実に堂々としており森の主的な威厳さえも感じられます。高さがあることと枝の張り具合からも防雪林として大きな役目を果たしていることが想像されることでしょう。
実際に北海道の豪雪地帯である札幌市近郊の江別市から岩見沢市にかけて、現在も数十キロメートルにわたって鉄道防雪林として重要な役目を果たしているのです。
『銀河鉄道の夜』にも出てくるドイツトウヒ
ヨーロッパやアメリカ、日本では北海道などの雪国地域で観られる、深い緑色をした大きなドイツトウヒに雪が積もった様子は実に美しく、イラストなどの絵画や小説の題材にされてきました。
小説で有名なのは宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』で、豆電球で灯されたクリスマスツリーを千の蛍が集まった美しさと描写しています。このことから東北でも鉄道の防雪林にドイツトウヒが用いられ、厳しい風雪から人々を守っていたことがうかがえるのではないでしょうか。
ドイツトウヒの高さ
本来のドイツトウヒの高さは10メートルを超えるのは当たり前で、おおむね50メートルに成長します。ルーマニアの山岳地では高さ60メートル、胸高直径2メートル近くにもなる大きな個体も発見されています。
高さがあるため、手入れのしにくさから庭木としての利用は不向きとされています。しかし北海道の雪の多い地域では、高さ20メートルを超えるドイツトウヒを家を取り囲むように植栽しているケースもあるのです。敷地の広い北海道ならではの光景かもしれません。
ドイツトウヒの枝
ドイツトウヒの枝は下気味に生えますが、大きく育ったドイツトウヒの小枝はさらに垂れ下がる特徴があります。この特徴は雪をかぶるとさらに強調され、実にクリスマスツリーらしく野性的ながらロマンチックな雰囲気を漂わせているのです。
枝の細部を観ると、先端の芯となる枝から分かれた枝が互生し、さらにその下の枝が同様の付き方で互生しています。一見すると剣のようにも見え、なかなかカッコよい枝なのです。
ドイツトウヒの葉
ドイツトウヒの葉は他の針葉樹種の樹木と同じように、光沢のある深い緑色をしており、針のように細い葉が特徴です。長さは1.5センチメートルで、先端はとがっているので触るとチクチクします。
葉の断面は四角形をしており、葉の四面に白い気孔線があるのも特徴的といえます。葉の軸への付き方は、軸方向に少し扁平となり、らせん状にくるくる回るようにしながら軸に付いているのも特徴的です。
ドイツトウヒの球果
ドイツトウヒの球果は細長い形をしており、長さは10~15センチメートルもあります。雄花と雌花は直立して咲きますが、球果は9月から10月頃に熟すと、鮮やかな褐色になって垂れ下がる点が特徴です。エビフライのようになって落ちているものがあれば、リスなどの動物がかじったあとの球果です。
他のマツ科の球果とは異なる特徴のドイツトウヒですが、西洋時計の鳩時計で使用されている鎖の重りは、この球果をモチーフにしたといわれています。
ドイツトウヒの用途
ガーデニンググッズに!
ドイツトウヒの防雪林以外の主な用途は木材で、ギターやヴァイオリンの表板、ピアノの響板などが挙げられます。ドイツトウヒの木材としての特徴は、白から淡い黄白色で、緻密な肌理と光沢があることです。樹木特有の匂いが少ないこともあり、最近ではかまぼこ板や棺桶などにも利用されています。
ホームセンターなどでは「ホワイトウッド」の名称で販売されています。シンプルな木目は庭を選ばないため、防腐剤や防蟻剤でカバーするとガーデニングでも活躍してくれそうです。
鉢で育ててクリスマスツリーに!
ドイツトウヒは地植えすると大きくなるため扱いに困りますが、鉢植えならばコンパクトに楽しめ、家庭でもクリスマスツリーにできるのでおすすめです。
耐寒性以外に耐陰性もあるので、栽培するときはそれほど神経質になる必要はありません。注意点として、地植えほどではありませんが成長が早いため、しっかり剪定をして美しいシルエットに整えてあげましょう。
ドイツトウヒを植えるなら鉢植えがおすすめ!
ドイツトウヒは大きくなるためガーデニングには不向きとされていますが、枝ぶりの美しさや堂々とした姿などからシンボルツリーに憧れるガーデナーも多いようです。敷地の広い北海道では個人宅の庭に植栽するケースもありますが、浅根性のため強風に弱いという短所も指摘されています。地植えよりも鉢植えで成長を抑えながら育てるとよさそうです。
木材としてのドイツトウヒは癖のない色と匂いなので、防腐剤などを施してガーデニングの用途にすると重宝しそうですね。
庭木が気になる人はこちらをチェック!
ドイツトウヒもシンボルツリーにおすすめですが、他の庭木も気になる人はこちらをチェックしてみましょう。香りのするダンコウバイやアスナロ、生け垣におすすめのシャリンバイなどの詳細についてご紹介してあります。すてきな庭木を見つけてガーデニングを楽しんでくださいね。
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出典:photo-ac.com