エニシダの基本情報
エニシダの名前の由来
名前を耳慣れない方は、シダ類の仲間と連想されるかもしれませんが、エニシダは樹高1~4mほどのマメ科エニシダ属の常緑もしくは落葉性の低木です。元々はラテン語のゲニスタ(genista 小低木)が語源となっており、そこから派生したスペイン語のイニエスタ (hiniesta) 、オランダ語のヘニスタ(genista)等の呼称が日本に入って音変化したのだという説があります。
エニシダの歴史
エニシダは紀元前の文献にもその名前が記載されている等、ヨーロッパを中心に古くから親しまれてきました。枝がしだれる様子がホウキのように見える事や、実際に枝がホウキとして使われていることから、魔女が空を飛ぶ時に使うホウキの材料として使われているという言い伝えがあります。
日本におけるエニシダ
エニシダ属には30種類以上が含まれており、それらをまとめて”エニシダ”と呼称することもありますが、日本で一般的に”エニシダ”と呼ばれるのは常緑性のCytisus scopariusという品種です。エニシダが日本に渡来したのは江戸時代中期にあたる1670年ごろ。中国を経由して観賞用の植物として入ってきました。漢字では「金雀枝」もしくは「金雀児」と表記されますが、これは黄金に近い黄色の花をつけることに由来しています。現在は赤、白、ピンクなど、様々な花色の品種が開発され、生け花にもよく使われています。
エニシダの特徴
エニシダの分布
原産地は地中海沿岸で、現在はヨーロッパ、北アフリカ、アジアなど、世界中の温暖な地域に分布する常緑もしくは落葉性の低木です。耐暑性、耐寒性を持ち、砂地の様な乾いた環境でも育つことができるなど、環境適応能力が非常に高い植物です。観賞用としてピンクやオレンジなど様々な園芸用品種が開発され、人気の高い植物ですが、その強い繁殖力から南米やオセアニアでは外来種として駆除の対象にもなっています。
エニシダの形態的特徴
エニシダの葉は必要以上に水分が蒸散してしまわないように、葉面積が小さいのが特徴です。葉が小さいということは、光合成ができる面積も少ないということ。その不足を補う為にエニシダは緑色の枝でも光合成ができるように進化しています。エニシダの枝は開花時期には多くの花をつけるため、重みで弓なりにしだれます。細い枝が放射状に伸びるその樹形は独特で、花を咲かせていない時期も見る人を飽きさせない魅力を持っています。
エニシダの開花時期
エニシダは初夏に当たる5~6月頃が開花時期に当たり、マメ科に特有の蝶々の様な形をした美しい花をつけます。代表品種である常緑性のCytisus scopariusを含め、多くの品種が黄色の花を咲かせますが、純白の花をつけるシロバナエニシダや、黄色に赤が入った複色のホオベニエニシダをはじめ、赤、白、ピンク、オレンジなど様々な種類の園芸品種があります。
エニシダのタネ
エニシダはマメ科の樹木なので、5~6月に花をつけた後はさやえんどうにそっくりなマメをつけます。豆鞘は熟していくにつれて黒く変色していき、10月頃には真っ黒になり実が採取できるようになります。採取せずに実を残していると、爆発するように勢いよく鞘が割れ、10m以上も種が飛んでいくことがあります。
エニシダの種類
エニシダはマメ科エニシダ属に属する常緑性もしくは落葉性の低木で、30以上の種類があります。その多くが耐寒性、半耐寒性をもっているものの、多湿環境を嫌うために日本で育てられている種類は多くはありませんが、ここでは代表的な3品種をご紹介します。
① エニシダ:Cytisus scoparius
開花時期である4~6月頃には黄色い花をびっしりと枝に咲かせるCytisus scopariusは、日本で最も広く栽培されており、公園や海岸沿いの砂地などでも見ることができる品種です。樹高2~4m程度の耐寒性のある常緑低木で、ー5°程度までであれば耐えることができるため、南関東以西であれば庭植えで育てることができます。
② シロバナエニシダ:Cytisus multiflorus
白い花をつけるのが特徴のシロバナエニシダは、基本種のエニシダと同様に耐寒性を持っており、成長すると樹高3~4m程になるエニシダ属の中ではやや背の高い常緑性の品種です。純白の花をつける姿は美しく、園芸用品種である”シロバナセッカエニシダ”は生け花の材料としても根強い人気があります。開花時期はややエニシダより遅めで5~6月に満開になります。
③ ヒメエニシダ:Cytisus racemosus
矮性のヒメエニシダは樹高が30㎝~1m程度と小さく、庭植えでも鉢植えでも管理ができるため、日本でも人気のある園芸品種です。エニシダと比べると耐寒性は弱く、7~8℃以下になると枯れてしまう為、やや育て方に工夫が必要かもしれません。一部の地域を除いては、鉢植えで育てて、冬の間は室内にいれて育てるのが良いでしょう。
多種多様な園芸品種がある
ここで紹介した3種類以外にも、黄色い花に赤が入ったホオベニエニシダや、ピンクやオレンジ色の花を咲かせるものまで、様々な園芸品種があるので、好みのものを栽培することができます。
エニシダの花言葉
花言葉①:『謙遜』『卑下』
少しマイナスな印象を持つこの花言葉はフランスの伝承に由来しています。ある国に王とその弟がおり、ある時弟は王である兄を殺害してしまいました。弟は自らの蛮行を悔い、城を出て巡礼の旅に出るのですが、その際に毎日エニシダの枝に向かって懺悔の言葉を語りかけていたそうです。
花言葉②:『清楚』『清潔』
エニシダの枝がホウキとして利用されていたことに因んでおり、清潔なものの象徴とされてきました。ヨーロッパではエニシダが庭に植わっている家は主婦が強く、かかあ天下になるという言い伝えもあるなど、家庭と関りが深い植物とされています。
花言葉③:『豊穣』
開花時期には一つの枝に数多くの花が咲き、その重みで枝がしだれる様子から豊穣という花言葉も持っており、イギリスではエニシダが穀物の豊作を司るシンボルとされています。
エニシダの豆知識
毒性を持っている
エニシダには、スパルティンなど、複数のアルカロイド類が含まれており、誤って口にした場合は、頭痛、嘔吐、呼吸困難等の症状が現れることがあります。
聖書にも記載がある
エニシダは古くから人の生活に関わりを持っており、聖書にも登場しています。予言者であるエリヤが、不信仰な王から命を狙われ、命からがら逃げる道中にエニシダの木陰で休んだことや、エニシダが砂漠の民にとって木炭の材料として使われていたと記載されています。
エニシダの育て方①:栽培環境について
苗の選び方
エニシダのポット苗はホームセンターや園芸店等で数百円から売られており、赤、白、ピンクなど色々な花色の品種を手軽に手に入れることができます。苗を選ぶポイントとしては、幹が太く、しっかりしている株であることです。また、苗を購入してすぐに花を楽しみたいという方は、枝の先に花芽が多くついているものを選ぶといいでしょう。
エニシダに適した土
環境適応力が高いため、ホームセンターなどで手に入る園芸用培養土でも問題なく育ちますが、基本的には乾燥した環境を好み、梅雨時期など多湿条件では根を痛めることもある為、水はけのよい土を使用した方が良いです。鉢植えで育てる場合は、赤玉土(中粒):日向土(小粒):堆肥=2:2:1程度の割合で混ぜたものがおすすめです。
日当たり、栽培場所
エニシダは日当たりが悪い場所で育てると花が咲かなくなるため、陰にならない場所で育ててください。また、枝が横に伸びるため、庭植えする場合には、広い場所に植えるのが理想です。耐寒性はありますが、ー5℃以下の寒さには耐えられないため、東北より北の地域で育てる際には、冬の時期だけ室内に入れて冬越しさせる必要があります。
エニシダの育て方②:栽培方法について
水やり
基本的に乾燥に強い植物なので、頻繁に水やりをする必要はありません。特に、成長の鈍い冬の時期には水のやりすぎに注意しましょう。花芽を形成する時期や開花時期には水をよく必要とするのでしっかり与えてください。また、鉢植えで育てる場合や、移植して2年程度の若木の段階では、表面の土が乾いたら水を与えるといいでしょう。
施肥
基本的には痩せ地でも育つ強い植物なので、頻繁な追肥をする必要はありませんが、庭植えの場合は2月に、鉢植えの場合は3月に有機質肥料などの緩効性の肥料を寒肥として与えてください。冬の間に緩効性の肥料を与え、春になるタイミングで効果が出るようにするのがポイントです。
植え付け・植え替え
植え付けをする時期は冬から春に移り変わる3~4月が適期です。庭植え、鉢植えともに植え付ける際は緩効性の肥料を元肥として加えると良いでしょう。一方でエニシダは移植に弱く、根が傷つくと枯れてしまうことがあります。その為、庭植えに移植するのであれば、できるだけ小さい時期に、なるべく根鉢を崩さないよう慎重に植え替えてください。
エニシダの育て方③:日々の手入れについて
剪定
エニシダは4月~6月が開花時期になりますが、翌年の花芽の形成は夏ごろには既に始まっているため、花が散り、新しい花芽が形成される6月~7月上旬頃の間に、剪定を行わなければいけません。もしそれ以降に剪定を行うと、せっかく形成した花芽が切り取られ、翌年の花の数が減ってしまいます。
剪定の方法
頻繁に選定が必要な樹木ではなく、特に若い時期は手を入れなくても問題ありません。植え付けて3年以上が経つと枝が密集してくるため、古い枝を根元から、あるいは枝分かれしている箇所から切り落とすようにしましょう。風通しがよくなり、新しい枝や若い枝の成長も促進されます。枝の成長が早いため、狭い場所に植えた場合は、こまめな選定が必要になりますが、深く切りすぎると枯れてしまうこともあるため注意しましょう。
ふやし方
ポット苗は数百円で購入できますが、ピンクやオレンジの花色のものは珍しいため、自分で繁殖させる方も多いです。5~10㎝程度枝を切り取り、挿し木で増やす方法もありますが、比較的難しくあまりおすすめできません。最も簡単なのは、タネで増やす方法です。10月頃に採取した種を紙袋などに入れて、冬の間は冷暗所に保存しておき、翌年の3月中旬から下旬にかけて蒔きます。蒔く際には2~3mm程度に浅く覆土するようにしましょう。
エニシダの育て方④:栽培上の注意点
病害虫の管理
エニシダは病害に強く、アブラムシやコガネムシなど数種類の害虫が散見される程度です。コガネムシの幼虫は根を、成虫は葉を加害するため、見つけた場合は早めに駆除してください。時折、庭植をして間もない間に枯れてしまうことがありますが、土壌伝染性の病害であることが多いため、その場合は植える場所を変えると改善されます。
連作障害が起こりやすい
マメ科の樹木であるエニシダは連作障害が起こりやすいことが知られており、寿命などで枯れてしまった場合でも、同じ場所には連続して植えないようにしましょう。
寿命は短め
エニシダの寿命は10年程度と、他の多年草と比べるとやや短いのが特徴で、エニシダが突然枯れてしまった、と言う場合、殆どの原因が育て方ではなく寿命によるものです。そのため、長く継続してエニシダを育てたいという場合には、挿し木で増やしたり、タネを採取しておくといいでしょう。
毒性には注意が必要
上述しましたが、エニシダは枝、葉、実を含めて木全体に毒性のあるアルカロイド類が含まれています。マメ科には食用の植物が多くある為、食べられると思いがちですが、呼吸不全などの症状を起こす場合もあるので、小さい子供がいる家庭で育てる際には注意が必要です。
まとめ
エニシダは見て育てて楽しめる魅力的な植物
今回はエニシダの特徴から育て方までご紹介させていただきました。常緑性で黄色の花をつけるエニシダは公園や生垣など身近なところでも見られるので、ご興味を持った方は散歩のついでに探してみてはいかがでしょうか。冬の時期の管理など注意が必要な点はありますが、育て方も簡単で、赤、白、ピンクなど、好みの種類の花色も選べる為、ガーデニングを始めたいと思っている方の最初の一株として是非お勧めです!
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