赤い実をつける南天とは
日本に自生する植物
南天は日本や東アジアなどの温暖な地域に自生する常緑低木です。もともとは中国が原産でしたが、かつて日本に持ち込まれたものが広く自生しています。江戸時代にはすでに園芸品種として盛んに栽培されていました。
赤い実が人気の庭木
日本では縁起の良い木として親しまれ、現在でも定番の庭木として人気があります。常緑の葉も美しく、特徴である赤い実も非常に保ちが良いので鑑賞に優れています。丈夫で栽培が難しくないため、初心者の庭木にもおすすめです。
南天の名前と由来
南天燭・南天竹
もともとの原産である中国では、南天燭(なんてんしょく)や南天竹(なんてんちく)という名称で呼ばれていましたが、日本に入ってきた際に省略されて南天という名称が定着されたと言われています。燭の字がついているのは、赤い実がロウソクの灯りに例えられたからだという説が有力です。
円満成就の植物
南天は音の響きから、円満成就の吉祥に通じる「成天(ナルテン)」と言われる縁起の良い植物でした。玄関先に植えたり、進物に葉を添えるなどして重宝されてきました。生け花の世界でも、お正月の定番花材として生けられています。
難を転ずる縁起物
また、同じようにその響きから、難を転ずる「難転」などとも言われています。同じく縁起物とされている福寿草の花と南天の実を一緒にして「難を転じて福となす」としたり、お正月には水仙と南天の赤い実をセットに描いた「天仙図」を縁起物としたりしてきました。
南天の実はどんな実?
赤い実が特徴
南天といえば特徴的な赤い実です。枝の先端にたわわに実がなる姿も縁起が良く印象的で、冬には必ずといっていいほど見かける季節の風物詩でもあります。全国のお庭に植えられているためか、植物に詳しくない人にも広く知られています。
赤い実はお正月飾りにも
南天の実をお正月に飾るのは古くからの風習で、お正月の時期になるとお花屋さんにも切り花が並びます。また、南天の実は水につけておかなくても美しいまま長持ちするので、飾りに使いやすいのが特徴です。そのためしめなわなどのお正月飾りにもよく使われています。
鳥が食べに来る?
南天の実は漢名で「鳥飯草」と呼ばれていたという記述がありますが、その美しい赤い実は鳥たちにも魅力的な存在です。できたての実は固いですが熟すと柔らかくなり、主にヒヨドリたちの餌となります。南天は餌が少なくなる冬に実をつけるため、鳥たちの貴重な食料なのかもしれません。
南天の葉は?
艶のある緑色と紅葉
南天の葉は、美しい艶のある緑色をしています。切り花にしても美しい艶が長持ちするので、生け花の世界などでも重用されてきました。また南天は常緑樹でありながら紅葉もする植物です。冬の寒さにしっかり当たると秋には綺麗に紅葉しますが、日陰などの環境や品種によっては紅葉しない南天もあります。
株の上部に葉がつく
南天は茎の先の方に葉をつけ、茎の下部にはほとんど葉をつけません。そのため株元はすっきりとしており、そこが庭木として管理しやすいポイントでもあります。株の上部にふんわりと葉が茂るので、見栄えもよくボリュームも出るのが特徴です。
三回三出複葉
南天の葉は三回三出複葉といって、軸の先端が綺麗に3枚の葉に分かれています。複葉とは、本来1枚だった葉が変化して数枚の小葉に分かれたもののことを言います。南天の葉は、先端の少し大きめの葉とその両脇に少し小さい葉が2枚ついた複葉で、それが三段階になっている構造です。
南天の花と花言葉は?
春に白い花が咲く
南天は5〜6月に白い花を咲かせます。茎の先端に小さな花が房状に咲き、白色の花弁からのぞく黄色の雌しべが特徴的です。蕾がつく姿もかわいらしく、遠くからでも目を引く赤い実とは対照的な印象です。お花の時期も短く、香りもあまりありません。
南天の花言葉は?
南天の花言葉には「幸せ」「私の愛は増すばかり」「福をなす」「よき家庭」「機知に富む」などがあります。白い花から赤い実になる様子を愛が深まることに例えた花言葉のようです。「福をなす」「よき家庭」などの花言葉は、南天を縁起物としてきたことから由来しています。「機知に富む」は南天の中でも白い実をつける品種の花言葉です。
南天の効果1:実の効果
咳止め効果
南天の実には咳に効果のある成分があるとされ、咳止め薬やのど飴に用いられてきました。CMでお馴染みのフレーズを聞いたことがある方も多いのでは。鎮咳作用があるドメスチン、抗アレルギー作用のあるナンジノシド、気管を拡張させる作用のあるヒゲナミンなどによって効果が現れるとされています。
個人で食べるのは危険
しかし、ドメスチンなどは有毒成分でもあり、知覚や運動神経の麻痺などの症状が出る可能性があります。大量に摂取しなければ大丈夫だといいますが、咳止め効果があるからと南天の実を素人の判断で食べるのは避けましょう。
南天の効果2:葉の効果
殺菌効果
南天の葉にはナンジニンという成分が含まれており、これには殺菌効果があります。この効果を知ってか知らずか、日本では昔からお赤飯に南天の葉を入れる習慣があります。ナンジニンは熱と水分に反応すると腐敗を抑える効果を発揮するので、熱いうちに南天の葉を入れて蓋を閉めるとよいといいます。
解毒効果
南天の葉には解毒効果もあるとされ、古くから生薬として使用されてきました。虫刺されや蕁麻疹などの症状に効果があるとされ、生の葉を揉んで汁を出し、患部に塗って使います。また、南天の葉を乾燥させたものが漢方薬としても売られており、お茶としても飲用できます。
南天の種類
江戸時代に流行
日本は江戸時代には園芸が盛んに行われており、さまざまな品種改良が行われてきました。その頃は鎖国していたため日本に自生する植物を中心に品種改良が行われていましたが、すでに縁起の良い植物とされていた南天は特に競って新品種が作られました。
アカナンテン・シロナンテン
赤い実をつける一番ポピュラーな品種はアカナンテンもしくはナンテンと呼ばれています。対して実が熟しても赤くならずに、乳白色の実がなる南天をシロナンテンといいます。赤い実も白い実も効能はほとんど変わりません。
葉芸を凝らした南天たち
江戸時代に競って新品種が作り出されたときにできたのが、葉に特徴のある葉芸の種類たちです。糸のような葉のキンシナンテンのほかに、葉が細くほとんど軸だけになっている種類や、折り鶴のように見える種類など、さまざまな趣向が凝らされました。現在でも50種類を超える栽培種があり、盆栽などでも人気を集めています。
オタフクナンテン
背が低く紅葉した赤い葉が特徴のオタフクナンテンは実がなりません。ガーデニングショップでも3号ポットなど小さめの苗で見られるオタフクナンテンは、背丈が30〜40cmほどと小さいうえに大変丈夫で、グランドカバーにもおすすめの種類です。オタフクナンテンはどんな植物にも合わせやすく、ガーデニングの名脇役とも言われています。
南天の実に似ている植物
千両(センリョウ)
赤い実がなる千両は、南天と同じくお正月の定番の植物として知られているためよく間違えられますが、南天はメギ科、千両はセンリョウ科で種類はまったく異なります。葉は単葉で南天よりも大きく、縁がギザギザとした形をしています。赤い実が枝の先端に10〜20粒ほど、かたまって上向きについてます。
万両(マンリョウ)
万両も同じく冬に赤い実をつけるお正月の定番の植物ですが、万両はヤブコウジ科でこちらもまったく種類が異なります。万両は枝の先端に赤い実をつけますが、南天や千両と違い下向きになるのが特徴です。万両の仲間には百両や十両などもあり、千・百・十と少しずつ実の数が少なくなっていきます。
ヒイラギナンテン
ヒイラギナンテンは南天と同じメギ科で、南天の仲間です。枝ぶりは似ていますが、実の色や葉の形が異なります。ヒイラギナンテンの葉は縁に棘があり、その名の通りヒイラギに似ています。3月頃に黄色い花を咲かせ、初夏から秋にブルーベリーにも似た濃い紫色の実をつけます。
南天を植える場所とは
庭木の定番
南天は庭木の定番として現在も人気がありますが、南天を植える場所にはさまざまな説があります。庭木の場所を重んじる風水などにおいても南天は重視され、植える場所について言及されてきました。旅館などでもよく見かける南天ですが、植えてある場所を観察してみると面白いかもしれません。
植える場所1:玄関、庭先
南天は縁起の良い植物であり、さらには赤い実が魔除けともされてきたため、玄関や庭先などの家の入り口となる場所によく植えられます。「難を転じて福となす」の語呂合わせで、南天とセットで福寿草を植えるのも流行しました。
植える場所2:トイレ
南天をトイレのそばに植える由来はさまざまで、用を足した後に南天の葉で手を拭くためだとか、お腹を壊したときに葉を噛んで解毒するためだとか、いろんな謂れがあります。また、風水的に不浄のものとされるトイレの近くに植えると魔除けになるなどとも言われ、古くからトイレの近くに南天を植えることが勧められてきたようです。
植える場所3:鬼門
鬼門に白い実のなる南天を、裏鬼門に赤い実のなる南天を植えるとよい、などともされてきました。風水においては、鬼門にはけがれのない白色を、裏鬼門には女性らしい赤色を置くのが良いとされ、それに南天の縁起の良さが合わさったようです。それだけ南天が日本のガーデニングに根付き、また、どこに植えても育てやすい植物であったことがうかがえますね。
南天の育て方
日陰でも育つ
南天は丈夫で病害虫の被害が少ない上、放任していてもよく育ち見栄えも良いので初心者のガーデニングにもおすすめです。土を選ばず日陰でも育ちますが、日当たりがよく水はけのよい場所のほうが実付きはよくなります。
お手入れも少ない
南天は枝や葉が広がらないため、あまり手を加えなくても樹形は乱れません。剪定は2〜3月が適期で、株元から出てくる余分な枝を切ったり、伸びすぎた枝を切ったりするとよいでしょう。実をつけた枝はその後3年ほど実をつけなくなってしまうので、付け根から切ってしまいます。新しく伸びた枝が翌年に花をつけ実をつけます。
南天を庭木にしてみよう
ガーデニング初心者にもおすすめ
南天は少ない手入れでもよく育ちお庭を美しく彩ってくれるため、ガーデニング初心者でも挑戦しやすいおすすめの庭木です。魚料理に添えたりと料理のちょっとした彩りにも使いやすく、お庭に1本あると重宝します。名前も花言葉も縁起がよいので植えておいて損はないかもしれません。
南天の仲間について気になる方はこちらをチェック!
寒い冬に凛と映える赤い実の南天は、日本においては季節の風物詩でもありますよね。正月飾りにしたり、生けてみたり、お料理に添えてみたりと、生活に取り入れてみやすい庭木です。ほかにも南天の仲間については他にも記事があるのでぜひチェックしてみてください。
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