ヒオウギとは
東アジアが主な原産地のヒオウギは、種類としてアヤメ科アヤメ属に分類され夏咲きの宿根植物です。和名の漢字表示は、日扇、檜扇、桧扇、別名を烏扇(からすおうぎ)、烏羽玉(うばだま)、野羽玉(ぬばたま)。英名はブラックベリーリリー、レパードフラワー。強く丈夫なことから庭植えに適し、生け花の花材としても使われます。また、京都の夏の時期の風物詩「祇園祭」にも深い関わりがあり、ヒオウギの根や茎は生薬となります。
ヒオウギの名の由来
その昔、公家の持ち物のひとつであった「檜扇(ひおうぎ):(檜の薄い板を数枚綴じ合わせた扇)」を広げた姿に形が似ていることから名付けられたとされています。1本の茎は厚みがある数枚の剣状の葉が扁平状に重なり合って扇を広げた様な形状です。
ヒオウギの種類
ヒオウギは品種として幾つかあり、主な栽培品種は「ダルマヒオウギ」です。草丈はずんぐりして低く茎は湾曲して反り返っています。その他には、赤みを帯びたオレンジ色に濃い紅色の斑が入る真竜(しんりゅう)、黄色の花で斑が入らない黄竜(おうりゅう)、オレンジに紅色の斑が入る緋竜(ひりゅう)、珍しいピンクの花色の桃竜(とうりゅう)、ダルマヒオウギと同種のブルー・サファイアは紫の花色をしています。
ヒオウギに似た花
ヒオウギには名前が似た花の種類があります。「姫檜扇(ヒメヒオウギ)」はアヤメ属ではなくフリージア属で小ぶりな姿がヒオウギと似ていますのでヒメヒオウギと呼ばれています。「姫檜扇水仙(ヒオウギズイセン)」はクロコスミア属で明治に渡ってきた外来種でヒオウギと花が似ています。「ヒオウギアヤメ」は高原などの湿原などに咲く多年草の花で、アヤメに似た花のため名付けられたものです。他にも似た花の変種として、長野県霧が峰高原の鎌ケ池が自生地の「キリガミネヒオウギアヤメ」、栃木県那須高原に自生する「ナスヒオウギアヤメ」は葉がヒオウギに花はアヤメに似ていることからの品種名です。
ヒオウギの花と実
ヒオウギの花
ヒオウギの開花時期は7月から8月の夏の時期で、花色は赤や黒の斑が入りオレンジ、黄色、紫、赤、ピンクで、扇状の葉の頂点に高く伸びて枝分かれをして次々と花を咲かせます。花は一日花で日中は開いて、夜になると花びらが捻れる様に閉じてしまいます。
ヒオウギの実
花後に3cm程度の袋状の果実が実り、その鞘(さや)が割れて多数の実が出ます。種子は5mm程の球状で光沢のある黒い色をしています。これが別名「烏羽玉(うばだま)」「野羽玉(ぬばたま)」の由来となったもので、艶のある黒色であることから、和歌では「黒、夜、髪」に掛かる枕詞とされています。万葉集では花ではなくこの種子を詠み込んでいます。(例歌:居明かして君をば待たむぬばたまの我が黒髪に霜は降るとも)
ヒオウギのこんな利用法
ヒオウギの育成は容易なため庭園などに植栽され、自然の風合を活かした和風の庭に良く合います。また、生け花の材料としても昔から使われていて、古くから伝わる生花【池坊では生花正風体(しょうかしょうふうたい)】という伝統的な活け方をします。
祇園祭とヒオウギ
平安時代前記の貞観11年(869)に京の都では大変な疫病が大流行して多くの人命が失われたのですが、これは怨霊(おんりょう)の為せる技であろうという事から、怨霊による悪疫退散を念じるために祇園社(現在の八坂神社)に祈願した「祇園御霊会(ぎおんごりょうえ)」が始まりで、以降「祇園祭」となり祭の花としてヒオウギが飾られます。
ヒオウギは魔除けのお守り
その怨霊会が行われた季節が夏という事と、乾燥した土地でも枯れることがないヒオウギが咲く時期でもあり、その丈夫さから神がかりを信じた人たちによって飾られた事から、ヒオウギには魔除けの効力があるとされ、祇園祭の間中軒先にヒオウギが飾られます。近来はこの様な風習も少なくなってきています。
生薬としてのヒオウギ
ヒオウギの根や茎を乾燥させて生薬にしています。「和漢三才図会」という1700年代の書物には生薬として表されています。薬名は漢名では「射干(やかん)」と呼び、古くから咽喉痛や咳を鎮めたり、消炎、腫れ物などに効力がある薬とされています。
ヒオウギの育て方
乾燥にも強く耐寒性もある丈夫な花ですので、日当たりが良く水捌けの良い土壌であれば特別な手間を掛けないですむ育て方の楽な植物です。但し、一日中日影の様な場所であると日光不足で茎が徒長して花付きも悪くなりますから注意が必要です。
植え付け
植え付けは春4月末から5月、秋9月から10月が適期です。寒冷地では冬季に根付きが悪くなりますので春植えが良いでしょう。水捌けの良い、日当たりも良い場所を選び、地植え、鉢植えとも用土は赤玉土(小粒)7に対し腐葉土を3の割合で混合したものを使用し植えつけます。
植え替え
地植えの場合、3年から5年程度はそのまま放っておいて構いませんが、株どおしが混み合ってきたら株分けをし植え替えます。あまり細かく分けすぎない様に3株ずつにすると生育が良くなります。鉢植えでは、やはり鉢の中で株が混み合ってきた時と、根が鉢底から飛び出して鉢自体が不安定になったら、一回り大きな鉢に植えるか、株分けをして幾つかの鉢に分けます。
種から育てる
秋に花後に出来た鞘が弾ける様に割れると、内に黒い種子が出来ています。育苗箱か3号程度のビニールポットに蒔き、種の大きさに土を被せます。日当たりの良い場所に置き水を切らさない様にして管理します。発芽するのには3ヶ月ほど要します。発芽してから2年~3年で花が咲くようになります。
肥料
地植えの場合は割と強健な植物ですのでほとんど肥料は与えなくても良いのですが、花付きが悪かったり、生育が思わしくない時は春4月~5月、秋10月頃に有機質の緩効性肥料を与えると良いでしょう。鉢植えは春4月から10月にかけて3回ほど緩効性の肥料を置き肥として与え、月2~3回希釈した液体肥料を与えます。
水やり
ヒオウギはやや乾燥気味でも良く育ちます。地植えは普段放っておいて良いのですが、夏場の高温時には朝夕の涼しい時間に水を与える様にします。鉢植えは鉢の用土が乾いていたらたっぷりと与えて下さい。ヒオウギは水捌けが良いのを好みます。過湿になったりすると根腐れを起し枯れてしまいますから十分に注意しましょう。
病害虫
害虫はほとんど発生しないのですが、湿度の高い梅雨時や水捌けが極端に悪い場所に植えられているとカビによる病害として根部の部分から腐る「軟腐病」や、葉に黄白色の斑点が出始めて葉の生育を悪くしたり、酷くなると枯れてしまいます。アブラムシが媒介するウイルス病は葉などに斑模様の斑点が無数に発生し「モザイク病」とも呼ばれる症状がでます。病害が発生したら初期の内は殺菌剤で消毒しますが、悪化した場合は株ごと取り去り処分します。
まとめ
ヒオウギは古くから日本では馴染みのある植物です。また、耐暑性や耐寒性もあって丈夫ですので特に管理は難しくありません。宿根植物ですので、条件さえ良ければ放っておいても毎年花が見られます。生育が良すぎるので寄せ植えには不向きですが、和風でも洋風の庭にも植栽の仕方によっては似合うと思いますので、夏の花として庭に植えておくのがお勧めです。
ヒオウギが気になる方はこちらもチェック!
夏の花として丈夫な管理しやすい花としてヒオウギをご紹介しましたが、「暮らし~の」では他にも関連したチェックしていただきたい記事がありますので、ぜひご覧になって下さい。

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