DHバーってなに?
DHバーはTTレースやトライアスロンで使われる、ハンドルバーの真ん中に追加するパーツのことを指します。DHバーを取り付けると肘をハンドルバーの上部分に固定できるため、極端な前傾姿勢をとることができます。DHバーは「ダウンヒルバー」を略したもので、その前傾姿勢になるフォームがスキーのダウンヒルのフォームに似ているためそう呼ばれるようになったと言われています。自転車のダウンヒル競技とは関係がなく、さらにダウンヒル(下り)も苦手なのでご注意を。
では具体的に、ロードバイクにDHバーを取り付けるとどのような効果が現れるのでしょうか。それを見ていきましょう。
DHバーをロードバイクに取り付けたときの効果①
空気抵抗が減る
DHバー使用時は頭を下げて上体を前傾させ、両腕を絞った姿勢になります。この姿勢をとることによって前面投影面積を減らしています。ふじいのりあき氏(2008, 「そうだったのか! ロードバイクの科学」, スキージャーナル)によれば、DHバーを持ったエアロポジションでは、ブラケットを持ったポジションから空気抵抗を25%削減できるとのことです。これは腕を曲げてハンドルバー下部を持った姿勢よりもさらに17%軽減されており、別の言い方をすると、ブラケットポジションで40km/h巡行をする場合、DHバーを使用すれば同じ出力で44.5km/hまでスピードをあげることが可能となります。基本的にドラフティング(前走者を風除けにすること)が禁止されている個人TTやトライアスロンで使用されるのはそのためです。
プロのTTスペシャリストになれば、TTバイク+DHバーでエアロポジションをとり、100km/h以上のスピードでダウンヒルすることも!(非常に危険なので絶対真似しないでください)
DHバーをロードバイクに取り付けたときの効果②
疲労が分散する
TTバイク(TTレースでの使用を前提とした、空気抵抗を極限まで減らしたバイク)ではなく、ドロップハンドルが装着されたノーマルなロードバイクでは、通常、ハンドルバーの上部・ブラケット部・下部の3か所に手を置いて走りますが、DHバーを追加することでそれを1か所増やすことができます。ロードバイクに乗るうえでは、異なる4つのポジションでは使う筋肉が違うため、これは同じ部分に疲労が蓄積するリスクを避けてそれを分散させることができるというメリットになります。
DHバーをロードバイクに取り付けたときの効果③
痛みを緩和させる
ロードバイクに乗るとき、主に荷重がかかっているポイントは「ハンドルバー・サドル・ペダル」の3点です。つまり、それらと接する「手のひら・おしり・足の裏」に自分の体重が分散してかかっているということになります。DHバーを使ったエアロポジションでは、DHバーとハンドルバーの取り付け部分(ちょうどハンドルバーの上部あたり)にあるアームパッドに肘をおいて前傾した姿勢を支えるため、体重のかかるポイントは「肘・おしり・足の裏」に変化するわけです。さらに極端な前傾姿勢は座る位置やペダリングの変化にも影響を及ぼすので、体重がかかるポイントの痛みを和らげてくれたり、前述したように異なる筋肉を使うことによって疲労を分散させてくれたりする効果が期待できます。
DHバーをロードバイクに取り付けたときの効果④
ブレーキをかけにくい
DHバーを使用するうえで最大のデメリットではないでしょうか。DHバーにはブレーキレバーを装着することができず、エアロポジション時にブレーキをかけたければ、上体を起こしてハンドルバーのブラケット部まで手を動かさなければなりません。つまり人通り・交通量・信号が多い街中やスピードが出るダウンヒルにおいて、エアロポジションのまま走ることは非常に危険であるということです。
DHバーをロードバイクに取り付けたときの効果⑤
曲がりにくい
DHバーの重量はもっともポピュラーであるプロファイルデザイン社製のもので500g〜600gほどあり、それがそのままロードバイクの重量にプラスされることになります。重量物がハンドルバーの上に追加されるため、ハンドリングに悪影響を及ぼすのです。またDHバーは曲がる目的で取り付けるものではないので、バーを持ったままRの小さなコーナーを曲がっていくことは不可能だと考えてください。ブレーキによるコーナリング中のスピード調整ができないこともあり、Rの大きな緩いコーナーでもエアロポジションのままのコーナリングは危険かもしれません。ダウンヒル中のコーナリングももちろん大きな危険を伴います。
以上がDHバーを取り付けたときの効果と影響になります。DHバーには大きなデメリットがありますが、メリットもまた魅力的で、導入すればそれらの恩恵を享受することができます。しかし一口にDHバーと言ってもさまざまな種類のDHバーが販売されているため、選び方がわからないという人がいるのではないでしょうか。そこで次に、DHバーの種類と特徴を踏まえながら選び方を紹介します。
DHバーの種類と選び方①
スキーベンド タイプ
エクステンションバーのバーエンドに向かっていくにつれて上に湾曲していくタイプ。自分の体に引きつけるようにしてバーを握り、アームレストに肘をしっかりと置いて使います。
スキーベンドはこんな人向け!
上体をやや起こした姿勢になることと、手首の角度が自然な形でバーを握ることができるため、体が硬い人や長距離を走る人に向いています。長距離のTTレースを走るトッププロにも愛用者が多い形状です。
DHバーの種類と選び方②
Sベンド タイプ
シマノPRO|ミサイルSベンド
エクステンションバーを横から見ると「S」の字のように見える、緩やかに湾曲し、また水平に戻るタイプ。手首を倒してバーを握り、肘をアームレストに押しつけるように腕を固定させて使用します。
Sベンドはこんな人向け!
スキーベンドよりも前傾姿勢になりバーを引く力をペダルに伝えやすいため、身体の柔軟性が高い人、短距離のスプリントレースなどに参加する人に向いています。
DHバーの種類と選び方③
ドロップベンド タイプ
エクステンションバーがスキーベンドの途中がくぼんだ(ドロップした)形状のタイプ。スキーベンドとSベンドの両方に近い持ち方ができるため、状況によってマルチに対応可能。
ドロップベンド はこんな人向け!
バーをグリップするところが複数あり、持ち替えながら走ることができるため、まだポジションの定まっていない人にも有効だと言われています。
DHバーの種類と選び方④
ストレートベンド タイプ
その名の通りエクステンションバーに角度がついておらず、まっすぐ伸びたタイプ。
ストレートベンドはこんな人向け!
4つの中でもっとも前傾した姿勢になり空気抵抗が減るため、上級者や身体の柔軟性が高い人向けです。
おおまかに分けると上に挙げた4種類がDHバーの種類と特徴となります。それぞれに長所がありますが、DHバーの選び方としては「使用する距離」「身体の柔軟性」「自分にフィットする形状かどうか」を基準にしましょう。もし経済的・時間的余裕があるのであれば、ポジションの調整も兼ねて、どのタイプがもっともパワーを出せているのか、最適なペダリングができているのかが一目でわかるフィッティングを試してみるのも良いかもしれません。
DHバーをロードバイクに取り付ける際の注意点
ポジション調整が必要
実際にDHバーを使用する場合、細かなポジション調整が必要となります。エクステンションバーを突きだす長さ、アームレストの高さや角度、バーの間隔などを根気強く調整していかなければなりません。特にクリップオンタイプのDHバーでは、エクステンションバーがクリップオン部分の上から出ているか下から出ているかでエアロポジション時の腕の高さが変わるため、ハンドルバーの高さやステムの角度など、ロードバイク自体に変更を加える必要があります。
使用禁止のイベントも
ロードバイクのレースでは集団走行中の使用に危険が伴うという理由からDHバーを含むアシストバーの装着が禁止されている場合が多く、大会要項などにきちんと明記してあります。それはクローズドのサーキットで開催されるイベント(エンデュランスレースなど)でも同じなので、レース参加にあたっては必ずDHバーを使用可能かどうか確認してください。
ロードバイクにおすすめのDHバー①
DHバーには、ベースバー(ブルホーンバー)と一体型になったタイプと、一般的なドロップハンドルにも簡単に取り付けることができるクリップオンタイプの2種類があります。一体型はエアロダイナミクスに優れますが、コーナリング中やダウンヒル中の扱いやすさはドロップハンドルには到底及びません。
プロファイルデザインLEGACYⅡ
プロファイルデザイン|Legacy II
ひとつめのおすすめDHバーは、クリップオンタイプの「LEGACYⅡ」です。最大の魅力は、トライアスロンの大会でも屈指の地名度を誇る「アイアンマン」唯一のオフィシャル・サプライヤーとして認められたプロファイルデザインが手がけるDHバー、かつ、もっともコストパフォーマンスが優れたモデルであるという点。また、エクステンションバーにはドロップベンドを採用しており、ポジションの定まっていない初心者でも取り付けやすいDHバーになります。
ロードバイクにおすすめのDHバー②
プロファイルデザインV2+アルミ
プロファイル デザイン | V2+
おすすめDHバーのふたつめ「V2+」もLEGACYⅡと同じクリップオンタイプのDHバー。おすすめのポイントは、エクステンションバーがハンドルバーの下側に、アームレストがハンドルバーの上側に位置する種類のDHバーであるという点です。そうなっていることでエクステンションバーを低い位置にできるため、普段使用しているロードバイクのハンドルバーの高さやステムの角度などを極力変更せずに済みます。
一体型のDHバーはエアロ効果が高く軽さにも秀でていますが、ポジションが定まっていないと取り付けにくいことや少しでも風が吹いているとき、緩斜面のダウンヒルでも操作がむずかしいことなどから、ここではクリップオンタイプのDHバーをおすすめとして紹介しました。またクリップオンタイプのDHバーは(一体型と比べると)調整幅もあり、エクステンションバーの選び方にも余裕が出てくるため、初心者には特にクリップオンタイプをおすすめします。
続いて、今やロードバイクに乗るときの必需品と言っても過言ではないサイコン(サイクルコンピューター)用のおすすめマウントを紹介します。
おすすめのサイコン用マウント①
クリップオンタイプのDHバーはハンドルバー上部を広く占めてしまうため、その部分を活用して取り付けるサイコンを一緒に使うことができなくなります。そこで活躍するのがアクセサリ類。ここではサイコンのみを取り付ける目的のものと、サイコン+α、を取り付ける目的のもの2種類を見ていきましょう。
サイコン特化タイプ
DHバーにサイコンだけをマウントするためのパーツなので、シンプルなつくりで軽量に仕上がっています。そのサイコンに特化したマウントの代表的存在といえばBarFly。特にBarFly4シリーズはガーミンのサイコンだけでなく、キャットアイやポラールなどあらゆるメーカーのサイコンに対応するアタッチメントが付属されているためとても便利になっています。
おすすめのサイコン用マウント②
マルチタイプ
夜や視界が悪いときにもロードバイクに乗りたいという人には、サイコンだけでなくライトも取り付け可能なマルチタイプをおすすめします。プロファイルデザイン UCM Aerobridgeは2本のエクステンションバーに通して固定することができます。
最後に、DHバーと相性がいいと考えられるロードバイクのセットアップを2種類紹介します。クリップオンタイプの存在で、DHバーの使い方は自由!DHバーのメリットを最大限活かせるセットアップを試してみましょう。
DHバーとロードバイクのおすすめセットアップ①
DHバー + エアロロードバイク
エアロダイナミクスを突き詰めたエアロロードバイクにDHバーの組み合わせは、道幅が狭く、ヒルクライムとダウンヒルばかりで曲がりくねった日本の道においては最適解かもしれません。この組み合わせは実用性が高く、ツール・ド・フランスに出るようなトッププロの中でも、TTバイクやダウンヒルが苦手な選手はこの組み合わせで出場していますし、山岳TTに至ってはほぼ全選手がこの仕様で走っています。最近では各社がエアロロード、エアロハンドルバーをラインナップしていて、挑戦しやすい組み合わせと言えるでしょう。
DHバーとロードバイクのおすすめセットアップ②
DHバー + ディスクロード、グラベルロードバイク
「TTレースやトライアスロンに参加してないけど、DHバーを使ってみたい」という人にはこのような使い方もあります。太いタイヤを履かせることができるこれらオールラウンド系のロードバイクで、キャンプツーリングや長距離ツーリングをするとき、クリップオンタイプのDHバーは、取り付け効果②の「疲労が分散する」、取り付け効果③の「痛みを緩和させる」メリットを活かせると考えられます。ただし太いタイヤを履いてもコーナリングやダウンヒルは苦手なままなので、ご注意を!
バイクパッキング
余談になりますが「バイクパッキング」という言葉を聞いたことがありますか?バイクパッキングとは、近年アメリカを中心としてにわかに盛り上がりを見せる自転車を使ったアクティビティです。簡単にいえば、バイク(自転車)にハンドルバッグやフレームバッグを使ってキャンプ、釣り、その他アウトドア用品をパッキングしてツーリングしようというものです。旧来とは違ってキャリアとパニアバッグを必要とせず、フレームに直接バッグを取り付けるため、「普通の」ロードバイクでも気軽に楽しめる点がブームに火をつけたと言われています。
本場アメリカのバイクパッキング装備では、ディスクロードやグラベルロードのフレームに取り付けられたバッグと一緒にクリップオンのDHバーを装着している人を多数見ることができました。「DHバー=エアロ、TT、トライアスロン」という固定概念を捨てて、のんびりとしたツーリングに使うという考え方は参考にできるのではないでしょうか。
「DHバー」の取り付け効果や選び方とは? まとめ
いかがでしたでしょうか。ここまでDHバーを取り付けたときの効果(メリット・デメリット)や選び方などを紹介してきました。DHバーを使ううえで得られるメリットは大きなものですが、それと同じくらいデメリットもあることがわかりました。自転車は自由な乗り物です。しかし、公道を走るがゆえに交通ルールやマナーの遵守、他人に危害を加えないことなど気をつけなければならないことがたくさんあります。それらを守ることを前提として、DHバーを使ってロードバイクの新たな一面を体験してみてください。
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下記リンクにて、文中で紹介したバイクパッキング、エアロロードバイク、サイコンについてその魅力を詳しく紹介しています。ぜひチェックしてみてください!

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