はじめに
異彩を放つ深海魚「デメニギス」
海底には多くの謎多き魚たちが生息しています。例えば、ヌルヌルの粘液で体を覆い保護している魚や、体全体をまるでクリアボディのように透明にしている魚など実にさまざまな特徴を有しています。そんな深海で暮らしている魚のなかでもとりわけ異彩を放つ魚が「デメニギス」です。
脳が透けて見える特徴的な魚
脳が外側から透けて見えるこの魚は、一見すると冗談のような外見をしていますが、過酷な深海で生活していくなかで、より長く生存できるように最適な形態へと進化した結果この姿に変貌したのです。今回「暮らし~の」では、この魚の謎多き正体について動画をまじえながら解説していきます。
頭が透明な深海魚「デメニギス」とは?
「デメニギス」の分類
分類 | ニギス目デメニギス科デメニギス属 |
学名 | Macropinna microstoma Chapman |
英名 | Barreleye |
和名 | デメニギス(出目似鱚、出目似義須) |
ニギスの仲間である「デメニギス」。この科に属する魚は本種を含めても世界でたったの19種です。そのどれもが海域の深いところで暮らしている深海魚で、この魚も同科の仲間たちと同じく深海で暮らしていますが、日本でもときどき定置網にひっかかり漁獲されます。
なぜ「デメニギス」という名前なの?
皆さんは出目金(デメキン)をご存知でしょうか。筆者は子供時代によく縁日で金魚すくいをしたものです。金魚のなかでも目玉のぴょこんと飛び出た金魚、「出目金(デメキン)」は何としても掬い取りたい対象でした。
「デメニギス」の名前の由来は、出目金(デメキン)と同じです。ニギスのなかでも目玉が飛び出ているように見えることからこの名前が付けられました。
「デメニギス」の形態
「デメニギス」の形態は実に特徴的で、一度見たら夢に出てきそうな外見をしています。形態の尾に向けた後ろ部分は全体的に黒く、深海の暗所で姿を隠しやすいカラーリングをしています。ここだけを見れば、他の深海魚とそこまで差異は感じられませんね。
体長15センチほどの小さな深海魚
ただ、形態の頭に向けた前半部分はまるで透明なヘルメットを被った宇宙人のような外見をしています。脳がむき出しで何やら緑色の丸い物体が透けて見えるのです。ただ、この魚は体長にして15センチ程度と小型なので、まだ可愛げがありますね。
「デメニギス」の分布
この魚の分布は広く太平洋の北側、冷たい海流がある場所の水深400メートルから800メートルに分布しています。日本国内でも東北地方で稀に水揚げされる魚ですが、食用として流通はしていません。
頭が透明な深海魚「デメニギス」の生態
いまだ生態に謎多き深海魚
後述しますがこの魚は発見されてから既に80年ほどが経過しています。ただ、いまだに生態に未解明な部分が多く、謎多き深海魚として研究者らに熱い眼差しを向けられている魚なのです。今回は、そんな「デメニギス」の生態について判明しているところを解説します。
「デメニギス」の食性
この魚は主にクラゲなどを捕食しているとされています。あまり活発に泳ぎまわれる魚ではないため、深海にゆっくりと漂っているクラゲを捕食対象としているのです。
デリケートな「デメニギス」
「デメニギス」の生態がいまだ解明されない理由として、この魚が他の深海魚と比較してもかなりデリケートで発見してもすぐに命が尽きてしまうことが挙げられます。
すでに言ったようにこの魚は日本でも東北ではまれに水揚げされるのですが、頭の透明なヘルメット部分は水揚げされたときにもはやボロボロに損傷しているのがほとんどで、生きた個体を陸まで運べる機会はほぼゼロなので実態を掴むのが困難なのです。
頭が透明な深海魚「デメニギス」の特徴
「デメニギス」の頭の特徴とは?
この魚の頭部は透明なヘルメットのようになっています。頭のなかには緑色のまるで操縦席のような形状をした物体が2つ、横並びで存在し、その内側に黒い脳があるのです。この部分に生命活動に必要な全ての機能がぎゅっと詰まっています。頭部のなかはゼラチン質で満たされており、触れるとプルプルとした質感があるそうです。
「デメニギス」の目ってどこなの?
皆さんはこの魚の目がどこにあるのか分かりますか?頭部の前方、口の上に付いている2つの窪みがまるで目のように見えますが、実はこの部分は目ではなく鼻孔です。この魚の目は、透明なヘルメット内部に脳と一緒に格納されています。そう、あの緑色をした操縦席のような形状の物体こそ、この魚の真の眼球なのです。
「デメニギス」の目の特徴とは?
この魚の目には2つの機能があります。周囲を警戒しながら餌となる生物を探す「探索機能」と、餌を追尾しながら観察する「捕獲機能」です。深海魚は太陽光がほぼ遮断された暗い場所で暮らしているために視覚が衰えている種類も少なくありません。
そのぶんだけ触覚や嗅覚が発達しておりそれらの感覚に頼って生きている深海魚も存在します。古くは、この「デメニギス」もそんな特徴をもっているのではないかと誤解されていました。
「デメニギス」の目は可動式
この魚の目がまるで上方に固定された操縦席のような外見をしていることから、「深海から上方向のみしか視認できない魚」として誤解されてきたわけですが、生体で捕獲されることがほぼ皆無だったのも手伝ってなかなか真相が明らかにならなかったのです。
しかし、深海探査技術の発達によって生体の観察が可能になったことで、「デメニギス」の目が実は可動式で上方向から前方向、横方向にぎょろりと移動できることが判明しました。