仏の座と呼ばれる植物について
仏の座(ホトケノザ)は赤紫~ピンクの花をつける、春先によく見かけられるポピュラーな野草です。小さくあまり目立たない花ですが、よく見るととても可憐な姿をしています。
また、仏の座というと、春の七草を思い出しますね。しかし、1月7日の七草の節句にお粥で食べられているのはこの仏の座ではありません。七草のお粥で食べられている植物の正式な名前は「コオニタビラコ」です。
ポピュラーな仏の座「ホトケノザ」
「仏の座」として広く知られているホトケノザは、ユーラシア大陸を中心に世界中に広く分布するシソ科の植物です。繁殖力が強くさまざまな場所で見かけることができるので、雑草というイメージをお持ちのかたも多いのではないでしょうか。
春の七草に入れられている仏の座とは別の植物ですが、間違えてお粥にされてしまうことも多々あるとか。筒状の花を萼(がく)から抜き取り、根元を吸うようにすると甘い蜜を味わえる特徴でも知られる植物です。
春の七草の仏の座「コオニタビラコ」
コオニタビラコは湿地を好むため水田によく生息し、水田雑草に数えられるキク科の植物です。直径1cmほどの一重のタンポポに似た花を咲かせます。近年では数が減少していてポピュラーな野草ではありませんが、七草のお粥で食べられているのは本種です。
お粥で食べられる七草摘みの時季には、葉を放射状に広げ地面にぴったりとくっついて寒さをしのいでいます。その放射状の葉姿が仏の座に似ているため仏の座という通り名で呼ばれるようになりました。
ホトケノザとコオニタビラコの違い
標準和名 | ホトケノザ | コオニタビラコ |
分類 | シソ科オドリコソウ属 | キク科ヤブタビラコ属 |
花色 | 赤紫~ピンク | 黄 |
発生場所 | 庭、畑、道端など | 水田などの湿地 |
ホトケノザとコオニタビラコの違いをまとめました。こうしてみると全く違う植物のため間違いようがないようにも思えますね。しかし越年草であるために、七草の節句のある早春に葉をつけているという部分が共通しています。
仏の座の名前の由来
仏の座という名前は仏の座る蓮華座(れんげざ)に由来しています。蓮華座については、仏像が置かれている台座の意味であるというとイメージしやすいでしょうか。仏教において重要な意味を持つハスの花をかたどったもので、蓮台や蓮座とも呼ばれます。
仏の座の名前の由来は葉の形から
ホトケノザが仏の座と呼ばれる由来は、茎の先端の葉をよく見ると分かります。仏の座の葉は茎を中心に2枚の葉が対称につくのが特徴です。葉は半円形で、茎の先端のほうでは葉柄がなく茎からじかに葉が出ています。茎をぐるりと囲んだ葉は、本当に仏さまの台座のようです。
仏の座の別名と由来
三階草(サンガイソウ)
仏の座の先端の花がつく節はだいたい三段前後の層になっています。この姿が三階建ての建造物に見えるというのが、三階草という別名の由来です。
三界草(サンガイソウ)
三界(さんがい)という言葉は仏教の思想で生物が輪廻を繰り返す世界の意味です。三界は縦に重なっていて下から欲界・色界・無色界という3つの世界があり、上に行くほど精神的に上位の世界になります。仏の座の層状の節をこの3つの世界になぞらえたことが、三界草という別名の由来です。
宝蓋草(ホウガイソウ)
宝蓋草という別名は、中国語での仏の座の呼び名に由来しています。宝蓋というのは仏像の頭上にある装飾付きの天蓋の意味です。確かに仏の座の円状の葉をひっくり返したら宝蓋に似ていると思いませんか?
日本では足元の台座、中国では頭上の天蓋と対照的ではありますが、仏像の装飾が由来であるという点で共通しているのが興味深いですね。
仏の座(ホトケノザ)の特徴
仏の座(ホトケノザ)の基本情報
和名 | 仏の座(佛座) |
学名 | Lamium amplexicaule |
英名 | henbit |
分類 | シソ科オドリコソウ属 |
分布 | 日本、ユーラシア大陸、アフリカ北部 |
草丈 | 10cm~30cm |
花期 | 3月~6月 |
仏の座(ホトケノザ)はどんな植物?
花の特徴
茎の先のほうにある葉の根元から、赤紫やピンク、ごくまれに白色の唇形が特徴的な花をつけます。唇形とは筒状の花弁が先のほうで上下ふたつに分かれ、唇のように見える形状のことです。
唇形の花弁の下側はよく見ると2つに裂けていてます。花弁に見える濃い紫色の斑点は昆虫を呼び、受粉をうながすためのものです。
茎葉の特徴
仏の座の葉は対生葉序(たいせいようじょ)といい、茎を中心にして前後、または左右対称に葉がつきます。上部の葉には柄がなく、下部のほうの葉にはひょろっと長い柄があるというのが特徴です。葉のふちは丸みのある鋸歯になっています。
茎を切断すると、断面が四角です。茎が四角形なのはシソ科の特徴で、対生に葉をつけるうえで安定するためといわれています。
生態
仏の座は、日本では北海道以外の全土に分布しています。秋に発芽し冬越しをして春に花を咲かせる越年草なので、耐寒性は強いです。日なたを好みますが半日陰でも問題なく育ちます。
花をよく見てみるとつぼみのまま開かない花が見かけられますが、これは閉鎖花といい自家受粉して種を作るためのものです。基本は昆虫に媒介してもらい受粉して子孫を増やしますが、昆虫が来ないときの保険の意味で閉鎖花が存在します。
仏の座は蜜が味わえる
仏の座の花姿と名前が一致しなくても「春に咲く紫色の、蜜が吸える花」というとピンと来るかたは多いのではないでしょうか。仏の座は萼から花を抜いてその根元を吸うと、ほんのりと甘い蜜の味がするのも大きな特徴です。
レンゲやサルビアもそうですが、甘い蜜が味わえる植物には子供心をくすぐられましたね。
仏の座の花言葉
仏の座の花言葉は「輝く心」「調和」で、蓮華座に座る仏さまのイメージから発生した、仏教にちなんだ花言葉です。
仏さまはすべての生命から苦しみを取り除き、幸福を与えたいと考える心を持つといわれています。救済される側の人々からは、その心が輝かしいものと考えられたのでしょう。また、仏教ではすべての生命が平等であるため、調和が大切であると考えられているそうです。
仏の座(ホトケノザ)は有毒?食べられる?
仏の座は有毒ではない
仏の座は食用向きの植物ではありませんが、食べることは可能です。しかし「仏の座は有毒植物である」という記述があちこちで見られます。
しかし、七草のコオニタビラコと間違えてお粥で食べられてしまうことが多い割には、中毒を起こしたという話は聞かれませんよね。本当に毒草であれば、七草の時季には間違ってお粥に入れないよう、注意喚起がされるはずです。子どもが蜜をなめることも危険だと止められるでしょう。どうして仏の座は有毒とされるのでしょうか。
仏の座が有毒と誤解される理由①成分
仏の座の葉にはイリドイド配糖体という成分が含まれています。イリドイドは植物が虫などから食べられないように体内で生成する化合物です。仏の座以外でも、多くの植物に含まれています。
本来は人間にとって有毒ではありませんが、虫にとって有毒であるという情報がどこかで誤解され、広まってしまったのでしょう。
イリドイドとは
イリドイドは主に植物が持つ防御物質です。植物は動物のように移動できないため、体内で天敵に害になる化学物質を生成して身を守っています。
植物の天敵である昆虫などには有害な成分です。しかし人体にとっては有効な作用があり、薬用として研究されるものも多くあります。健康茶で知られる杜仲やオオバコ、センブリなどもイリドイドが含まれる植物です。
仏の座が有毒と誤解される理由②姿の似た毒草
上の写真はムラサキケマンというケシ科の植物です。花の形状がホトケノザに似ていて、花期も近いことから間違われることがあります。全草にアルカロイド系の毒が含まれており、食べてしまうと嘔吐や呼吸困難、心臓麻痺などを起こす恐れがあるので注意が必要です。ただ、それほど毒性は強くなく死亡例は確認できませんでした。
仏の座とムラサキケマンの見分け方
仏の座とムラサキケマンを見分けるのによい部位は、葉の形です。仏の座の葉がふちに鈍い鋸歯のある半円形であるのに対し、ムラサキケマンの葉は羽状に裂ける形をしています。ヨモギの葉を少し華奢にしたような雰囲気です。
また、ムラサキケマンを傷つけて出た汁は悪臭がします。仏の座は青臭いくらいで悪臭はありません。汁が手についてしまったらしっかり手を洗い、そのままの手で食事をしないようにしましょう。
ホトケノザはどんな味?
ホトケノザを食べた感想でよく見られるのは「これといって味がしない」というものでした。また、シソ科の植物のわりには青臭く、シソのような特徴的な香りもしません。生食の場合は「硬いので飲み込みにくい」「苦みがある」といった感想も見られました。
まずくはないが、美味しくもない。特にまた食べたいという気持ちも湧かないのだそうです。もちろん、人の好みはそれぞれなので中には美味しいという意見もあります。
こんな不味い者を好んで食わなくても外に幾らも味の佳(よ)い野草がそこらにザラに在るでは無いか。
仏の座は生薬として活用されている
仏の座は毒草ではないどころか、むしろ薬草です。先に別名としても紹介した宝蓋草という名前で、生薬として用いられています。しかし「薬も過ぎれば毒」ということわざが意味するように、薬効のある植物は大量に食べると身体によくない作用が起こる可能性があることを心に留めておきましょう。
もちろん、コオニタビラコと間違えてお粥で食べてしまった、という程度の量であればまったく問題ありません。
仏の座(ホトケノザ)の食べ方
仏の座は食材として一般的ではありませんが、自然愛好家の中には好んで食べるかたもいます。仏の座を食べるうえでネックになるのは苦みと硬めの食感なので、食べ方で工夫してみましょう。葉や茎を生で食べたい場合は、花が咲いたあとよりも前のほうが柔らかく比較的食べやすいです。
仏の座おすすめの食べ方
おすすめの食べ方①天ぷら
まず最初のおすすめの食べ方は天ぷらです。高温で揚げることで苦みやえぐみのもととなるアクがなくなります。硬くなってしまったシソの葉なども天ぷらにすればサクサク食べられることから、ホトケノザの硬さも気にならなくなるはずです。仏の座に限らず、天ぷらは野草の特徴に適した食べ方といえます。
おすすめの食べ方②スープやサラダの彩りに
もうひとつは、花弁だけを生のままスープやサラダ、スイーツなどにトッピングする食べ方です。苦みや青臭さが苦手、というかたは茎や葉は使わず花だけ摘んで使用しましょう。
いわゆるエディブルフラワーほどの華やかさはありませんが、素朴でかわいらしい雰囲気に仕上がります。花だけを食べると蜜の甘い味がほんのり感じられるとか。野草初心者にもおすすめの食べ方です。
野草が好きならシンプルな食べ方で
野草や山菜が好き、苦いものが苦手ではないというかたは、生やさっと茹でただけのおひたしなどで食べてみましょう。仏の座本来の風味が味わえるはずです。野の草なので、生で食べる場合はしっかり洗って汚れを落とすようにしてくださいね。
仏の座は俳句でも親しまれている
仏の座は俳句の季語として用いられ、俳句誌などには仏の座を詠んだ句がたびたび登場しています。しかし「仏の座」という季語はホトケノザの意味だけでなく、七草のコオニタビラコの意味で俳句に使用されることもあるのです。したがって単語だけでなく、俳句全体の情景や季節感でどちらかを判断します。
仏の座は新年と春の季語です。新年を意味する俳句であればコオニタビラコ、春を意味する俳句であればホトケノザと推察します。
仏の座花あるうちは引かずおく
雪の田に手鍬がおこす仏の座
春の野で仏の座を探してみよう!
仏の座について名前の由来や特徴などを紹介しました。ホトケノザは食用向きではなく七草のお粥の具材にはなりませんが、花はとても可憐です。移動やウォーキングの際には、足元の小さな花に目を向けてみるのも素敵ですよ。ぜひ仏の座を見つけてみてくださいね。
野草を採取する際には注意
仏の座は毒性がなく食べられる野草ですが、育つ環境によっては有害な成分が含有・付着している可能性があります。食用で採取する場合は周辺環境に注意しましょう。また、くれぐれも別の植物と間違ってしまわないよう注意してください。
また、いくら野草とはいえ他人の土地のものは他人の所有物です。採取したい場合は事前に許可を取ることをおすすめします。
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出典:photo-ac.com