どんぐりは昔から食べられていた
縄文時代の大昔から日本人はどんぐりを食べてきました。飢きんや太平洋戦争などの食糧難のときも、東北地方では重要な栄養源として食べられてきたのです。デンプン質が多く、脂肪などの栄養素も豊富なため、クマが冬眠前にどんぐりをたくさん食べるのは理にかなっています。
そのまま生食できる椎の実(シイノミ)だけではなく、アク抜きの下処理をすれば食べられるどんぐりの種類を知っておけば、森歩きが一層楽しくなりそうです。
どんぐりの栄養価
どんぐりのデンプン(炭水化物)含有量は68%もあります。18%が脂肪で、タンパク質が6%のほかビタミンAとCも。さらに、体内に蓄積されるカドミウムなどの重金属を排出するアコニック酸という成分も含まれていることがわかっています。
ちなみに食通の間で有名なスペインのイベリコ豚は、どんぐりで飼育されているんですよ。縄文時代から食べられてきたどんぐり、とても優秀です。拾わないなんて、もったいないですね。
キャンプでどんぐりを味わう!
最近ちょっとしたブームなのが、キャンプなどのアウトドアでどんぐりを探して食べること。キャンプ場で調理するほとんどの食材はスーパーで買ってきますが、キャンプ技術・知識としてどんぐりを探して食べるのも、アウトドアの醍醐味がグーンと上がるはず。
生食できる椎の実が拾えるスダジイやマテバシイが近くにあるキャンプ場だとベストですね。どんぐりについての情報を新しいキャンプ技術・知識のひとつとして仕入れましょう。
そもそも、どんぐりって何?
どんぐりは、広い意味では「ブナ科の果実を指す名称」です。ややこしいですが、狭い意味では「クリやブナ、イヌブナ以外のブナ科の果実」を指します。さらにいうと、「樫の木の果実、椎の実、コナラやミズナラ、クヌギなどの果実のこと」をまとめて「どんぐり」を指しているのです。
同じブナ科の果実でも、どんぐり以外の名前を持つ植物もあります。代表的なのがクリで、椎の実やナラの実もどんぐりの種類に含まれるのです。
どんぐりを大別すると4種類
日本のどんぐりは22個もあり、すべて食べるのはOKですが、似ているため種類の見分け方が非常に難しいのです。どんぐりを食べるための見分け方のよい方法は、樹木や葉っぱから判断すること。
ブナ科のどんぐりは、種類ごとの「属」に分けられます。「シイ・マテバシイ属」・「コナラ属」・「ブナ属」・「クリ属」などです。見分け方としては少し複雑ですが、美味しいどんぐりを食べるため、この4種類は覚えておきましょう。
どんぐりによく似ている果実
ブナ科の樹木ではありませんが、見た目がよく似た特徴を持つ種類に、下処理して食べると美味しいトチノミ(トチノキ科・ムクロジ科)や、そのままでも美味しいヘーゼルナッツなどで知られるハシバミ類の堅果(けんか:「果皮が硬い」という意味)があげられます。
特徴が似ているため見分け方が非常に難しいですが、ミニ知識としてトチノミとヘーゼルナッツはどんぐりではないと覚えておきましょう。
どんぐりの下処理の仕方
シイ・マテバシイ属はそのまま生食がOKですが、他の種類のどんぐりは食べる前にアク抜きの下処理が必要。シイ・マテバシイ属以外のどんぐりには、タンニンと呼ばれる渋み成分が多く含まれているのです。
野生のクマはどんぐりをそのまま生食しますが、人間はとても食べる気になれません。どんぐりを美味しく食べるためのアク抜きは5ステップで、意外に簡単です。シイ・マテバシイ属でもアクが気になる人は下処理をしてください。
食べる方法①選り分ける
どんぐりを拾ってきたら、表面についている汚れを水で洗って取り除き、水を張ったボールに入れます。虫に食われたどんぐりは軽くなっているため、時間が少し経つと自然に浮くので選り分けてください。
どんぐりを食べる虫は限られており、無害なクリシギゾウムシしかいませんが、やはり気持ちよくないので食べる前に取り除いておきましょう。
食べる方法②茹でる
鍋にたっぷりの水を入れて、沸騰したらどんぐりを入れます。火加減は、どんぐり同士がゴトゴトとぶつかる音が出るくらいの中火にし、10分ほど煮ます。茹でる時間が長くなると割れやすくなるのでご注意ください。重曹を入れることで、よりアクが取れやすくなるのでおすすめです。
食べる方法③天日干しする
茹でる作業が終わったら、数日間天日干しをします。天日干しのコツは、大きなザルか広げた新聞紙、乾物用ネットにどんぐりが重ならないように敷くこと。
しっかり干すことで乾燥し、外皮の堅果が自然に割れて中の渋皮も剝きやすくなります。天日干し以外の方法は、食品乾燥機(ディバイドレーター)でカリカリになるまで乾燥させるのもOKです。乾燥させたどんぐりの実は、真空状態にして冷蔵保存すれば一年間はキープできます。
食べる方法④皮を剥いて粉にする
どんぐりの下処理で大変に感じるのは、一個一個の外皮と渋皮を剥くことです。クリの皮剥きの経験がある人はお分かりでしょうが、量が多いと気が遠くなるように感じられる作業です。どんぐりを美味しく食べることを目標に、音楽でも聴きながら作業しましょう。
どんぐりがしっかり乾燥していれば先端が割れてくるので剥きやすくなり、作業の手間が減ります。皮を剥いたあとは、コーヒーミルなどを使って粉状に細かく砕きます。
食べる方法⑤水にさらしてアク抜き
シイ・マテバシイ属は、このあとのアク抜き作業は必要ありません。どんぐりを粉状にしたら空き瓶に入れて水を浸し、しっかりかき混ぜたら一昼夜置いておきます。
この作業をアクが消えるまで繰り返しますが、容器の水が無色透明になるまでしなくても問題ありません。少しアクがあるほうが、食べるとどんぐりの風味を感じられるのでおすすめです。アク抜きをしたあとは40℃以下で乾燥させて、どんぐり粉の出来上がり。
どんぐりの種類別調理法の注意点
どんぐりのアク抜きなどの下処理が終わったあとは、お好みで調理しましょう。どんぐりは種類によって調理法が大きく変わるわけではありません。
シイ・マテバシイ属はそのまま生食でもOKですが、ほかの種類のどんぐりは基本的に同じ調理方法で食べれるので問題ありません。まず、いろいろなどんぐりの大まかな調理法と見分け方をご紹介します。
シイ・マテバシイ属どんぐりの食べ方
そのまま生で食べることがOKなどんぐりの種類は、シイ・マテバシイ属のスダジイ(一般的に「椎の実」)やマテバシイなど。シイ・マテバシイ属どんぐりは、ほとんどが食べるためのアク抜きの下処理をする必要がありません。
この種類は、茹でる・炒めるなどの食べるための簡単な調理だけで充分に美味しいといわれています。中にはそのまま生で食べる人もいます。森歩きで見つけると、すぐに食べたい誘惑にかられるかもしれません。
①「スダジイ」の見分け方
「椎の実」という場合はスダジイのことをいいます。自生地は、新潟県より西の地域。外見的な見分け方は、形は三角錐で、「殻斗」がなく、全体は「堅果」で覆われています。特有の個性は、熟すと先が3つに裂けます。
それ以外の見分け方は、樹皮に細い切れ込みが入っていること、葉裏に灰褐色の毛があることです。樹齢500年超の巨木になることもあり、寿命の長いスダジイを御神木として植える神社もあります。
②「マテバシイ」の見分け方
マテバシイは、スダジイと同じようにアク抜きなどの下処理をしなくても、そのまま生食でもOKのどんぐりです。おすすめの食べる方法は、細かく砕いて天日干ししたものでどんぐり粉を作り、クッキーなどのお菓子に入れて食べるのです。
外見的な見分け方は、形は細長い弾丸型で、葉にツヤがあること。樹皮は緑色が強い暗褐灰色で、さわり心地がなめらか。葉はブナ科の中で最大で、大きいものは20センチメートルにもなります。
ブナ科コナラ属どんぐりの食べ方
ミズナラやクヌギなどの種類があるコナラ属の代表的な種類は「ミズナラ」や「クヌギ」「樫の木」など。公園や山野で見かけることが多く、一般的にどんぐりというとコナラ属の果実を指します。しかし残念なことに、アクの成分であるタンニンが多く含まれていることから、生食には不向きです。
食べる場合は、茹でるなどのアク抜きの下処理をした上で調理してください。粉末にしてクッキーに入れて食べるのがおすすめです。
①ミズナラの見分け方
ミズナラは日本全国の広い地域で自生しており、最も知られているどんぐりです。ミズナラの果実は小さいため、あまり食べることはないようですが、たくさん成るので食べるのもよいでしょう。アク抜きの下処理をしっかりしてから調理し、どんぐり粉などにしてから食べるようにしてください。
かわいらしい帽子の「殻斗」があり、葉っぱの縁がぎざぎざのため、ミズナラの見分け方はとても簡単です。
②クヌギの見分け方
クヌギの自生地は岩手県以南のため、東北の一部や北海道では観られません。しかしシイタケ栽培のほだ木に使われることから、日本人にとっては馴染みがあるともいえます。夏には幹から染み出す甘い樹液を食べるカブトムシやクワガタなどが集まるため、子供たちの格好の昆虫探しの目印になります。
残念ながら、アク抜きの下処理をしないと食用にはなりません。見分け方は、厚めで灰褐色の樹皮や葉の縁と殻斗がとがっていることです。
ブナ科クリ属どんぐりの食べ方
日本で一番食べるのに適したどんぐりのクリは、美味しいことや見分け方はいうまでもありません。「殻斗」(帽子のようなザラザラした部分)が無い点はシイ・マテバシイ属と同じですが、アク抜きの下処理をしてから食べるようにしましょう。
日本全国の山野で自生し、食べる方法は茹でるのが一番。甘露煮や栗ご飯、おまんじゅうや羊かんに入れて食べるとさらに美味しいですよね。日本人が大好きな、秋を代表するどんぐりです。
実を食べる幼虫は無毒
山野に自生しているクリには、クリを食べるクリシギゾウムシという幼虫が入っていることがよくあります。この虫は無毒のため、間違って食べることもありますが問題はありません。
中には「生まれてクリしか食べていないので、クリの風味がする」と、そのまま茹でるなどして食べる猛者もいます(衛生的にはおすすめできません)。クリの調理法としては茹でることが多いため、食べるときはあまり神経質にならなくてもよいでしょう。
ブナ科ブナ属どんぐりの食べ方
ブナ属には、主にブナとイヌブナがあげられますが、食べるための利用価値が高いのはブナのほうです。気候が温暖な地域で自生するため、日本のブナ北限地は北海道の黒松内です。
アクが少ないため、かつては、茹でる・炒める・油を搾るなどをして食べることがありましたが、今では食べる習慣がなくなりました。見分け方は、葉の縁がクルンと丸くなること、灰褐色でなめらかな樹皮、熟すと果実の殻斗が裂けることがあげられます。
美味しいおすすめどんぐり料理
椎の実はそのまま生食できるので、どんどん探してみましょう。また、どんぐりを粉にすることでいろいろな食べ方ができます。基本的な考え方はクッキーやパン、ゼリーなどの通常の調理方法にどんぐりの粉を加えるだけで食べれるのです。
どんぐりの風味を残したいときは、小麦粉やバターなどの分量を控えめに。工夫次第でオリジナルの食べ方が生まれそうです。どんぐりを美味しく食べるため、いろいろ試してみてください。
椎の実は軽く炒めるだけ
洗ったどんぐりを水気を切って厚手のフライパンで乾煎りします。どんぐりの殻にひびが入るまで鍋を揺すり続けてください。キャンプでは焚火にかけたフライパンをゆっくり炒めるのが楽しいですよ。もっと簡単なのは電子レンジで、封筒に入れるか新聞紙にくるんで加熱するだけ。
食べる前に殻を剥いていただきますが、冷えると硬くなるのでご注意ください。シイ・マテバシイ属のどんぐりは、アツアツのホヤホヤが食べごろです。
材料/椎の実 ひとつかみ(またはお好みの量)
詳しい作り方はクックパッドで
どんぐりクッキー
どんぐりクッキーは、一番ポピュラーなどんぐりの食べ方です。小麦粉やバターを加えることで、どんぐりのえぐみが薄まります。お好みでクルミやレーズン、バナナなどを入れるのもおすすめ。
調理法は通常のクッキーと同じで、方法はいろいろあります。どんぐり粉だけで小麦粉を使わないレシピは、黒砂糖との相性も抜群だそうですよ。食べると素朴な見た目と味わいがし、縄文時代の記憶がよみがえるかも?
材料/どんぐり粉(スダジイ)100g・黒砂糖25g・バター40g強・全卵0.5個
詳しい作り方はクックパッドで
どんぐりゼリー
どんぐりの食べ方で最近人気なのは、朝鮮料理の「トトリムク」です。「どんぐりゼリー」のことで、韓国では市販用の粉も売っているほどの人気。
調理法は簡単で、通常のゼリーと同じ要領です。鍋にどんぐり粉・水・塩・サラダ油を入れて火にかけ、固まってきたら火からおろします。バットなどの浅くて広い容器に移し、冷蔵庫で冷やし固めます。ニンニクを加えた砂糖じょう油のタレをかけて食べると、さらに美味しい一品になります。
材料/どんぐり粉25g・水250㏄・しょう油 大さじ1・砂糖 大さじ1/2・ゴマ油大さじ1/2・ゴマ5g 小さじ1・細ネギ小口切り 小さじ1
詳しい作り方はクックパッドで
どんぐりコーヒー
ノンカフェインのどんぐりコーヒーは、天然100%です。どんぐりはやはり、アク抜きの下処理が要らないマテバシイなどの椎の実がおすすめ。
300gにのどんぐり粉から174gのどんぐりコーヒー粉ができたことから、お茶パック10gに500㏄の水で2杯分。300gのどんぐりコーヒーで30杯分は取れるとの計算。キャンプ技術・知識としてぜひ試してみましょう。
材料/どんぐり(マテバシイ)300gほど(殻剥きしたもの)・水500㏄
詳しい作り方はクックパッドで
公園に行ったらどんぐりを拾おう!
ブナ科の果実のどんぐりは、ほとんどの種類が食べる前にアク抜きの下処理をすることで食用になります。多くは粉状にして、小麦粉などに加えてクッキーやパンに調理します。
そのまま生で食べると美味しいのは、シイ・マテバシイ属の椎の実。軽く茹でるか炒めるかなどをすると、どんぐりのえぐみが食べるときにほのかに香り、素朴な味わいがします。秋になったら、食べると美味しいどんぐりを見つけに公園にお出かけください。
どんぐりを栽培したい人はチェック!
どんぐりは拾ってきたものも美味しいですが、自分で栽培したものを食べると、もっと美味しいはず。自宅に庭がある人は思い切って栽培してみましょう。詳しい栽培方法が紹介されているのでご参考にしてくださいね。
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