トリカブトの花は庭で栽培できる
トリカブトの最大の特徴として、毒があることから栽培禁止と思いがちですが、日本では特に規制はありません。観賞用に園芸品種が販売されており、園芸品種はハナトリカブトといいます。名前のとおり花が大きくまとまっているため、切り花の状態で販売されるほどの人気です。ただしハナトリカブトの全草にも毒性があるため、絶対に口に入れないなど、取り扱いには注意して花の美しさを楽しみましょう。
トリカブトの花:名前の由来
和名の由来
和名のトリカブトは、ぷっくり丸く膨らんだ紫色や濃いピンク色などの花の形が、雅楽の舞で使用する兜(かぶと)に似ていることから名づけられたようです。名前の由来はもうひとつあり、鶏のトサカに似ているからという説もあります。いずれにしても頭に関することが由来になっており、特徴的な形の花が、実際に重い帽子をかぶっているように見えることでしょう。
英名と学名の由来
トリカブトの英名は「monkshood」で「僧侶の頭巾」という意味があり、和名と同じように特徴的な花の形から名づけられていることがわかります。トリカブトの学名は「Aconitum」(アコニチウム)ですが、毒素を示すアコニチンのことを指しているのです。学名は機能的な理由で名づけられているため、すぐに有毒性植物ということが判断できます。
ヨーロッパでは庭に埋めてはいけない
ヨーロッパでトリカブトは、ギリシア神話の魔術を司る女神ヘカーテの花とされ、庭に埋めてはいけないと伝えられています。別な言い伝えとして、トリカブトは地獄の番犬ケルベロスのよだれから生まれたということから、オオカミ伝説とも関連付けられているようです。いずれも人間を近づけないようにするための伝説ですが、実際に毒性植物のため合理的といえます。
トリカブトの花:毒性と漢方薬
全草に毒がある
トリカブトには花や葉、根、花粉などの全体に毒があり、特に根が強毒といわれています。ドクゼリやドクウツギと併せて日本三大毒草に数えられるほどの毒性です。かつて北東アジアやシベリア圏では、アイヌ民族やイヌイット民族が根の部分を矢に塗って狩猟に利用していたそうです。天然ハチミツによる中毒例も報告されており、養蜂家は、トリカブトが自生する場所ではハチミツを採取しないか、開花時期を避けて作業しています。
漢方薬として活用されている
毒のあるトリカブトですが、現在は毒性を弱めることで漢方薬として有効活用されています。利尿促進や鎮痛、炎症を抑える効果があるとされ、根の部分を乾燥させたものが「附子」(ぶし)という名前で使用されています。ほかにも烏頭(うず)や天雄(てんゆう)として、八味地黄丸(はちみじおうがん)や甘草附子湯(かんぞうぶしとう)などに含まれ、身体の不調を整えるために役立てられているのです。
トリカブトの花:外見的特徴
茎の高さ
長さ2~3センチメートルのぷっくり膨らんだ形の花が、垂れ下がった茎の先端に穂のように付いているのが特徴です。丈は主に20センチメートルほどですが、種類によっては150センチメートルほどになるものもあります。あまり大きくなるものは手間がかかるため、鉢植えにしたり庭に植えたりするときは、鉢の置き場所や庭のデザインを考えてから種類を選びましょう。
花の色と形
花のように見える兜のような部分は萼(がく)で、そのなかに収まっているのが白や紫、濃い目のピンクの花弁なのです。兜のような形をしている理由は、ミツバチが効率よく受粉できるためといわれています。花の色は、白や濃い目のピンクなどもありますが、濃い紫色が一番多く自生しています。園芸品種は、紫や濃いピンク以外に、白いものや色変わりのものや斑入りのもの、花付きのよいものなど種類豊富です。
葉と茎の形
切れ込みのある形の葉も特徴的で、種類によって形や切れ込みの深さが異なります。花の形とともに葉の形が特徴的なことから、トリカブトのあやしげな魅力が増しているようです。葉の形は食用できるニリンソウと間違いやすいため、特に開花前である春の季節は注意が必要です。茎は立ち上がっていますが、垂れ下がったものやつる性のものもあります。堂々と山野で咲いている様子からは、力強さも感じられることでしょう。
トリカブトの花:生態と開花時期
生態
日本のトリカブトは30種類以上が発見されており、低山から明るい森林や草原の亜高山帯で、少し湿った肥沃な土で自生しています。原産地は北半球の温帯から亜寒帯地域で、耐寒性が強いので日陰でも育ち、反対に耐暑性にはやや弱いのです。北海道の大雪山国立公園などでは、晩夏の季節、明るい斜面に生えています。園芸品種の栽培難易度としては普通で、多年草のため環境さえ整えれば、大きな手間をかける必要がありません。
開花時期
トリカブトの一般的な開花時期は割と長く、晩夏の季節の8月から開花し、長いものでは秋の季節となる10月中旬ころまで楽しめます。山野に自生しているものは、北海道の道央地域は8月がピークです。早いものでは初夏から、遅いものでは初秋までと長い季節をかけて開花します。園芸品種を育てれば、一度開花するとしばらく美しさを堪能できることでしょう。
トリカブトの花:花言葉
とても特徴的なトリカブトのため、花言葉が気になります。トリカブトの花言葉は、「栄光」「騎士道」「復讐」「人嫌い」「厭世家」などです。花や葉の形などの外見的な特徴や毒性があるということから、イメージに合っている花言葉ではないでしょうか。トリカブトの花の色は濃い紫や薄い紫、濃いピンク、白、黄色などがありますが、花の色によって花言葉が変わるわけではなく、すべての色のトリカブトに当てはまる花言葉なのです。
トリカブトの花:種類
世界では300種類ほどが発見されており、日本に自生するトリカブトは30種類といわれています。北海道だけでも、エゾトリカブト、ウスバトリカブト、セイヤブシ、リシリブシ、エゾノホソバトリカブト、ヒダカトリカブト、ダイセツトリカブトと豊富です。自生するトリカブトの色は濃い目の紫やピンク系が多く、薄いピンクや白、黄色いは希少なため非常に人気です。これらのなかから代表的なトリカブトの品種を紹介します。
ヤマトリカブト
日本の関東地方の太平洋側から中部地方にかけて、低山の林の縁や草原に自生しています。開花時期は9月から10月の秋の季節で、写真のような薄い紫色を始め、濃いピンク色もあります。葉の形は5~7裂に切れ込んでいるのが特徴です。草丈は100~150センチメートルと高く、日本のトリカブトの中では大ぶりです。日本でトリカブトといえばこのトリカブトを指します。花言葉の「栄光」にふさわしい美しさです。
オオサワトリカブト
富士山に多く見られるなど、亜高山帯の岩の多い草原や崩壊地で自生します。開花時期は8月から9月の夏の季節で、写真のように薄い紫や濃いピンク色もあります。葉は3裂に深く切れ込み、さらに1回切れ込むため5裂に見えるという複雑さです。薄い紫色の斑入りの個体が人気で、園芸品種として販売されています。この種類も華やかで、「栄光」という花言葉がぴったりです。
ダイセツトリカブト
大雪山国立公園で多く自生するなど、亜高山帯の草原で見られます。開花時期は8月と、北海道の短い夏の季節に一斉に開花するため、登山者はすぐに濃い紫色のトリカブトを登山道で見つけられることでしょう。葉は5つに深く裂け、さらに細かく切れ込んでいるため繊細な姿です。園芸用に白い色の品種が販売されています。
エゾトリカブト
アイヌ民族やイヌイット民族が狩猟に用いたされている品種で、東北から北海道の山林や草原、沢沿いに自生しています。開花時期はダイセツトリカブトと同じく8月から9月と短く、濃い紫色のトリカブトが一斉に開花するため探すのは簡単です。葉は3つに裂けてさらに2つに深く裂けています。よく観察すると「復讐」という花言葉がふさわしい、あやしげな魅力が感じられます。
トリカブトの花:植物栽培・育て方
栽培環境・日照条件・置き場所
少し湿った明るい場所を好むトリカブトは、鉢植えの場合は午前と午後の日差しによって置き場所を変えます。午前中は日なたに置いて午後は明るい日陰に置くことで、紫やピンクなどの色づきもよくなり、きれいに開花するでしょう。一日を通して明るめの日陰になる場所があれば、そちらに置いても大丈夫です。6月から9月上旬の日差しが強くなる時期は、日焼けや高温障害を防ぐために50~60パーセントの遮光下に置いてください。
夏の水やり
トリカブトの特徴として、やや湿った場所を好むので、水やりは鉢植えの場合は表土が乾いたらたっぷり与えてください。乾燥しやすい夏の時期は水切れしないように注意しましょう。植物全般にいえますが、日中の水やりは株にダメージを与えてしまうため、朝または夕方だけにしてください。庭に直接植えている場合は、晴天続きで土が余ほど乾燥していない限りは、雨水だけで問題ありません。
冬の水やり
冬の時期も鉢植えで栽培している場合は、やはり表面の土が乾燥していたら水やりをしてください。夏の時期とは違ってそれほど心配しなくてもよいですが、室内の暖房で乾燥してしまうこともあるため、小まめにチェックしましょう。夏の時期も冬の時期も、トリカブトが好む、やや湿った状態をつくってあげてください。庭に直接植えている場合は、ひどい乾燥状態が続かなければ水やりをしなくてもよいです。
肥料と追肥
トリカブトを植え替えるときは、元肥のリン酸とカリウムが多めに入っている緩効性化成肥料にします。量の目安は、5号鉢の場合は一つまみほどで十分です。回数は、3月から9月までは月に2~3回で、液体肥料を1500~2000倍に薄めて追肥します。細かくいうと、3月から5月はチッ素が主体の肥料を、6月から9月はリン酸やカリウムが主体の肥料をあげてください。真夏は、3000倍程度に薄めたものを与えましょう。
鉢植え用土
トリカブトは低山から亜高山まで広く分布しており、その環境によって土質が異なります。鉢植えの場合は、トリカブトの種類の特徴に合わせて用土を準備してください。用土の種類は低山用と高山用で異なりますが、共通点が4つあります。まず、赤玉土・桐生砂・軽石・硬質鹿沼土は水でよく洗い、砕けたちりはきれいに取りのぞきます。赤玉土はしっかりふるいにかけてください。株元は花崗岩質の粗目の砂利でカバーしておきます。
低山の種類のトリカブト
低山に自生する種類のトリカブトの場合は、赤玉土か桐生砂・軽石・硬質鹿沼土の粒を同量に混ぜて植えます。乾燥しやすい場合は、軽石の配分を減らしたり、山ゴケやヤシ殻のチップを細かく砕いたものを混ぜてください。
高山性の種類のトリカブト
高山性の種類は、軽石・日向土または硬質鹿沼土、赤玉土または桐生砂の小粒を同量か、2:4:4の配合で混ぜます。園芸用品店などで販売されている山野草用の培養土も、高山性の種類にはおすすめです。
植え替え・植え付け
鉢植えの植え替えと植え付けは、根が太くなる1年後か2年後に1度してください。季節は、新芽出る直前の2月から3月上旬がベストです。ひと回り大きめの鉢を用意して植え替えるか、株分けをして増やします。地植えの場合は、増やしたいと考えた時点で株分けをして植え替えましょう。このときに、ゴボウ状のように太くなった根は傷つけないように気をつけましょう。トリカブトは強毒性のため必ず手袋を装着してください。
増やし方
トリカブトの増やし方は、「株分け」か「種まき」の2つです。株分けの季節は秋で、植え替えるときにゴボウのような太い根を取り分けますが、ハサミを使用しなくても手で自然に取り分けられます。種まきの季節も秋で、実った種を採って土にすぐにまくか、種と砂を湿らせたものを混ぜて冷蔵庫で保管し、2月にまくとよいでしょう。この作業のときに、伸びすぎた枝を軽めにせん定しておきましょう。
病気・害虫
トリカブトは毒があるため、病気や害虫には比較的強いですが、環境に影響されることもあります。湿気が多くなる季節の3月から5月にかけては、新芽やつぼみにアブラムシが発生することもあるのです。アブラムシは養液を吸うため株が弱ってしまい、開花しないこともあります。対策は、薬剤・牛乳・水を1:1:1の割合で混ぜたものを、新芽やつぼみに直接吹き付けることで駆除しましょう。
主な作業
トリカブトは、種類によって大型になるものもあります。大型になる種類のものは、成長するに従い茎が倒れやすくなり、せっかく開花したトリカブトが台無しになってしまいます。花の数が少ない場合は支柱を1本ごとに、花の数が多めの場合はあんどん支柱で囲うとよいでしょう。
トリカブトの花は意外と簡単に育てられる
トリカブトの和名の由来は、花の形が雅楽を舞うときの兜に似ているからといわれています。英名も似ており、「僧侶の頭巾」が由来です。花言葉が「栄光」「復讐」で、イメージ通りです。花の色は濃い紫やピンク色で形も特徴があり、園芸用も人気です。学名が「アコニチウム」というとおり毒があるため、取り扱いには注意してください。多年草のため、秋に種を収穫して土にまいたり鉢植えの準備をしたりして、翌年も楽しみましょう。
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