魅力的な燕岳(つばくろだけ)
燕岳(つばくろだけ)は長野県に位置し、一般には北アルプスと呼ぶ飛騨山脈に属し、槍ヶ岳、穂高連峰へ向かうアルプス表銀座と呼ぶ縦走路の起点とされています。標高は2,763m、花崗岩で形成されている山で、中部山岳国立公園に含まれます。山頂部分は特別保護区域の指定があり、新日本百名山、日本二百名山に選ばれてもいます。春の残雪の姿形が燕(つばめ)の飛ぶ姿に似ているということから付けられた山名なのです。また、コマクサの群生も見られ、数種類の高山植物の宝庫です。特別天然記念物でもあるライチョウの姿も見られます。
燕岳への登山ルートは
登山初心者が難易度レベルの高い山に登るための基礎トレーニングのコースとしても人気が高い山です。表銀座コースと呼ぶ、槍ヶ岳を目指すアルプス縦走路の起点にもなっています。日帰りコースは少なく、中房温泉からのルートがポピュラーな日帰りコースですが、烏帽子岳への“ブナ立尾根”、剱岳への“早月尾根”と並んで北アルプス三大急登のひとつとされる“合戦尾根”があり、燕山荘までの標高差が約1,300mとあって健脚者でもきつい難コースです。表銀座コースの他に大天上岳から分岐して常念岳に向かうコース、常念山脈の最北、白沢三俣を登山口に餓鬼岳を経て燕岳に至るコースもあります。
燕岳登山のルール
登山には街中とは異なった守りたいルールがあり、安全で快適な山行をする義務があります。始めて燕岳に登山する初心者は最初にルールを良く確認して臨みましょう。登山届は必ず提出します。燕岳は山頂付近は特別保護区域に指定があり、その周辺は特別区域とされています。むやみに登山道を外れて風景や花の写真を撮る行為や、危険とされる場所には踏み込まない様にします。特別天然記念物の雷鳥(らいちょう)が生息していますので、生態系を乱す恐れがあることから、他の野生動物にエサなどを与えない様にしましょう。また、ゴミなどの廃棄物はすべて持ち帰ることが原則です。登山道にはトイレがありませんので、相応の準備が必要となります。
登山初心者の注意点
登山歩行は会話ができる位に焦らずゆっくりと歩くことです。無理な日帰りはせずに1泊以上の計画を立てましょう。急斜面は登りも下りも歩幅を狭く、浮石などに注意します。特に下山路は速足になったり、駆け下りたりしてしまい勝ちですが禁物です。
足首やひざに負担が掛かりますのでゆっくり進む方がベストです。2,000mを超えると酸素が薄くなり息苦しさを覚えます。吐く呼吸を意識しながら深めの呼吸をします。水はとても貴重です。休憩時一気に飲まずに口中を潤す程度にしましょう。飲み過ぎるとトイレも近くなったりしますよ。
装備と服装
装備としては、地図・コンパスは必携。急な斜面の登りやガレ場などを歩きますのでヘルメットは必要です。ヘッドランプや緊急合図用にホイッスル、救急用品、携帯トイレ、行動食も用意。登山靴は捻挫などを防ぐために足首まで包み込む軽登山靴がベストです。
服装については経験者の意見を聞くのがベストですが、ネットで検索しても山の状況に合う服装が紹介されていますので参考にすると良いでしょう。燕岳では頂上付近での森林限界を越える登山道は、近年多くの登山者のストック使用によって、稜線の路肩が荒れ、雨などの浸食によって崩れ始めていることなどから、自然環境を守るうえでストック使用は必要最小限に留めましょう。
燕岳レベル別おすすめ登山ルート3選
1、合戦尾根~燕岳ルート【初・中級レベル】
中房温泉から、北アルプス三大急登のひとつである合戦尾根の急斜面を登り、燕山荘を経て燕岳登頂を目指すコースで、日帰り可能ですが、初心者は燕山荘に1泊することをおすすめします。中房温泉の中房・燕岳合戦尾根登山口からスタートするルートです。
初心者でも無理をしなければ安全に辿れるコースです。装備・服装を整え、準備運動をしましょう。登山口から樹林帯のなかジグザグの急斜面を登りますが、水場のある第一ベンチ、第二ベンチ、第三ベンチ、冨士見ベンチと小休憩できる個所が設営されています。
合戦尾根から燕山荘
冨士見ベンチからほどなく合戦小屋に到着してトイレ休憩などします。合戦小屋を出発して、すぐに合戦沢ノ頭に着きますが、樹林帯が切れて展望が開け、ハイマツ帯の緑と花崗岩の白さとのコントラストのきれいな山容の燕岳が望めます。
合戦尾根をゆっくり登るとクサリ場があるのですが、安全上設置されているものなので、初心者でも無難に登ることができます。クサリ場を過ぎると稜線上に建つ燕山荘が見えてきます。初心者は燕山荘に泊まってゆっくり疲れを癒しましょう。
燕岳山頂から中房温泉
燕山荘からは緩やかな歩きやすい登山道で燕岳山頂を目指します。左手には槍ヶ岳の穂先が見えたり、高山植物コマクサの群生に思わず足を止めて見入ってしまいます。白い花崗岩とハイマツの緑のコントラストが美しい山腹を登って行くと佇立する花崗岩の奇岩が目立ちます。
歩きやすい登山道ですので30分ほどで燕岳山頂到着します。山頂は狭いので登山者が多いと大変な混雑となります。山頂からは稜線沿いに北燕岳のピークが間近に見え、360度の大展望で針ノ木岳、その奥に立山も遠望できます。燕山荘に戻り、帰路は往路を辿って中房温泉に下山します。
アクセスルートDATA
登山口へのアクセス | 【中房温泉】 JR大糸線穂高駅よりバス利用約1時間15分 車:長野自動車道安曇野ICより約60分 |
登山ピーク時期 | 7月~9月 高山植物見頃:7月下旬~8月上旬 |
山行 | 日帰り 難易度レベル:☆☆☆★★ |
アクセス情報 | 距離:10.2km 累積標高差:上り・下り1,673m 地図上総コースタイム:約8時間 |
コースタイム | 中房・燕岳登山口スタート⇒(70分)第2ベンチ⇒ (110分)合戦小屋⇒(70分)燕山荘⇒(30分) 燕岳山頂⇒(30分)燕山荘⇒(50分)合戦小屋⇒ (70分)第2ベンチ⇒(50分)中房温泉ゴール |
2、東沢乗越~燕岳ルート【中級レベル】
中房温泉を起点に中房川沿いに進み、餓鬼岳への分岐点である東沢乗越を経て燕岳に登頂後、合戦尾根を下って中房温泉に戻る周回コースです。コースタイムは10時間ほど掛かりますので日帰りは難しく、初心者には難易度が高いでしょう。
中房温泉登山口を出発。少し老朽化した吊り橋を渡り、中房川に沿いながら、あまり良く整備されていない笹薮の登山道を進みます。沢を渡渉する場所が数箇所あり、岩に目印が付いている所を注意しながら渡ります。
ブナ平から東沢乗越
鉄パイプで作られた橋を渡り、樹林帯の道を進むとブナ平と呼ぶ平坦な場所に出ます。途中崩落している道に注意しながら樹林帯を下り、斜面がきつく滑りやすい奥馬羅尾沢を渡り終えて、斜面の巻き道を登りきり、今度は少し下ると北燕沢の出合に到達します。
北燕沢出合から沢の左岸に沿って進み、沢筋の堰堤を登り渡ると、また沢を渡って左岸に戻り、沢筋や樹林帯のなかの道を繰り返し進み、西大ホラ沢出合に出ます。ここから樹林帯のなかの急登となり、ザレ場など歩きにくい急斜面を登って東沢乗越分岐に着きます。
東沢乗越から北燕岳
餓鬼岳への分岐点となる東沢乗越からしばらくは樹林帯の道を登ります。針葉樹林帯から広葉樹に変わり南方向に燕山荘が見えます。崩壊地の縁のザレ場を登り、高山植物とハイマツ帯を進み、ハシゴを登りきって燕岳への稜線に出ます
稜線の先に北燕岳が見え、またその先に槍ヶ岳の穂先が望見できます。ハイマツ帯の登山道を進み、花崗岩で造形された幾つもの岩がそそり立っているのが見られます。北燕岳の東側斜面をトラバースして進み山頂への道標から北燕岳へ登頂します。
燕岳から合戦尾根
ハイマツとコマクサの群生している緩やかな稜線を燕岳山頂へと向かいます。眼下の燕山荘の先に、大天井岳から東鎌尾根を経て槍ヶ岳へ続く表銀座縦走路の稜線が見られるでしょう。山頂からの山々の絶景を楽しんだら燕山荘に着き宿泊します。
燕山荘からは合戦尾根を辿り、合戦小屋でトイレ休憩後、冨士見ベンチからの急斜面を注意して下り、第3、第2、第1ベンチと小休憩を挟んで進み中房温泉に下山します。温泉でゆっくりと登山の疲れを癒すのも良いですよ。
アクセスルートDATA
登山口へのアクセス | 【中房温泉】 JR大糸線穂高駅よりバス利用約1時間15分 車:長野自動車道安曇野ICより約60分 |
登山ピーク時期 | 7月~9月 高山植物見頃:7月下旬~8月上旬 |
山行 | 1泊2日 難易度レベル:☆☆★★★ |
アクセス情報 | 距離:12.5km 累積標高差:上り・下り1,633m 地図上総コースタイム:約10時間10分 |
コースタイム(1日目) | 【約7時間20分】 中房温泉スタート⇒(80分)ブナ平⇒(80分)西大ホラ沢出合⇒(90分)東沢乗越⇒(110分)北燕岳⇒ (50分)燕岳山頂⇒(30分)燕山荘(泊) |
コースタイム(2日目) | 【約2時間50分】 燕山荘⇒(50分)合戦小屋⇒(70分)第2ベンチ⇒ (50分)中房温泉ゴール |
3、餓鬼岳~燕岳ルート【上級レベル】
白沢三股登山口から餓鬼岳に登り、東沢乗越を経て燕岳に登頂。合戦尾根から中房温泉に下山する2泊3日の本格的登山コースです。ルートファインディング(地図情報を見極める能力)技術を必要とする高レベルの山行となります。
白沢三股登山口には公共交通路線は無く、駐車場はありますが、下山は中房温泉となる関係上マイカーは使えません。JR大糸線信濃大町駅を往復の起点にすると良いでしょう。白沢三股登山口から林道を歩き白沢砂防提から登山道となります。
白沢砂防提から最終水場
長距離行程となるので、装備・服装を再チェックして出発。白沢の沢筋に沿って何度か沢を渡り返します。急斜面に鉄梯子が掛かる滑りやすい道を眼下に渓流を望みながら注意して歩き“紅葉の滝”に到着。右岸をトラバースしてクサリ場を登り滝上部に出て木の橋を渡って今度は沢の左岸に渡ります。
沢筋を登って行くと“魚止の滝”が見えてきます。滝の手前をクサリ場や木の階段が設置されている急斜面を登って滝上部に出てから、今度は急斜面の下りとなり鉄梯子を伝って沢床に降り、左岸、右岸を行き来しながら所々の難所を進んで“最終水場”に着きます。
大凪山から餓鬼岳
最終水場で水を補給し、ザレ場の落石などに注意しながら急登を進んで標高2,079mの“大凪山”に着きますが稜線のピークといった感じです。コメツガなどの針葉樹林帯のアップダウンを進んで “百曲り”と呼ぶ急坂を登ります。
紅葉の時期には美しさを増すと思われるダケカンバやナナカマドの樹林が続く急登を登り詰めて稜線に出ます。百曲りを過ぎて山腹南東の巻道を進んで餓鬼岳小屋に着いて荷物を預け、標高2,647mの餓鬼岳山頂と展望台で絶景を楽しんだら餓鬼岳小屋に戻って宿泊します。
餓鬼岳から東沢岳
餓鬼岳小屋から南西方向に伸びる稜線を進みます。針葉樹林帯やハイマツを抜けると稜線に出ますが、岩場に架けられたハシゴを上り下りしながら中沢岳直下の剣ズリと呼ぶ岩峰群のきつい難所の基部を巻きながら進みます。
剣ズリのピークには登らずにトラバースして西側の尾根に登り、直ぐに左側に急下降して、更に針葉樹林帯のなかを下るとザレ場となり、再び樹林帯に入り標高2,508mの小ピークを過ぎて、アップダウンの岩峰が連続する稜線の道ですが、とにかく迷い易い登山道が続き、薮こぎや倒木などがあることから注意が必要です。標高2,497mの東沢岳を経て東沢乗越に向かいます。
燕岳から合戦尾根
東沢乗越分岐から針葉樹林帯を進み、広葉樹林帯を抜けると展望が開けます。ザレ場とハイマツ帯の中の登山道を歩き、途中の短いハシゴを登って稜線に出て進むと自然に造形された岩峰群が見えてきます。
北燕岳の東側斜面をトラバースして、登山口から北燕岳に登ったら燕岳へと進み、時期が合えば途中に群生するコマクサを鑑賞しつつ燕岳に登頂後、燕山荘に宿泊。翌日、合戦尾根の急斜面を注意深く降り下って中房温泉へと下山します。
アクセスルートDATA
登山口へのアクセス | 【白沢三股】 JR大糸線信濃大町駅より車利用約30分 【中房温泉】 JR大糸線穂高駅よりバス利用約1時間15分 車:長野自動車道安曇野ICより約60分 |
登山ピーク時期 | 7月下旬~9月 高山植物見頃時期7月下旬~8月上旬 |
山行 | 2泊3日 難易度レベル:☆★★★★ |
アクセス情報 | 距離:19.12km 累積標高差:上り2,927m・下り3,390m 地図上総コースタイム:約17時間 |
コースタイム(1日目) | 【約7時間10分】 白沢三股登山口スタート⇒(80分)魚止の滝⇒ (40分)最終水場⇒(120分)大凪山⇒(100分) 百曲り入口⇒(90分)餓鬼岳小屋(泊) |
コースタイム(2日目) | 【約7時間】 餓鬼岳小屋⇒(80分)中沢岳直下⇒(110分)東沢岳 ⇒(40分)東沢乗越)⇒(110分)北燕岳⇒(50分) 燕岳⇒(30分)燕山荘(泊) |
コースタイム(3日目) | 【約2時間50分】 燕山荘⇒(50分)合戦小屋⇒(70分)第2ベンチ⇒ (50分)中房温泉ゴール |
燕岳登山ルートのまとめ
燕岳からの登山ルートとしては、ご紹介した他にも表銀座ルートで、大天井岳を分岐として常念岳へのコースと、東鎌尾根を経て槍ヶ岳へと続くコースがありますが、装備・服装も含め、かなりの上級者レベルとなります。うまく時期を合わせれば、雪渓が残る場所や、高山植物のお花畑を鑑賞しながら登山を楽しめます。昨今は山でのトイレ問題や登山道以外の場所に踏み込んだりとマナー違反が問題視されています。自然は一度壊れるとなかなか元に戻すことは不可能です。ルールを守って楽しく登山を楽しみましょう。
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