谷川岳は!
新潟県と群馬県にまたがり、上信越国立公園東部の一角にそびえる三国山脈のひとつ谷川連峰のひとつが谷川岳です。本州中央部分を日本海側と太平洋側とに分ける脊梁山脈の一部であることから、東西の気候区分を分ける位置でもあるのです。そのために東側の関東平野では晴れでも、西側の新潟県側では天候が崩れている場合が多いのです。標高は2000mに満たない谷川連峰ですが、日本アルプス並みの山行が楽しめ、初心者でも気軽に登山が出来ることから、夏山シーズンには多くの登山者が訪れる山でもあるのです。
谷川岳の魅力
谷川岳は標高1,977m、双耳峰で、「トマの耳」と「オキの耳」と名付けられた二つのピークを持っています。冬季には日本海側からの季節風によって豪雪地帯となります。そんな厳しい気候によって標高が高くない割には1,500m付近が森林限界となり、日本アルプスの様な雰囲気が楽しめ、高山植物なども観察できます。標高1,319m付近には天神平という高原地帯があり、ロープウェイで気軽に登れることができ、夏スキーのメッカとなっています。このロープウェイを利用すれば、初心者の方でも容易に山頂まで日帰り登山が可能です。また、湯檜曽川沿いに大岩壁群を眺めながらのハイキングも楽しめます。秋の紅葉も見事な景観をみせ、シーズン中は多くの観光客で賑わいます。
谷川岳は魔の山!
谷川岳は新潟県側と群馬県側では気候の違いによって形成された著しい山容の違いがあり、その形成の仕方を“非対象山稜”と呼んでいます。新潟県側では比較的緩やかな裾野が広がる草原地帯が広がっているのに対し、群馬県側は降雪などによる激しい浸食作用によって「一の倉沢」などのそそり立つ岩壁群が荒々しい風景を作り出し、標高が2,000m弱にも関わらず、アルプスの様な景観を見せています。
偉容さを誇る大岩壁
谷川岳には、複数の岸壁を有し、日本三大岩場のひとつとされる「一の倉沢」は、有数の大岩壁を形成していて大きな景観を見せています。古くからクライマーたちの挑戦を受けてきましたが、滑落などの遭難者が700人を超えたことから“魔の山”と形容されたりしました。湯檜曽川岸から眺める一の倉沢は、その偉容さをうかがえます。
谷川岳登山の心得
登山はハイキングではありません。谷川岳に限らず、登山はあらゆる事態が起こることを想定して計画を立てて山行することが大切です。谷川岳の登山道は岩場が多い危険個所のあるルートもあります。登山はなるべく前泊し、翌日の天候を見極めて早朝に登り始めるのがベストです。また、単独行は避けて、2人以上のパーティーで山行する様にしましょう。
登山カードは必ず提出
山に入ったら携帯電話も圏外となってしまいますから、不測の事態に備えて、必ず一般コースの場合は「登山カード」を提出することが義務付けられています。南面の岩稜地帯へのルート登攀では「登山届」か「登山計画書」を提出しなければなりません。問合せについては、「群馬県谷川岳登山指導センター(0278-72-3688)」で確認できます。
谷川岳登山の装備
登山で重要なのが靴です。ハイキング程度と安易に考えてスニーカーで登るのはNG。スニーカーは滑りやすく、足首のホールドがされないことから岩場などで捻挫する危険性があります。難コースを歩く場合は自分の足に合ったトレッキングシューズや登山靴にします。水分補給は重要です。最低でも2ℓ以上は必要です。マップ・コンパス、救急医療品も必携です。ヘッドランプはいざの場合に便利なアイテムです。
谷川岳登山の服装
衣類は、綿製品は汗や雨などに濡れると乾きにくいので、化繊のものを選びます。着替え用の下着、シャツなど、帽子も必需品です。アノラックは意外と用途が広く使えます。谷川岳は特に天候が急変する場合が多いので、レインウェアは必携です。また、天候の急変によって、夏でも10℃以下になることもありますから、防寒具は日帰りの場合でも持参する様にします。
谷川岳登山ルート・初心者向け日帰りコース①
トレッキングルート/土合口~一ノ倉沢トレッキング
谷川岳を登頂するコースではありませんが、谷川岳が「魔の山」と言われるきっかけとなった大岩壁の登攀を試みて多数の遭難者を出したマチガ沢や一ノ倉沢を望みながらハイキング気分で歩ける初心者向きのトレッキングルートです。目の前に迫る様な岩壁の偉容を堪能できます。
コース紹介
谷川岳ロープウェイ土合口駅側の谷川岳登山指導センターを通り過ぎ、清涼な空気のなか自然のブナ林の道をしばらくハイキング気分で歩き、西黒尾根登山口と書かれた道標を通ってマチガ沢出会いに到着。そこから更に歩いて一ノ倉沢出会いに到着。目の前に大岩壁が迫ってきます。日本三大岩壁のひとつと言われるクライミングスポットの案内看板があり、それぞれの岸壁の名前が記されています。秋の紅葉シーズンは見事な景色を楽しみながらハイキングできます。
ルートマップDATA
【コースタイム:約2時間】
【所要時間】土合口駅→(10分)西黒尾根登山口→(20分)マチガ沢出会い→(30分)一ノ倉沢出会い→(60分)土合口駅
谷川岳登山ルート・初心者向け日帰りコース②
トレッキングルート/天神尾根~谷川岳
夏山シーズンでは谷川岳登山コースの一般的ルートです。天神平から天神峠はハイキングエリアで、スキーシーズンは多くのスキーヤーで賑わう所です。ルートは、谷川岳ロープウェイ土合口駅から一気に標高1,320mの天神平駅に到着。登山道は良く整備されていますが、熊穴沢避難小屋を過ぎた所にクサリ場があり岩場の危険個所となっています。途中の景観や高山植物などを楽しみながら肩の小屋からトマの耳、オキの耳に登頂。360°の絶景を味わえる初心者向け日帰りコースです。
コース紹介
天神峠から良く整備された登山道を進みます。途中の木道は雨上がりには滑りやすいので注意。熊穴沢避難小屋を過ぎるあたりから視界が広がりますが、次第に急登となり岩場やクサリ場などの危険個所がありますので注意します。天狗のトマリ場から肩の小屋までは滑りやすいザレ場の急登となります。肩の小屋からトマの耳までは約10分ほどで登頂。オキの耳からは来たルートを辿り、危険個所に注意しながら下山します。
ルートマップDATA
【コースタイム:約5時間(前泊日帰り)】
【所要時間】土合口駅→(10分)天神平駅→(50分)熊穴沢避難小屋→(30分)天狗の溜り場→(50分)肩の小屋→(10分)トマの耳→(15分)オキの耳→往路を戻り→(140分)天神平駅
谷川岳登山ルート・中級者向けコース①
トレッキングルート/西黒尾根~谷川岳
天神尾根コースに次ぐポピュラーなルートです。日本三大急登と言われる場所や滑りやすい岩場などの危険個所もありますので、初心者の方ではちょっときつい健脚者向けコースです。夏山シーズンでは稜線沿いの高山植物なども楽しみながら登りましょう。下山して時間的に余裕があれば天神峠までハイキングで足を延ばし、山の季節の花々を観察するのもおすすめです。
コース紹介
谷川岳ロープウェイ土合口駅から西黒尾根登山口までは平坦な道ですが、西黒尾根登山口からは急登となります。天候が良ければ自然の景色を眺めながら登りますが、ラクダの背手前にはクサリ場があり、岩が濡れていると滑りやすい危険個所ですので注意します。ラクダの背からはガレ場を進みザンゲ岩を過ぎると肩の小屋到着。オキの耳、トマの耳登頂後、天神尾根を天神平まで辿り。ロープウェイで土合口に下山します。
ルートマップDATA
【コースタイム:約6時間40分(前泊日帰り)】
【所要時間】土合口駅→(10分)西黒尾根登山口→(140分)ラクダの背→(5分)ラクダのコル→(60分)ザンゲ岩→(15分)肩の小屋→(10分)トマの耳→(15分)オキの耳→(25分)肩の小屋→(10分)ザンゲ岩→(25分)天狗の溜り場→(30分)熊穴沢避難小屋→(40分)天神平駅→(ロープウェイ)土合口駅
谷川岳登山ルート・中級者向けコース②
トレッキングルート/巌剛新道コース
西黒尾根コースと同様に急登、鉄ハシゴ、クサリ場などの危険個所がありますので、初心者より健脚者向けとなります。マチガ沢の絶景を眺めることのできるトレッキングルートですが、途中崩落している危険個所があるので注意が必要です。帰りは天神平よりロープウェイで土合口まで下山します。
コース紹介
土合口駅からスタート。マチガ沢登山口からしばらく清涼な雰囲気の樹林帯を歩きます。第一見晴から急登となり、鉄ハシゴがある危険個所に注意しながら登ります。ラクダのコルを経て西黒尾根コースと合流しますが、滑りやすい岩場が続きます。ザンゲ岩から緩やかとなり眺望も開け、谷川岳へと登頂。帰りは天神尾根コースで天神平へ下ります。
ルートマップDATA
【コースタイム:約6時間30分(前泊日帰り)】
【所要時間】土合口駅→(10分)西黒尾根登山口→(20分)マチガ沢出合→(50分)第一見晴→(70分)ラクダのコル→(80分)谷川岳(トマの耳)→(15分)オキの耳→(90分)熊穴沢避難小屋→(40分)天神平駅
谷川岳登山ルート・中級者向けコース③
トレッキングルート/蓬峠コース
清冽な谷川の雰囲気いっぱいでハイキングにも最適な湯檜曽川沿いに登り、途中では一ノ倉沢、マチガ沢始の大岩壁を眺めながらの沢筋を進み蓬峠へと登ります。蓬峠は、シーズンには高山植物が多く見られ、紅葉シーズンには見事な山々の彩りを楽しみながら、多くの登山者が乗降する土樽駅へと下山します。トレッキングルートは長時間の歩行ですが、谷川岳の迫力ある岩壁群とシーズン中の高山植物などを十分堪能できます。
コース紹介
土合口駅をスタート、平坦で歩きやすい道を武能沢まで進み、湯檜曽川と別れ急な登りが続きますが、樹林帯の中ですので心地よい登山道です。樹林帯が切れると展望が開け、白樺避難小屋から高山植物の宝庫蓬峠へ。蓬ヒュッテから山腹をトラバースしながら蓬新道へ向かい樹林帯に入ると左手に蓬沢を望みながら緩やかな登山道を下り土樽駅に到着です。
ルートマップDATA
【コースタイム:約8時間30分(前泊日帰り】
【所要時間】土合口駅→(75分)巡視小屋→(120分)白樺避難小屋→(80分)蓬ヒュッテ→(100分)東俣沢出合→(60分)林道終点)→(60分)土樽駅
谷川岳登山ルート・上級者向けコース①
トレッキングルート/平標山~谷川岳縦走コース
平標山登山口から仙ノ倉山、万太郎山を経て谷川岳肩の小屋で一泊、翌日は一ノ倉岳、茂倉岳を経て土樽駅まで下山するルートです。稜線上からの展望も素晴らしく登山の醍醐味を味わえます。但し、マップ・コンパスなどを始め十分な装備を用意し、初心者の方はベテランを交えたグループでの山行がベストです。
コース紹介
平標山からの登山道では夏のシーズン中の高山植物の花々を眺めながら歩けます。急登が松手山まで続きますが、松手山からの稜線は緩やかな登山道となって視界も開けます。仙ノ倉山からの稜線はアップダウンが続きます。オジカ沢ノ頭付近は崩落している危険個所があります。肩の小屋で一泊。翌日はトマ、オキ両耳を通り、一ノ倉岳への急な登りを踏破。茂倉岳からは緩やかな稜線を歩き茂倉新道へ続き、樹林帯の中を下って土樽駅に下山。
ルートマップDATA
【コースタイム:約15時間40分(1泊2日】
【所要時間】≪1日目≫平標山登山口→(110分)松手山→(80分)平標山→(60分)仙ノ倉山→(60分)エビス大黒ノ頭→(70分)毛渡乗越→(70分)万太郎山→(70分)大障子避難小屋→(60分)オジカ沢の頭→(45分)中ゴー尾根分岐→(15分)肩の小屋(泊)≪2日目≫肩の小屋→(10分)トマの耳→(10分)オキの耳→(50分)一ノ倉岳→(20分)茂倉岳→(60分)矢場の頭→(100分)蓬新道分岐→(30分)土樽駅
谷川岳登山ルート・上級者向けコース②
トレッキングルート/馬蹄形縦走コース
谷川連峰の東面に当たる、白毛門、笠ヶ岳、朝日岳から清水峠を越えて、七ツ小屋山、蓬峠、武能岳、茂倉岳、一ノ倉岳を巡り、谷川岳オキの耳、トマの耳から天神平に至る、1900m級の山々を半時計回りに馬蹄形に一周する1泊2日コースです。トレッキングの行程は長く、アップダウンも多くあって岩場などの危険個所もあるため初心者向きではありません。マップ・コンパスは必携の難ルートですが、夏シーズンでは稜線沿いの高山植物や登山の醍醐味を味わえます。
コース紹介・1日目
土合口駅からしばらく登山道を歩き徐々に標高を上げてゆき松ノ木沢の頭からは視界が開けます。白毛門から笠ヶ岳までは登り、笠ヶ岳から朝日岳は小烏帽子、大烏帽子のピーク超えなどアップダウンがあり注意します。朝日岳直下の岩場は注意が必要です。ジャンクションピークを経て清水峠に至り、蓬峠までは特に危険個所はなく、冬路の頭、七つ小屋山を経て蓬峠到着(蓬ヒュッテ泊)
コース紹介・2日目
蓬ヒュッテから歩きやすく視界が開けた登山道を登り武能岳へ、武能岳、茂倉岳との最鞍部にある、斜面がきれいな笹原が続く笹平を経て茂倉岳へと岩場に気をつけながら登ります。茂倉岳からは一ノ倉岳へは直ぐです。一ノ倉岳からオキの耳、トマの耳、肩の小屋へと進み、天神尾根コースを辿り天神平からロープウェイで土合口駅へ下山します。
ルートマップDATA
【コースタイム:約16時間(1泊2日】
【所要時間】≪1日目≫土合橋→(160分)松ノ木沢の頭→(55分)白毛門→(55分)笠ヶ岳→(80分)朝日岳→(25分)ジャンクションピーク→(90分)清水峠→(60分)七ツ小屋山→(50分)分岐→(10分)蓬峠(蓬ヒュッテ泊)≪2日目≫蓬峠→(60分)武能岳→(130分)茂倉岳→(20分)一ノ倉岳→(50分)オキの耳→(10分)トマの耳→(10分)谷川岳肩の小屋→(60分)熊穴沢避難小屋→(40分)天神平駅→ロープウェイ土合口駅
谷川岳登山の注意点
夏山の遭難は、大抵の場合、無理な計画の山行による体力の低下によって、滑落や転倒による事故となります。特に谷川岳はロープウェイを使っての日帰り登山が可能ですので、ハイキング気分で軽装で登り、天気の急変で身体に異変を起こしたり、スニーカー程度では、ガレ場やクサリ場で滑ったり転んだりして怪我をする事故が発生します。マップは必携、登山装備や服装にも十分気を付けましょう。また、下山時は意外と注意力が散漫になりやすく、転倒による遭難が起きやすくなりますから、時間には余裕をもって下山まで気を抜かない様にしましょう。万一を考えて「登山カード」は必ず提出しましょう。
まとめ
谷川岳のいくつかある登山ルートを、初心者コースから上級者コースまで数種ご紹介しました。谷川岳はアクセスも良く、便利なロープウェイを使えば、アルプス並みの登山の醍醐味を味わえる山ですので、登山シーズンには多くの人が訪れます。但し、岩場など危険個所もコースには存在しています。ハイキング程度と軽く見ないで、必携のマップ・コンパスなど装備や服装にも十分なものを用意し、同行するメンバーやパートナーなどの体力も計算して、無理のない山行計画を立てる様にしましょう。
谷川岳や登山に興味がある方はこちらもチェック!
谷川岳についてや、登山、ハイキングにご興味のある方は、「暮らし~の」のWEBマガジンでも種々の記事がご紹介されていますので、ぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。