生活の中のアスナロ
アスナロは暴風樹として知られており、街路樹や庭木として栽培されることもあります。木は檜と同じように、建築材や家具などに使われ、その樹皮は縄や屋根葺きなどに用いられています。特に檜の分布が少ない東北地方では、ほとんど同じように扱われています。
アスナロの木はヒノキチオールという化合物を豊富に含み殺菌力と耐湿性に優れているため、アスナロから作られたまな板は、最高級にランクされます。またアスナロの枝葉から抽出したエッセンシャルオイルは、檜に似た、森の香りがします。
香りが強いため好みは分かれますが、アロマとしてのリラックス作用も期待されています。
アスナロの基本情報
科・属
アスナロはヒノキ科アスナロ属の常緑高木です。日本固有の植物であり、外国に自生はありません。アスナロ属は、アスナロ一種のみで構成されています。大きいものは高さ30メートル、直径1メートルほどにもなり、剪定を行わずに伸ばしておくと樹形は円錐形になります。
また、マツ・ウリ化の植物と同じ雌雄同株です。これは一つの株に雌花と雄花を付けるという意味です。
ヒノキチオール
ヒノキチオールとは、タイワンヒノキの精油成分から発見された化合物です。ヒノキチオールの薬効は、強力な殺菌抗菌作用、炎症を鎮める消炎作用などがあるとされています。用途としては、ポマードなどの頭髪用化粧品や防カビ剤、食品用防腐剤などが挙げられます。
ヒノキチオールはその名前に反して、国内の檜ではわずかに幹の一部に含まれるのみです。しかし、檜に含まれるほかの物質に比べて抽出が簡単なため、人工的に合成することができるため、市場に多く流通しています。アスナロは、ヒノキチオールを檜より多く含むといわれています。
分布
自然のアスナロは能登半島南部や日光付近を境にして南部の山地に生息しています。北部に生息しているのはヒノキアスナロという植物ですが、林業では二つを区別せずに檜葉(ヒバ)と呼ぶことがあります。庭木としてだけでなく、木材としての価値が高いため、人工的に植栽された例も多くあります。
アスナロとヒノキアスナロ
ヒノキアスナロは、アスナロの変種と考えられています。ヒノキアスナロはアスナロより葉や実がやや小さいことが多いですが、外見上の違いはほとんどありません。
しかし実の形状には違いがあります。アスナロの実には角がありますが、ヒノキアスナロの実には角がありません。アスナロは石川のものが、ヒノキアスナロは青森のものが特に知られています。
また、ヒノキアスナロの枝葉から抽出したオイルもエッセンシャルオイルとして流通しています。一般的にヒバ材というと、ヒノキアスナロを意味します。
その他品種
アスナロの品種には、フイリアスナロやヒメアスナロがあります。「フイリ」は漢字で「斑入り」と書き、地の色に他の色がまだらに混じっているという意味です。フイリアスナロは、その名の通り葉先に白い模様が入ることが特徴で、庭木に使われます。
ヒメアスナロはヒノキアスナロを庭木用として改良したもので、丈が大きくならないので、生垣や土留めとして利用されます。葉に模様が入ったフイリヒメアスナロという品種もあります。
学名・別名
学名はThujopsis dolabrata(トゥヨプシス・ドラブラタ)といいます。thujopsisは「クロベ属」という意味のthujaと「似た」という意味のopsisをひとまとめにした語で、dolabrataは「斧状の」という意味を持ちます。
漢名は羅漢柏(らかんはく)といい、明日檜(あすひ)という別名もあります。また青森県ではヒバ、秋田県ではツガルヒノキ、岩手県と山形県ではクマサキ、石川県、富山県では阿天(アテ)と呼ばれています。阿天は貴とも書き、「上品な檜」という意味を持っています。
歴史
アスナロは、天保13年(1842年)にドイツの医師のシーボルトと植物学者のツッカリーニに採取されて、「あすなろ」として日本植物誌に発表されたといわれています。
江戸時代には檜、高野柀(こうやまき)、久呂倍(くろべ)、椹(さわら)とともに、木曽五木(きそごぼく)として、伐採を禁止されました。このことは長野県木曽町近辺の民謡「木曽節」にも唄われています。
「あすなろ白書」
「アスナロ」と聞いて、「あすなろ白書」が思い浮かぶ方は少なくないのではでしょうか。あすなろ白書は1992年に漫画が連載され、1993年にはテレビドラマがヒットしました。
「あすなろ抱き」という言葉も生まれるほど人気がある作品なので、植物のアスナロとの関係があるのか気になりますが、残念ながらアスナロとの関係はないようです。ストーリーに出てくる「あすなろ会」は主人公のフルネームのアナグラムを意味しています。
檜のように「明日なろう」
アスナロは、同じヒノキ科の檜よりも小さいことが多いので、檜のように「明日なろう」という成長の意思をもっているという意味から「あすなろ」と呼ばれ始めたという俗説があります。
またその俗説から、日本では明日に希望を持つという明るいイメージが持てるため、お店や会社の名前に使用されることがあります。
アスナロの特徴
樹・樹皮・葉
幹は直立して分岐しますが、根本は雪の影響で曲がっていることが多いです。樹皮は赤茶色または灰褐色で、縦に長く繊維状に裂けて剥げます。
葉は対生葉序(たいせいようじょ)で鱗片状、長さは4~7ミリメートル、幅は1.5~2.5ミリメートルほどです。一見、檜に似ていますが、厚さが5~7ミリメートルと分厚いことが特徴です。また数年間枝についている間に、さらに幅が広くなることも檜との違いです。
葉の先端は丸く、葉の裏側に気孔帯があり、白い模様として見られることも特徴的であり、ヒバ類と見分ける際のポイントになります。
花・実・種
花は4~5月頃に葉先に開花します。雄花は小さく、雌花は褐色を帯びた淡黄緑色です。実は4対の果鱗からなる球形の乾果で、色は淡褐色、長さ幅ともに12~16ミリメートルくらいです。実の先端が三角形針の鉤状(かぎじょう)をしています。10月頃に熟すと実の先が反り開いて、種子を出します。
アスナロの花言葉
アスナロの花言葉は「永遠の憧れ」「不滅・不死」「変わらない友情」の3つです。またイチョウやベルフラワー、ハマギクとともに、11月21日の誕生花でもあります。
しかし、アスナロは木なので、ブーケのようにプレゼントすることは難しいと思います。もし人に贈る場合には、アスナロの殺菌力と耐湿性を生かした箸やまな板などの小物や、リラックス効果が期待できるエッセンシャルオイルなどがおすすめです。
その際には、3つの花言葉の意味や、「アスナロ」という名前から連想される前向きで明るいイメージを意識してみてもよいでしょう。
アスナロの育て方①:栽培環境・植え付け・用土
アスナロは北日本の冷涼な山地に多く生息し、若木は暗い林の中で育ちます。そのため栽培環境は、半日陰になる湿気の多い場所を好みます。寒さと湿気には耐久性がありますが、日当たりが強すぎる場所や乾燥する場所には適しません。
植え付けの適期は3月~4月です。養分が豊富な湿潤地を好むので、植え付けの前に堆肥を多めに混ぜ込んで水もちのよい土にしておきましょう。
アスナロの育て方②:水やり・肥料・増やし方
根が張るまでの2~3年は土が乾燥しないように水やりをしてください。根付いてしまえば水やりの必要はありません。 肥料は成長期を目前に控えた2月頃に化成肥料と油かすを混ぜたものを根元に与えてあげましょう。土の栄養が豊富な場合、肥料はほとんど必要ありません。
アスナロは挿し木をして増やすことができます。生長期の初夏に、生長が良い枝を選び、先端から10センチメートル程をカッターナイフで斜めに切り取ります。それを土に挿しておくと、約2~3年で植えついて育っていきます。
アスナロの育て方③:剪定
アスナロは成長が遅いので、剪定の必要性は低いといえます。枝葉は密生しますが、耐陰性が強いので成長の妨げにはなりません。通気性を保つために大体年1~2回程度、伸びた分だけ剪定しましょう。
ある程度伸びてもよい庭木であれば年1回、生け垣のように高さや幅を揃えたい場合でも年2回の剪定で十分です。年1回なら9~10月の秋頃、年2回なら5~6月の梅雨頃と秋頃が剪定時期の目安です。
この時期は成長期にあたるため、新しい枝の芽がつきはじめます。芽をみると、このあとどの方向にどれくらいの数の枝が伸びるのかが予測でき、樹形を想像して剪定をすることができます。このときに余分な葉も切り落とし、見栄えを良くしておきましょう。
アスナロの育て方④:病害虫
アスナロは殺菌作用を持つ為、病害虫の被害はほぼありません。農薬などを使用する必要がないので、安全であるだけでなく、環境にもいい植物です。
しかしハダニやサビ病にかかってしまった場合は、殺虫剤で駆除してください。サビ病は、葉の表面に鉄さびのようなオレンジ色の斑点が現れることが特徴です。「ボケ」や「ナシ」などから感染することが多いので、これらの植物からは離して植えましょう。
また、稀にテングス病に罹患して、ヒジキのような小枝が生えることがあります。発病部はこぶ状になり、その先の枝の生育が悪くなります。テングス病を発見したら、こぶの部分も含めて枝を切り、処分してください。
アスナロの豆知識
アスナロは耐久性が高く湿気にも強いため、木工品にも用いられます。特に石川県では、能登ヒバとしてアスナロが多く植えられており、県木に指定され、輪島塗の木地としても使われています。
また仏閣や住の土台にも使われることもあり、岩手県の中尊寺金色堂はヒノキアスナロを使った建築物として有名なものの一つです。ちなみに、文豪太宰治の生まれた家とされている「斜陽館」は総ヒバづくりで、「総ヒバ造りの家には築後3年は蚊が入らない」とまで言われています。
まとめ
アスナロの特徴や育て方、花言葉について知っていただくことはできましたか。身の回りの小物などにも使われていて、意外と身近な存在に感じられますね。害虫や病気に強く寒さに強いことは、花言葉の「不滅・不死」を連想させます。
また剪定の必要もほとんどないため、庭木として初心者にもおすすめの植物であるといえるでしょう。しかしヒノキ科のため、ヒノキの花粉アレルギーの人は注意が必要です。根が張るまでの水やりと適度な剪定をして、上手に庭木として育てることで防虫効果やアロマ効果を得ることができます。
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