バイクのエンジンがかからない時:はじめに
バイクのトラブルには原因があり、症状はその結果にすぎません。走行距離に応じて少しずつコンディションを崩していきますので、エンジンがかからない原因を症状から知るのは難しいのです。
推測される原因を一つ一つ追いかけて修理することになります。ツーリング先でのトラブルを想定しながら、バイクのエンジンがかからない時の原因や対処法を解説します。
自力でエンジンがかかるよう努力する!
セルボタンを押してもバイクのエンジンがかからない時、まずは自力でエンジンがかかるような努力をしましょう。その経験は今後のツーリングスキルとして蓄積されるからです。
パリ・ダカールラリーで差がつくライダーの違いは、救援を呼んだ後に自力で再始動する努力をするか否かだといわれています。自分で修理できなくても、原因がわかっていればロードサービスの修理時間を短縮できるのです。
バイクのエンジンがかからない時の対処法①
まずは初歩的なチェックをする!
セルボタンを押してもバイクのエンジンがかからない時は、初歩的なチェックから始めます。キュルキュル、ジジジ、カチカチ、無音、いずれの症状であっても基本は大切。キャブ車もインジェクション車も同じです。
チェック方法は取扱説明書に記載されています。取扱説明書はバイクメーカーの公式ホームページからPDFファイルで入手することも可能ですので、スマホにダウンロードしておきましょう。
初歩的なチェック項目
初歩的なチェック項目としては①エンジンの始動手順のおさらい②燃料の有無③キルスイッチのON/OFF④フューズのチェック⑤バッテリーのチェックです。フューズが切れていたら交換します。
バッテリーは灯火類の明るさで状態を判断し、ターミナルの緩みや腐食をチェック。フューズの交換、バッテリーの増し締めや清掃をするときは、必ずキーをOFFにしておきましょう。
バイクのエンジンがかからない時の対処法②
キュルキュルとクランキングする
キュルキュルという音はするがバイクのエンジンがかからないのは、クランキング(セルモーターがエンジンを回そうと)しているが、プラグが点火していないというメッセージです。まずはバッテリーを疑いましょう。「セルモーターを回す電気はあるものの、点火プラグをスパークできるほどの電気はない」という状態なのかもです。
キュルキュルならバッテリー交換
セルボタンを押すとキュルキュルという音はするが、バイクのエンジンがかからない、そんな場合はバッテリー交換で始動できる可能性が高いですね。バイクはバッテリーの電気で点火プラグをスパークさせています。
キャブ車、インジェクション車、原付スクーターを問わず、大半のバイクは「○○式バッテリー点火」という点火方式になっています。
バイクのエンジンがかからない時の対処法③
キュルキュルなら押しがけ出来る?
バッテリー上がりでエンジンがかからないバイクは押しがけで復帰できる?答えはノーです。押しがけでエンジンを復帰できるのは極めて古い年式のバイクのみ。先述した通り、○○式バッテリー点火のバイクは、バッテリーに十分な電気が残っていないと点火プラグをスパークできません。
ヘッドライトやテールライトのバルブを外し、バッテリーの電気を点火プラグに集中させてから押しがけする方法もありますが、成功率は低いです。
インジェクション車の押しがけ
インジェクション車は押しがけで始動できる可能性が極めて低いといえます。インジェクション車は点火プラグをスパークさせる以外にも、バイクを電子制御するためにたくさんの電気を使っているので、押しがけ始動は困難。
インジェクション車のエンジンキーをONにした時、バイクのチェックをしたり燃料をインジェクションに送ったりしますよね?
ウイーンという音は電気を消費している証です。
バイクのエンジンがかからない時の対処法④
キュルキュルとクランキングする:原付スクーター
キックペダルを備えているインジェクション車の原付スクーターがありますが、バッテリーが完全放電してしまうと、キックペダルでエンジンをかけることができません。理由はインジェクション車での押しがけと同じです。
ちなみに、ホンダのスーパーカブシリーズでは別の話。スーパーカブシリーズはバッテリーが完全に放電しても、キックペダルのクランキングで発生した電気だけで始動できます。
原付スクーターのキックペダルはなぜ?
インジェクション車の原付スクーターについているキックペダルは、バッテリーが少し弱った時に使うものです。バッテリー上がりの症状に気付いた時には、キックペダルでエンジンがかからなくなっているかもです。
原付スクーターはインジェクション車でもキックペダルがついているからと油断するのは禁物。事実として、125ccスクーターではキックペダルを廃止し、セルオンリーで始動する車種が増えました。
バイクのエンジンがかからない時の対処法⑤
バッテリーを交換してもキュルキュルのまま
キュルキュルとクランキングするのにエンジンがかからないという症状では、大抵はバッテリーを交換するだけでエンジンがかかります。
しかし、バッテリーを交換してもエンジンがかからないのは、推測した原因が違ったという証拠。次は点火プラグのトラブルを疑いましょう。
プラグの電極チェックやスパークテストをします。車載工具だけでチェックできますので、チャレンジする価値があります。
点火プラグのチェック方法
点火プラグのチェック項目は①車載工具で点火プラグを外し、電極の濡れや汚れをチェックする②点火プラグの電極をエンジンに近づけてセルモーターを回し、火花の有無や強弱をチェック(スパークテスト)する、です。
プラグの濡れはウエスで拭い、ライターで炙って乾かします。汚れはウエスや真鍮製のブラシで落としましょう。燃料タンクにコックがあるバイクならOFFでスパークチェックをします。ガソリンが送られないようにするためです。
バイクのエンジンがかからない時の対処法⑥
キュルキュルとクランキングする:点火プラグ
エンジンがかからない原因を点火プラグの症状から推測するなら、プラグの濡れや汚れはキャブレターのセッティングやインジェクターの設定のズレが疑わしいですね。しかし、キャブレターやインジェクターをチェックするのは専門家にしかできません。
ですので、次に疑わしいエアクリーナーの詰まりをチェックします。新鮮な空気を送れるよう、エアクリーナーボックスを開けてエンジンをかけたり、エアクリーナーにコンコンと軽い衝撃を加えたりしてみましょう。
スパークテストから推測できる原因
スパークテストで火花が元気なら、燃料系を疑います。キャブ車ならキャブレターに燃料が届いているかをチェックします。インジェクション車はショップに修理を依頼するしかありません。火花が出ないもしくは弱いなら、点火系を疑います。
点火系はイグニッションコイルやパルスジェネレータ―をテスターでチェックしないと原因を究明できません。その場での自力始動は難しいですね。
バイクのエンジンがかからない時の対処法⑦
カチカチやジジジという音
セルボタンを押してもカチカチやジジジという音がするだけでクランキングしなかったり、セルが回らなかったりする症状、それは始動系が疑わしいといえます。始動系のトラブルは、パーツ交換やテスターでのチェックが必要になるため、その場での自力始動は難しいですね。
カチカチやジジジという音がしたら、ロードサービスを頼りましょう。
カチカチやジジジでもバッテリーは疑う!
カチカチやジジジという音がしてエンジンがかからない場合でも、バッテリーの交換は試さなければなりません。始動系に属するセルモーターが回らない原因は、バッテリーの電気不足である可能性があるからです。
また、バイクのエンジンがかからない場合、正常な状態にしやすいものから交換するほうが、原因を究明しやすくなります。徒歩圏内にカーショップ、ガソリンスタンド、ホームセンターがあれば、バッテリー交換は誰にでも簡単にできます。
バイクのエンジンがかからない時の対処法⑧
カチカチやジジジの正体:始動系のチェック
カチカチやジジジという音の正体はスターターリレースイッチがON/OFFする音です。バッテリーとセルモーターの間にあるスターターリレースイッチは、バッテリーの電気をセルモーターへと流す経路をON/OFFするのが役割。
本来ならカチッとONになりますが、スイッチに接触不良があったり、バッテリーが消耗していたりすると、ON/OFFを繰り返します。それがカチカチやジジジという音の正体。原付スクーターも仕組みは同じです。
スターターリレースイッチをチェック!
スターターリレースイッチはバッテリーの近くにあることが多いですね。
始動系のチェックは
①スターターリレースイッチ4Pカプラ端子の接触不良
②セルモーターケーブル端子の接触不良やショート
③スターターリレーをテスターでチェック
④サイドスタンド&クラッチスイッチの点検の順で行います。
いずれもツーリング先での自力始動を想定すると、チェックするのは難しいですね。目視チェック程度しかできません。
バイクのエンジンがかからない時の対処法⑨
始動系のチェックはツーリング先でできるか?
始動系のチェックはサービスマニュアルに沿って行うため、ショップに修理を依頼したほうがいいですね。スターターリレースイッチはどこにでも売っているものではないので、交換対処することもできません。
しかし、日ごろからバイクのメンテナンスに親しんでいる人なら、セルモーターのチェックは思いのほか簡単です。メンテナンス性がいいバイクなら、ツーリング先で分解・清掃することも可能です。
バッテリー→回らないセルモーター→リレー
カチカチやジジジという音の原因を探るためには、バッテリー、セルモーター、スターターリレースイッチの順で疑います。ツーリング先では簡単に対処できる項目から取り掛かるのがベストだからです。
バッテリーは簡単に交換できるものの、回らないセルを屋外で分解・清掃する修理は難易度が上がります。自宅で作業するのとでは勝手が違い、パーツを見失う可能性もあります。無理だと思ったら潔く諦めましょう。
バイクのエンジンがかからない時の対処法⑩
セルモーターが回らない!
セルモーターは、コイルを巻いたシャフト(中心軸)にブラシを通して電気を流し、モーターケース内側に張られた磁石の反発で回ります。セルモーターが回らない原因は、シャフトに電気を伝えるブラシの摩耗や、ブラシがまき散らした粉による汚れが代表的。仕組みはキャブ車、インジェクション車、原付バイクとも同じです。
回らないセルモーターをメンテナンス
セルモーターを自分で修理するには①エンジンから外す②外装のボルトを外し、コイルを巻いたシャフトを抜き取る③ブラシ付近を清掃、必要に応じて交換、これだけで回らないセルモーターが復調した事例は多いですね。
しかし、簡単に修理できるのは自宅想定。ツーリング先では、回らないセルモーターのお尻をハンマーで軽くコンコンと衝撃を加えるのが精いっぱい。簡単にできるものの、一時的な対処法としては効果が期待できます。
冬はバイクのエンジンにとって過酷!
冬はバイクに乗る回数が減る!
冬の寒さはバイクのエンジンにとって過酷な季節です。冬はエンジンがキンキンに冷え、エンジンが暖まるまで時間がかかるからです。今回開解説した中に出てきたバッテリー上がりも、冬に起きやすい症状。冬の寒さはバッテリーの電気が弱くなるだけでなく、ツーリングメインでバイクに乗っている人は乗る回数が少なくなるからです。
冬のバッテリー上がり
冬の寒さを嫌い、状態維持運転でバイクのエンジンがかからない事態に備えている人は多いですね。状態維持運転は1時間以上、最低でも月に2回はしたいところ。しかし、冬はイベントごとが多く、ついつい後回しにしがちです。
かといって、冬の寒さに耐えかね、アイドリングで済ませるのはNGです。アイドリング程度のエンジン回転数はバッテリーに充電できないだけでなく、点火プラグに使う電気でバッテリーを消耗させる可能性があるからです。
また、長時間のアイドリングは近所迷惑極まりない行為!気になるカフェまで状態維持運転しましょう。
毎日乗るバイクはどう?
通勤や通学で乗るバイクはバッテリーを消耗しがちです、毎日の走行距離にもよりますが、体が冷え切るまでに職場や学校に到着する程度の距離なら要注意!冬だけでなく、年間を通じて、バッテリーが充電されていない状態になっているかもです。
毎日使う原付スクーターのエンジンがかからなくなるのはつらいですよね。日常点検や定期点検(12か月&24か月)を定期的に行いましょう。
冬の通勤通学ではバッテリーよりエンジンオイル
冬はバッテリーよりもエンジンオイルの乳化が気がかりです。走行距離が短いと、クランクケース内が暖まることで発生した水蒸気がエンジンオイルが入荷する原因。水蒸気が蒸発するまでにエンジンを止めてしまうためです。
毎日乗っている原付スクーターも、たまにはツーリングで使いましょう。低い速度域は冬の寒さを和らげてくれます。
バイクのエンジンがかからない時:まとめ
バイクのエンジンがかからない時の症状、原因、対策法について、ツーリング先でのトラブルを想定して解説しました。初歩的なチェックやバッテリーの交換は簡単なものの、始動系のチェックをツーリング先で行うのは限界があります。
ツーリング先でエンジンがかからない時は、ショップや保険会社のロードサービスを活用しましょう。また、日ごろの点検や定期的なメンテナンスを自分でするのも大切。ツーリング先で自力始動するスキルが身に付きます。
冬が気になる人はこちらをチェック!
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