彼岸花ってどんな花?
秋の彼岸の時期に花が咲くことから「彼岸花」と呼ばれます。ヒガンバナ科ヒガンバナ属で全草毒性を持つ球根性の植物です。「曼珠沙華(マンジュシャゲ)」という別名は仏典での由来からであって、「天上の花」を意味するサンスクリット語のマンジュシャカをそのままの音読みで漢名に置き換えたものです。
彼岸花の植生
9月初旬頃から花苞を付けた茎を地中から生長させ、その苞が破れて短い柄をつけた6枚の花弁を持つ花が外側に輪を描く様に並んで、大きく反り返る様な咲き方をします。花が終ると葉が出ます。秋から冬にかけてロゼット状(地面に這う様に)に伸ばして養分を蓄え、春には枯れて地表には何もなくなり、秋になり涼しくなると花を咲かせます。
彼岸花の名の由来
彼岸花の名の意味は、秋の彼岸の時期に合わせた様に花が咲くことから。また有毒性であることと、その花の持つ雰囲気から様々な別名も持っています。不吉な花とされる反面、赤色の花はめでたい証であるということからの別名もあり、地方によって様々な名(異名)があります。また。曼珠沙華は仏典に由来すると前述しましたが、本来の仏教で言われる曼珠沙華とは別の意味合いであって”白くやわらかな花”とされており外観は彼岸花とは全く似ていないものです。
万葉集での彼岸花
万葉集には彼岸花を詠った歌が一首のみありますが、「道の辺のいちしの花のいちしろく人皆知りぬ我が恋妻は」の「壱師(いちし)」が彼岸花を指すのかは諸説ありますが、原文には「灼然(いちしろく)」という”著しく咲くさま”を意味する言葉があることから、真赤に燃える様に咲く彼岸花を指す意味と考えられています。
彼岸花の有益性
日本には古来中国から稲作が伝来した時と同時に渡来したものと考えられています。有毒性である彼岸花は、その毒のある鱗茎によって土中などにいて作物を食害する小動物のネズミやモグラなどを寄り付かせない策として、畑の縁や土手などに植えたものと推測されています。モグラは本来肉食ですが、餌のミミズが毒のある彼岸花の鱗茎があるために、その地中には生息しないという理由から、彼岸花が生育する場所にはモグラは近づかないとされています。
彼岸花は食用や生薬にも
鱗茎には澱粉が含まれているため、水溶性である有毒成分のアルカロイド系のリコリンは、水に長時間曝しておけば溶け出してしまい無毒となる為、戦時中の食糧難の時には貴重な非常食として用いられた記録があります。また、毒変じて薬となす、の通り彼岸花の鱗茎は生薬として用いられ「石蒜(せきさん)」と呼ばれて、利尿剤としてや痰を切る作用があるとされています。
彼岸花の花言葉
彼岸花の花色をイメージすると、真紅の色を思い浮かべます。赤い色は「情熱」を意味しますので、花言葉とされています。他にも「悲しい思い出」「あきらめ」といった彼岸花の印象としての花言葉もあります。但し、花の色によって花言葉の意味合いが少々違っています。白花は「思うのはあなたひとり」「また会う日を楽しみに」。黄色は「深い思いやりの心」といった花言葉とされています。また、同科でもネリネ属の花言葉は「忍耐」でネリネとは、ギリシャ神話に登場する水の神の名です。夏水仙とも呼ばれるリコリス属では「快楽」という花言葉で、ヨーロッパでは伝説の美女との形容がされています。
彼岸花の開花時期と見ごろは?
ヒガンバナ科には、野生種として「シロバナヒガンバナ」「キツネノカミソリ」「ナツズイセン」などの他、園芸品種としてリコリス属やネリネ属などの仲間があります。彼岸花は約20~25℃にならないと花は咲かないとされていますから、秋の彼岸頃には適温となります。全国的に地域によって咲く時期は幾らかの差はありますが、毎年ほぼ同じ9月中旬~下旬頃にかけて同じ場所で開花します。ですから見ごろも同じ時期です。但し、陽ざしが強めに射す場所は開花が遅くなる傾向があり、反対に半日影の様な涼しい場所では開花が早くなる様です。
彼岸花の人気名所と開花時期:【東北】
初秋を彩る彼岸花は、日本の農村地帯の風景描写となっています。畑の縁や道路の土手、墓地など至るところで真紅の花を見ることができます。花が咲く時期は全国的にほぼ同じですので、ここでは各地域で見ごろとなる名所をご紹介してみます。
岩手県・如意輪寺
平泉文化が隆盛を誇った時代、北上市国見山一帯に平安中期に極楽寺を始めとした多くの寺院があり栄えていました。現在はそのほとんどが消失していますが、国見山廃寺跡として国指定史跡とされています。その内唯一残っている僧坊が岩谷山「如意輪寺」で、彼岸花の時期にはその群生が見られ名所となっています。花が咲かない時期でもゆったりと過ごせる場所ですよ。
如意輪寺の基本情報
【住所】北上市稲瀬町内門岡68
【連絡先】0197-64-7860
【見ごろ時期】9月上旬~10月中旬
【アクセス】東北本線北上駅より車使用約25分
宮城県・羽黒山公園
宮城県内での彼岸花の群生地では一番と言われています。大崎市古川地域の高台にあった千石城(せんごくじょう)跡がその「羽黒山公園」。春は桜の名所として知られ、花が咲かない季節はないくらい四季を通じて花木類が楽しめる場所です。彼岸花の咲く時期は「羽黒山彼岸花の里まつり」が9月14日から30日まで開催され、各種イベントが催されます。
羽黒山公園の基本情報
【住所】大崎市古川小野字羽黒72番1
【連絡先】0229-28-3111 (長岡地区公民館)
【見ごろ時期】9月中旬~9月下旬
【アクセス】東北自動車道「長者原スマートIC」より約5分
彼岸花の人気名所と開花時期:【関東】
栃木県・常楽寺
壬生町にある花の寺として有名で、彼岸花が咲かない時期でも花好きの方が多く訪れます。後鳥羽上皇の病気平癒に貢献したということで「録事法眼(ろくじほうがん)」の名を賜ったという医師「中野智元」が祭られています。雷神がその智元の元に病気の治療に訪れたという言い伝えもあり、雷除けのお寺としても有名です。参道には彼岸花の群落が真赤なじゅうたんを敷きつめた様で見ごたえ十分です。
常楽寺の基本情報
【住所】下都賀郡壬生町本丸1-1-30
【連絡先】0282-82-0225
【見ごろ時期】9月中旬~下旬
【アクセス】壬生駅より徒歩約15分
(車)東北自動車道栃木ICより約25分
埼玉県・巾着田
くねくねと蛇行して流れる高麗川(こまがわ)によって形作られた場所が巾着(きんちゃく)に似ていることから「巾着田」と呼ばれています。川に囲まれた面積約3.4haの雑木林と平地に、冬季の花が咲かない時期を除いて、四季を通じて様々な花が咲くことから多くの方が訪れます。なかでも秋彼岸に開花する彼岸花の群生は目を見張るもので、辺りが炎が燃え上がる様な光景が見られます。開花時には「巾着田曼珠沙華まつり」が開催されます。
巾着田の基本情報
【住所】日高市大字高麗本郷125- 2
【連絡先】042-989-2111(日高市観光協会)
【見ごろ時期】9月中旬~10月上旬
【アクセス】西武池袋線「高麗駅」より徒歩約15分
(車)圏央道「狭山日高IC」より約10分
※開花期間中は混雑が予想されるので電車等利用がおすすめ。
神奈川県・常泉寺
常泉寺は「花の寺」「かっぱの寺」という事で、こちらも花が咲かない時がないくらいのお寺として親しまれています。特に和紙の原料にもされる「みつまた」の花は「かながわ花の百選」に選ばれ、春から初夏にかけて花が楽しめます。9月中旬頃から真赤な色に混じって白の彼岸花も咲き誇り、埼玉の巾着田、神奈川の日向薬師と並んで「彼岸花関東三大名所」のひとつとされ、また、「河童(かっぱ)の寺」としても有名で、境内のあちこちにユーモラスな河童の石像が配置されています。
常泉寺の基本情報
【住所】大和市福田2176
【連絡先】046-267-8789
【見ごろ時期】9月中旬~下旬
【アクセス】小田急線「高座渋谷」駅より徒歩約10分
※駐車場が狭小ですので電車利用をおすすめします。
神奈川県・日向薬師
日本三薬師のひとつとされる「日向山宝城坊」通称「日向薬師(ひなたやくし)」の付近一帯に広がる、こちらも「彼岸花関東三大名所」のひとつとされ、秋には田園地帯に広がる見事な彼岸花が咲く群落が見られます。「かながわの花100選」にも選ばれていて、日向薬師バス停から参道沿いに広範囲に渡って群生地が3箇所ほどあり見事な景観を作っています。
日向薬師の基本情報
【住所】伊勢原市日向1644
【連絡先】0463-95-1416(伊勢原市商工観光課)
【見ごろ時期】9月中旬~下旬
【アクセス】小田急線「伊勢原」駅よりバス利用「日向薬師」下車
(車)東名高速道「厚木IC」より約20分
彼岸花の人気名所と開花時期:【甲信越】
長野県・嶺岳寺
下伊那郡松川町にある禅宗のお寺「嶺岳寺(れいがくじ)」は眼下に天竜川が、西の方角には中央アルプスの雄大な山並が望めるる高台にあります。ご住職が増やしてこられたという約3万株ほどの彼岸花が、秋の彼岸に一斉に開花します。彼岸花の真赤な色に白い色も混じって咲く風景は、のどかで落着いた雰囲気を楽しみながら散策できます。
嶺岳寺の基本情報
【住所】下伊那郡松川町生田438
【連絡先】0265-36-6320(松川町観光案内所)
【見ごろ時期】9月上旬~下旬
【アクセス】JR飯田線「伊那大島」駅より徒歩約30分
(車)中央自動車道松川ICより約15分
彼岸花の人気名所と開花時期:【東海】
愛知県・矢勝川
半田市を流れる「矢勝川(やかちかわ)」流域の高田橋から弘法橋までの堰堤沿いに約2kmに渡って約300万本の真赤に燃える様な彼岸花が開花します。童話「ごんぎつね」の作者「新美南吉」氏の生誕地でもあり、童話のなかにも彼岸花にちなんだ記述があることから、地元の方達によって、花が咲かない場所に球根を植え続けて増やしたもので、彼岸花の咲く時期に合わせて催される「ごんの秋まつり」には全国からも観光客が訪れています。
矢勝川の基本情報
【住所】半田市岩滑地区(矢勝川沿い)
【連絡先】0569-32-3264(半田市観光協会)
【見ごろ時期】9月中旬~10月初旬
【アクセス】名鉄河和線「半田口」駅より徒歩約10分
(車)知多半島道路半田中央ICより約5分
彼岸花の人気名所と開花時期:【関西】
京都府・穴太寺
西国観音霊場二十一番札所です。京都府の名勝の一つである美しい庭園が見所です。「なで仏」と呼ばれ、本堂に安置されている「釈迦如来涅槃像(しゃかにょらいねはんぞう)」は、自身の身体の病と同じ箇所を撫でて、撫で返すとその病が治ると伝えられています。周辺の参道や畑の縁には秋の彼岸に合わせて彼岸花がたくさん咲き誇り見事な景観を作り上げています。安寿と厨子王伝説でも有名ですね。
穴太寺の基本情報
【住所】亀岡市曽我部町穴太東辻46
【連絡先】0771-22-0691(亀岡市観光協会)
【見ごろ時期】9月中旬~下旬
【アクセス】JR嵯峨野線「亀岡」駅よりバス利用「穴太口」下車徒歩約10分
(車)京都縦貫自動車道亀岡ICより約5分
奈良県・葛城一言主神社
一言だけ願いを聞いてくれる神様として「一言さん」と呼ばれて親しまれている神社です。途中、「一言主(ひとことぬし)神社」や「九品寺(くほんじ)」がある葛城山の東側山麓を通る「葛城古道」では彼岸花が咲くスポットが点在していることで知られています。神社周辺の田園地帯には真赤に染まる彼岸花の群生が見られます。
葛城一言主神社の基本情報
【住所】御所市大字森脇432
【連絡先】0745-66-0178
【見ごろ時期】9月中旬~下旬
【アクセス】近鉄「御所」駅よりバス利用約6分
(車)京名和自動車道御所ICより約15分
彼岸花の人気名所と開花時期:【中国】
広島県・吉舎町(辻彼岸花の里)
三次(みよし)市吉舎町辻地区を流れる馬洗川沿いに広がる、栗林と水田地帯の広範囲に彼岸花の群生が見られます。元々自生していたものを地元の方達が、手入れを欠かさず増やし続けてきたもので「辻彼岸花の里」と名付けて守り続けています。この群落は中国地方随一とされ、講談社発行の「週間花百科」では、彼岸花の花の名所全国ベスト10に選ばれています。
吉舎町(辻彼岸花の里)の基本情報
【住所】三次市吉舎町町辻
【連絡先】0824-43-3112(三次市吉舎支所)
【見ごろ時期】9月中旬~下旬
【アクセス】JR福塩線「吉舎駅」より徒歩約1時間
(車)中国やまなみ街道吉舎ICより約15分
彼岸花の人気名所と開花時期:【九州】
福岡県・つづら棚田
新川葛籠(つづら)地区の山間の斜面に、面積約7ha約300枚ほどの石積みをして作られ、「日本の棚田百選」にも選ばれている棚田があります。稲の刈り取り時期となる9月彼岸の頃には棚田の縁に約50万本の彼岸花が開花し、稲の黄金色と彼岸花の真赤なコントラストが絶妙の美しさを見ることができます。開花時期には「棚田inうきは彼岸花めぐり&ばさら祭」が催され、他方面からの観光客が訪れます。
つづら棚田の基本情報
【住所】うきは市浮羽町新川つづら
【連絡先】0943-77-5611(うきは市観光協会)
【見ごろ時期】9月中旬~下旬
【アクセス】大分自動車道杷木ICより約30分
※景観保全の為、車両1台500円の棚田協力金が必要。
長崎県・鉢巻山展望所
近くに野岳湖公園がある鉢巻山の山頂付近に約100万本のなかに白やクリーム色、真赤な彼岸花が開花します。眼下の大村湾や雲仙岳、西海橋など景色も抜群で夕陽のスポットでも有名で、花が咲かない時期でも楽しめます。毎年9月中旬の彼岸花の咲く時期には「鉢巻山ヒガンバナまつり」が催され、カップルや観光客で賑わいます。
鉢巻山展望所の基本情報
【住所】大村市野岳町1921
【連絡先】0957-53-4111(大村市観光振興課)
【見ごろ時期】9月中旬~下旬
【アクセス】JR大村線「大村」駅よりバス利用約40分
(車)長崎自動車道大村ICより約15分
まとめ
各地の名所とされる所をピックアップしましたが、まだまだご紹介しきれない程、彼岸花の群生する場所はたくさん点在しています。日本独特の風景と例えても過言ではないと思うほど、秋の田園風景を彩る花です。早朝の朝露に濡れて陽に輝く花もきれいですが、夕陽とのコラボレーションも素敵なインスタ映えとなるでしょう。いずれにしても咲く期間が短いですからベストな見ごろを逃さない様にしましょう。
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