カブトガニについて
カブトガニはなんと2億年も前からその姿形を変えずに生息しており、カモノハシやシーラカンス、イチョウと同じく生きた化石の仲間として考えられています。カブトガニは背面全体が固くて大きなキチン質の甲羅で覆われていて、脚はその下に付属しています。全長は約50~60cmまで成長し、体は前体(頭胸部)、後体(腹部)、尾節(尾剣)からなります。
カブトガニは古生代の三葉虫を祖先としているため、クモやサソリと同じ鋏角類に分類されます。実はカニの仲間ではないのです。
カブトガニの分布
カブトガニの仲間はカブトガニ、アメリカカブトガニ、ミナミカブトガニ、マルオカブトガニの2種4属に分類されます。カブトガニは日本や台湾、インドネシア、フィリピン、東シナ海に広く生息し、アメリカカブトガニはメキシコ湾から北大西洋沿岸にかけて生息しています。ミナミカブトガニとマルオカブトガニは南方に広く分布しています。
カブトガニの日本における分布
かつては瀬戸内海一帯や九州北部にごく自然と生息していましたが、現在ではその数は年々減少しており九州において繁殖が確認されている地域は大分、福岡、佐賀の一部の海岸でしかありません。瀬戸内海では兵庫、広島、山口の他、香川、徳島、愛媛と広く分布していますが確認されている幼生や成体の数もわずかで豊かに繁殖しているとは言い難い状況です。
カブトガニは絶滅の危機に瀕している?!
カブトガニは環境省のレッドデータブックで、絶滅危惧Ⅰ種に指定されている絶滅危惧種です。原因は水質悪化や捕獲、生息地の埋め立てなどと考えられています。またアメリカカブトガニの個体数も同じような要因で、カブトガニ程ではないですが減り続けており、世界的に見てもカブトガニの生育は危ぶまれています。その生命力の強さから2億年も昔から変わらず生きてきたのに、ここ数十年で絶滅危惧種に指定される程数を減らしたという事実から人間のエゴの恐ろしさが感じられます。
生育地の重要さ
カブトガニは砂浜で産卵し、幼生は干潟で成長します。カブトガニが生育するためには波の穏やかな浅海に加え広大な面積の砂浜と干潟が必要になります。このような環境が、水質悪化や埋め立て等でここ数十年の内に激減したことが、カブトガニの生育に大きな悪影響となりました。
田んぼにいそうなイメージのカブトガニ
カブトガニってなんとなく田んぼに生息してそうなイメージを持っている方も多いかもしれません。ですが実際に田んぼで暮らしているのはカブトガニではなく、「カブトエビ」という生物です。見た目もどことなくカブトガニに似ておりどちらも生きた化石ですが、クモやサソリが仲間のカブトガニに対し、カブトエビは節足動物でカニやエビが同じ仲間になります。
またカブトガニが大きな体をしているのに対し、カブトエビは3,4センチと小さくカブトエビの甲羅は柔らかいです。カブトエビは雑草の芽を食べ、泳ぐことで水が濁るので雑草の生育も遅らせてくれます。そのため農家には喜ばれる存在ですが、現在は昔と比べると農薬によってめっきり数が減ってしまっています。
絶滅危惧種のカブトガニ!養殖はできないの?
カブトガニは十数回の脱皮を繰り返してようやく成体へと成長することができます。成体になるまでにかかる時間は10~13年ほどと、とても長い時間がかかるため養殖は難しいのが現状です。日本で養殖を行っているところは現段階では確認されていません。
養殖はされていませんが…
カブトガニの養殖は日本ではされていませんが、絶滅危惧種であるカブトガニの保護を目的とした活動を行っている団体があり、実際産卵つがい数の増加が報告されているようです。
昭和53年に、カブトガニ保護に協力する個人または団体をもって「日本カブトガニを守る会」が設立されました。 会は、激減するカブトガニの保護対策を検討し、かつその保護に関連する実践活動をおこなうことを目的とします。 会の事務局は、佐賀県伊万里市におき、笠岡、福岡、愛媛、杵築、長崎、伊万里に支部があります。 会員は、700名以上います。 年1回、総会をおこない、各地の現況報告や保護対策について話し合います。また、各支部でも多くの事業が計画されてます。詳しくは、年1回発行される会誌「かぶとがに」に掲載しています
カブトガニを守るためにできること
カブトガニを守る会では一般の方にカブトガニを知ってもらうため公開講座を開いたり、研究会や学校での講演会の開催、海外の学術シンポジウムにも参加しています。また産卵状況、幼生・成体の調査、海岸の清掃活動や産卵観察会、干潟の環境を守るためのマアモの移植事業など幅広い活動をされています。ここまで大きなことはできなくとも、私たちも環境を守るためできることを考えて行動するようにしていきたいです。
カブトガニの血液が人間を救う?!
採血されたカブトガニの青い血は様々な分野で人間にとって役立つことが分かってきており、なんと1リットル約150万円もの価値があると言われています。一体どこにそれだけの価値があるのでしょうか?
カブトガニの採血の方法
カブトガニの体を洗浄した後、ステンレス鋼の針を直接心臓に刺し浸透圧差を利用して青い血液が採取されます。その際体内血液の約30%が採血されますが、カブトガニの循環系は開放血管系なので心臓の血液が減少しても体内にはかなりの量の血液が残っているため、採血によって死ぬことは少ないです。
ただしそうはいっても全体の3%程はこの採血で絶命するそうです。また採血がカブトガニに与える影響は大きく、海にかえされた後も一部の個体は死亡することもあり、繁殖にも多大な影響を及ぼしています。
カブトガニの血液利用その1:医療、衛生
採血された血液内の抽出成分(LAL)は有害な細菌と反応して瞬時に凝固します。この反応の正確さと速さは大変優れたもので医療界では感染症や新薬のテスト、医療器具の安全性の確認をする際に大いに役立ちます。またヒトの体内に投与することでガンの早期発見も可能です。また細菌を素早く認識し無毒化させる働きは医療だけでなく、食品衛生の分野でも活用されています。カブトガニの血液はサルモネラ菌や大腸菌なども検出できるため、食品の安全性、信頼性の確保にも貢献してくれます。
カブトガニの血液利用その2:HIVの予防
エイズウイルス(=HIV ヒト免疫不全ウイルス)が体内に侵入すると免疫細胞が破壊され様々な感染症や疾患にかかりやすくなります。(この状態をエイズと呼びます。)カブトガニの血液中にあるタキプレシンという物質はこのエイズウイルスがリンパ球に侵入することを防いでくれます。またエイズウイルスに感染した後でも、エイズウイルスによってリンパ球が破壊されることを防ぐので、HIVの進行を働きがあります。
将来的にはHIVの特効薬もできるかもしれません
現在血液から抽出した成分を使って、HIVの特効薬の開発が医療業界で行われています。これが完成すればカブトガニから採血する必要もなくなるため、HIV根絶だけでなくカブトガニの生態を守ることにもつながります。
カブトガニの血液利用:その他
細菌のコンタミネーションを防ぐために国際宇宙ステーションでカブトガニの血液中の酵素が利用されるなど、カブトガニの血液は現在では大活躍をしています。しかしカブトガニの価値(エイズ、HIV、細菌検査等)が知られていなかった時の日本では、カブトガニはあまり役に立たないと考えられており、釣り餌や肥料、家畜の飼料等に用いられるくらいの存在でした。対して東南アジア地域では血液利用よりも食用として使われることが多く、タイのマーケットでは一匹500円程で売られているそうです。ただし味はあまり美味しくなく、食べられるところもほとんどないようです。
カブトガニの血液利用:アメリカでは
アメリカの医療でもカブトガニの血液は有効活用されていますが、東海岸ではアメリカカブトガニの個体数がかなり多く、ウナギや巻貝漁に使用される一方で害虫扱いされることもあります。(カブトガニとは違ってアメリカカブトガニは絶滅危惧種には指定されていません。)ですがやはり生育環境の破壊、乱獲等によってその数は1970年以降年々減少しており、アメリカでも保護活動が盛んになってきています。裏返しになったカブトガニの約10%が元に戻ることができず死亡することから、裏返しのカブトガニを発見したら元に戻すという面白い運動も行われています。
カブトガニの血液が青いワケとは!?
カブトガニの血液は少しくすんでいますが、鮮やかな青色をしてます。なぜ人間の赤い血と違いこのような色をしているのでしょうか?それはカブトガニや甲殻類、軟体動物は血液中にヘモグロビンの代わりにヘモシアニンというタンパク質を持つためです。ヘモグロビン中の鉄原子に酸素が結合することで赤くなる一方、ヘモシアニン中には銅原子が含まれておりこれに酸素が結合すると青い色に変わります。なのでカブトガニの血液は一旦体外に出ると青いですが、実は体内では白色をしています。
まとめ
今回はカブトガニの特徴的な青い血液について主に紹介してきました。それはHIV、エイズを抑制するだけでなく食品衛生やがんの予防にも役立つなど人間にとってとても大事なものだと分かりました。しかし人間の利益ばかりを考えた結果、カブトガニの個体数は激減し絶滅危惧種に指定されるまでになりました。養殖も困難なことを考えると、乱獲を防ぐことや生育環境の整備、養殖技術の確立などがこれからの課題となります。2億年というとてつもない期間、過酷な環境の変化にも耐えつづけた貴重な命を、人間の私利私欲のために終わらせることがあってはならないと感じます。
カブトガニやその血液、カブトエビとの違いなど、さらに詳しく知りたい方におすすめ!
以下のリンクでは、カブトガニの血液や飼育について詳しく書いています。さらに記事内で軽く紹介したカブトエビについても書かれています!気になった方はこちらも読んでみてください!
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