MTバイクのギアチェンジ:はじめに
自動車はオートマチック車が主流になっているものの、バイクは今もMT車が主流です。MTバイクはダイレクトな加速感を楽しめる乗り方ができますし、クラッチレバーやシフトペダルを操作する楽しさも魅力。しかし、MTバイクのギアチェンジのやり方に難しさや煩わしさを感じるライダーは少なくありません。ここでは、MTバイクのギアチェンジのやり方やコツを解説します。
なぜバイクはMT車が主流なのか?
バイクは不安定な乗り物です。2つの点(タイヤ)に存在する面(路面)は無数にあるからです。では、なぜバイクは平面をひとつだけ選び、安定して走行できるのか?それは、前に進もうとする力(路面を蹴る力)が加わっているからです。MT車が今も主流なのは、前に進もうとする力を自在に制御できるからだといえます。
MT車とAT車では乗り方が違う!
MTバイクとATバイクでは路面を蹴る力を制御するための操作手段が違います。MTバイクはアクセル、ブレーキ、クラッチ、ギアを操作しなければならないものの、任意で細かく制御する乗り方ができます。一方、ATバイクはアクセルとブレーキのみを操作し、クラッチとギアはバイクが自動で操作してくれますが、タイヤが路面を蹴る力を自在に制御する乗り方ができません。MT車の方がバイクを安定させやすいというライダーが多いのはそのためです。
MTバイクのギアチェンジとは
MTバイクのトランスミッションの仕組み
エンジンで発生させたエネルギーをタイヤへと伝える経路は以下の通り。エンジンのピストン運動をクランクで回転運動に変換し、プライマリードライブギア→プライマリードリブンギア→ミッション→ドライブスプロケットへと力を伝えます。ライダーがギアチェンジで操作するのはこのうちのミッション。ミッションはシフトペダルで操作します。ギアに加わっている動力を抜くためにクラッチレバーも操作します。
1速しかないニンジャ250があったなら
MTバイクはなぜギアチェンジをしなければならないのか?それは一定の出力しか出せないエンジンを幅広い速度域や路面状況に対応させるためです。仮に1速しかないニンジャ250があった場合、速度の理論値を計算すると、その最高速度はたったの60.8km/h。これでは高速道路を走れませんし、一般道ですら高回転までエンジンを回す乗り方になってしまいます。
【カワサキ ニンジャ250(2019年モデル)の理論値】
変速比 | 総減速比 | タイヤの 回転数/分 |
km/時 | |
1速 | 2.769 | 24.272 | 515.0 | 60.8 |
2速 | 1.894 | 16.602 | 752.9 | 88.9 |
3速 | 1.500 | 13.149 | 950.7 | 112.3 |
4速 | 1.240 | 10.869 | 1150.0 | 135.8 |
5速 | 1.074 | 9.414 | 1327.8 | 156.8 |
6速 | 0.960 | 8.415 | 1485.4 | 175.5 |
※最高出力を発生させるエンジン回転数で計算(12500rpm)
※総減速比=一次減速比(3.068)×二次減速比(2.857)×変速比
※タイヤの円周=ダンロップのGT601の140/70-17(ニンジャ250純正サイズ)で計算
バイクのギアチェンジ:シフトアップ
シフトアップは実用的なエンジン回転数をキープしながらバイクの速度を上げるために行います。発進時は静止した状態のバイクを走り出させるために力持ちのギアが必要ですが、速度が上がるとたくさんタイヤを回せるギアが必要になります。力持ちのギアだけではエンジン回転数が高くなってしまいまい、エンジンの能力が限界を向かえるので、シフトアップするのです。
シフトアップのやり方
シフトアップのやり方は①シフトアップするタイミングでアクセルを閉じる②ほぼ同時にクラッチを切り、エンジンの回転がギアに伝わらないようにする③シフトペダルで高いギアに入れる④クラッチがつながる感触を感じながらレバーを戻す、です。シフトアップするとタイヤが路面を蹴る力が変化しますので、路面の状態が悪い道路ではスリップに備えた乗り方をしましょう。確実にニーグリップする乗り方なら大丈夫です。
バイクのギアチェンジ:シフトアップのコツ
シフトアップは速度が落ちないように素早く操作するのが正しいいやり方です。たくさん操作しなければならない印象を受けるものの、所要時間は1秒ほど。素早くシフトアップするコツは体に操作を覚え込ませることです。頭で考えるやり方ではタイミングを逃します。せっかく上げた速度が落ちてしまい、シフトアップできない乗り方になるのです。
素早く操作しないとバイクが不安定になる
バイクは加速しているほうが安定する乗り物です。シフトアップの操作に時間をかけると、クラッチを切っている時間が長くなりますので、タイヤが路面を蹴っていない時間も長くなります。その結果、バイクが失速してしまい、不安定になってしまうのです。試しに極低速でクラッチを完全に切ってみてください。クラッチをつないでいるほうが安定した乗り方ができるはずです。
バイクのギアチェンジ:シフトダウン
たくさん走れるギアよりも力持のギアが必要になったら、低いギアに変速します。それがシフトダウンです。シフトダウンが必要な場面は、高いギアでは上れない上り坂での加速、スピードが出すぎてしまう下り坂での減速、エンジン回転数を落とさず速度だけ落としたいときなどです。
シフトダウンのやり方
シフトダウンのやり方は①シフトダウンするタイミングでアクセルを閉じる②ほぼ同時にクラッチを切り、エンジンの回転をギアに伝えなくする③シフトペダルで低いギアに入れる④クラッチがつながる感触を感じながらレバーを戻す、です。基本的な注意点はシフトアップと同じなのですが、上り坂でクラッチを切ると失速しやすく、下り坂では意図せずスピードが上がってしまいます。
バイクのギアチェンジ:シフトダウンのコツ
シフトアップと同様に、体に覚え込ませるのがコツですね。所要時間もシフトアップと同様に1秒ほどです。感触を確かめながらクラッチをつなぐと、上手にシフトダウンできます。クラッチレバーだけでなく、バイクの挙動にも注意しましょう。クラッチをドンとつなぐと、リヤタイヤがスリップする可能性があります。かといって、慎重にクラッチをつなぐ必要はありません。
ギアチェンジはバイクを立てた状態で!
シフトダウンに限らず、ギアチェンジはバイクを路面に対して垂直に立てた状態で行いましょう。バイクが左右どちらかに傾いている状態でギアチェンジをすると、スリップしたときのリカバリーが難しいからです。クラッチをドンとつないでスリップしても、バイクが左右に傾いていなければバランスを崩しにくいですね。もちろん、確実なニーグリップは必要です。
カーブ前の減速は手前でシフトダウン!
カーブ手前でのシフトダウンはカーブを曲がる動作に入るまでにしておきましょう。カーブの内側にバイクが傾いているとき(バンクしているとき)にシフトダウンをすると、バイクが不安定になります。バイクは遠心力を利用してカーブを曲がる乗り物です。カーブの途中でクラッチを切ったりシフトチェンジをしたりすると、タイヤが路面を蹴る力が変化し、遠心力とのバランスが取れなくなります。
バイクのギアチェンジ:体感で覚える!
適切なエンジン回転数を探るコツ①
バイクのギアチェンジをするタイミングは体感で判断するのがもっとも有効だといえます。バイクの加速感や減速感の好みはライダーの好みによって違うからです。また、街乗り、ワインディングロード、ツーリングなど、バイクに乗る目的によってギアチェンジのタイミングを変えるライダーは多いですね。
アクセルのオン/オフで確かめる
選択しているギアが正しいかどうかを体感で判断するために、アクセルを開けたときと閉じたときの差を確かめて見ましょう。アクティブな加減速を好むライダーは低めのギア、ラフで疲れない加減速を好むライダーは高めのギアを選択していることが多いですね。アクセルを開けても思ったように加速しない、閉じても減速しない、そんな場合はギアチェンジしましょう。
バイクのギアチェンジ:取扱説明書の確認
適切なエンジン回転数を探るコツ②
バイクの取扱説明書には「〇速は時速〇~〇km/hまで」と記載していることが多いですね。各バイクメーカーの取扱説明書を確認すると、ホンダ、ヤマハ、スズキはギアと速度域を明確に記載しています。カワサキは特定のエンジン回転数以下でシフトダウンするよう促していますね。取扱説明書に記載されているギアと速度を把握しているライダーは少ないのですが、ひとつの指標にできます。
シフトアップよりシフトダウンに注意
シフトダウンは十分速度が落ちてからするのが正しいやり方です。速度が落ちないままシフトダウンをすると、エンジン回転数が意に反して上がってしまいます。「〇速へは〇km/h以下でシフトダウン」と把握するといいですね。しかし、初心者はクラッチレバーやシフトペダルの操作に慣れるまで、そこまで考えが回らないというのが実情。シフトダウンでエンジン回転数が上がりすぎたら、クラッチで加減操作するのもありです。
余談:エンジン回転数の理論値計算
タコメーターが付いていないバイクなら、以下の公式で理論上のエンジン回転数を計算できます。実際走行したときのエンジン回転数とは異なりますので、目安として計算してみましょう。
エンジン回転数rpm=(時速×変速比×一次減速比×二次減速比×1,000,000)÷(リヤタイヤ外径×π×60)
バイクのギアチェンジ:変則テクニック
MTバイクのギアチェンジに特別なテクニックは必要ありません。試験場や教習所で推奨する変速方法ができれば十分です。バイクのギアを傷める可能性があったり、不必要な空吹かしになったりするので、ここではおすすめできない変速テクニックとして紹介します。しかし、サーキット走行会で試すと病みつきになるほど楽しいですね。
ノークラッチシフトアップ
ノークラッチシフトアップはクラッチを操作しないで変速操作するテクニックです。クラッチを切る手順を省けますので、不必要にエンジン回転数を落とさずに済みます。アクセルを閉じるとクラッチを操作しなくてもギアが入るポイントがあり、そこでシフトペダルを上げるとギアチェンジできます。しかし、公道ではそこまでする必要性がありませんし、ギアを傷める可能性もありますので、あまりおすすめできません。
ブリッピングシフトダウン
ブリッピングシフトダウンはアクセル操作で意図的にエンジン回転数を上げてシフトダウンする変速テクニックです。クラッチを切ってシフトペダルを踏む間に、バイクの速度に見合ったエンジン回転数まで上げてからクラッチをつなぎます。速度が十分に落ちていない状態でシフトダウンするためのテクニックですので、公道を走行する上では不必要です。また、知らない人には空吹かししているようにしか聞こえない排気音になりますので、おすすめできるテクニックではありません。
MTバイクのギアチェンジ:まとめ
MTバイクのギアチェンジについてまとめました。試験場や教習所で求められる操作ができれば十分ですが、よりスムーズな変速操作を心がけたいですね。加えて、体格に合わせてシフトペダルの高さやクラッチレバーの可動幅も調整しましょう。速く走るためのテクニックは必要ありません。ツーリング先にはノークラッチシフトアップやブリッピングシフトダウンよりも刺激的なできごとがたくさん待っています。
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