苔の種類や名前の見分け方からはじめよう
苔テラリウムや苔盆栽など、近年、人気の高い苔。庭に敷き詰められた日本庭園や可憐な花といっしょに広がる苔があしらわれた洋風ガーデンは、今も昔も変わらず高い人気を誇ります。でも、苔は種類が多すぎて育て方や見分け方がわからないこともしばしば。苔について知るにあたり、まずは、苔の種類や名前の見分け方からはじめてみたいと思います。
苔の種類はどうやって分類されるのか
苔に共通する特徴とは?
苔と分類される植物には、ほかの一般的な植物のように茎、葉、根がはっきりと区別されることはありません。また、根のように見えるのは仮根(かこん)と呼ばれ、苔が倒れないように支えるために生えてきますが、水や栄養分を吸収するような機能はありません。水を吸収するのは葉や茎全体の細胞です。
苔の種類は3種類
苔の種類は、かつて、スギゴケなどを含む癬類と、ゼニゴケなどを含む苔類の2種類に分類されていましたが、苔類に含まれていたツノゴケ類が独立し、3種類に分類されるようになりました。さらに近年では、この3種類を独立した門(生物分類における階層のひとつ)に分類する方法が示され、かつてはコケ植物門の中に、蘚類、苔類、ツノゴケ類と分類されていたものが、現在では、マゴケ植物門、ゼニゴケ植物門、ツノゴケ植物門とそれぞれ独立した分類として扱われています。
世界に2万種類ほどの苔が存在
苔の種類は世界に2万種類ほどあるといわれています。この2万種には、マゴケ植物門に属する種は1万種ほど、ゼニゴケ植物門には6000~9000種ほど、ツノゴケ植物門には200~250種ほどが属されます。それぞれの分類群のすべての種を知ることは難しいことですが、大別される種類の特徴を見ていきましょう。
苔の種類①マゴケ植物門
苔の中でも最も種類が多く、形や生える場所なども多様なマゴケ植物門。蘚類とも呼ばれ、スギゴケやミズゴケなどもこの種類に含まれます。大きさは1mmに満たないものから30cmもの高さがあるものまでさまざま。茎と葉からなる茎葉体で、寿命の長い胞子体を持ち、一般に、葉に中肋(ちゅうろく)と呼ばれる脈があります。また、仮根は一般に茎の基部から生えてきますが、すべてのマゴケ植物門の種で生えてくるわけではありません。
生える場所は基本的に陸上
多くの場合、集まって群生し、基本的に生える場所は陸上。ただし、水中に生育するものもあります。湿った環境を好む種が多く、たいてい温暖で湿っぽい地域に生息しています。ほかに生える場所として、岩の上、樹皮の上、樹枝から垂れ下がるものなど、さまざまな種類があります。おもな種類には、コケ植物全体のほとんどが属するマゴケ綱、葉の表面に縦に並んだ板状の薄板があることで知られるスギゴケ綱など。
苔の種類②ゼニゴケ植物門
マゴケ植物門と並び、苔の中では大きなグループに分類されるゼニゴケ植物門。苔類(たいるい)とも呼ばれ、ゼニゴケやジャゴケなどがこのグループに属します。ゼニゴケ植物門の特徴は、マゴケ植物門の苔のように茎と葉の区別があるものと、区別のない葉状体と呼ばれる仕組みをしているものがあります。葉状体のゼニゴケ植物門の苔は、葉が大きく裂け、中肋(ちゅうろく)がないなどの特徴がありますが、例外も多く、区別がむずかしいことも。
生える場所はさまざま
ゼニゴケ植物門も、苔植物一般と同じく、温暖で湿った場所を好みます。地上に育ち、岩の上や枝の上、庭の片隅など、生える場所もさまざまです。同じグループの中には、水中で生活するウキゴケもあります。一部の細胞が大きくなった葉状体を持つゼニゴケ綱、ゼニゴケ植物門の中でも多くの種が含まれるウロコゴケ綱、葉をつけず、根茎だけで生活するなど例外的な特徴のある苔も含まれるコマチゴケ綱なども含まれます。
苔の種類③ツノゴケ植物門
ツノゴケ植物門は、ほかの2種類のグループよりもはるかに品種の数が少なく、現在知られているのは400種といわれています。葉と茎がなく、外見はゼニゴケ植物門の苔によく似た葉状体で、中肋はなく、角状の胞子体が縦に裂けるように開き、胞子を飛ばします。生える場所はほかの種類とほぼ同じ、温暖で湿った場所です。
ほとんど似ているがちがいもある
ツノゴケ植物門のグループの苔には、ピレノイドと呼ばれる粒のような器官があります。これは、ほかの苔には見られない特徴です。また、一般に藻の仲間であるシアノバクテリアと共生していて、ほかの2種類のグループの苔には見られない特徴です。仮根は葉の裏側から直接生えてきます。
苔の見分け方とは
苔には大きく3種類あることがわかりましたが、実際に苔を見たとき、それがどのグループに属するのか見分けるのはむずかしいものです。そこで苔の種類を調べるときの見分け方をご紹介します。これから苔テラリウムや苔盆栽、庭に苔を育ててみようと考えてらっしゃる方は、厳密に苔の名前を見分けるのが無理でも、だいたいどの種類なのかがわかるようになっておくと、苔の育て方を間違えることもありません。
苔の見分け方のポイントは3つ
世界に2万種、日本にも2000種近く生息する苔。じっくりと観察しなければ、そのちがいを見分けるのは至難の業です。でも、見分け方のポイントを押さえてしまえば、苔の種類はだいたいわかるようになります。見分け方は、葉の生え方、葉の形、中肋の有無の3つのポイントを確認すればOKです。
苔の種類別の見分け方①葉の生え方
苔の種類を調べるときに、まず取りかかりたい見分け方が葉の生え方のチェックです。茎と葉が確認できたら、それはスギゴケ植物門か、ゼニゴケ植物門の中のゼニゴケ類以外であるところまで絞り込むことができます。一方、葉をはっきりと区別することができず、葉が地面に張り付いているように見える場合、ゼニゴケ類かツノゴケ植物門である可能性が高いです。
葉のつき方を分析して名前まで導く
苔の種類の検討がついたら、今度は葉の生え方について、さらに細かく見ていきましょう。茎を軸に左右対称に葉が生えているか、そうではなく、あちこちに葉が生えているのかなど、葉の生え方によってさらに種類を特定することが可能となります。
苔の種類別の見分け方②葉の形
苔の葉の形を確認する前に、葉の形やその名前を知っておくと便利です。苔の葉には、先が細くとがった線状披針形、線状披針形よりも曲線を描く披針形、楕円形、卵形、長楕円形、楕円状披針形、円形などがあります。また、葉の先端の形状についても、尖っているものや丸いものがあります。どのように尖っているのかなど、葉の様子もあわせて確認しましょう。
ルーペなどのアイテムも必要
苔の葉の形を確認する際、苔の生える場所、苔が生えている状態、日当たりなど、細かい状態も確認しておくと、さらに苔の種類を見分けることの助けとなります。葉先までしっかりと見えないこともありますので、ルーペなどを使って細かい部分まで観察すると、肉眼ではよく見えない形状もしっかりと見ることができます。
苔の種類別の見分け方③中肋の有無
中肋とは苔の葉の中央に伸びる太い葉脈のことです。中肋がないかどうかを確認することで、大きな3種類のうち1種類に絞り込むことができます。つまり、スギゴケ植物門には中肋がありますが、ゼニゴケ植物門やツノゴケ植物門には中肋がないのです。苔の半分がスギゴケ植物門に属することを考えると、この見分け方苔の名前をある程度、絞り込むことができます。
かなり綿密に確認する必要も
苔が小さいと葉の表面を確認するのもかなり大変です。しかも、苔によっては、中肋が短いものもありますし、日光などに透かしてみないと目認できないものもあります。ルーペなどを使ってもなかなかよく見えない場合もありますが、できる限り確認してみると、苔の種類を見分ける近道になります。なお、さまざまな見分け方を試みても見分けることができないものは、採集して保存しておくという方法も。一般に、苔を乾燥させてしまったら、虫がつくこともなく、水に戻すと元通りに戻ると言われています。
種類別の人気の高い苔図鑑①マゴケ植物門
苔図鑑ギンゴケ
街中でもよく見かけるギンゴケ。世界中に分布し、日本でも全国のコンクリートの片隅、庭の石の隙間などで見つけることができます。葉の先が透明で、銀色の見えることから、その名前がつきました。生える場所が似ているホソウリゴケは、葉先が透明にはならないので見分けるのはそうむずかしくありません。育て方のポイントは日当たりのよい場所で育てること。乾燥に強いため、水をあげすぎには要注意。苔盆栽に適した苔です。
苔図鑑タマゴケ
苔テラリウムで人気の高いタマゴケ。スギゴケよりも葉色が淡く、やわらかい印象を与えます。2月~3月になると、胞子体に胞子をつくる生殖器官である朔が丸く膨らみ、花のようでかわいいと高い人気を誇ります。タマゴケの生える場所は、山地の日陰、湿った岩上などで密集して生えます。育て方のポイントは、日陰から半日陰の場所で、乾燥させないように育てること。苔テラリウムの場合、口の開いた容器よりも狭い容器の方がおすすめ。
苔図鑑ハイゴケ
日本全国に分布し、生える場所も道端から屋根の上まで、あちこちで見かけるハイゴケ。漢字では「這苔」と記すことからもわかるように、這って成長していくため、庭づくりでよく利用されます。また、盆栽やテラリウムなどにもよく使われ、園芸種としての苔の中でも人気。育て方のポイントは、日当たりを好みますが、直射日光ではなく、半日陰で管理し、霧吹きで水やりを毎日行うこと。庭の場合、木陰に植えるか、日陰を作り、盆栽やテラリウムの場合、乾燥に注意します。
苔図鑑ヒョウタンゴケ
ヒョウタンゴケは、日陰の湿ったところを好む苔。焼け跡などに生えるのが特徴と図鑑などにあるように、焼却炉の近くなどに群生することがよくあります。茎は3~10mmと小さく、卵型の葉も数mmで、胞子体から小さな花の実のような朔がつきます。この朔は熟すと赤褐色になり、まさに小花が咲いているように見えて愛らしく、庭、盆栽、テラリウムでは色の変化を楽しみたいです。
種類別の人気の高い苔図鑑②ゼニゴケ植物門
苔図鑑ゼニゴケ
市街地などでよく見かけるゼニゴケ。生える場所は日陰の湿ったところで、梅雨時期には精力的に這うように繁殖します。景観を損ねるとして庭に繁殖すると駆除されることもあるほか、盆栽の樹木が育つのを妨げることから、盆栽には不向きだとも。ただ、水槽などに水中と陸地を混在させるアクアテラリウムなどでは人気です。育て方のポイントは、日陰の粘土質の土上などで表面が湿る程度に水やりをすること。
苔図鑑ウキゴケ
その昔は、水田やため池などでよく見かけていたウキゴケ。最近では、農薬を使用することからあまり見られなくなったとか。水中に浮かんで生育することが多いものの、湿った土上で育つこともあります。葉状体は薄くて先が裂けるのが特徴。アクアリウムではリシアという名前で知られています。庭に池などを作って植えるなどの楽しみ方もありですね。
種類別の人気の高い苔図鑑③ツノゴケ植物門
苔図鑑ニワツノゴケ
その名前の通り、庭や畑などの湿った土の上に群生するニワツノゴケ。葉状体は平たく、長さは1~3cmほどで、葉状体から角状の胞子体をつけ、胞子は黄色になります。盆栽やテラリウムではあまり使われない種類ですが、庭で楽しむ人もいらっしゃいます。似たような名前の種類もいくつもありますが、胞子の色や胞子の突起で区別します。
苔の育て方
大切に手をかけて育てる
苔は放っておいても育つと思われがちですが、元気に育てていきたい方はしっかりと管理してあげなければなりません。ガーデニングの基本といえば、日当たり、水やり、風通しですが、苔の育て方でも同じように重要なポイントがあります。気づいたら枯れていたなんてことにならないように、十分に手をかけて世話をしてあげましょう。
種類によって育て方は異なる
苔を育てるにあたって、一般に湿度が高い方がよく成長していきますが、日当たり、水やり、風通しの条件は、種類によってまったく異なります。苔を購入する場合、店員に相談するほか、苔の種類から生育環境を確認し、失敗のない育て方をしていきましょう。どこかから採取した苔については、採取した場所の環境を再現するようにしましょう。
苔の楽しみ方
苔には花はないが花に見立てて楽しむ
苔の花という言葉を聞いたことがあるかもしれません。実際には苔には花が咲きませんが、タマゴケなどのように朔が伸びて丸く膨らむと、まるで苔むした一面に花が咲いているように見えてきます。この苔の姿を苔の花と呼び、最近では苔テラリウムなどでもかわいいと高い人気を誇っています。元気に育つと苔の花もキレイに育ちますので、ぜひ挑戦してみては。
人気の高い盆栽やテラリウムで遊ぶ
近年、世界的に人気の高い苔。無機質な室内に緑を置くことで気持ちが癒され、すがすがしい印象を与えてくれます。盆栽というとむずかしそうな印象がありますが、世界的にはBONSAIは非常にオシャレで身近なアイテムで、店頭にもたくさん並びます。苔テラリウムはガラスの容器で苔を育てる方法で、小さな世界を作って楽しむのが流行です。気に入った苔を利用して、いろいろと楽しみましょう。
種類を知って人気の高い苔を楽しもう
育て方がむずかしいといわれる苔。似たような名前の種類もたくさんあって選ぶのに迷ってしまいますが、気に入った種類があったらさっそくはじめてみましょう。庭のある方は庭に植えてみる、庭のない方はベランダ、あるいは室内で苔テラリウムや盆栽と、それぞれの育て方でいろいろな楽しみを!
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