山岳での遭難は毎日起きている
登山ブームと登山者数の増加
古くは戦後まもなくの頃、昭和の第1次登山ブームが巻き起こりました。年に数百万人が登山を趣味に加え、山に登る行為はもはや修験道やマタギだけの特権ではなくなったのです。平成も終盤に入ると年間に一千万人以上が登山を楽しむほどになり、同時にどこかの山岳での遭難も日常風景となりました。
山岳の遭難者数は史上初の3,000人突破
山での不幸な遭難者が頻発しはじめた時から、詳しい統計が取られはじめていました。警察庁がまとめたところでは、昭和の時代には500~800人で推移していた山岳遭難の人数も、平成の第二次登山ブームから急増、2018年の遭難者数は全国で3,111人にも上っています。
低い山でもよく起こる遭難
山道と縁のない人の誰もが不思議に思うのは、とても低い山であっても、常に大量の遭難者を出してしまう出来事です。有名な日本アルプスの山脈だけでなく、低い山岳での遭難や死亡事故は、年間に何度もニュースで取り上げられます。標高が低い山だからと安心はまったくできないようです。
近ごろ気になった山岳遭難ニュース
高尾山で遭難者続出のニュース
気軽に行ける山岳として支持される高尾山では、近年に遭難者が相次いでいるとのニュースがありました。東京の高尾山は標高599mという低い山で登りやすく、年間300万人を超える登山者がいます。人数が多いだけに、色んな理由から年間80~100人が遭難してしまうといいます。
北アルプスで遭難者続出のニュース
天を貫くような槍ヶ岳や立山で知られる北アルプスは、常に高度な登山を求める人々が目指す山です。この3,000m級の山岳では、毎年多くの遭難者を出しています。1998年に同一パーティの8人が死亡した事故は有名ですが、2019年も早々に、北アルプスで死者が続出とのニュースが世間を賑わせました。
山岳で遭難が起きる理由①
道に迷う
幾多の遭難の原因の中で、他を圧倒する数を占めているのが道迷いです。警察庁の平成28年の統計を見れば、遭難者の道迷いは年間で1,116人に達し、全体の38%まで占める程。山深い山岳では、かなりの大勢が体験したことがあると口を揃えます。登山者である限り、常に道迷いの遭難とは隣り合わせです。
道迷いの事例
事例として顕著であるのは、始めて分け入った山岳での遭難です。地図やGPSといった基本のアイテムも持たずに入ったりと、道迷いでは不用意さも原因になっています。ルートから外れた時、この森の斜面を降りればふもとに出ると思い込み、道迷いの深みにはまってしまう体験をする人も頻発しています。
山岳で遭難が起きる理由②
滑落
頻繁な道迷いに次いで、顕著に起こっているのが滑落の事故です。平成28年には498人を記録し、全体でも17%を占めている山岳遭難原因の大御所です。これと似た転落の事故も108人も記録されています。低い山であっても体験者は多く、ただちに大怪我や死亡に繋がりやすい特徴があります。
滑落の事例
岩がちな山岳では崖登りのコースも一般的ですが、滑落する原因の多くが岩登り中のケースが多くなります。渓谷や岩の尾根など足場が不安定な場所は低い山でも存在していて、滑落の遭難を体験しやすいポイントです。最低限の安全装備も無い場合、ニュースになる程の重大事故に直結しやすくなります。
山岳で遭難が起きる理由③
転倒
気をつけていても体験してしまいがちなのは、山岳での転倒事故です。軽いつまづきでも打ちどころで大怪我となり、遭難する人の数は滑落に匹敵するほど多めです。高尾山などの低い山でも転倒の体験者は多く、ちょっとした段差さえあれば転倒の可能性があるので、常に気をつけたい要素です。
転倒の事例
すってんころりんと転んでおしりを軽く打撲するくらいの転倒事例なら可愛いもの。ところが多くの場合は転んで頭を打って重症、咄嗟に手を付いて骨折など最悪な遭難事故に繋がっています。足元が悪い山岳の岩場や、木の根、石階段など何処でも起こり、単純な不注意や登山用具の未装備なども原因です。
山岳で遭難が起きる理由④
病気
酷い道迷いを経験する人の他、山岳では調子を崩して遭難する人も頻発します。統計によれば山岳を歩いている最中に病気に見舞われた体験者は、平成28年に229人にのぼっています。どんなに足元の事故に気をつけても、高尾山クラスの低い山でも、健康な人であっても病気は隣り合わせです。
病気の事例
日頃から健康が自慢な山ガールも、標高2,000mを超える山岳に行った途端に体調を急変することがあります。いわゆる酸欠から起こる高山病です。頭痛やめまい、酷いと錯乱や昏睡を起こすこともあります。病気で遭難するの原因としては、風邪のまま山に入って高熱を出し、動けなくなる事例もあります。
山岳で遭難が起きる理由⑤
疲労
疲れ果てる体験は日頃の仕事とスポーツのみならず、登山の現場でもよく起こる体験です。山岳での遭難の原因でも、年間200人以上、全体の7%がこれを原因として救助されています。低い山では起こりにくい体験ですが、標高2,000m以上の高山やロングトレイルではありがちです。
疲労の事例
あまりに自分の体力を考慮しない登山計画を立てることに、そもそもの原因があります。距離が長過ぎ、標高が高過ぎ、急斜面の体力をすり減らすルート。そうした山岳が体力を奪い疲労感を高めます。予定を遵守しようと休憩も取らず進むこと、疲労回復の栄養素を確保しないことも、遭難に繋がります。
山岳で遭難が起きる理由⑥
野生動物襲撃
順調な縦走中で思わぬ落とし穴が待ち構えていると言えば、野生の生物による襲撃事故です。生物が活発化する夏から秋にかけてニュースになることが多く、平成28年は年間で42人がこれを原因に山岳で遭難しました。遭難には至らずとも、危険な生物に遭遇するだけなら、体験の確率は道迷い以上です。
野生動物襲撃の事例
山道をゆけば時折出くわすのが、危険な動物の出現に注意をうながす看板。高尾山でも見かけますが、山岳に分け入ってスズメバチに襲撃されたり熊に追いかけられたり、身動きができずに遭難するケースが多めです。看板があって遭遇し怪我をしたなら、不運と言うより不用心だとも表現できます。
山岳で遭難が起きる他の理由
落石
よく見かける山岳風景のひとつには、崖からの落石があります。もろい岩場や絶壁地帯では起こりがちで、特に地震が起きた時や大雨の後に起こり、ガレ場で前を歩く登山者が落とす場合もあるのが特徴です。宝くじに当たる程度の確率ですが落石にヒットして、遭難へ繋がるケースが年間に多々起こっています。
悪天候
変化しやすいのが山岳の気候ですが、空模様の悪化による遭難も珍しくありません。例えば豪雨と強風の悪天候が続いて、数日も動けなくなったりする状態です。事前に予報で悪天候が分かっていても登山を決行したり、大雨で歩けなくなる中洲をキャンプ地に選んでしまうことも原因になります。
雪崩
純白に雪化粧をした冬の山岳は圧倒される魅力ですが、道迷いの遭難も起きやすく、雪崩発生のリスクも出てきます。雪崩は雪が積もり過ぎた時、雪解け時、積雪に雨が降った時、地震時、登山者が歩いたりスキーで通過した時など原因も様々。大勢の人を巻き込んだニュースも思い出されます。
警察庁の山岳遭難者統計まとめ(平成28年)
【道迷い】人数:1,116人、構成比:38.1% 【滑落】人数:498人、構成比:17.0% 【転倒】人数:471人、構成比:16.1% 【病気】人数:229人、構成比:7.8% 【疲労】人数:204人、構成比:7.0% 【その他】人数:411人、構成比:14.0%(転落、悪天候、野生動物、落石、雪崩、鉄砲水、有毒ガスなど) 【合計】人数:2,929人
中高年の山岳遭難の増加
こうした遭難者が続出している背景としては、登山ブームによって山々を志す人が激増したことの他にも原因があります。最たるものは、中高年の登山者の増加が理由です。人気な高尾山や日本アルプスなどの山岳風景の中を歩けば、中高年の姿が目立っていることは誰もが気づきます。
遭難者の7割方は中高年
絶大な人気の高尾山を例にとっても、遭難するのは中高年の割合が高めでした。全国の山岳で遭難する人の、実に7割が50代以上の世代です。中でも60代以上の高齢世代が多く、平成28年には2,929人の遭難者のうち、60代以上が1,583人を占めていました。若い世代がやや遭難しにくいのと対照的です。
中高年が遭難する事例
昔は自信を持っていた体力も、中年より先には衰えていくのが人間です。それが分かっているのに、若い頃と同じ気分で険しい山岳に挑んで、遭難する中高年が多いとか。体力の減退、判断力の欠如、経験からくる思い込みなどが原因になり、高尾山といった低い山でも遭難事故に発展してしまいます。
年齢層別山岳遭難者数(平成28年)
【20歳未満】174人 【20~29歳】194人 【30~39歳】291人 【40~49歳】366人 【50~59歳】421人 【60~69歳】746人 【70~79歳】565人 【80~89歳】161人 【90歳以上】10人
山岳の遭難を避ける対策①
単独登山は避ける
近ごろは女の人でも、平気でソロ登山を決行する人を見かけます。犯罪に巻き込まれる可能性が低い日本だから可能なことですが、単独登山の遭難リスクは、年齢が上がる程上がります。山岳滑落や転倒しても、手当してくれる人が隣にいないためです。単独を避けるだけで、遭難リスクはかなり低下します。
登山仲間がいれば遭難率低下
もし誰かと一緒の行動なら、道迷いでも決めつけ判断を避け、正答率を上げられる可能性は高まります。怪我や疲労や病気であっても、介助されながら下山できるかもしれません。高尾山程度の低い山であっても、こうした人と一緒の山岳縦走を心がけてみてください。遭難を避ける確かな対策となりえます。
複数なら登山届けも出しやすい
ついつい無視してしまいがちなのが、単独で山を目指すの時の登山届け。名前と個人の情報を記載して登山するだけで、遭難したかどうか地元警察や山小屋などが、瞬時に判断できる仕組みです。複数で登山するなら届け出の提出率も上がるので、山岳遭難の防止に役立ちます。
山岳の遭難を避ける対策②
登山道具の万全
時折耳にできる遭難ニュースの中には、普段着で大した装備も無いまま山岳に入って、事故を起こしたという話があります。見るからに低い山であっても岩場など危険なところは侮れません。道迷い始め、怪我や疲労などでの遭難体験を回避するため、きちんと登山道具を揃えてからの決行がおすすめです。
道迷いの対策となる道具
幾つか有益なアイテムがありますが、山岳の詳細ルートが描かれた地図は道迷い対策の基本です。現在位置を特定できるGPSや方位磁針付きの腕時計を身に着けるのもおすすめ。遭難した時に救難ヘリを呼ぶことのできる、救難信号発信機は持っていると安心です。
危険な動物に対処できる道具
ほぼ不可避となるのが動物との遭遇ですが、生き延びる確率を高めるならば道具を揃えてください。例えば熊よけの鈴や、スプレーなどはよく知られているアイテムです。虫除けスプレーを持っていれば、毛虫やハチが近づく可能性を低減できます。
怪我や病気に対処できる道具
急に転倒しての怪我や、高山病に襲われたりしても、道具が揃っていれば下山できる可能性を高めます。例えば怪我に対しては止血できる絆創膏や包帯です。トレッキングポールがあれば、片足を骨折してもなんとか移動はできます。高山病に備えて、予防薬を持って行くのもお忘れなく。
主な登山道具一覧
【服装】気候に合わせたもの、帽子、ヘルメット、手袋、かっぱ
【補助】バックパック、トレッキングポール
【遭難対策】地図、GPS・方位磁針付き時計、救難信号発信機
【食料】携帯食料、栄養剤、水、お茶
【調理】コッヘル、食器、小型バーナー、ライター
【生活】寝袋、マット、小型テント、吸水タオル、着替え
【医療】絆創膏、包帯、消毒液、高山病予防薬
【動物よけ】鈴、笛、熊よけスプレー、虫よけスプレー
山岳の遭難を避ける対策③
トレーニングと体調管理
望まずとも中高年になって体力が減退してしまうのは、誰もが実感する悩みです。山岳で遭難してしまう人にありがちなのは、登山の体力不足から来る転倒や滑落。そして体調管理の不足からの疲労や病気もあるかもしれません。体力づくりと体調管理を万全にすることが、登山で遭難しない対策です。
鍛えていれば遭難率を下げる
もしも鍛えている中高年ならば、遭難する確率をグッと低められます。例えば筋力があれば山岳の難路を乗り越えられるし、スタミナがあれば長距離でも疲労で動けなくなるリスクも減ります。日和見な風邪のほか、骨粗しょう症や心筋梗塞など虚弱体質の回避も目指したいところです。
山岳の遭難を避ける対策④
迷った時の行動
分かれ道だらけの人生ですが、山岳とはそれを象徴するかの如くに分岐路だらけ。時に獣道や道なき原生林で、道迷いすることもありがちです。そうなった場合は思い込みの判断で遭難の深みにハマって、うっかりニュースに出てしまう人もいます。迷った時、こんな行動を取ってみるのが得策です。
迷ったら戻る
完全に迷っていると認識できたら、山岳ではそこより先に進んで行くのは命がけ。道迷いでは、元来た道を戻るのが最善の対策になります。戻っているうち案内板を見つけて正しいルートを確認できたり、他の登山者と遭遇して一緒に下山できたりと、遭難を回避できるメリットが多くなるためです。
迷ったら沢を降りない
かなりの経験を積んだ人でも道迷いをする場合がありますが、この時に沢を降りたらふもとに着くと決めつけるのは危険です。沢を降りようと誰が言って、それに賛同するのも同様です。沢の先へ向かって、遭難するケースが続発しています。沢を見つけに進むより、元来た道を戻るのが無難です。
遭難しない登山者を目指そう
登山は計画的に
いつも休みがくるたび登山を決行する人にとって、無視できないのが遭難事故です。ニュースは気になるし、自分の遭難の体験や事例を思えば、ブルッと身震いしてしまうかもしれません。高尾山といった登りやすい山であっても、山岳は常に備えを万全に、計画的に登ってみたいですね。
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当サイトでは山岳での遭難の他にも登山の情報をまとめています。高尾山など東京で登山をしてみたい方はチェックしてみてください。
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