高尾山とはどんな山
高尾山は眺望が良く、豊富な動植物の宝庫であるばかりでなく、神聖な場所として保護されて来た長い歴史があります。都心から1時間程度でアクセスが殆ど無く、高尾山口駅が直接にハイキング、トレッキングや登山の登山口となります。
高尾山は、この様に利便性があり、さらに登山電車やリフトも整備されて初心者向きです。このため、東京地方では小学生の頃から遠足やその他の行事で登られる良く知られた日常的な山です。ここでは、改めて「高尾山はどんな山か」についておさらいしてみましょう。
高尾山の山域
秩父山塊は地図で見るとわかるように関東地方から中部地方にわたる大きな山域です。その南部山域で奥多摩三山の最高峰三頭山から南東に延びる尾根が笹尾根と呼ばれ、東京都と山梨県や神奈川県との境となっています。笹尾根は戸倉三山に至る「奥高尾縦走路」であるばかりでは無く「関東ふれあいの道」や「東海自然歩道」の一部にもなっています。高尾山山域は笹尾根の南東の端に位置しているので高さ(標高)が高く無く、初心者向きとされているわりには懐の深い山域であり、動植物の種類も豊富です。
高尾山の地質
地質的には東京西部から神奈川県や山梨県方面に分布している小仏層群に属しています。この層は1億年前の白亜紀に形成された地層です。頁岩、粘板岩や砂岩で構成されて水平に広がる堆積層ですが、その後のマントルの移動による地殻変動で縦に延びる地層となっています。その隙間に水が貯まるので帯水層となり、植生の繁茂に貢献しています。
高尾山の植生
高尾山の山域は暖温帯系樹林帯と冷温帯系樹林帯の境界に立地するために植生は豊かで植物種は1598に及びます。主な樹木には暖温帯照葉樹林帯に属する常緑広葉樹のカシやシイ、冷温帯系落葉広葉樹に属するブナ、イヌブナ、ナラやホオノキや冷温帯系針葉樹のモミやツガに加えて昔から植林されて来た杉などがあります。草花では、時期に成らないと咲きませんが、固有種のタカオスミレ(上の写真)を含む15種のスミレが高尾山を代表しています。
高尾山の鳥類
高尾山は鳥の楽園でもあり、留鳥と渡り鳥を含めて百種以上が観測できます。ツミ、ハイタカ、オオタカ、サシバ、ノリスなど鷹類が多いのも特徴です。また、オオルリやルリビタキなど美しい鳥も見られます。(写真はオオタカ)
高尾山の獣類
動物には登山中に見掛ける日本リスを始め、比較的一般的なモグラ、アナグマ、タヌキもいます。その上、モモンガや人気のムササビなどの珍しい生育域です。山伝いにイノシシが訪れることもあり、クマの出没もまったく無いとは言えないので初心者は特に注意しましょう。(写真は長野県のムササビ)
高尾山の昆虫
高尾山には可憐さで人気の「アサギマダラ」、鳴く虫の王者で幻の虫「カンタン」、青と橙の光る「ハンショウ」を始め、「マイマイカブリ」、「クワガタの類」、「カブトムシ」、「ヤマタマムシ」や「トンボの類」など数千種の昆虫が生息しています。昔から昆虫研究の場所を提供して来て、貴船山や箕面山と共に日本三大昆虫生息地に挙げられています。また、「タカオシャチホコ」や「タカオメダカカミキリ(上の写真)」などの新種や固有種も発見されてきました。
高尾山の歴史
高尾山薬王院有喜寺
8世紀に聖武天皇時代の国家鎮護のための国分寺建立の一環として744年に高尾山薬王院有喜寺が行基によって開山したとされています。1376年頃には高尾山中興の祖、俊源大徳が入山しています。その後、北条氏の保護を受け竹木の伐採が禁じられてきました。徳川幕府も直轄領として高尾山周辺での伐採を禁止するなどして保護してきたため1598種に登る植物が残されてきました。
明治の森高尾国定公園
1868年の神仏判然令でも飯縄権現社として守られ、大正天皇が崩御した1926年以降は帝室御用林となり、その後は国有林となりました。戦後は直ぐに東京都立高尾陣馬自然公園に指定され、戦後の乱伐も免れました。1967年に明治の森高尾国定公園に指定され保護されて来ています。
眺望の良さと観光開発
「十三州見晴台」
古くから「十三州見晴台」と呼ばれた眺望の良さで有名です。中腹にはさる園と野草園が設けられ、山頂にはビアガーデンもあります。2007年にミシュラン観光ガイドで三星の評価を得て、年間の観光客は300万人で登山者は260万人を超えました。
自然史博物館TAKAO 599 MUSEUM
高尾山口駅舎は建築家隈研吾氏による薬王院を模した屋根に杉材をふんだんに使った内外装で2015年4月にリニューアルオープンし、温浴施設も開業しています。これとは別に同年に八王子市は隣接した東京都高尾自然科学博物館跡地を自然史博物館TAKAO 599 MUSEUMとしてオープンさせました。これらも観光促進に大きく寄与しています。
高尾山の標高
標高とは
標高とは平均海水面からの高さですが、日本では東京湾での平均海水面を基準として海抜が定められて居ます。測量毎に平均海水面を求めるのは現実的ではないので、日本国内では国土地理院が東京都永田町一丁目に設けた標高24.39mの「日本水準原点」を設定しました。それを基準に約20,000ヵ所の水準点が全国各主要道路沿いに2km毎に設けられ、国土地理地図に明記されています。
標高の改測
高尾山の標高は国と地理院による2014年の改測により599.3mです。山々の標高は一座一座、その時々の改測によって修正されます。高尾山の場合も1991年の改測では599.15mでした。また1972年の改測では599.0mでした。1925年には関東大震災(1923年9月1日)の影響を受けて601.6mから600.3mに比較的大きな改測が大きなされていました。今後も高尾山の現在の標高599.3mは地殻に動きなどによって改測され続けるので、大きく変化することは無いにせよ不変ではありません。
百名山に選ばれていない
日本百名山
小説家で随筆家の深田久弥の著作で、昭和39年に新潮社が発行した読売新聞文学賞受賞作品。
百名山とは深田久弥の山岳随筆「日本百名山」に掲載された百座です。深田久弥は百名山選定に当たって「山としての品格」、「人との関わり合いの深さ」および「山の個性」の三条件を付していました。高尾山は、すべての面で深田久弥選定の百名山の要素を備えながら百名山に選ばれていません。恐らくその理由としては高さ(標高)にあると思えます。
花の百名山
花の百名山
田中澄江の随筆集で、昭和40年に読売文学賞受賞。
但し、高尾山は小説家・劇作家で山歩き同好会「高水会」を主宰した田中澄江により「花の百名山」には選定されています。
標高と日本百名山
日本百低山
画家でイラストレーターの小林康彦の著作で平成13年「山と渓谷社」が出版。平成21年に「日本百低山 : 標高1500メートル以下の名山100プラス1」に改名し、文春文庫から出版。
日本百名山で高さ(標高)1000m以下の百名山は九州の開聞岳(標高922m)と北関東の筑波山(標高877m)だけです。ちなみにその後に選ばれた日本二百名山には高さ(標高)1000m以下の山は無く、日本三百名山には8座あるものの高さが一番低い比叡山でも高さ(標高)848mです。それらと比べても高尾山の高さ(標高)599mはかなり低いのが事実であり、選ばれている日本百低山としても高さは低いほうから20番目です。
高尾山口からコース情報や標高差をご紹介①
高尾山口の登山コース
アクセスが高尾山口である高尾山のハイキングや登山の3コースには1号路表参道コース、6号路びわ滝コースと稲荷山コースの3つがあります。標高差はハイキングや登山のための登山道として考えると、いずれも406mです。
高尾山自然研究路
「高尾山自然研究路」は一般的には初心者向きで、ハイキングや登山のための登山道として紹介されています。しかし、2号路かすみ台ループコースと5号路山頂ループコースは山腹の周回コースなのでここではハイキングや登山のための登山路としては考えませんでした。また、3号路カツラ林コースと4 号路 つり橋コースは1号路のバリエーションと考え、1号路として取り扱いました。
登山コース(尾根道と沢道)
尾根道
ハイキングや登山で使われる登山コースは尾根道と沢道に分けられます。大きく深い山ではこの組み合わせも勿論ありますが、高尾山では典型的に1号路表参道コースと稲荷山コースは尾根道です。標高差の大きな急登部分がコースのアクセスに近い取り付き部にあるのが特徴です。
沢道
高尾山では典型的に6号路びわ滝コースは沢道です。標高差の大きな急登部分がコースの終わりにあるのが特徴です。山は山頂に近く、高くなるほど傾斜が急になるので急登部は沢道の方がきつく距離も長く成る傾向があるので初心者には尾根道がおすすめです。
標高差
登山コースの標高差は海抜193mのアクセスの高尾山口駅から海抜599mの山頂までなので、いずれも実質的に登る高さはアクセスから406mです。ハイキングや登山のための登山道は途中に上がり下がりがあるので実際に歩く累積標高差はコースによって異なります。1号路表参道コースの場合は、登り460mで下り54mです。6号路びわ滝コースの場合は、登り446mで下り40mです。そして、稲荷山コースの場合は、登り476mで下り70mです。比較すると差はありますがいずれも初心者向きです。
高尾山口からコース情報や標高差をご紹介②
1号路表参道コース
高尾山の東尾根は緩やかな台地状でそこに薬師院の仏閣神社が設けられています。しかし、東海自然歩道(1,697km)の起点にもなっているハイキングや登山のためのアクセスとなる登山口の高尾山口駅から高尾山駅(高さ(標高)472m)付近までは登山電車の勾配が日本一の31.8°である様に標高差は急峻です。登山電車やリフトが設けられ、参道の石畳舗装路も折り返しを繰り返しています。
薬師院
登山電車の高尾山駅やリフトの山上駅からはサル園、野草園をみて、杉並木やタコ杉を眺め、薬王院を参拝するのがおすすめです。休憩所や食事処に立ち寄り、眺めを楽しみながら標高差の緩やかな山頂への路をゆったりと辿ることが出来ます。特に初心者向きで、トイレも5ヵ所有ります。
1号路表参道コースの行程
アクセスの高尾山口駅から不動院分岐にすすみ、展望に良い金比羅台へと登ります。そこからかすみ台の脇を通って十一丁目茶屋にでます。登山電車やリフトを利用してかすみ台のある高尾山駅あるいは山上駅に登ってもやはり十一丁目茶屋に出て来ます。アクセスが山頂に近くなり、50分位行程が節約できるので初心者などが気軽にハイキングや登山をするためにはおすすめです。
1号コース表参道の標高
浄心門で3号路と4号路を分け、仏舎利塔をめざします。男坂か女坂のいずれを選び、薬王院を抜けて登り返していろはの森分岐から立派なトイレを過ぎると、「十三州大見晴らし台」と呼ばれる標高599mの山頂です。
1号路のバリエーションとなるハイキングや登山のための登山道
3 号路カツラ林コース
3 号路カツラ林コースは高さ(標高)485mの浄心門から高尾山の南斜面を山頂へと2.4km辿ります。木橋をわたり、スギやモミの針葉樹も混じる常緑広葉樹の多い静かな森を植生、鳥獣、昆虫などを観察し、森林浴をしながらカツラ林を抜けて登ります。
4 号路つり橋コース
4 号路つり橋コースは同じく浄心門から高尾山北斜面の落葉広葉樹森を山頂へと1.6km辿ります。途中のみやま橋がつり橋なのでコース名にされています。比較的あかるい森の斜面で、点在する巨木の美しさが特徴的です。3号路と4号路のいずれも標高差は119mで初心者向きのコースですが、トイレはありません。
高尾山口からコース情報や標高差をご紹介③
6号路びわ滝コース
高尾山の6号路は典型的な沢道です。多摩川支流浅川のさらに支流の南浅川支流の案内川の琵琶滝のある右俣を遡り、飛び石のある最上流で沢中の道を源頭まで詰めます。
琵琶滝と飛び石
飛び石の源頭から一度折り返して山頂から沢の北側に下っている尾根に取りつき(高さ(標高)500m)、勾配の急な木の階段を登ります。直線距離240m余で65mの高さを登り切った広場が3号路と5号路へ分岐です。そこから舗装された道を登れば、まもなく山頂です。夏には清涼感があふれ、初心者にもおすすめです。途中、トイレは2ヵ所あります。
6号路びわ滝コースの行程
アクセスの高尾山駅から少し上にある清滝駅の脇の車道を沢沿いに妙音橋の手前まで進みハイキングや登山のための登山道に入ります。祠の水場、岩屋大師を進み、瀧行の行われる琵琶滝入り口からさらに沢沿いを進みます。沢筋に見られる粘板岩の露出は硯岩と呼ばれています。
6号路びわ滝コースの標高
硯岩の先にある大山橋を渡ったところに緑に囲まれた休憩所があります。さらに橋を2度渡ると稲荷山コースへの分かれでそこから沢の中の飛び石を源頭まで登り、引き返すように登り返します。尾根道に出て丸太組の階段を登り、山頂を目指します。なお、琵琶滝からは北に登る尾根に取り付き、1号路の霞台に出ることも出来ます。
高尾山口からコース情報や標高差をご紹介④
稲荷山コース
高尾山の1つ南の稲荷山の尾根を伝って高尾山に登るハイキングや登山のためのコースです。展望が開け、日当たりも良いのが特徴です。アクセスは高尾山口駅で、すぐ上の清滝駅から琵琶滝のある沢を石橋で南に渡り山稜に取り付きます。旭稲荷神社までは木の急な階段ですが、そこから尾根道に入り、少し緩やかな登りになります。
稲荷山展望台
木の根や岩が出てはいますが、比較的平坦な登山道です。再び木の階段になると稲荷山山頂です。展望台の「あずまやま」で過ぎと緩やかな登りと木の階段の交互に現れます。舗装路は無く、登山道らしいコースです。初心者にもおすすめですが、途中にトイレはありません。
稲荷山コースの行程
アクセスの高尾山口駅を出て、清滝駅から南に入って稲荷山の山稜に取り付きます。旭稲荷神社から尾根道に入り、359m峰から381峰と稲荷山まで辿ります。稲荷山の展望台からは遠く筑波山まで眺められることもあります。
稲荷山コースの標高
さらに445m峰から6号路びわ滝コースへの分岐を過ぎ、5号路山頂ループコースとの交差点を過ぎると、230段余りの木の階段でまっすぐに山頂に向かいます。
おわりに
ここではハイキングや登山のための登山道として1号路、6号路およに稲荷山コースを簡単にしか説明していません。「裏高尾からのコース」の「蛇滝コース」、「いろはの森コース」および「小仏城山コース」もたいへんおすすめで素晴らしいハイキングや登山のためのコースです。それらについての詳細も含めて詳しくは、以下に掲載した「こちらもチェック!」を参照してください。また、アクセスの高尾山口駅から徒歩4分の場所にTAKAO599MUSEUMがあります。この博物館では歴史、自然、地理などの資料を豊富に集めて展示し、かつ高尾山の歩き方・楽しみ方を教えてくれます。立ち寄って高尾山についてのより深く知ることを是非おすすめします。
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