ナメクジに塩をかけると何が起きているのか
じめじめした時期になるとどこからともなくやって来て、お花や野菜を荒らす厄介者、ナメクジ。ナメクジ退治に塩をかけるとみるみる小さくなり、最終的には死んでしまいます。どうして塩をかけると死ぬのか不思議に思ったことはありませんか?
塩をかけるとナメクジが死ぬ原理と理由について、まず見ていきましょう。
ナメクジが塩で死ぬ原因は浸透圧!?
浸透圧の原理とは
浸透圧の詳しい説明は高校生で学びますが、実はとても身近に起きている現象なんです。日常にある浸透圧の例と、用語の解説を加えながら説明していきます。
塩をかけると脱水する
きゅうりや白菜のお漬け物を作るとき、塩をまぶしますね。塩をまぶすと野菜からじっとりと水分が出てきます。この水分は野菜自体から出てきたもので、脱水という現象です。この脱水という現象は浸透圧の原理によって引き起こされます。
浸透圧の原理
浸透圧の原理はフリー百科事典ウィキペディアによると以下のように説明されています。少し難しい言葉が並んでいますが、以下に食塩水を使った浸透圧の解説をしています。
浸透圧(しんとうあつ、英語:osmotic pressure)は物理化学の用語である。半透膜を挟んで液面の高さが同じ、溶媒のみの純溶媒と溶液がある時、純溶媒から溶液へ溶媒が浸透するが、溶液側に圧を加えると浸透が阻止される。この圧を溶液の浸透圧という(岩波理化学辞典・同生物学辞典等)。浸透圧は希薄溶液中において、物質の種類に依存しない法則が成立するという束一的性質の一種である。
食塩水を使った浸透圧の実験
まず食塩水と水を用意します。半透膜で仕切った容器にそれぞれ、食塩水と水を同じ水位になるように入れるとどうなるでしょうか? しばらく放置しておくと、食塩水を入れた方の水位が上がっていく様子が観察できます。以下にその現象が起きた仕組みを解説します。
半透膜の仕組み
生物には細胞があり、細胞は細胞膜という膜で覆われています。この膜にはAという物質は通すけれど、Bは通さない、という働きがあり「半透膜」と呼ばれます。物質の通す、通さないは半透膜にある小さな穴のサイズによって決まります。
モノのサイズとは
モノにはサイズがあります。高校の化学の授業で学んだ分子の話になりますが、水なら水、塩なら塩のサイズがあります。同じサイズのモノならば、半透膜を挟んでも一様に移動することができます。しかしサイズが異なると、あるモノは半透膜の穴を通ることが出来ないために自由に移動することができません。
モノが移動する理由
浸透圧とは半透膜を通ってモノが移動しようとする現象をいいます。ではなぜモノが移動しようとするのでしょうか? それは自然界にはできるだけ平均的にしようという作用が働いているからです。この現象が浸透圧に大きく関わってきます。
なぜ食塩水側の水位が上がったのか
食塩水側の水位が上がった理由を改めて解説します。二種類の液の間には半透膜が存在し、塩分は移動できません。そのため濃度の濃い食塩水を薄めようとして(平均的な濃度にしようとして)、水の移動がおこり、食塩水側の水位が上昇したのです。この水位の差が浸透圧とといいます。
ナメクジに塩をかけると死ぬ理由
ここまでの浸透圧の原理を踏まえて、いよいよナメクジに塩をかけると死ぬ理由を見ていきましょう。
浸透圧の原理で水分が排出される
ナメクジに塩をかけると死ぬ理由も、これまでの浸透圧の原理で説明できます。
ナメクジは虫や哺乳類のような皮膚というものがなく、全体が薄い膜で覆われています。またナメクジの体は90%以上が水分で出来ているので、塩などの感受性が非常に強いです。そのため塩をかけると体内の水分をどんどん排出して、濃度を薄めようと浸透圧が働くのです。
ナメクジの生態とは?カタツムリの違いって何?
ナメクジに似た生物としてよく比較されるのがカタツムリです。殻のある・なしで区別されますが、ナメクジとカタツムリはどう違うのでしょうか?
ナメクジとカタツムリは近い親戚どうし
結論からいうと、ナメクジとカタツムリは同じ仲間です。しかしナメクジは成長してもカタツムリにはなりませんし、カタツムリも殻を取ったらナメクジになるわけではありません。
陸に生息する巻き貝(カタツムリ)のうち、殻が退化しているものをナメクジと呼ぶのです。日本でよくみかけるチャコウラナメクジは退化した殻が一枚の甲羅になって体内に存在しています。
カタツムリの生態
カタツムリは陸に住む巻き貝の通称をいいます。通称であるため様々な種類があります。フランス料理で有名なエスカルゴを始め、ヨーロッパでは食用として流通されています。日本でも飛彈地方で食べられていた文化があります。
体の特徴
カタツムリの殻は別々の器官ではなく、同じ体の一部です。殻が汚れないように新陳代謝もしますし、成長もします。そのため大きく破損すると死んでしまうこともあるのです。
住んでいる場所
乾燥に弱いため基本的に湿り気のある場所を好んで生息しています。しかし生息域は広く、乾燥地帯で生活している種もいます。またナメクジと同じく塩に弱いと思われがちですが、沖縄の珊瑚礁を好むカタツムリもいます。
ナメクジの生態
殻が退化しているものを総称してナメクジと呼びます。日本でよく見かけるナメクジはチャコウラナメクジといい、ヨーロッパ原産の外来種です。侵略的外来種ワースト100に入っており、駆除の対象になっています。
体の特徴
分類学ではカタツムリと同じで、殻を失う方向へ進化したものをナメクジと言います。90%が水分で出来ており、表面は粘膜で覆われています。
住んでいる場所
日本在来のナメクジの多くは山間部にいるため見かけることがほとんどありません。外来種のチャコウラナメクジは、花壇の植え込みや鉢の底、排水溝などじめじめとした場所を好んで潜んでいます。
ナメクジの退治方法①塩をかける
ここからはナメクジの退治方法について解説します。まず塩をかけるオーソドックスな方法からです。これまでも解説をしてきたので、いくつかの注意点を中心にお話しします。
塩をかけてもナメクジは復活する
塩をかけるだけでナメクジは、浸透圧の作用で縮んでいきます。しかし完全に死ぬのかというとそうではありません。ナメクジの体は90%水分でできており、失われた水分を補給する機会が与えられると、復活してしまうのです。そのため雨で塩が流れないようにしたうえで、塩をかけるのが効果的でしょう。
塩以外でも退治できる
浸透圧の原理でナメクジを退治するのなら、塩でなくてもできることが知られています。たとえば砂糖にも塩と同じように、ナメクジを脱水させる効果があります。他にも小麦粉やコショウにも同様の効果があると言われています。効果の程度は様々ですが、水分を吸収させて駆除するだけなら小麦粉が一番よいとする意見もあります。
塩を使った退治方法のデメリット
塩を使ったナメクジの退治方法には注意点があります。ぜひ知って、効果的な駆除に役立ててください。
植物への塩の影響
ナメクジ退治に手軽な塩ですが、植物にとって有害です。塩害によって作物が枯れるというケースも考えられるため、花や野菜などを育てている方にはお勧めできません。後ほど解説するビールを使った方法や専用の駆除剤を使用する方が安心という場合もあります。
即効性に欠ける
塩でナメクジを退治することはできますが、脱水が不十分だと復活するおそれがあり即効性に欠けます。完全に死んだかの確認もしにくいため、すぐに大量のナメクジを退治したい人には不向きです。
ナメクジの退治方法②熱湯をかける
ナメクジ退治の方法で確実なのが熱湯をかける方法です。お湯を沸かす手間が少し面倒ですが、塩のように復活するおそれもありません。
お湯でタンパク質を凝固させる
ほとんどの生物は熱に弱いです。人間でも熱いお湯を被ると火傷をするので、ナメクジのような小さな生物は即死します。理由はタンパク質の凝固です。タンパク質は生命活動という現象を支えています。DNAもタンパク質でできています。このタンパク質を熱で固めてしまうことでナメクジは死ぬのです。
ナメクジの退治方法③ビールをかける
ナメクジはビール酵母の香りに誘引される習性があるといわれ、ビールの生産が盛んなドイツではよく利用されています。深さがある容器にビールをいれて捕殺、あるいは溺死させるのです。このとき使用する容器は、そのまま捨てられるビール缶や牛乳パックなどが便利です。
ビールの飲み逃げをするナメクジもいる
単にビールを置いておくだけですと、ビールだけを飲んで逃げてしまうナメクジもいます。そこでビールに市販のナメクジ駆除剤や塩などを混ぜておくと、より効果的です。ナメクジが頻繁に出没する場所にトラップとして配置しておくと簡単に駆除することができます。
ナメクジを寄せ付けない対策は?
ナメクジは見付け次第駆除していくことが大量発生を防ぐ方法です。しかしそもそも寄せ付けないようにするための良い方法はないのでしょうか? ナメクジを寄せ付けない対策方法を紹介します。
コーヒー殻で対策
ナメクジが直接死ぬ効果はありませんが、コーヒーに含まれているカフェインを嫌う習性があります。飲み終わったコーヒー殻をまいておくとナメクジ除けになります。またガーデニングにおいて肥料になることも知られているのでぜひ活用して見てください。
木酢液を利用
害虫の忌避剤としてよく使用されている木酸液は、ナメクジ対策にも有効です。ただし劣悪な原材料を使用しているものもあるため購入には注意が必要です。
木酢液の使い方
ナメクジの忌避効果を求める方は、木酢液を30倍ほどの高濃度にして散布します。濃度が高いため植木や花などに掛からないように注意してください。また原液を直接ナメクジに掛けると駆除できます。
雑草を刈り取る
ナメクジは落ち葉の下や雑草が生えている場所、プランターの底など湿り気があり暗いところを好みます。一番のナメクジ対策は雑草などを刈り取り、ナメクジが隠れられそうな場所をなくしてしまうことです。プランターもメッシュの台の上に置くなどして通気性を確保しましょう。
注意!ナメクジには寄生虫が存在する可能性がある
花や作物を食い荒らし、見た目も不快なナメクジ。昔は食用にもされていましたが、現代では寄生虫感染による死亡リスクがあることが知られています。
ナメクジから感染する寄生虫は広東住血線虫といい、特効薬はありません。主に神経系の障害が現れ、重篤な場合は麻痺や失明、昏睡状態、死亡することもあります。NIID国立感染症研究所のHPでも感染例が紹介されています。
ナメクジに触ったらよく手を洗う
まずはナメクジに触ったら石けんでよく手を洗いましょう。ナメクジ以外にも寄生虫の宿主になる生物は、カタツムリやカエルなどたくさんいます。小さな子どもは好奇心のままにいろんなものを触りたがるので特に注意深く見ておきましょう。
生食は避ける
日本ではナメクジやカタツムリを食す機会はあまりありませんが、海外へいくと文化的に食べる地域があります。食用として養殖されているものであると思いますが、十分に加熱したものを選ぶようにしてください。
生野菜に注意
自家栽培やオーガニックにこだわる方も増えていますね。そんななか気を付けたいのが野菜です。とくに直売所などで販売されている野菜は土がついたままであったり、洗浄されていない場合があります。知らず知らずのうちにナメクジを食べてしまう例もあるため、丁寧に野菜を洗うようにしましょう。
まとめ
私たちの身近にある不快害虫ナメクジ。塩で死ぬ理由は浸透圧の原理によるものでした。そして水を掛けると復活することや砂糖などでも浸透圧で駆除できることのもお伝えしました。これらの原理を上手に利用して、ナメクジを対策をしましょう。
その他害虫駆除方法が気になる方はこちらもチェック!
ナメクジ以外にも様々な不快害虫は存在します。特に花や野菜に害がある、害虫駆除方法を知りたい方はこちらもご覧ください。

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