深海生物「テヅルモヅル」の生態:はじめに
深海生物は深海に棲むゆえに故意の採取が難しく、なかなか研究も進まない物です。テヅルモヅルもそんな謎の多い深海生物の一つです。一般人には動物なのか生物なのかも疑問に思える見た目です。今回はそんな神秘のテヅルモヅルはどんな生物なのか、そしてその知られざる生態を出来る限り詳しくご紹介します。
深海生物「テヅルモヅル」の生態:テヅルモヅルに注目が集まっている
最近注目を浴びているテヅルモヅル、その理由は?
テレビでもたまにやっていますが、深海にはまだ未発見の新種の生物がたくさんいると考えられています。珍しい深海生物の有名なところでは、たまに海岸に打ち上げられる最長10mを超える深海魚リュウグウノツカイ、TOKIOが捕まえた深海の古代ザメ ラブカ、世界一醜い魚、ブロブフィッシュなど非常にユニークな形状をしているのが人気の秘密です。テヅルモヅルはそんな深海生物の一つです。
昔から認識されているテヅルモヅル
テヅルモヅル自体は相当古くから認知されている深海生物ですが、なにしろ深海に生息するので一般人にまで広くは認知されておらず、またその形が個性的なのです。そのテヅルモヅルが最近脚光を浴びているのは、昭和天皇がクモヒトデの研究しておられ、最近になって生前、天皇が採取された標本の一つがテヅルモヅルの新種であることが東大の岡西政典氏により発表されたからです。実に日本では約100年ぶりの新種のテヅルモヅルの発見だったのです。
深海生物「テヅルモヅル」の生態①分類
テヅルモヅルの分類
テヅルモヅルは日本名で漢字では手蔓藻蔓と書きます。もう見た目をそのまま名前にした感じです。テヅルモヅルはまず大きな分類で言いますと、棘皮(キョクヒ)動物門、クモヒトデ綱、カワクモヒトデ目、テヅルモヅル亜科の4つの科のうちの一つがテヅルモヅル科で、この科とユウレイモヅル科に属する種類をテヅルモヅルと呼んでいます。大雑把には、ヒトデの仲間と言っていいでしょう。海藻の類いではありません。
クモヒトデとは
クモヒトデはヒトデの近縁種である棘皮動物です。ヒトデ類と違う点は、体(盤)と腕がはっきりと分かれて、多くの場合、ヒトデよりも動作が速く、特に腕は海底での歩行、泳ぎ、餌を捕まえるなど、この見た目でまさに陸上のクモのように自在に素早く動くため多くの人にとっては不快な生物の様です。クモヒトデの多くの種類は雌雄同体だそうです。
深海生物「テヅルモヅル」の生態②名称
和名「テヅルモヅル」の由来
かなり古くから漁師の間で”手蔓藻蔓”と呼ばれていた様で、底引き網に掛かると、複雑な腕先が蔓のように網に絡まって取れない、力ずくで取るとボロボロと腕先が折れてしまって網に残るという厄介な嫌われ者だったようです。本当に蔓科の植物をひと夏放っておくといろんな木やフェンスなどに撒きついて大変ですよね。
英語名はBASKET STAR
まるでNBAのスター選手のような名前ですが、ヒトデが英語でSTARFISHですから、バスケットのようなヒトデということです。いや、バスケットボールではなくてバスケット(カゴ)のようなという意味ですね。編んだカゴのように腕先が複雑なヒトデということですね。
学名は”ゴルゴンの頭”
テヅルモヅルが属する、ユウレイモヅル科は学名はEURYALIDAと言い、テヅルモヅル科の学名は”GORGONOS CEPHALIDAE(ゴルゴノス・セファリダエ)”で「ゴルゴンの頭」という意味です。メデューサの頭といえばわかる方もいらっしゃるでしょうか。見たら石になるというギリシャ神話の髪がヘビでできたゴルゴン族の女性で、それぐらい不気味だということでしょう。
深海生物「テヅルモヅル」の生態③種類
テヅルモヅルの種類
①で書きましたとおり、テヅルモヅル科の種類は全部テヅルモヅルなのですが、現在は約30属、90種が所属しています。一般的に知られていないだけで、結構な種類があるのです。その中でも、トゲツルボソテヅルモヅルは岡西氏が新種と断定した日本近海で採取した種類で、昭和天皇が残した標本も同種だと判明しました。トゲツルボソテヅルモヅルはアクアワールド大洗水族館で展示しています。※画像:トゲツルボソテヅルモヅル
テヅルモヅルにも色々ある
全部は挙げられませんが、何種類かのテヅルモヅルをご紹介します。アカテヅルモヅル、イボサキワレテヅルモヅル、オキノテヅルモヅル、キヌガサモヅル、サキワレテヅルモヅル、サメハダテヅルモヅル、セノテヅルモヅル、ヒメモヅル、ユウレイモヅルなど、それぞれ同じテヅルモヅルの仲間でも見た目や模様、形まで様々です。是非、水族館でご覧ください。
深海生物「テヅルモヅル」の生態④特徴
テヅルモヅルの特徴は名前のとおり
テヅルモヅルはヒトデの仲間であることが観察することで分かります。いくつもに分かれた触手を道の中心まで辿っていけば、枝分かれした腕の元はヒトデと同じで5本なのです。腕の先が無数に分かれて伸びた結果、一見何の生物だが植物だかわかりにくく、ヘアリーでメデューサのように不気味なのです。そしてそれが多くのテヅルモヅルの最大の特徴でもあります。
深海生物「テヅルモヅル」生態⑤腕
テヅルモヅルの腕はどうなっている?
非常にテヅルモヅルのユニークな特徴の腕ですが、多くのヒトデがそうであるように、盤と呼ばれる体から生えている腕は5本ということが確認できます。そこから必ず2本に枝分かれし、さらにその枝からまた2本に枝分かれするという倍々方式で増えていきます。中には元の腕から20回以上も分裂を繰り返す種類もあるそうです。必然的にそういう種類はサイズが大きくなりますね。
腕の役割分担がある
これは特定の種類の飼育下のテヅルモヅルを観察した事例ですが、5本の腕の長さは均一ではなく、エサを取る際に腕を広げる態勢になった時、短い腕が岩やサンゴに体を固定する役割をし、長い腕を海中で広げてエサを捕えているようです。だとすれば意外と単純な中にも合理性がある生物ですよね。こうやってどんどん生態がわかっていくのは楽しみですね。
深海生物「テヅルモヅル」の生態⑥生息域
テヅルモヅルの生息環境
まだまだ研究が進んでいないテヅルモヅルですが、生息域はその種類によって違うようです。比較的浅い水域に棲んでいる種類もいますが、多くは50~1000mぐらいの海底に棲んでおり、他の深海生物同様、採取が難しく、研究する個体が少なく、テヅルモヅルが生息する潮流の速い海底の環境を陸上で再現するのが難しいため研究が進まないようです。
深海生物なのに夜行性?
昼間は岩陰に隠れていて夜に這い出て腕で餌を集めて食べる夜行性であることがある種類のテヅルモヅルの観察事例でわかっているようです。深海生物なのに夜行性?と疑問を持たれると思います。多くの種類が深海に棲んでいますが、比較的浅い、日光が届く深さに棲息する種類もいるのでそういうものが夜行性と考えられます。
深海生物「テヅルモヅル」の生態⑦餌
何を餌にしているかも研究中
テヅルモヅルが具体的に何を餌として食べるのかは研究の最中で正確には分かっていません。ヒトデの仲間なのでそれに近い食性かと思われますが、今後の研究を待つしかありません。ヒトデは種類によって餌が違いますが鑑賞飼育下では貝類やエビ、魚の身を食べるもの、海藻類を食べるもの、微生物などの養分を含んだ泥を食べるものもあります。
テヅルモヅルの餌とされるもの
現在、テヅルモヅルを飼育している水族館ではオキアミ(エビ)を餌として与えているようです。オキアミを食べるからと言って、本来の環境での餌がオキアミとは限りません。有力な説では、テヅルモヅルは夜、海底の岩やサンゴの上に登り、腕を広げてデトリタスというプランクトンなどの微生物の死骸などを含む有機物粒子やプランクトンそのものを夜通し採って餌としているようです。
テヅルモヅルのお友達
こんな動く茂みのようなテヅルモヅルにはよく探すとかわいいお友達がいる可能性があります。それがこの体長1cmほどのテヅルモヅルエビです。なかなかディフォルメされた漫画の様なフォルムと大きな目と赤地に白のストライプが入ってかわいすぎですね。当然、テヅルモヅルの茂みを隠れ家にし、テヅルモヅルが餌を採るとそのおこぼれを頂戴しています。
深海生物「テヅルモヅル」の生態⑧大きさ
メーター級のサイズもいる
テヅルモヅルはクモヒトデ綱の属しますので、おそらくクモヒトデ同様かそれに近いオフィオプルテウス幼生(プランクトン)から成長して行きます。クモヒトデの成体の盤(腕を除いた体の中心部分)の直径は数mm~10cmで、テヅルモヅルもおおむねその位の盤の大きさと思われますが、特徴的な腕が何度も枝分かれするため、腕を含めた直径では1mを超す種類、個体が観測されています。※画像はアカテヅルモヅル
深海生物「テヅルモヅル」の生態⑨食べられるのか
テヅルモヅルも食べてみたい
最近、昆虫食も流行ってはいますが、とにかくなんでも食べてみたい、どんな味だろうという興味は悪いことではないと思います。漁師さんも昔から色んな海の生き物に挑戦してきた結果がナマコとかホヤとかフジツボとかなのかも知れません。ヒトデを手に持ったことありますか?とても硬いです!そんなヒトデを調理して中身(タマゴ)を食べさせる旅館が天草にあるのは有名です。
レアな海洋生物を食べる人たち
貴重な深海生物やダイオウグソクムシを焼いて食べたりできるのは、水族館なんかで死んだ個体がいたりした場合なんですね。とある水族館のブログでテヅルモヅルの折れてしまった腕を素揚げして食べてみたそうですが、硬くて食べることが出来なかったようです。それはそうでしょう。面白いですけど。
深海生物「テヅルモヅル」の生態⑩飼育
テヅルモヅルが買える!
買おうと思えば、生きたテヅルモヅルも買えます。水族館やペットショップに魚やその他の海の生物を卸す専門業者があるのですが、うまく捕獲、仕入れが出来ればテヅルモヅルでも売っていることがあります。他のヒトデ同様、エサを食べなくてもしばらく生きていたり、魚ほど保管飼育が難しくないのか思ったより安価です。きっと大きな個体だともっと高くなるのでしょう。
テヅルモヅルの飼育は可能か
売っているのは売っているのですが、個人が飼育を前提にテヅルモヅルを購入するはおすすめできません。ヒトデやウニなどの棘皮類の飼育経験があればまだいいかもしれませんが、まだまだ研究が進んでいない生物ですので、水温管理、餌など安全で確実な飼育方法が確立されていません。サイズが大きくなればそれなりの設備も必要になりますので、個人での飼育は現状ではハードルが高いと言えます。
深海生物「テヅルモヅル」の生態:まとめ
最近、注目を集めている深海生物、テヅルモヅルはヒトデの仲間でした。腕の先が二つに枝分かれし、それを何度も繰り返し、あのようなモジャモジャで怪しい見た目になります。現在、新種の発見で注目を浴び、ようやく少し研究への道が開かれたテヅルモヅル、これからこの怪しい生物の詳しい生態がわかっていくでしょう。見たい人はこの夏休み是非、水族館へ足を運んでくださいね。
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