はじめに
沖縄にはいろんな名産品やお土産がありますが、その中でも「シーサー」は置物としても有名です。しかし「シーサー」は本来沖縄の人々からすれば「守り神」「魔除け」として大切な存在です。そこでシーサーの沖縄での歴史や種類、扱い方や風水の観点から見た置き方、最適な場所。ペアで置く場合の右左の向きについてこれから解説していきます。
シーサーの正しい置き方① 沖縄の宗教
伝統的な「琉球神道」
沖縄には、独自の宗教として「沖縄神道」と呼ばれるものが沖縄本島を中心にあります。これは、古代のシャーマニズムの影響を受けたもので、祖先や祖霊神、火や水の神などを崇拝するもので、亀甲墓(カーミナクーバカ)と呼ばれる沖縄独特の墓などがあります。
琉球王国の時代に、「祭政一致」として取り入れられました。現在でも民間信仰としてその伝統が残っています。
沖縄の宗教世界における「シーサー」
では、この沖縄神道と、シーサーとの関連があるのかどうか?改めて見てみると実は直接のかかわりはありません。シーサーは「宗教的」なものと言うよりあくまで「魔除け」の存在として沖縄の人は考えているようです。
直接の関連はないものの、対立しているわけでもなく、うまく共存していて、宗教とは「別物」としてのシーサーの存在は沖縄では欠かせないものになっています。
シーサーの正しい置き方② シーサーとは
元はサンスクリット語の獅子「シンハー」
シーサーはどこから来たのか?様々な説があるようですが、一番有力な説は、サンスクリット語で「ライオン」を意味する「シンハー」から来たと言われています。
シンハーはタイやカンボジアの宗教観でも登場しますが、それらの地域から海を渡って沖縄の地に根付いたようです。その他に、日本の神社に鎮座する狛犬との関連を指摘する説もあります。
最古のシーサー「富盛のシーサー」
沖縄で記録上最古の「シーサ」が、那覇から南東方向に約15km。車で30分程度のところにある八重瀬町富盛と言う場所にある石獅子(シーサー)です。
これができたのは、琉球王朝の歴史書「球陽(きゅうよう)」の記録では尚貞(しょうてい)21年(1689年)に設置されたとあります。当時この地域は火災が多かったので風水師に相談して作ったそうで、今でも地域の守り神です。
シーサーの正しい置き方③ 玄関との関係
「魔よけ」として玄関に不可欠
シーサーは、「守り神」「魔除け」として、玄関や門柱、屋根に飾ります。実は最古のシーサーを設置した冨盛村にて、当時頻発する火災の相談を受けた風水師が、シーサー像の「置き方」として「八重瀬岳の方向」を指定します。
実際に置くと、火災が見事に無くなり、この時から村落の玄関にシーサーを置く習慣が始まります。やがて、各人の家の入口(玄関)に設置するようになります。
古代オリエントや狛犬との類似点
シーサーは、スフィンクスなどに代表される古代オリエント地方のライオンがモデルと言われ、その他狛犬や中国の獅子(石獅子)との接点も指摘されます。考えれば、これらはほぼ入口の部分(玄関)に設置されます。
シーサーを玄関に置くのは当然です。また沖縄では魔物(マジムン)と言うものは、人が通る道を歩くという「言い伝え」があります。だからその場所に「魔除け」シーサーを置きます。
シーサーの正しい置き方④ 風水の観点
琉球王国の正史「球陽」
最古のシーサー設置の記録が残っている『球陽』(きゅうよう)は、1743年から1745年にかけて編纂された歴史書です。
これは琉球王国の正史の扱いを受けており、1689年の富盛村のシーサー設置の記録(但し、製作者は不明)も確証高いものと考えられます。問題はその設置を指示した風水師ですが、名前は蔡王瑞(さいおんずい)と言う人です。
風水に従った向き・置き方
実は、富盛村以前にもシーサーは沖縄に存在してました。古い記録では1470年ごろに首里城の瑞泉門(ずいせんもん)に石獅子が対で設置されました。中国文化として獅子と風水が共に沖縄に入ってきます。
ちなみに首里城は「琉球風水」という沖縄独自の風水を意識して作られました。また。富盛村の風水師「蔡王瑞」が、「富盛村を見下ろしている八重瀬岳がフィーザン(火山)」だと、風水の視点から言いました。
シーサーの正しい置き方⑤ オスのシーサー
実は「シーサー」は単体で存在せず、通常2体がペアになっています。さらにそれぞれ「オス」と「メス」の聖別の違うシーサーがいます。このオスとメスの見分け方ですが、オスのシーサーの特徴は「口が開いて」います。
これは、福を呼び込み、同時に悪霊を追い払う役割があります。また「男なら物事をはっきりと言うべき」という解釈があります。
シーサーの正しい置き方⑥ メスのシーサー
オスに対して。メスのシーサーは対照的に口が閉じています。これは「たくさんの福を呼び込む、そしてその福を逃がさないように」と言う意味があります。また「女性はおとなしく慎ましやかに」との解釈もあります。
つまり、オス、メスのペアで、邪気から守ってくれるのです。それからオス、メスのシーサーは狛犬や仁王像にも見られる「阿吽(あうん)」の関係にもなっています。
シーサーの正しい置き方⑦ 向きについて
屋根のシーサー
今では玄関以外にも屋根にも多くのシーサーが周りを見渡すような向きで設置されていますが、この歴史は意外に浅く、1989年(明治22年)以降に広まったと言われています。
この年、それまで士族などの「特権階級」しか使う事が許されなかった「赤瓦」の使用が、解禁されて誰でも使えるようになりました。それ以降「屋根獅子」としてのシーサーが、赤瓦の普及と同時に急速に普及していきました。
屋内のシーサー
屋内にシーサーを置く場合の向きは、「鬼門の方向」に置きます。これは、風水の観点から「風気や地気の乱れ」が入ってくる方向と言われています。
この「悪しき」ものから家を守るのがシーサーの役目ですから、この場所でにらみを聞かせて「悪しき気」を遮断します。具体的には、窓からの風気が多い「ベランダ」道路からの乱れが来る「道路側」そして玄関の近くです。
シーサーの正しい置き方⑧ 右左の関係
阿吽(あうん)のシーサー
シーサーは「オス」「メス」のペア1組で、かつオスが「阿(あ)」メスが「吽(うん)」と阿吽の関係です。阿吽とは元々「真言」と呼ばれる仏教の呪文の1つです。
阿は「口を開く最初の音」で、吽は「口を閉じる最後の音」と「梵字(ぼんじ)」で言われ、それは宇宙の始まりと終わりを表す言葉です。シーサの語源も仏教にちなんだサンスクリット語なのでシーサーは風水と同時に仏教の影響があります。
ペアーのシーサーをどう置くか
シーサーをペアで置くとき、右左どちらが正しいのか?これは正面からシーサーを見て、左側に(口が閉じた)メス、右側に(口が開いた)オスを置きます。
よく間違えるのは、横向きのシーサーで、右左が逆になってしまう場合があります。(左にオス、右にメス)これはシーサーのペアを右左向かいあわせに置いた場合に起こる事があります。これはあまり良くないので、出来るだけ避けてください。
シーサーの正しい置き方⑨ 「置物」ではなく「守り神」という意識
シーサーをお土産品や単なる置物と見る?
シーサーは沖縄を代表する物と言う事で、お土産や雑貨で販売されたり、最近では自分でシーサーを作ることもできるようになりました。ここで注意したいことは、シーサーを「置物」と見るか「魔除けの守り神」と見るかです。
シーサーを見栄えの良さとして見た「置物」として扱うのであればどのようにおいても差し支えないでしょう。しかし、「魔除けの守り神」として扱うのならそういうわけにはいきません。
「守り神」としておくなら、置き場所をきれいにするなどの配慮が必要。
シーサーを置くときに、「玄関に置く」「向きをどうするか」「ペアで置く場合の右左の位置について」など、いろいろ細かい点がありますが、最も大切なことは、シーサーを置く場所を決めたらそこを丁寧に「掃除」します。
汚い場所に置いてしまえば、せっかくの魔除けのシーサーに対して失礼に当たります。風水の観点から悪しき物から守ってくれるシーサーこの周りを綺麗にすることは非常に重要です。
屋外の門柱に設置するなら、しっかり固定して
シーサーを屋外の門柱に設置する場合は、その場所をよく磨いて洗います、これは場所のバランスが悪くてシーサーが割れてしまうのを防ぐ意味もあります。
洗ったところが乾いたところで、「コンクリートボンド」を縫ってその上にシーサーを置きます。それが動かないように固定してボンドが乾くのを待ちます。天気が良ければ1日ほどで乾きますので、それを確認したら設置完了です。
シーサーの正しい置き方⑩ 中華圏のシーサー「風獅爺」
台湾の風獅爺(シーサー)
沖縄と文化の近い、中国・台湾でも魔除けとしてシーサー(風獅爺:フーシーイエ)が存在します。特に台湾の金門島には多くのシーサーがいます。
金門島は台湾領ですが、場所は中国大陸の厦門(アモイ)の目と鼻の先にあり、島から厦門の市街が見えるような場所にあります。あたかも金門島のシーサーが中国大陸から島を守っているのではとそんな気すら感じます。
中国文化圏の獅子
中国に限らず、ベトナムやシンガポールと言った「中華」の影響を強く受けている地域には、シーサー同様に獅子が玄関に飾られている場合が多く、それは近代的なビルの入口にも存在します。
この「獅子」が直接シーサー(風獅爺)とイコールと言うわけでもないようですが、それにしても玄関に位置して魔除けの様な存在であることからしても、シーサーと何らかの関連性がうかがえます。
シーサーの正しい置き方⑪ その他
琉球エアーコミューターの「シーサー」
沖縄の那覇空港と離島を結んでいる航空会社「琉球エアーコミューター(RAC)」の機体には、垂直尾翼の中に「シーサー」が描かれている機体があります。それも右左でオスのシーサーとメスのシーサーに分けて描かれているというのですから驚きます。こういう所から見ても「シーサー」が沖縄の文化に根付いていることがわかります。
ゴジラシリーズに登場した「キングシーサー」
シーサーはなんと「ゴジラ」シリーズにも登場します。その名は「キングシーサー」です。「沖縄の守り神」として、巨大化したシーサーの怪獣です。シリーズには2本登場しました。
最初は1974年の映画「ゴジラ対メカゴジラ」で、ゴジラと共同でメカゴジラと戦います。もう一作は2004年の映画「ゴジラ FINAL WARS」で、シリーズの他の怪獣たちと一緒に登場します。
まとめ
沖縄のシーサーは、中国さらに遠くからの獅子文化の流れとして沖縄に入ってきて、やがて沖縄独自の文化として発展していきました。
風水の観点からシーサに適した置き方や向きについて、さらにシーサーにはオスとメスがいて、そのペアでも右左の設置が大切という事など。単なる「置物」ではなく「守り神」と見れば、シーサーの威厳も必然と高まり、どのような魔物をも確実にシャットアウトしてくれるでしょう。
撮影:麦食くま(2015年)