エマおばあちゃん
登山シャツ
フリーズドライ
ウルトラライトハイキングのスタイル
ウルトラライトハイキング(ULハイキング)は、ハイカーが荷物を軽量にしてロングトレイルに行くスタイルを指しています。祥は4,000メートル前後の三大ロングトレイルがあるアメリカですが、最近は日本でも注目されています。この機会にULハイキングの方法や魅力、注意点などについて紹介していきます。
ウルトラライトハイキングの本場と歴史
ロングトレイルとスルーハイク
アメリカの三大トレイルは「パシフィッククレストトレイル」「アパラチアントレイル」「コンチネンタルディバイドトレイル」となり、3,500~5,000㎞というロングコースになっています。日本の長さが東西・南北に約3,000㎞あることからもわかるように踏破は相当厳しい距離です。
スルーハイクとは、この距離をワンシーズンの約6か月かけて踏破することを指しています。そこでハイカーの荷物を軽量化するULという方法論が生み出されました。
ウルトラライトハイキングの母
エマおばあちゃん
ウルトラライトハイキングはロングコースを歩くため、初心者は体力を始め全ての点において心配が尽きません。しかしアメリカのスルーハイカーの間で伝説になっている″エマおばあちゃん(エマ・ゲイトウッド:1888‐1975)″という女性の話を聞くと、勇気が湧いてくる人が多いのではないでしょうか。
彼女は67歳という年齢にも関わらず、1954年に3,500㎞ものアパラチアントレイルにて単独女性初のスルーハイキングを成功させているのです。
代用できるシンプルな道具と荷物
彼女はその後も、同コースの2回のスルーハイク・部分をつなげるセクションハイク・オレゴンやバーモントなどのロングトレイルを成功させました。
ウルトラライトハイキング成功の秘訣は農業で鍛えた身体に加え、荷物をシンプルにして水や食料込みで9㎏以下に抑えたことにあるといわれています。具体的には、テント代わりのシャワーカーテン・雨具やグラウンドシート代わりのレインケープ・軍用毛布・セーター・バックパック替わりの手製の袋などです。
日本の第一人者は土屋智哉氏
土屋智哉
日本におけるウルトラライトハイキングの第一人者として有名なのは、日本国内の名峰はもちろん北米のジョン・ミュアトレイルやコロラド・トレイルなどをスルーハイクしてきた土屋智哉さんです。
ウルトラライトハイキングの専門店「ハイカーズデポ」を東京三鷹で営んでおり、ハイカーたちにウルトラライトハイキングの魅力を伝えています。
スルーハイクの方法論としての「軽量化」
″消耗品以外″の装備の軽量化
ツェルト
ウルトラライトハイキングの総重量は、「水・飲み物・燃料」以外の装備が4.5㎏以下、水・飲み物・燃料を入れて合計で7㎏となることが多いようです。
ウルトラライトハイキングは、もちろんエマおばちゃんのようなスタイルを真似する必要はありません。しかし、テント・雨具・着替え・トレッキングシューズは、ロングトレイルの耐性もありながらロングトレイルの負担にならない装備を選ぶことがおすすめされています。
「軽量化」と「軽装化」は違う
ウルトラライトハイキングは軽量化を目的としますが、間違えてはいけないのが「軽量化」と「軽装化」は違うという点です。標高の高低に関係なく不測の事態が起きやすいハイキングでは、装備を万全にして出かけるのはいうまでもありません。
軽量化でも装備の軽視はウルトラライトハイキングでもおすすめされていないのです。ウルトラライトハイキングでも安全のためには、必要な装備はしっかり忘れないように持参しなければいけません。
ベースウェイト補給に街の場所をチェック
ウルトラライトハイキングでは消耗品の水や食料・燃料は山中では確保できないため、街に下りて調達しなくてはいけません。ウルトラライトハイキングの実施前は、ハイキングコース上の街の場所と店の品揃えを確認しておく必要があります。本場のロングコースのウルトラライトハイキングでは入念な準備が必要です。
中には品揃えが心配なケースもあるため、事前に街の郵便局や飲食店などに装備品を送り、タイミングに応じて受け取るスタイルもすすめられています。
ウルトラライトハイキングへの3ステップ
ウルトラライトハイキングの実行には、次のステップを多くの登山愛好者が指摘しています。荷物を「量り」、重量オーバーであれば「不要な道具を削り」、まだ重量オーバーであれば「軽いものに替える」という作業です。
人によって多少の差はありますが、多くの登山者が通常の登山スタイルでもこのステップを踏んでいるはず。無意識に方法論としてのウルトラライトハイキングを実践しているといえるかもしれません。具体的な内容についてチェックしてみましょう。
ウルトラライトハイキングの段階①:量る
道具を詰めたバックパックは実際に背負ってみると、最初は軽く感じられてもやがてずっしり重く感じてくることでしょう。一度出かけてしまうと軽くすることは不可能なので、出かける前に必ず総重量を確認しておきます。
量り方は重量計があればベストですが、重量計が無い場合は荷物を背負って体重計に乗ってください。自分の体重を引いた値が荷物の重量となります。水・食料・燃料以外で4.5㎏以下であれば理想的な重さです。
ウルトラライトハイキングの段階②:削る
ウルトラライトハイキングでは、ベースウェイト以外の重量が目安以下であれば問題ないといえますが、それ以上の場合はもう一度道具などの荷物を点検して不要なものがあれば削りましょう。
道具の好き好きではなく、荷物は優先順位の高いものを残し、無くても困らないものは削除するのです。もちろん万が一のことを考え、ファーストエイドなどの不測の事態に必要不可欠なものは削ってはいけません。
ウルトラライトハイキングの段階③:替える
不要なものを削った場合でも荷物の重量がオーバーした場合は、必要不可欠な道具をより軽量なものに替える必要性があるということです。
しかし手持ちの道具などを新たに買い替えることになるため、金銭的負担が大きくなります。替える場合は慎重に行わなくてはいけない作業のため、最後のステップといえるのです。
ウルトラライトハイキングの具体的な方法
①機能性の高い道具を選ぶ
登山シャツ
機能性の高い道具を選ぶということは、少しずつ軽量化を図れることを意味しています。いうまでもありませんが、服装は好き好きもありますが、軽量性以外に発汗性などの機能も大切な要素です。
特にTシャツやインナーは発汗性が高ければ頻繁に着替える必要性がなくなります。そうすると4枚持参していたものが2枚で済むかもしれません。下着に関しても発汗性が高ければ洗濯をしても乾燥しやすいため、必要最低限の枚数で済むといえるでしょう。
②兼用できる道具を選ぶ
クッカー
ウルトラライトハイキングの方法論として大切なのは、道具を「兼用する」ということです。調理が複数でも一つのクッカーで済ませる・フレームなしのザックにスリーピングパッドを丸めてフレーム代わりにする・トレッキングポールをシェルターのポール代わりにする、などがあげられます。
このようにいろいろな道具を兼用にすることで、かなりの軽量化が図れるはずです。皆さんの素晴らしいアイデアを採り入れてウルトラライトハイキングを目指しましょう。
③日持ちのする食事を選ぶ
フリーズドライ
ウルトラライトハイキングではベースウェイトの「水・食料・燃料」も大切な要素となり、特に食料選びには細心の注意が必要です。何日間も自然の中を歩くため、食料は日持ちのするものを選ばなければいけません。ウルトラライトハイキングや通常の登山で多く利用されているのは、お湯を注ぐだけで食べられるフリーズドライ食品です。
新鮮な食料は街に下りた時に摂取し、ウルトラライトハイキングの真っただ中ではこれらの食事を利用してください。
ウルトラライトハイキングは感度が高くなる
ウルトラライトハイキングの魅力は身軽さ
これまでご紹介してきたようにウルトラライトハイキングの特徴は「軽量化」にあります。軽量化は身軽さにつながるため、身体を動かせる自由度が高くなるのです。身体の自由度が高まると億劫ではなくなるため、自然に対する注意も向けやすくなります。
荷物が重いと意識が身体だけに向き、足元に咲いている植物や動物の気配に気がつかないこともあります。しかし身軽なウルトラライトハイキングは、そういった状況から解放してくれるといえるでしょう。
URハイキングの魅力は自然との一体感
誰しもハイキングの最大の目的は、自然との一体感にあるといえるのではないでしょうか。山や湖、草原など大自然がもたらしてくれる感動は、この上ない喜びをどんな人にでも公平にもたらしてくれます。
持ち物の種類や感性によりますが、ウルトラライトハイキングは自然との一体感を強くしてくれるのも特徴です。晴天時であれば、テントよりもタープのほうが星や月、朝日を強く感じたり、大地からのパワーを感じたりなど、自然の営みに敏感になれることでしょう。
ウルトラライトハイキングに出かけよう!
ウルトラライトハイキングはロングトレイルを成功させるための方法論として生まれましたが、日帰りや1泊登山などのショートハイキングでも応用できる方法論です。その魅力は、身軽さゆえに身体の自由度が高くなる点や自然との一体感が強まる点にあります。
ウルトラライトハイキングの目安となる重量は、「水・食料・燃料」以外で4.5㎏以下ですが、必ずしも自由でこだわる必要はありません。自分に合ったスタイルを見つけて無理のないところから始めてみましょう。
ULの具体的荷物が気になる人はこちらをチェック!
ウルトラライトハイキングについてチェックしたあとは、具体的な荷物選びについてチェックしてみてください。こちらの記事は、ウルトラライトハイキングにおすすめの道具について詳細に紹介してあります。いろいろ確認して自分にあうウルトラライトハイキングのスタイルをみつけてくださいね。
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