キッチンで初心者にもできる草木染め
草木染めには特別な技術や道具は必要なく、少しの時間と手間さえかければ染め物の初心者でも自宅のキッチンでできるという、とても素晴らしい趣味です。
自宅以外でも草木染に必要な材料と道具さえ用意しておけばよく、キャンプなどのアウトドアで子供に体験させてあげるのもよいでしょう。または冬休みや夏休みなどの自由研究にもおすすめ。少しの時間を使って楽しめる、草木染めの魅力や方法についてご紹介します。ぜひご参考にしてください。
身近な自然素材を使える喜び
草木染めの魅力は何といっても、身の回りにある自然素材を使える点にあります。世界の人々は昔から身近な植物で布を染めてきましたが、利用されてきた植物は3,000種以上もあるそうです。
日本では万葉集にも登場した「茜(あかね)」や「つゆ草」「タデアイ」「紫式部(ムラサキシキブ」などを連想する人もいるかもしれません。もちろん足元にも草木染めができる多くの植物があり、近くの自然に目を向けるきっかけにもなるのではないでしょうか。
草木染めの4つの魅力
①自然な色合いを楽しめる
草木染めで使用する植物は、その種類によって色合いが異なります。化学染料には出せない"ムラ"や"くすみ"が出る点も、草木染めの素晴らしい魅力です。
植物によっては染める前と染めた後では色がまったく変わるものもあり、自然の神秘に驚くこともあるでしょう。自然が作り出した植物独特の色合いは、まさに神様からの贈り物といってもよいかもしれません。
②個性的な仕上がりを楽しめる
草木染めの魅力で大きいのは、世界で一枚しかない自分だけデザインという点があげられます。同じデザインパターンでも、マークの形を少し変えたり色を薄くしたり、さらに布地を変えたりすることでまったく印象の異なるものが出来上がるのが特長です。
もちろん一から独創的なデザインを自分で考えてもよく、100人いれば100通りの仕上がりになるのです。草木染めは微妙な違いが生じるため、世界で一枚だけの作品といえます。
③"エイジング"を楽しめる
草木染は化学染料に比べると時間が経つほどに色落ちがしやすいといわれています。しかし草木染めの代表である藍染めに「箪笥で枯らす」という古い言葉もあるように、わざと色を落ち着かせて出す色も魅力です。
木材や革などのように使い込むほどに美しくなることを"エイジング"といいますが、草木染めの布地も同じといえます。草木染めの布地も色あせても独特の風合いを醸し出すため、布地を傷めないようにして大切に愛用したいと思えることでしょう。
④天然染料のため肌に優しい
草木染めの染料は自然素材のため、石油や石炭を原料にして人工的に作られた化学染料とは異なり、肌に優しいともいえます。もちろん天然素材でもウルシなどのようにかぶれる植物もありますし、決して化学染料で作られた布地が身体に悪影響を与えるわけでもありません。
しかし気持ち的なことといえますが、敏感肌の人や子ども、ペットには天然染料の草木染めのほうが、より安心して使えるかもしれません。
自分で染める草木染め:材料と道具
草木染めで必要な「材料」
草木染めで必要な材料は5つ、「染料にする植物」「染める布」「ミョウバン」「水」「牛乳(または豆乳)」です。
「染める布」は、化学繊維は染まらないため植物繊維または動物繊維などの天然繊維が必須です。植物繊維の主なものは綿や麻などの植物由来で、動物繊維の主なものは絹や羊毛などの動物由来のものとなります。媒染の「ミョウバン」は薬局などで販売しており、布の重さの8%が必要です。「牛乳(豆乳)」は色を定着させるのに用います。
染まりやすいのは「動物繊維」
草木染めで染まりやすい布は絹や羊毛・山羊毛(カシミア)などの動物繊維といわれています。麻や綿などの植物繊維は動物繊維よりも染まりにくいため、後で述べるように牛乳または豆乳を使った下準備が必要です。
ミョウバンの代用は酢や塩、金属でもOK
食用もできるミョウバンは薬局やスーパーなどで販売されていますが、ミョウバンが入手できないときは代用品を使う方法もあります。
ミョウバンの原料は硫酸アルミニウムカリウムや硫酸アルミニウムアンモニウムとなりますが、他に酢・クエン酸・酢酸、錆びた鉄や緑青の付いた銅などの金属でも代用できます。しかし分量や使い方が少し難しいため、草木染めの初心者はミョウバンを使うのがおすすめです。
草木染めで必要な「道具」
草木染めで必要な道具は次の4つ、ボウル1個(布を浸けるとき用)・鍋2個(媒染用・染色用)・料理用の温度計・布袋です。
布袋は、水通しのよい綿素材で、鍋よりも一回り大きいものを用意します。不織布の洗濯ネット、または使い古したシーツから布袋を作るのもおすすめです。
草木染めの「植物」を用意
草木染めの植物は身近にあるものを用意してください。季節によって採取できるものは異なりますが、例えばニンジン・ホウレンソウ・紫キャベツ・ヨモギ・ヨウシュヤマゴボウなどがあります。
ブドウを煮出した液・紅茶・コーヒーかす・ローズヒップなどの茶葉もよいでしょう。しかし草木染め初心者は、簡単に手に入り、多くの人がしているタマネギまたはミカンの皮がおすすめです。
自分で染める草木染め:材料の作り方
①「植物繊維」を染めるときの下準備
綿や麻などの植物繊維の布で草木染めするときは、染まりやすいように次の方法で下準備を行ってください。動物繊維の布は下準備をしなくても染まりやすいといわれています。
ボウルに牛乳(または豆乳)と水を1:1の割合で入れ、布をボウルに30分ほど浸け込んでください。時間が経ったらボウルから布を取り出して絞り、布を乾燥させます。このときにうっかりして布を水で洗わないようにご注意ください。
②草木染めの「染料」の作り方
抽出液ともいう染料のタマネギやミカンの皮は、あとで取り出しやすいように不織布の洗濯ネット、または布製の袋に入れておきましょう。今回はタマネギの皮を利用した簡単な作り方をご紹介します。
布袋に入れたタマネギの皮を鍋に入れ、布袋が浸るまで水を入れます。フタをして中火で約90分煮込み、時間が経ったら布袋を取り出して染料(抽出液)の完成です。
③草木染めの「媒染剤」の作り方
媒染剤とは、ミョウバンを使って植物の色素が布に定着しやすくするための材料です。布を染料に浸け込んだ後に媒染剤に浸け込むことで色が定着しやすくなり、さらに発色もよくなります。作り方は簡単で、以下の方法をご参考にしてください。
まず鍋に1ℓの水を入れて40~60℃に加熱します。これ以上の高温にするとミョウバンの効果が薄まるため注意してください。ミョウバン5gを鍋に入れ、完全に溶けたら媒染剤の完成となります。
自分で染める草木染め:染色と仕上げ
①草木染めの染色の仕方
草木染めで色をより濃くしたいときは、温度を高くして時間を長くするのがポイントです。草木染めは乾くと色が薄くなるため、イメージしている色よりも少し濃い目に染めておくとよいでしょう。染色の手順は次の通りです。
鍋に染料を入れ、40℃まで加熱してから布を入れます。約20分煮ますが、均一に染まるように箸を使って染まり具合を確認してください。濃い目の色にしたいときは60℃まで加熱しましょう。好みの色が出たら布を出し、きれいに水で洗います。
②草木染めの染色の仕上げ
染めた布を水洗いした後は、色を定着させるために作っておいた媒染剤に30分ほど浸け込んで置いてください。時間が経ったら布を取り出して水で洗い、陰干しをして乾燥させると、無事にタマネギの皮を使った草木染めの完成となります。
身近にある草木染めによい材料と特徴
①タマネギの皮を使った草木染めの特徴
今回はタマネギの皮を使った草木染めをしましたが、タマネギの皮はご存じのように茶色をしており、浸け込む温度と時間によって濃淡を表現できます。淡い色味の黄色やベージュ、茶色を出せるのがタマネギの皮の特徴です。
②ミカンの皮を使った草木染めの特徴
ミカンの皮で染めた布はタマネギの皮に比べると薄く、さわやかな淡い色合いの黄色やオレンジ色になります。そのため時間が経つほどに色が褪せやすい特徴があるため、染色するときは高温にして長い時間漬け込むとよいでしょう。
③ヨモギを使った草木染めの特徴
日本全国に自生するヨモギも気軽に草木染ができる素材です。きな粉のような淡い緑色に染まりますが、媒染の種類によって微妙に変化します。ミョウバンよりも銅媒染のほうがヨモギの緑色が濃く出るそうです。
④紫キャベツを使った草木染めの特徴
草木染めの不思議なことは、媒染剤の種類によって外見の色とは異なる色に染まることにあります。そのよい例が紫キャベツとなり、媒染剤を使用することでくすんだ青に染まるそうです。これは布の素材によっても変わり、綿は染まりにくくて羊毛はきれいに染まるといわれています。
⑤ヨウシュヤマゴボウを使った草木染めの特徴
きれいな紫系のピンク色を出したいときは、ヨウシュヤマゴボウがおすすめです。ヨウシュヤマゴボウは濃いピンク色の軸が特徴的ですが、そのままの色が草木染めでは実現できます。アメリカでは馴染みの染料とされ、インクベリーとも呼ばれています。
ただしヨウシュヤマゴボウは全草が毒草のため、取り扱いには注意が必要です。
草木染めが作る色の世界を体験しよう!
草木染めは、自宅で身近にある植物を使って無限に楽しみを広げられる趣味といえます。材料は植物の他に媒染剤(ミョウバン・錆びた鉄・緑青が付いた銅など)、色を定着させるための牛乳(または豆乳)、水だけ。道具はこれらを入れるのに使うボウルや鍋、ガスコンロなどです。
植物の種類や布の素材によって色の付き方が異なるため、いろいろ試してみると草木染めの奥深さにはまるかもしれません。草木染めが作る不思議な色の世界を探検してみてはいかがでしょうか。
藍染めが気になる人はこちらをチェック!
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出典:photo-ac.com