栗は栄養価も高いパワーフード
ほくほくした食感と甘味の感じられる栗は秋が深まってくると楽しみな食材の一つ。皮をむく手間がありますが、多くの人が好きな食材ではないでしょうか。
健康によいとされる栗の栄養は、茹でるだけにして食べたほうが損なわれないといわれています。甘露煮はおいしいのですが、残念ながらせっかくの栗のさまざまな栄養が失われてしまっているのです。栗の栄養価を知ることで、よりおいしく栗をお召し上がりください。(この記事は2021年10月8日時点の情報です)
栗のカロリーは1粒36キロカロリー
栗の栄養素の大半は、タンパク質と脂質と共に三大栄養素の一つである「炭水化物」です。炭水化物は身体を動かすのに欠かせない栄養素となり、鬼皮と渋皮をむいた栗の1粒のカロリーは36キロカロリーといわれています。
ご飯の量に換算すると栗5粒でご飯1杯分に相当することから、驚くほどの栗の栄養価といえるでしょう。体重増加には注意しなければいけませんが、栗は少量でを栄養を摂取できるパワーフードなのです。
甘露煮は低栄養価で高カロリー
栗の甘露煮は食べやすいので大人気ですが、調理過程で多くの栄養価が茹で栗よりも損なわれてしまいます。
例えば栗に多く含まれている栄養成分のビタミンCは、生の場合は100ミリグラム中に33ミリグラムですが、甘露煮ではすべて失われるのです。栄養が減少し、反対に砂糖などで煮るためカロリーが多くなってしまいます。特にダイエット中の人や健康に気を付けている人は、甘露煮は箸休め程度にいただくのがよさそうです。
中国産の甘栗は1粒11キロカロリー
中国産の甘栗は、栄養成分のカロテンやビタミンEなどの含有率は高くなっています。しかし甘栗は日本の栗よりもカロリーが高いため、注意が必要です。甘栗は加熱することで甘味が強くなりますが、加熱調理するときに皮が破れないように糖蜜やごま油をかけて作るのです。
このように甘栗は甘露煮同様にカロリーが高いため、やはり健康やダイエットに気を付けている人は、通常の栗よりも食べる量を控えめにするとよいでしょう。
栗で注目されている6つの栄養素
①健康や美容に必須の「ビタミンC」
栗の栄養素で筆頭にあげられるのは、美容と健康の素とされるビタミンCです。ビタミンCの100グラム当たりの含有量は33ミリグラムあり、みかん1個と同じ量といわれています。
ビタミンCの効能は、免疫力やお肌によい作用をもたらす効能が期待できるコラーゲン生成などです。ビタミンCは独自に体内生成できないため、日常的に摂取することがおすすめされている栄養価の高い成分と指摘されています。
栗のビタミンCは加熱しても壊れない
栄養素のビタミンCは加熱によってその成分が破壊され、栄養価が失われてしまいます。しかしデンプン質にふくまれている栗のビタミンCは壊れにくいのです。
水に浸すと栄養成分のビタミンCが流出してしまいますが、栗も他の食材と同じように、浸した水分も含めた料理をすることで無駄なく栄養を摂取可能。栗の場合は焼き栗はもちろん、ご飯に入れることで栄養豊富なビタミンCが破壊されることが防げます。
ビタミンCが身体にいい複数の理由
特に女性にビタミンCの栄養素が注目されている理由は、コラーゲンを生成する働きによって肌のハリや潤い、ツヤを維持するからといえます。さらにシミや黒ずみの原因であるメラニン成分の生成を抑える効果も期待され、女性にとっては必須の栄養素なのです。
他にも血液や皮膚、粘膜を丈夫にする作用が期待されており、風邪などに抵抗できる免疫力も高めるといわれています。ぜひ積極的に栗などの食材で栄養を摂取してください。
②毒素排出やむくみ防止の「カリウム」
ビタミン類で高い栄養価は、ナトリウムを排出する効果が期待できるカロテンもあげられます。100グラムの栗には420ミリグラムものカロテンが含まれており、量が多いので栄養価が高いというバナナよりも多いのです。
カリウム不足になると、夕方以降の脚のむくみや飲酒翌日の顔のむくみなどの症状が出ます。これらの症状の原因は血液の循環が悪いことにありますが、カリウムを摂取することで身体にいい作用が期待できるのです。
高血圧予防にも効能を発揮
カリウムは身体のナトリウム成分を排出してくれる栄養素のため、高血圧の予防にも作用してくれます。ただしカリウムを摂りすぎると手指や唇のしびれ、全身の倦怠感、不整脈症状などの心配もあるため、栄養価が高いといえども決して摂りすぎることのないようにご注意ください。
③糖質を燃やしてエネルギーにする「ビタミンB1」
疲労回復効能が期待できるビタミンB1は、玄米よりも栗に多く含まれています。チアミンとも呼ばれている水溶性の栄養素となり、糖質を代謝してエネルギーに変換してくれる成分です。甘いものや炭水化物、アルコールを多く摂ってしまう人は、栗によって身体へのいい作用が期待できるでしょう。
100グラムの栗に0.17ミリグラムあり、1日の推奨摂取量が1.1~1.4ミリグラムのため、8個ほど食べると理想的といえます。
④整腸作用やコレステロール値低下の「食物繊維」
ビタミン類以外で栄養価の高い成分は、整腸作用に抜群の効能があるといわれている食物繊維があげられます。100グラムの栗に6.6グラムも入っており、この量は驚くことにサツマイモよりも多いのです。
整腸作用の高い成分である食物繊維は、他にも血中のコレステロール値を下げる効能も期待できます。食物繊維はダイエットに気を付けている人だけではなく、血糖値が気になる人も身体にいい作用をしてくれる成分です。
⑤抗酸化作用の「タンニン」
栗は、鬼皮はもちろんですが渋皮もむいて食べる人が多いのではないでしょうか。しかしこの渋皮にこそタンニンという栄養価が高い成分が含まれているといわれています。タンニンに含まれている栄養成分は赤ワインでお馴染みの、抗酸化作用が期待できるポリフェノールです。
ポリフェノールは老化防止やアレルギー緩和、がん予防などの効能が期待されています。これらの身体にいいとされる栄養の効果についてチェックしておきましょう。
「老化防止」に期待できる
栄養素のひとつであるポリフェノール成分は抗酸化作用があるため、老化防止に期待ができます。老化の原因は活性酵素とされており、タンニンに含まれているポリフェノールを摂取することで細胞の老化を遅らせる効果、つまりアンチエイジング効果があるといわれているのです。
そのため栗を食べるときは渋皮煮にするなど、できるだけ渋皮を残して食べるのが栄養的にもおすすめされています。
「アレルギーの緩和」に期待できる
タンニンには、アレルギーの原因物質を変質させるといわれる効果も指摘されています。炎症を抑える効果として一般的なのは、風邪をひいたときの喉の痛みや鼻炎、鼻水などです。この他にもアトピー性皮膚炎の緩和などの効果も指摘されています。
がんの予防にも期待されている
抗酸化作用があるポリフェノールが含まれているタンニンは、傷ついた細胞の増殖を抑制するともいわれています。そのため栄養価の高いタンニンを摂取することで、細胞の遺伝子を傷つけて発症するがんを予防する栄養素として期待されているのです。
渋皮が苦手な人も多いでしょうが、ぜひ栄養価の高い渋皮もおいしく食べてください。
摂取し過ぎは貧血のもとになる
ポリフェノールが含まれている身体にいい作用を及ぼすタンニンですが、過剰摂取には注意しなければいけません。栄養価が高くてもタンニンを摂りすぎると、貧血や便秘などの健康に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。
他の栄養素や栄養成分も同様ですが、気になる人は一日の推奨摂取量など、ご自身に合った食べ方を専門家に相談してください。
⑥妊婦さんにおすすめの「葉酸」
葉酸はビタミン類に分類される栄養成分ですが、葉酸には細胞分裂を助ける成分が含有されているのです。葉酸は妊娠初期にある胎児を形成する細胞を育てる働きを促す栄養素といわれています。
さらに葉酸には赤血球を生産する作用もあり、貧血予防にも効能があるそうです。貧血になりやすい妊婦さんだけではなく、普段から貧血気味の人も要チェックの栄養素となっています。
⑦栗を食べるときの注意点と摂取目安量
栗は栄養価が高い食材として古代から利用されてきましたが、他の食材と同じように摂取し過ぎは身体にいい作用を及ぼすどころか、反対の影響を与えてしまうこともあります。貧血や便秘の他に下痢や腹痛、ニキビやカロリーオーバーによる肥満などです。
以上から栗の一日の摂取量は、大人で10粒、子供で5粒ほどがよいといわれています。過ぎたるは及ばざるがごとしということわざ通り、栄養価が高くてもほどほどが身体にいいいようです。
日本における栗の歴史と栽培上の注意点
日本における栗の歴史
日本における栗の歴史は非常に古く、青森県にある約5000年前の三内丸山遺跡でも出土されていることから、縄文時代には食材として利用されていたことがわかります。栗の栽培が始まったのは平安時代初期となり、発祥地は現在も栗の産地として有名な京都の丹波地方です。
その後は各地域に拡大し、平安時代の927年に発表された法典『延喜式』では、乾燥させて皮をむいたものや蒸して粉にしたものが記録されています。
昭和16年以降に耐性のある品種改良が進む
日本各地に広がった栗の栽培は、1941年(昭和16年)に発生した中国由来の「クリタマバチ」の被害によって全国的に大きなダメージを受けました。その後、クリタマバチに耐性があるさまざまな品種が開発され、現在の多品種栽培につながるのです。
栗の栽培上の注意点
学名 | Castanea crenata |
和名 | クリ(栗):二ホングリ(日本栗) |
科名・属名 | ブナ科・クリ属 |
園芸分類 | 果樹 |
形態 | 中高木 |
原産地 | 日本や朝鮮半島 |
樹高 | 2m以上 |
収穫時期 | 8月下旬~11月上旬 |
耐寒性 | 強い |
耐暑性 | 強い |
栄養価の高いブナ科クリ属の栗は、マテバシイやスダジイなど共に人気の果実樹です。しかし栽培品種でも樹高が2メートル以上の高木落葉樹のため、ガーデニングで楽しむ場合は相当な広さが必要になります。
土中の菌類と共生する菌根菌が根にあることから、やせ地でもよく育ち、植え付けて1~2年後には収穫を楽しめるのが長所です。注意点は自家受粉しないため、品種を混ぜて植えるか同一樹木に接ぎ木するなどの手間が必要となります。
栗の四大種類と日本の多様な改良品種
栗は4つの種類に分類される
栄養価の高い栗の品種には日本や朝鮮半島南部地域原産の「二ホングリ」の他に、天津甘栗で有名な「チュウゴククリ」、マロングラッセなどの洋菓子で利用される「ヨーロッパグリ」、日本では馴染みがない「アメリカグリ」があげられます。
二ホングリは、在来の野生種である"シバグリ(芝栗)"を品種改良したものです。大きな果実と風味のよさが特徴ですが、甘みの少なさと渋皮の取れにくさが短所となります。
甘くて渋皮がむきやすい「チュウゴクグリ」
チュウゴクグリの長所は甘くて渋皮がむきやすい点ですが、果実が小さくて害虫の被害を受けやすいという短所があります。そのため日本では栽培されていませんが、人気のある天津甘栗はチュウゴクグリとなり、使用されているのは板栗(バンリー)という品種です。
小ぶりで渋皮がむきやすい「ヨーロッパグリ」
マロングラッセなどのスイーツで利用されているヨーロッパグリは、小ぶりながらも渋皮がむきやすいのが長所の栗です。しかしヨーロッパグリも病害虫の被害を受けやすいため、日本では栽培されていないといわれています。
大きくて高品質の「アメリカグリ」
大きくて高品質といわれているアメリカグリですが、1900年代に発生した栗胴枯れ病によってほぼ壊滅状態にあるといわれています。まだ一部地域で栽培されているそうですが、病気に弱いことから日本では栽培されていません。
二ホングリの品種
二ホングリ(日本栗)の改良品種は実に種類が多く、さまざまな特徴があります。日本で一番多く栽培されている品種は1959年に命名された、「岸根(がんね)」と「芳養玉(はやだま)」の交配種である「筑波(つくば)」です。
甘味があって香りもよく、20~25グラムと大きめで、さらに貯蔵性が高いことから加工用原料にも利用されています。
最近の人気品種は「ぽろたん」
二ホングリは他に「丹沢」「銀寄」「石鎚」「利平」「国見」「伊吹」などがありますが、最近の人気新品種が「ぽろたん」です。
ぽろたんは、加熱後に鬼皮に切り目を入れると簡単に渋皮が簡単に向けることから人気があります。果実は30グラムほどと大きめで、甘味もあることからも注目されている品種です。
「丹波栗」は品種名ではない
栗の代表的なものは京都の「丹波栗」があげられますが、品種名ではなく丹波地方で採れる大粒の栗を指す名称です。丹波栗の主な品種は「銀寄(ぎんよせ)」や「筑波(つくば)」となっています。
丹波栗は高品質ですが、生産量は全国的に1パーセントほどしかありません。高級な理由は高品質以外に希少性もあるようです。
栗は薬用や材木にも使える優秀な樹木
薬用としての価値も高い
おいしいだけではなく豊富な栄養価から食材としての利用価値が非常に高い栗は、中国では薬としても利用されてきました。中国で薬用になっている栗は"板栗"となり、果実の他に葉とイガ(総苞)も利用されています。
特に葉には重要な栄養素であるカロチンとタンニンが多く、消炎作用と細胞を引き締める収れん作用があることから重用されているそうです。栄養価の高い栗が薬用として利用されるのは当然のことといえます。
材木の価値も高い
栗の木は固くて重く、腐りにくいという性質があるため、栄養的な価値だけではなく木材としての利用価値も高いのです。昔から建物の柱や土台、鉄道の枕木、家具などに利用されてきました。ただし最近は木材としては不足しており、貴重になってきているようです。
木材の他にも、燃焼効率がよいことから細い丸太を焚き木やシイタケのほだ木にすることもあります。
蜜源植物としての価値もある
栗の木は、ハチミツの重要な蜜源植物としても高い価値を持っています。色が黒くて味が劣るとされていた栗の蜜ですが、近年は価値が見直されているそうです。
栗の蜜は鉄分などのミネラル成分の栄養素が豊富で、さらに個性的な味がするということからブルーチーズとの組み合わせが推奨され、イタリアを中心に人気が高まっています。
栗を1日10個まで食べて栄養を補おう!
栗の栄養素は、美肌効果や免疫力を高める効果が期待できるビタミンCを始めとし、ナトリウムを排出してむくみを抑えるカリウムなどが豊富です。食物繊維・ビタミンB1・葉酸なども含まれており、さすがパワーフードといわれるだけの栄養食材といえます。
しかし栗だけに限らず何事も食べ過ぎはよくありません。栗の場合の1日の推奨摂取量は大人で10個、子供で5個とされています。ほどよい量で秋の味覚を満喫してください。
栗の食べ方や茹で方が気になる人はこちらをチェック!
渋皮も含めて適度な量を食べると身体にいいとされている栗を、おいしく料理していただきましょう。生栗のゆで方や、おかずやスイーツなどのおすすめレシピが紹介されてあります。いつもの栗料理に飽きた人はぜひご参考にしてください。

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