石灰とは
「植え付け2週間前に石灰」は土作りをしたことがある人にとって耳なじみがあるでしょう。石灰は日本の植物栽培に重要な役割を持ちます。よい土作りはよい作物を作るといった言葉もよく聞くように、石灰をはじめとしたさまざまな園芸資材を使って土の環境を整えるのは大切です。
しかし、石灰の種類は豊富です。それぞれにどんな役割があるのか、どんな使い方をするのか、散布はいつなのかなどの疑問について解説します。
役割①カルシウムの補給
植物を畑で育てるのに必要な物質は三大要素と呼ばれ、窒素・リン・カリウムです。肥料は三大要素が主に配合されています。この三大要素に続いて必要な微量元素がカルシウムです。
カルシウムは水に溶けやすいので、降雨の多い日本では土壌中から流れやすい物質です。また、植物が根からもカルシウムを土から吸収します。そのため、畑にまいて補う必要があり石灰はこのカルシウムを多く含みます。
人が作る畑はバランスが乱れやすい
畑や家庭菜園は人が作物を栽培するために作った環境です。早く大きな作物を収穫するためにに肥料を与えると土壌中の微量元素は自然の野山とは違ったバランスになるともいえます。
このように人が手を入れた畑は人が整え、いつも管理する必要があります。そのため石灰のように不足した微量元素を補う必要が生じるわけです。一方、近頃耳にする自然農法は自然のサイクルに畑を組み込み、微量元素を畑に取り入れるスタイルといえます。
役割②pH調整
石灰の多くはアルカリ性(強アルカリを含む)です。日本の畑は酸性土壌になりやすいといわれています。また、前述したように家庭菜園や園芸では窒素分など肥料を与えて土壌環境を人がコントロールして苗づくりをしており、畑のpHのバランスが崩れやすいのが現状です。
そのため、石灰を適切に使えば酸性に偏りがちな畑のpHを整えよい土作りにつながるでしょう。
植物には適したpHがある
野菜の苗の育て方に「植え付け2週間前に苦土石灰を散布」といった表記をよく見かけるでしょう。これはまさに酸性の畑を事前にアルカリ性に戻すということです。人気の作物の多くの苗は畑のpHが中性~弱アルカリ性を好みます。
ただし、じゃがいもやブルーベリーなどが酸性の畑を好むように、植物によってはアルカリ性の畑では栽培できないこともあります。育てる作物が求める土壌pHを知ることは土作りに重要です。
カルシウムがもたらす植物への影響
続いて「カルシウム補給」が作物にどんな影響を及ぼすのが解説します。これを覚えておけば作物の様子を観察し、今の畑はカルシウムが足りているのかもしくは不足しているのか、過剰なのかを判断しやすくなるでしょう。
これからご紹介する石灰の種類選びの指標にもなります。カルシウムが作物に与える影響を見ていきましょう。
植物への影響【カルシウムが不足しているとき】
畑にカルシウムが不足しているとトマトやピーマンなど果実の尻腐れがみられるようになります。サトイモを植えてもすぐに芽がつぶれてしまったり葉物野菜の先端が腐ったり枯れたりするのも代表的なカルシウム欠乏症です。
植物において、カルシウムは細胞壁を強くしたり根の生育を促したりするのに重要な役割を果たしています。そのため、カルシウムが不足していると細胞分裂が盛んな組織や若い部位に変化が起こりやすいでしょう。
作物にカルシウム不足のサインが出たら
石灰には緩やかにカルシウムを畑に供給するものと散布後すぐに供給するものがあり、効果がいつ現れるか確認が重要です。今まさに収穫しようとしている作物にカルシウム不足のサインが現れた時は中性の即効性石灰(硝酸カルシウム)や液体肥料を選びます。
今ある作物の収穫が終わり、再び土作りをするときには植え付け2週間前にカルシウムの補給を想定しておきましょう。
植物への影響【カルシウムが過剰なとき】
カルシウムは水に溶けて流出しやすく、過剰になりづらい物質です。しかし、カルシウムが溶け出した結果、畑のpHが高くなるとそのほかの微量元素のの吸収を阻害し欠乏症が現れます。
たとえばきゅうりでホウ素の吸収が阻害されるとしおれた実が付きます。大根ではスが入り、表皮は荒れるというのが代表的な症状です。つぎつぎと欠乏症が出る場合はカルシウムの過剰を疑ってもよいでしょう。
畑・土作りで使う石灰の種類
酸性土壌になりやすい日本において、石灰選びは重要です。前述したようにカルシウム欠乏症や過剰にも気を付けたいところでしょう。
しかしいざ店頭に向かうとどの種類を選べばいいのか悩んでしまうかもしれません。続いては家庭菜園や園芸シーンにおける種類といつ散布するかなどの目安を解説します。
石灰の選び方
家庭菜園や園芸の土作りで使用される石灰は、種類によって中性を示すもの、アルカリ性を示すもの、強アルカリ性を示すものがあることを覚えておきましょう。酸性になった畑のpHを上げたいのか、カルシウムのみを補給したいのかによって選びます。
種類①
消石灰は主成分が水酸化カルシウムの強アルカリ性で肌に触れると爛れます。pH12と非常に高く消毒効果もあるほどです。そのためいつ散布するかの検討が重要。人の肌が強アルカリに触れると痛むように苗の根も傷みます。そのため散布後最低2週間は開けて植え付けをしましょう。
また、消石灰は水へ溶けやすく分量を誤ると畑がカルシウム過剰になり深刻な問題を引き起こします。
種類②
家庭菜園でおすすめなのが有機石灰です。主成分は炭酸カルシウムになります。畑にカルシウムを与え、pH調整もできるうえ比較的安全で扱いやすいのが魅力です。
ゆるやかにカルシウムが畑へ溶けだして中和が進むためいつ散布するかタイミングもそこまで神経質になる必要がありません。ただし、散布後すぐの植え付けは石灰の効果が得られにくいといえます。そのため、散布のタイミングは苗の植え付け2週間前が目安です。
種類③
苦土石灰はドロマイトと呼ばれる鉱物が原料で、炭酸カルシウムのほかに炭酸マグネシウムから構成されます。マグネシウムも苗に必要な微量元素なので畑の微量元素を整え、pHを調整できる苦土石灰は定番の石灰といえるでしょう。
苦土石灰のカルシウムはは緩やかに溶け出します。そのため、カルシウムの溶け出しや酸性の畑が中和するタイミングを計算して「苗の植え付け1~2週間前に散布する」のが一般的です。
種類④
草木灰は草や木を焼いて作るので植物由来のカルシウムのほかにカリウムやマグネシウムも含まれるのが特徴。原料によってバランスが異なるため、表示の確認が必要です。
草木灰は酸性土壌を中和し、即効性もあります。そのため、土壌の微量元素調整材に使われることも多い資材です。元肥として畑に混ぜ込むのはもちろん、カルシウム量を増やさず畑のpHを上げたいときなどに使用できます。
種類⑤
硝酸カルシウムは中性の石灰のため酸性土壌をアルカリ性にしたいときなどには使用できません。しかし、畑のpHを変えずにカルシウム分だけを畑に補給したいときなどには使いやすい園芸資材といえるでしょう。
水に溶けやすく即効性があり液肥としての使い方もあります。雨の前日などに散布すると流れ出てしまうのでいつ散布するかは注意が必要です。
石灰の使い方
石灰は種類によって性質が違います。それぞれの特性や使い方を知っていると、畑に合った種類の選択がしやすくなるでしょう。続いては実際の使い方について手順を追いながら見ていきます。石灰に求める役割、そして「いつまくか」のタイミングの見極めがポイントです。
また、アルカリ性の物質は肌や目など粘液部分に触れると炎症を引き起こします。手袋やマスク、保護メガネなど服装を整えて使い方に気を付けながら散布しましょう。
使い方①畑のpH
土作りの最初にすべきなのが畑の土壌pHの確認です。日本は酸性に偏りやすい土壌といわれてはいますが、なんとなくで散布してpHを乱すのはあまりおすすめしません。
畑のpHを手軽に測定できる機械や試験紙なども販売されているので一度計測してみましょう。大まかな畑の状況を知れます。
生えている雑草も指標になる
測定器などが身近になくても土壌pHを把握したいときは周りの雑草を観察してみましょう。酸性の畑に生えやすい雑草はスギナ、カヤツリグサ、メヒシバ、オオバコなどです。なんとなくしている草取りもよく観察すれば土作りに有効な情報になるかもしれませんね。
使い方②種類を選ぶ
土壌pHを確認したらそれを参考に石灰の種類を選びましょう。植える予定の苗がどんなpHの畑を好むのか調べておきます。苗が中性・アルカリを好むにもかかわらず畑が酸性に傾いていればアルカリ性の石灰を選びましょう。
一方、酸性土壌を必要とする苗でカルシウムだけ畑に足したいのであれば中性のものを選択します。
使い方③多くは2週間前に散布
石灰散布はタイミングが重要です。また、前述したように水に溶けやすい即効性なのか、緩やかに溶ける緩効性なのかの把握も忘れてはいけません。強アルカリ性のものを散布後すぐに苗を植えると根が傷つき枯れる原因になることもあるので散布後2週間は間隔をあけます。
いつ散布するかですが苦土石灰や有機石灰も苗の植え付け1~2週間前がベストタイミング。それより間隔をあけると溶解が進んで流出してしまうこともあります。
石灰散布はガス発生に注意
石灰は窒素と反応します。これによってアンモニアガスが発生する危険があるため、一緒に畑に混ぜ込むことは避けましょう。消石灰など強アルカリは特に注意が必要です。
緩効性石灰をいつまくかですが、植え付け2週間前に石灰、1週間前に化成肥料散布などタイミングをずらすのが基本といえます。また、草木灰のように元肥として土に混ぜ込む場合は化成肥料と触れないようにタイミングをずらすのが重要でしょう。
使い方④散布量
散布量は種類によってもことなるためそれぞれの表記に従いましょう。家庭菜園でよく使われる苦土石灰であれば1㎡にひと握り散布すると土壌pHが約0.5ほどアルカリ性に上がるといわれています。畑に散布した後、よく耕して土全体に混ぜ込みましょう。
緩やかに溶け出す緩効性のタイプの場合は雨をうまく利用するのも手です。植え付け2週間前に雨が降るなら降雨前に石灰を散布しておけば雨によってさらに均一になじます。
石灰の過剰散布による畑への影響
最後は石灰をむやみやたらに散布することで起こる畑の変化についてご紹介しましょう。前述したように、石灰を散布しすぎるとカルシウム過剰によってほかの微量元素の吸収阻害が発生します。
それだけではなく、「畑の質」も変えるため畑や野菜の状態をよく観察し、適切な種類と量の石灰を使うことは重要です。いつまくかを見極めれば散布回数も減らせます。
畑への影響①土が固くなる
家庭菜園や園芸においてふかふかとやわらかな土は重要ですが、石灰を散布しすぎるとこのふかふかの土を壊してしまいます。石灰の過剰散布によって起こる問題が「固い土になる」です。消石灰は土を固くしたいときに使われる資材でもあります。
固い土では植物の根が成長しづらく、微生物の種類や数も減っていくでしょう。水に溶けて地下へ浸透していったカルシウムは畑の奥深くで固くなり岩盤のような層をも作ってしまいます。
畑への影響②強固なアルカリ土壌になる
石灰の過剰散布によって強アルカリの土壌ができてしまうとそこで育つ植物の種類は限定的になります。強アルカリといわれるpHは10以上。一方、多くの作物が好む中性~弱アルカリといわれるpHは5.5~7.0で大きく違います。
また、酸性に傾ける強い資材を散布したとしてももとのpHに戻すのはなかなか厄介と覚えておきましょう。
畑に必要な土壌環境を石灰で整えよう
畑仕事や土作りは奥深いものです。人の目には見えないさまざまな微量元素や微生物が絡み合って畑の生態系がなりたっています。石灰の種類1つ真剣に検討するだけでもその世界を畑から感じられることでしょう。
うまく畑の土作りができるとこれまでとは一線を画す立派な作物が収穫できます。過剰散布に気を付けながら石灰で畑の環境を整えていきましょう。
畑と石灰の関係について気になった方はこちらもチェック
植え付け2週間前に散布する定番の石灰が苦土石灰です。粒状タイプや粉末タイプなどもあり、畑で使いやすい資材といえるでしょう。苦土石灰について解説した記事はこちらからどうぞ。

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