蝦夷松は寄せ植えや盆栽がおすすめ
ピアノや割りばしなどの幅広い用途がある蝦夷松は、北海道に自生するマツ科トウヒ属となります。「北海道の木」にも指定されているほどに多くの山間部で見かけますが、南千島・樺太・朝鮮半島などでも分布していることから、冷涼な環境を好むことにお気づきでしょう。
やはり北海道に多いマツ科のトドマツ(椴松)と共に陰影のある森をつくっています。寄せ植えや盆栽にして蝦夷松の魅力を味わってみてはいかがでしょうか。(この記事は2021年9月29日時点の情報です)
蝦夷松の分布と特徴
名称 | エゾマツ(蝦夷松) |
学名 | Picea |
和名 | トウヒ |
科名・属名 | マツ科・トウヒ属 |
原産地 | 日本や北米などの北半球 |
園芸分類 | 庭木・花木・コニファー |
形態 | 高木 |
樹高 | 30m |
耐寒性 | 強い |
耐暑性 | 普通 |
用途 | 家材・箱材・楽器・割り箸・マッチの軸など |
栽培難易度 | 普通 |
蝦夷松は自然の状態で高さが30~40メートル、直径が1メートル以上に成長します。蝦夷松の大きな特徴として浅根性で養分はそれほど必要としないため、緯度の高い北海道では低地でも分布しているのです。
同じ分布域のトドマツや近縁種のアカエゾマツと混同しやすいですが、「樹形」などのいつくかの見分けるポイントがあります。見分け方の特徴を詳しくご紹介するのでご参考にしてください。
①蝦夷松の樹形
蝦夷松の樹形は、円錐形のどっしりと安定感のあるものです。これは枝が下に垂れ下がっていることが原因のようです。遠くからしか観察できないときは、樹形で蝦夷松と他のマツ科植物を判断するのも一つの方法といえます。
②蝦夷松の葉先の形状
蝦夷松の葉の最大の特徴は先端が鋭く尖っており、チクチクと感じられることでしょう。一見似ているトドマツとは正反対で、トドマツはu字型に先端が凹んでいるためチクチクとした触感ではありません。
葉の長さは1.5~2センチメートルほどあり、アカエゾマツと比べると長めです。形は扁平で濃い緑色をし、葉裏には白い2本の気孔線があります。小枝から螺旋状に生えるのも特徴です。
③蝦夷松の幹
蝦夷松の幹は黒い褐色をしており、ウロコのような割れ目が入り、荒々しい見た目が特徴です。
トドマツの樹皮はなめらかなため、蝦夷松との違いは明らかです。アカエゾマツの樹皮は割れ目が細かいため、蝦夷松との見分け方はそれほど難しくありません。
④蝦夷松の球果
蝦夷松の球果は雌も雄も紅紫色の楕円形で、長さはそれぞれ1~2センチメートルと4~8センチメートルあり、枝先に垂れ下がるように付いています。この点も、枝上に空を目指すように球果が付くトドマツと明らかに区別できる点です。
蝦夷松の球果はバラバラになりませんが、トドマツの球果は落ちるとバラバラになるという大きな特徴もあります。
蝦夷松の育て方のポイント
蝦夷松の育て方①:種木の入手方法
蝦夷松は、挿し木したものを4~5年かけて畑で太らせた"種木"をホームセンターなどで購入してください。または自分で挿し木を次の方法で繁殖するのもおすすめです。
持っている蝦夷松の、梅雨~9月頃に剪定した不要枝を使います。根が伸びるまで一年以上、実生はさらに年月がかかりますが、実生から育てると生育環境に合った丈夫な苗になることでしょう。
蝦夷松の育て方①:好む環境
蝦夷松は暑さや乾燥に弱い性質ですが環境変化への順応性も高く、幼木のうちに栽培することで暖かい地域で育てるのも難しくはありません。
育て方のポイントは、日差しが強くなる5月・6月頃から9月中旬までは暑さや乾燥から守るために、日よけなどのある風通しのよい場所で育ててください。中でも小さい幼木は環境変化を受けやすいので、特に注意が必要です。
冬期間の育て方
寒冷地でも風雪に耐えて自生しますが、盆栽では、からっ風や霜には注意が必要です。12月~2月の厳寒期には棚下の陽だまりや室の中で保護してください。盆栽などで楽しむときは、自生地よりも過ごしやすい環境で育てるほうがよいでしょう。
蝦夷松の育て方②:水のやり方
蝦夷松の手入れで大切なのは水やりです、蝦夷松の自生地の環境は湿度の高い山中のため、他のマツ科植物のなかでも特に水分を好む樹木です。もちろん一日中水気のある環境で栽培するのはよくありませんが、新芽の頃や梅雨明けから夏場は水切れしないように注意します。
タイミングは、春と秋には1日2~3回となり、乾燥しやすい夏には3回を目安に与えてください。水やりのサインは、表土が白っぽく乾燥してきたら与えてください。
根詰まりしている場合
水やりの手入れに関してさらに大切なのは、樹勢を維持したり回復させたりする霧吹きや葉水です。さらに根詰まりしている蝦夷松は、表土が湿っていても内部が部分的に乾いている場合があります。
2~3日に1回は、水に鉢ごと漬けて内部の隅々にまで水がいきわたるようにしてください。内部が乾燥している場合は、鉢を沈めたときに気泡がブクブクと浮かんできます。
冬期間の水やり
冬期間の水やりは、蝦夷松を温室や室で保護している場合は4~5日に1回でよいですが、油断していると水切れしていることがあります。冬の外気は乾燥を早め、そのまま枯死につなげてしまうこともあるので、こまめに表土が乾燥していないかの確認が必要です。
蝦夷松の育て方③:肥料のやり方
どちらかというと蝦夷松は、肥料の与えすぎはよくありませんが、やせ地よりも栄養のよい場所を好む性質です。そのため盆栽は寄せ植えなどで栽培するときは、樹形を仕立てるときやある程度育ってきたときの樹勢を観てから適度な肥料を与えるようにしてください。
幹太りを目指すときや芽摘みによる剪定で枝を作るときは、多めの肥料を与えます。つまり成長する前に適切な肥料を与えるのがおすすめです。
肥料を与える時期
肥料を与えるタイミングは、新芽が出始める3月~5月頃と9月~11月の間に1ヶ月に1回です。梅雨~夏の間は、葉色をよくするために控えめな量を与えるとよいでしょう。
肥料は油かすの置き肥ががよいとされていますが、油かすの代わりに2000倍以上に薄めたハイポネックスもおすすめです。秋には、骨粉を2~3割増やしてしっかり与えてください。冬越しと芽吹きのために肥料を与えることで力を蓄えさせることが必要です。
樹形が整ったときは少なめ
肥料は、蝦夷松の樹形がある程度整ってきたら控えめにします。樹形がまとまって完了したときや古木へ多めに肥料を与えてしまうと、枝に栄養が行き過ぎて樹形が壊れるため、春以降に肥料を与える量は少なめにしてください。
蝦夷松の育て方④:病気と害虫対策
蝦夷松は病気や害虫被害にあうことはないとされていますが、害虫の場合で言えばハマキムシやハダニが新芽につくことが指摘されています。
風通しが悪い環境では害虫がつきやすくなるため、風通しのよい移し替えてください。発生した場合は、ベニカやマラソン乳剤などの有効薬剤の散布をおすすめします。
蝦夷松の病気
病気の心配はほぼありませんが、夏場に遮光しなかったり湿度が高い場所に置いたりすることで根腐れの心配があります。害虫対策も併せて、風通しのよい半日陰の場所に移して環境整備をしてください。
蝦夷松の育て方⑤:植え替え
蝦夷松の培養は難しいといわれていますが、その原因は植え替えるときに原因があります。蝦夷松の樹勢を落とさないようにするためには、適切な時期に植え替えることです。時期を逃してしまうと回復に1~2年はかかってしまうためご注意ください。
植え替えの適期は新芽が動き出す直前の、固い新芽が少し膨らんで薄い皮をかぶる前です。暖地では3月中旬~3月下旬頃が目安のため、適期を逃さないようにしましょう。
根のほぐし方
植え替えのときの根のほぐし方のポイントは、あまり深く切らないようにすることです。全体の1/3ほどを目安に鉢の周りにある古い土を丁寧に落とします。強く伸びた根を、根が分かれた部分で軽く切り込む程度にするのがベストです。
植えこむ際にも根を傷つけないように、優しく巻き込むように丁寧にいれてください。鉢に入れる土も押し込まないようにするのがポイントです。
蝦夷松の植え替えの用土
用土は保水性と排水性のよいものが必須となり、赤玉土6:桐生砂4をブレンドしたものを使います。水やりが多くなりがちな人は、さらに排水性を高めるために川砂を2割ほど混ぜてください。
植え替えた後は、乾燥防止のために表土に水苔を張ります。それから棚の上などの暖かい場所に置いて発根を促してください。春先は気候が安定していない時期のため、風が当たらない日向で管理して夜間は棚下に置くとよいでしょう。
蝦夷松の育て方⑥:芽摘み
関東などの暖かい地域では、4月中旬~5月中旬頃になると蝦夷松の新芽が伸びてきます。とても美しい新芽が観られますが、芽摘みをすることで間延びさせずに胴吹き芽を促します。小枝も増えなくなってしまうので、新芽を惜しまずに芽摘みを行ってください。
芽摘みの時期は、ある程度新芽が伸びてきた5月上旬~6月中旬頃です。目安は完全に葉が伸びきってからではなく、葉に伸びしろがある状態で行います。
芽摘みの方法
芽摘みの方法は爪を立てるのではなく、指の腹で引き抜くように持ち上げて摘んでください。こうすることで、見た目の悪い赤茶色に芽先が変色せずに済みます。蝦夷松は上部にある強い芽ほど先に伸びるため、伸びた先から必要な長さで摘むとよいでしょう。
枝数を増やす場合の芽摘み
蝦夷松の枝数を増やす段階にある幼木の芽摘みは、新しい梢の1/2ほどの部分を芽摘みしてください。勢いをつけて少し伸ばし気味にしてから摘むと基部から胴吹きを促進し、枝数を増やす可能性が高くなります。
最初に芽摘みした後の2番芽も、同じ要領で伸びてきたら適度な長さで摘んでください。勢いがある6月中旬までは2~3回の芽摘みを行うことで小枝を増やしていきます。
樹勢の維持段階の芽摘み
蝦夷松の樹勢を維持して完成した段階の芽摘みは、新しい梢を1/3ほど残すように短めに摘んでください。樹形が整っているので芽摘みはほとんどしなくてもよいのです。伸ばしたい枝や株の弱い枝があるときは、適度に摘むだけでよいでしょう。
蝦夷松の育て方⑦:剪定
他のマツ科植物に比べて成長の遅い蝦夷松は、それほど頻繁に剪定を行う必要がありません。剪定の適期は厳寒期を除いた11月~3月と限られているため、成長期の枝には力をキープしておいて剪定適期にしっかり手入れすることで樹勢を維持します。
蝦夷松の剪定を行う目的は、これから樹形を整えることにあります。不要な枝を剪定することで理想の樹勢に近づけることができるでしょう。
剪定時の注意
勢いのある養成木は剪定をすると胴吹きもしますが、年数が経って古くなると芽吹く力が弱くなります。その場合は蝦夷松の枝の剪定は、必ず芽や小枝の部分で切るようにしましょう。
剪定の適期以外に枝を強く切り込むと、蝦夷松の勢いを削いでしまいます。回復までに年数を要することもあるため、剪定の適期は守ってください。複数から枝が出る性質の蝦夷松は、使う枝を残して弱い枝の根元から切り取るのがポイントです。
蝦夷松の盆栽仕立て
盆栽仕立て①:針金掛け
盆栽仕立てにするときは、樹形を好みのものにするための針金掛けが必要になります。針金掛けの条件は、枝が多くて勢いのある状態の樹です。その蝦夷松ごとの枝や根の張り具合、幹の模様や流れなどの個性を生かして針金を掛けます。
針金掛けの時期は地域によりますが、暖かい地域では剪定と同時期の、寒さが弱まる2月下旬~芽出し前の3月頃です。作業後の保護体制が整えば、11月頃でもよいでしょう。
蝦夷松の個性を活かした掛け方
蝦夷松の枝は下を向いており、流れるようなラインが魅力的です。いわゆる自然のなかで観られる「雪落ち」の風情が出るようにするとよいでしょう。そうすることで風雪に耐えた古木のニュアンスを出せます。
反対に根を持ち上げたりひねったりするのは枯れてしまいがちなため、おすすめしません。どうしてもひねりたい場合は、枝を長めに取ってひねります。
盆栽仕立て②:古葉取り
蝦夷松の盆栽仕立ては、3年経った古葉を取り除く手入れをすることできれいな盆栽に仕上がります。若い葉よりも黄味がかったり色あせたりした葉をピンセットで取り除いてください。
古くなっているのでピンセットで少しゆするだけで簡単に落ちるはずですが、取れないときは気が付いたときに手入れする感覚でよいでしょう。
蝦夷松に似ている樹木
①アカエゾマツ
蝦夷松は幹が黒褐色のため、幹が赤褐色の近縁種であるアカエゾマツに比べてクロエゾマツと呼ぶこともあります。アカエゾマツとは類似点も多いため、別名で違いを見極めるのに適切な名称です。
アカエゾマツのクロエゾマツとの違いは、葉が5~6ミリメートルほどと短いことや幹が細かいウロコ片であること、葉の裏に白い気孔がないため全体的に黒っぽいことなどがあげられます。クロエゾマツとの共通点は、葉の先端が尖っていることです。
②トドマツ
トドマツはマツ科ですがモミ属のため、蝦夷松の近縁種ではありません。しかし遠目には違いが分かりにくいといわれています。トドマツの葉は1~2センチメートルと長く、葉先はuの字Mのためさわっても痛くありません。幹の樹皮は灰白色をしており、枝先が上がっているため樹形はクリスマスツリー型です。
これらの特徴を覚えておくだけでも、蝦夷松を他の種類のマツ科植物と見分けられることでしょう。
蝦夷松でガーデニングや盆栽を楽しもう!
北海道などの寒冷地で自生する蝦夷松は、寄せ植えや盆栽でも楽しめます。寒冷地植物のため暖かい地域で育てるのは難しいイメージがありますが、幼木から育てると環境に適応して丈夫に育ってくれます。
育て方のポイントは、春に伸びてくる新芽の芽摘みと秋以降の剪定です。こまめに行うことで美しい樹形の寄せ植えや盆栽を仕立てられます。ぜひ美しい蝦夷松をガーデニングでもお楽しみください。
ドイツトウヒが気になる人はこちらをチェック!
北海道や東北地方などの寒冷地で栽培されているドイツトウヒは、クリスマスツリーになることでも知られています。本来はヨーロッパなどで分布しているマツ科の樹木ですが、鉢植えで育てることも可能です。いろいろチェックしてガーデニングに採り入れてみてはいかがでしょうか。

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出典:ライター撮影