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【目的のない行為】旅とは何か?定義上での、旅行との意味の違いも解説!

旅とは、各種の辞典の定義では「家からよその土地へ行くこと」とされていますが、同時に「旅行でもある」と記され「旅」と「旅行」は同じ意味といえそうです。しかし実際には「旅」と「旅行」は微妙な使い分けがされています。「旅とは何か?」について徹底的にご紹介します。
2021年8月30日
ring-ring
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「旅」とは目的ではなく"過程"を指す

Photo bylangll

「旅(旅行)とは家を離れてよその土地へ行くこと」は、多くの辞書で解説されている定義です。これは過程を指しており、目的については触れられていません。つまり旅とは行った先で何かをすることではなく、よその土地へ出かける行為=移動を指しているといえます。

「旅とは何か?」は非常に難しいと思えるテーマですが、いろいろな文献を参考にして考えていきます。(この記事は2021年8月28日時点の情報です)

旅とは?①:「旅」の少し怖い語源

「旅」の語源

Photo byELG21

そもそも旅とは?という疑問の答えを探す糸口は、「旅」という漢字をひも解くことにありそうです。漢字は象形文字とその組み合わせのため、偏や部首の意味を探るとはっきりしてくることでしょう。

『常用字解 第二版』(白川静,平凡社,2012年)によると漢字の「旅(りょ)」とは、"方"に"人"を組み合わせた「㫃(えん)」と、"人"と"人"を組み合わせた「从(じゆう)」で構成されているのです。詳しく見ていきましょう。

「方」の語源

旅の偏である「方」とは単純に言えば向きを表すものですが、象形文字にまで語源をさかのぼると、横に渡した木に死者を吊るした形という恐ろしい内容です。

これを境界のところに悪を祓う(はらう)まじないとして置いたことから「外方(遠く離れた国)。とつくに」、わかりやすくは「方位・方角」のように「かた」の意味とされています。また「方法」のように「みち・てだて」の意味もあるのです。宗教的な意味合いを感じさせます。

「旅」の語源

Photo by azkin

「方」に「人」の「㫃(えん)」とは、吹き流しをつけた旗竿の形を指し、"氏族旗"を意味しています。旅の七画以降の「从(じゆう)」とは、左向きの人が前後に並ぶ形を指しており、「従」の元の字です。

少し複雑ですが、以上から旅とは「氏族旗を掲げて進む氏族の軍団」のことを指し、さらに旅とは「遠くへ出向する」行為を指すことでもあるのです。本当にややこしいのですが、この場合は「たび、たびする」の意味となります。

旅に似ている言葉①:「族」の語源

Photo by Instituto Cervantes de Tokio

氏族が旅するときは氏族旗を掲げていましたが、その氏族という言葉には"旅"に似ている"族"という言葉が含まれています(「㫃」が含まれている)。"族"とは、旅に出るときに氏族旗のもとで誓約する儀式のことです。

さらに"族"という文字には、誓約を行うときに印として用いる神聖な"矢"が含まれており、「矢う(ちかう)」という読み方もあるのです。このことから"族"とは、宗教的な"旅"と密接的な言葉といえます。

旅に似ている言葉②:「遊」の語源

やはり旅に似ている言葉である"遊"(「㫃」が含まれている)の意味は、氏族霊が宿る氏族旗を掲げて出向することを指しています。つまり先述の「旅(たび)、旅(たび)する」とは一言で、"遊"に置き換えられるようです。

本当に複雑で頭がこんがらがってしまいますが、漢字圏の国では本来「旅」・「族」・「游」とは、すべてセットで認識されていた言葉といえるでしょう。

漢字の"旅"は宗教行事の意味

フリー写真素材ぱくたそ

氏族霊が宿ると考えられていた氏族旗を持って出向する"游"とは、「山や川の神を祭るため、あるいは分社を祭るときに旅をした」とされています。

「方」という字の語源からして呪術的な意味合いがあり、かつての"旅"とは「宗教行事のために集団で霊的な方角へ移動すること」だったといえます。"旅"も、現在レジャー的な意味で使用されている"遊"という言葉も気軽なものではなく、本来は神聖な行為を指すものでした。

旅とは?②:「時代」で変わる旅の意味


かつての「旅」の意味①【狩猟】

Photo byAnnaER

かつての旅とは現在のレジャー的な意味合いのものではなく、自然の神様を崇め(あがめ)ることを目的に移動する宗教行事でした。しかし旅の原型は、長い人間の歴史において「狩猟」にある点は見逃せません。

すべての国の人間にとって農耕文化が発達する前の旅とは、食糧確保のために移動することだったのです。日本でいえば、縄文時代やアイヌ民族、杣人(そまびと)などの歴史からその一端がうかがえることでしょう。

かつての「旅」の意味②【巡礼】

出典:photo-ac.com

農耕文化が伝わったあとの人々は狩猟せずに定住するようになりました。そして人々は宗教的な行事、つまり心の平安を求めて巡礼するようになったのです。ヨーロッパでは4世紀ごろに大聖堂や修道院への巡礼が行われ始めました。

日本での原点といえる旅は、平安時代の空海や最澄などに代表される僧たちの巡礼といえるでしょう。江戸時代には西国三十三か所や四国八十八か所、伊勢神宮などへの巡礼が庶民の間でも広く流行したのです。

かつての「旅」の意味③【冒険】

Photo byjosuemei72

近代では旅の意味が少し変わり、楽しみとしての冒険的な意味合いが強くなってきます。20世紀までは海外旅行はもちろん、旅とは国内旅行でも強盗や病気などの生命の危険が伴うものでした。

アメリカの社会学者D・ブーアスティンが1962年に「少数の人だけが旅行に伴う経済的負担と困難に耐えることができた」と述べたように旅行とは、能動的に困難な冒険に向かおうとする、経済と心理的に余裕のある限られた人々のものなのです。

旅とは?③:「旅」と「旅行」の微妙な違い

Photo byFree-Photos

各種の辞典で"旅"と"旅行"は同じ意味で定義されていますが、定義には関係なく、多くの人が抱く両者のイメージには違いがあるようです。

旅は「到達までの時間を楽しむこと」で、旅行は「到達してからの時間を楽しむ」の違いといえます。旅の到着までの時間=プロセスのため、「旅とは移動そのものを楽しむもの」という視点です。ここには、生命の危険さえ危ぶまれた時代の冒険的旅行を求める傾向があると考えられそうです。

現代の「旅」とは?

Photo byfe31lopz

「目的地までの過程を楽しむ」または「冒険的な行為を楽しむ」といった視点は、例えばバックパッカーにその傾向が示されています。目的地も滞在日数も大まかにしか決めず、そのときの気分とタイミングで各地を旅行するスタイルです。

予定調和的ではないため、ハプニングとともに素晴らしい経験など偶然の出会いに遭遇する確率が高く、刺激的な体験は感情的な高まりを大きくするのです。

現代の「旅人」とは?

バックパッカーのバイブル的存在は、1986年に『深夜特急』を発表した沢木耕太郎さんがあげられます。香港からユーラシア大陸を横断してイギリスのロンドンまでバスだけを使用しての一人旅では、さまざまなハプニングや素晴らしい出会いを体験するのです。

インターネットのない当時は現在に比べると何もかもが不便だったからこそ現地の人々との出会いを大切にし、その分だけ"旅"の魅力的な匂いが色濃く感じられます。

現代の「旅行」とは?

Photo byOrnaW

定義に関係なく現代人が考える「旅行」とは、交通手段も目的地も日数もすべてが決められている、予定調和的なスタイルといえそうです。「旅」に比べるとハプニングが圧倒的に少ない分、偶然の感動的な出会いも少ないといえます。

旅行は、本来の旅につきもののドキドキワクワクといった高揚感が低くなりがちかもしれません。しかし安全に海外旅行などができるため、冒険的な経験を好まない人に人気のスタイルといえるでしょう。

現代の「旅行者」とは?

現代の旅行者とは他の土地に出かける、ありとあらゆる人を指すといえるでしょう。バックパッカーも旅行会社のパッケージツアー参加者も、仕事や友人に会いに行くことも含め、旅行者とは目的に関係なく家以外のどこかへ出かけるすべての人が該当します。


旅とは?④:「旅」と「観光」の微妙な違い

Photo bySplitShire

イメージに違いがある「旅」と「観光」の定義は、ほぼ同じです。「観光」という言葉は英語の「tourism」の訳語として、大正時代以降に定着しました。「tourism」は旅行を意味する「tour」の派生語のため、観光と旅との違いは明確ではありません。

実際に英語圏では観光も旅も同じ意味に認識されてきた点についてD・ブーアスティン(『幻影の時代』,現代社会学叢書,1962年)を参考にご紹介します。

「観光」の定義①「楽しみを求める」行為

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「観光」とは物見遊山という言葉で表現されることもあるように、旅より軽いイメージで捉えられているのではないでしょうか。しかし観光客も旅人(旅行者)も大きな違いはないともいえそうです。

1960年代のアメリカの辞書では、旅行者や観光旅行者は「tourist」にまとめられ、「楽しみのために旅行する人」と定義されています。日本では微妙な違いがありますが、旅も観光も「楽しみを求める受け身的行為」なのです。

観光の定義②「國の光を観る」行為

Photo by Taiwan Presidential Office

「観光」という漢字の由来は、中国における儒教の経典『易経』の「觀國之光利用賓于王」とされています。意味は「自然や文化などの、その国のよい点に光を観て重用する」となり、心を込めて土地の文化を学ぶことです。

明治4年に政府が欧米に派遣した視察団の報告書には、「観光」の文字が大きく書かれてあるそうです。視察団の派遣は知識を得ることを目的にしており、当時は観光という言葉がふさわしかったといえます。(sight seeing)

観光の現代的意味

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物見遊山とはあまりよいイメージの言葉ではありませんが、現代では観光という言葉とセットで使用されることが多いようです。国内や海外旅行などで遭遇した異文化を自分の考えに積極的に取り入れるわけではなく、面白おかしく見て満足するだけのスタイルとのイメージがあります。

しかし観光の本来の意味とは「國の光を観る」ことにあるため、個人の意識次第でより深いものの見方ができる可能性も秘めていいるのです。

旅とは?⑤:「旅」は5タイプに分類できる

目的のない行為の旅とは?

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「あてのない旅に出る」というフレーズもあるように、旅には気ままなイメージがあります。そうすると「旅とは目的のない行為である」ともいえそうです。しかし目的のない旅とは本当にあるのでしょうか?

目的のない旅とはとどのつまり、行き場を失った状況を指しているともいえます。そうすると帰る場所のある多くの現代人にとっては、旅には何らかの目的がありそうです。

旅行者は5つのタイプに大別できる

社会学者のE・コーエンが示した、さまざまな目的を持つ「ツーリスト(tourist)」の5つのタイプについてご紹介します。もちろん、旅のスタイルはそのときどきで変わりますが、多くの場合において自分がどのタイプの旅を望むのか、ぜひチェックしてみてください。

ツーリスト①:娯楽タイプ

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ツーリストの娯楽タイプとは、文字どおり娯楽を求めるタイプとなり、旅行に自己実現などの深い意味を見出そうとはしません。旅先での現地の人とのふれあいや、旅先や観光地の真の姿を現す"舞台裏"などには興味を示さないのです。

ツーリスト②:自己満足タイプ


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ツーリストの自己満足タイプとは、娯楽タイプと少し似ていますが強くレクリエーションを求めるわけではなく、日常生活からの逃避を求めています。現地の人々とふれあったり文化を吸収したりするわけでもなく、リゾート地などで過ごすだけで満足できるのです。

ツーリスト③:経験タイプ

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ツーリストの経験タイプとは、現地の人々の生活などの異文化に関心があり、"舞台裏"も見たいという欲求にかられるタイプです。しかし積極的にこれらのことに関係を持ちたいわけではなく、あくまでも軽い関心程度といえます。

ツーリスト④:体験タイプ

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ツーリストの体験タイプとは、文化人類学者に共通のタイプといえます。異文化を体験できる社会に一時的に関係を持ち、さまざまな体験を希望するのです。しかしあくまでも一時的で、自分の世界と比較することでよいほうを選択しようとします。

ツーリスト⑤:実存タイプ

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ツーリストの実存タイプは、かつての旅の原点である巡礼者に共通しています。本当の世界は日常の時空を超えるところにあると信じ、精神的な関係を強く求めるのです。旅先や観光地の真実の姿"舞台裏"に対するこだわりが最も強いとされています。

千差万別のスタイルがある旅を楽しもう!

Photo bydiarypow

旅・旅行の定義とは、「家から離れて他の土地へ移動すること」とです。しかし両者にはイメージどおり微妙な違いがあり、旅とは過程を大切にすることで、旅行とは目的地で過ごす時間を大切にすることといえそうです。

旅の意味は「狩猟」「巡礼」「冒険」へと変わってきましたが、現代は「自分探し」「自己実現」といえるかもしれません。しかし旅にはいろいろなスタイルがあってよいので、自分なりに楽しい旅をしてくださいね。

旅に関する本が気になる人はこちらをチェック!

国内旅行や海外旅行がしたくなったら、とりあえず本を読んで"旅欲"を満たしましょう。今すぐには旅行に出かけられなくても、いろいろチェックして情報を蓄えておくと役に立ちますよ。ジャンル別に紹介してあるので、ぜひご参考にしてください。