松かさ(松ぼっくり)とはマツ科の実のこと
松かさ、または松ぼっくりとは、マツ科植物が樹木に付ける果実のことをいい、植物図鑑などでは専門的に「球果」と表現することもあります。
松かさは松傘・松笠・松毬とも書きますが、なぜか松毬は「ちちり」または「ちちりん」というのです。一般的な名前の「松ぼっくり」とは「松陰嚢(まつふぐり)」が転訛したもので、少し衝撃的な名前といえるかもしれません。奥深い松かさの世界についていろいろチェックしてみませんか。(この記事は2021年8月6日時点の情報です)
パインナップルは本来は松かさのこと
フルーツのパインナップル(pineapple)とは、元々は「松かさ(松ぼっくり・松毬)」を指す言葉でした。しかしのちにアマゾンなどの熱帯アメリカ地方原産の果実に転用され、その美味しさが伝わるとともにすっかり定着してしまったのです。
ちなみに、かつてappleとはリンゴだけではなく果実全般を示す言葉でした。松かさ(松ぼっくり)は人間の食用にはなりませんが、野生動物からすると美味しい果実となります。
松かさ(松ぼっくり)のユニークな特徴
松かさ(松ぼっくり)の外見的な特徴
松かさ(松ぼっくり)のうろこ状のひだ(鱗片)は、どんなマツ科植物の松かさでも軸に対して螺旋状に付くという特徴を持っているのです。
松かさの形状は、松かさが成る樹木の種類によりますが、球形に近いものや細長いものなどがさまざまな形があります。松かさはクラフトやリースオーナメントの素材にも人気があり、個性的な松かさの特徴を生かして素敵な作品を作り出せる天然素材なのです。
松かさ(松ぼっくり)の内部構造
松かさ(松ぼっくり)の固い鱗片の裏側には、たくさんの花びらのような種が付いています。松かさは秋の乾燥した日になるとひだが開き、この種が風で飛ばされて子孫を増やすのです。
雨や成熟前は、松かさはひだを閉じることで雨などで流されないように種を守っています。そのため松かさのひだが閉じていると種は見えません。成長中の松かさや乾燥して鱗片が開いた松かさの状態をいろいろ観察してみましょう。
松かさは厳密には果実ではない
松かさはマツの果実とされていますが、一般的に果実は種子をその内部に含んでいるものをいうため、雌しべの子房を基本とする真の果実ではないとされています。
種は2年かけて成熟をするため、マツ科の樹木の先端に今年の雌花が付き、一年枝の根元には昨年について成長中の未熟な松かさがついています。さらに下には、種を風で飛ばしてひだが開いている松かさがついているのが、よく観察すると気づくのではないでしょうか。
松かさ(松ぼっくり)のでき方と一生
松かさ(松ぼっくり)といえば、固いうろこ状のひだが開いたものをイメージする人が多いのではないでしょうか。しかし松かさの正体は、やわらかくて紫色から緑色に変化した"雌花"なのです。
マツ科の果実の雌花がどのようにして固い松かさになるのか、松かさのでき方などについて詳しくご紹介します。
①一年目に雄花から受粉する雌花
マツ科の樹木には雄花と雌花があります。春になると、花粉を蓄えた袋のような茶色い花を穂のようにびっしり付けているのが雄花です。
その枝先にある小さな紫系の花が雌花となります。雌花は小さいながらも、たくさんあるうろこ状のひだ(鱗片:りんぺん)の形がはっきりわかります。雄花の花粉は風によって雌花の鱗片のすき間に入って雌花は受粉し、種子を付けます。マツのように風の力を借りて受粉する植物の種類が風媒花です。
マツ科植物には雌しべ・雄しべ・花弁・がくがない
一般的な植物には一つの花に「雄しべ」「雌しべ」「花弁」「がく」がありますが、マツ科植物にはありません。しかし、一つの枝下のほうに付いている茶色い袋状のたくさんの雄花が雄しべ代わりとなります。その先についている紫系の雌花が雌しべ代わりなのです。
雄しべと雌しべが無くても、雄花と雌花によって春には受粉作業が行われています。
雄花は「空気袋」で飛びやすい
雄花は風によって雌花に受粉しますが、さらにその効果を高めているのが花粉に付いている「空気袋」です。うろこ状の鱗片は雄花にもあり、鱗片の「花粉のう」で花粉が作られます。そして「空気袋」によって、雌花が受粉できるように花粉が遠くまで飛ばされる仕組みなのです。
②一年半かけて種子を受精させる雌花
一年目の雄花から受粉した雌花の下のほうには、一年前に雄花から受粉して越冬した、まだ緑色をしている二年目の雌花が観察できます。
このように雄花から受粉した雌花は、一年もの歳月をかけて種子をじっくり成熟させていきます。一年半経った雌花は8月になると成熟し、緑色から茶褐色になっていくのです。
③秋にひだを開いて種子を放出する雌花
雄花から受粉した二年目の雌花は、秋に空気が乾燥してくると遂に松かさのひだを開きます。ひだの裏側にある羽根の付いた2つの種子が現れ、風が吹くと種子は飛ばされて地面に落ちて芽を出すのです。そして成長して雄花と雌花を付けて、同じ営みが繰り返されます。
ひだが開くのは空気が乾燥するから
ひだが開くのは空気が乾燥することに理由がありますが、さらにいうとひだの外側にある繊維が縮んでひだを引っ張るからなのです。引っ張られることでひだは反り返り、開く仕組みになっています。反対に、雨などで水に濡れるとひだの繊維は伸びるため、自然に閉じる仕組みです。
④成熟して種を飛ばした後の松かさ
二年目の松かさの下のほうには、先に種子を飛ばした松かさがついています。秋になると松かさは、種子を飛ばしてもしばらく樹木についたままですが、種子を放出した松かさはそうこうするうちに地面に落ちてしまうのです。
これが、雌花が雄花から受粉して松かさになるまでの一生となります。リースなどのクラフトの素材になるのは、多くはこのような落ちた松かさです。マツ科植物は枝を伸ばしながら、これらの営みを繰り返します。
松かさ(松ぼっくり)が成る樹木の主な種類
①典型的な松かさ「クロマツの松かさ」
マツ科マツ属のクロマツ(黒松)の松かさは一番人気があり、自生地は本州や中・四国などですが、北海道でも庭木や街路樹に植えれているため松ぼっくりも手に入りやすいです。
雄松とも呼ばれている卵形または円錐状卵形の松かさは雄々しくて鱗片もゴツゴツし、4~6センチと大きめで固くてしっかりしています。初めは緑褐色をしており、のちの色は淡褐色です。リースやクラフトに存在感のある素材として大活躍することでしょう。
②リースに欠かせない「アカマツの松かさ」
マツ科マツ属のアカマツ(赤松)の松かさは黒松と同じくらい人気があり、庭木としても日本全国で多く見かける種類となります。卵型または卵状円錐形のため、クロマツの松かさと一見似ていることから「どっちがどっち?」という人もいるかと思います。
アカマツの松かさはクロマツのよりもやや小さく3~5センチ、初めは緑色をしており、のちに淡黄褐色になるのが特徴です。やはりリースやクラフトの素材として人気があります。
③楕円形で大きめ「ゴヨウマツの松かさ」
マツ科マツ属のゴヨウマツ(五葉松)の松かさは鱗片が厚めとなり、ゴツゴツした感じで少し下向きに開きます。サイズは6~8センチで卵型の楕円形をしており、やはり可愛らしい松ぼっくりです。初めは淡い緑色をしており、のちに淡い褐色となります。
自生地は本州の500メートルから2500メートルの高地ですが、北海道でも公園木などでも植栽されているため、五葉松を見かけたら松かさを拾っておくとよいでしょう。
④松の実が採取できる「チョウセンゴヨウの松かさ」
マツ科マツ属のチョウセンゴヨウの松かさは長さが12~16センチと大きく、卵状円柱形になっています。淡緑色から淡緑褐色に変化し、成熟しか松かさとなるのです。
いわゆる松の実は、このチョウセンゴヨウの松かさから採取した種子です。大きいため種子が取りやすく、中国料理に欠かせない食材として重宝されてきました。
⑤3年目で成熟する「モンタナマツの松かさ」
マツ科マツ属のモンタナ松の松かさは、他のマツ科は2年目で成熟しますが、3年目で成熟するのが最大の特徴です。初めは緑褐色をしており、少しずつ黄色を帯びた褐色に変化します。
長さが3~7センチの卵型をしており、やや下向きに付くのが特徴です。鱗片は薄くてツヤがありません。北海道では庭木の他に公園樹や街路の中央分離帯などに植栽されています。
⑥ホシガラスの好物「ハイマツの松かさ」
マツ科マツ属のハイ松の松かさは卵型~卵円形をしており、長さが3~5センチほどとなります。初めは淡い紫紅色をしており、成熟すると黒褐色になるのが特徴です。
地を這うように生育する特徴があるため、グラウンドカバー的に庭木として利用する人が多い植物となります。中部以北で分布し、北海道では高山でよく見られるマツです。
⑦円柱形の「エゾマツの松かさ」
エゾマツはマツ科トウヒ属ですが、一般的にトウヒ属の球果も松かさ(松ぼっくり)と呼んでいます。トウヒ属の松かさの最大の特徴は円柱形ということにあるのです。
長さは4~8センチほどになり、下垂して9月には淡黄褐色になります。鱗片は柔らかく、マツ属の松かさとは少しタイプが異なるのも面白い点といえるでしょう。
⑧15センチにもなる「ヨーロッパトウヒの松かさ」
エゾマツと同じくマツ科トウヒ属のヨーロッパトウヒ(ドイツトウヒ)の松かさも円柱形となります。ヨーロッパトウヒの松かさの長さは15~20センチほどと大きくなり、下垂します。
松かさの色は、初めはみどりいろですが成熟すると、鮮やかな褐色になるのも特徴的です。固さは、やはりマツ属に比較するとやわらかい感触となります。鳩時計の重りはドイツトウヒの松かさをかたどったものです。
⑨さわるとバラバラになる「トドマツの松かさ」
マツ科モミ属のトドマツの松かさはモミ属の最大の特徴である、さわると「分解されてしまう」という点があげられます。円筒形をして上向きに付き、長さは5~10センチほどになり、9月頃に成熟して黒褐色になる種類です。
ばらばらになってしまうことからリースやクラフトには不向きなため、松ぼっくりとしては人気がありません。
⑩小さくて可愛い「カラマツ」の松かさ
マツ科カラマツ属であるからカラマツの松かさは、長さが2~3.5センチの広卵形となります。ひだが反り返っているため、バラのようにも見える可愛らしい雰囲気が人気です。「松かさはどっちかといえばカラマツが好き」という人も多いのではないでしょうか。白緑色から9月頃には黄褐色になります。
枝から落ちたも松かさも可愛いですが、枝の上に数個がちょこんとついている様子も可愛らしく感じられるのではないでしょうか。
松かさ(松ぼっくり)でリースなどを作ろう
手作りでクラフト小物を作るのが大好きな人は、各地に出かけたときにいろいろな種類の松かさを採取しておきましょう。松かさの種類が多いほど、個性的で素敵な松かさのリースなどが作れます。皆さんの松かさを使ったクラフトをご紹介します。
ドアの飾りに松かさのスワッグ
こちらは、松かさだけではなく松の木も使用したオーソドックスで一番人気のあるリースとなります。松の木を複数組み合わせてあるのも素敵です。赤いリボンやオーナメントを変えることで、クリスマスシーズン以外にも使えるのではないでしょうか。
スモーキーなニュアンスが優しい松かさのリース
こちらは、オフホワイトに着色してバラの花のように見える松かさにスモークツリーとスターチスを効果的に使用したリースとなっています。松ぼっくりのリースといえば全体的に重厚なニュアンスが漂っていますが、軽やかさが特徴的です。
複数の松かさや木の実を組み合わせたリース
こちらは、いくつかの松かさと木の実をぎっしり組み合わせることでにぎやかな雰囲気が楽しいリースです。樹木の果実は褐色系が多いので重くなりがちですが、着色した松かさを加えることで軽やかな雰囲気になっています。
松かさ(松ぼっくり)を集めて観賞しよう!
松かさは、マツ科マツ属を始めとするマツ科植物の果実となります。雌花が雄花から受粉することで多くの鱗片に種子を持ち、2年目にようやく成熟して秋の乾燥した日に鱗片が開いて種子を放出する仕組みです。雌花が松かさになって成熟するまでは、ひだをしっかり閉じて種子を守っています。
リースなどで使う松かさは種子を放出したあとの松かさなのです。松かさの一生に思いを馳せながらリースづくりをしてみてはいかがでしょうか。
松の木が気になる人はこちらをチェック!
松ぼっくりはいろいろな種類の松の木になる果実となりますが、そもそも松の木の種類によって特徴が異なります。世界には約200種類の松の木があるといわれていますが、主な松の木の種類もチェックしてみてはいかがでしょうか。自生地や見分け方などについてもご紹介してあるので、ご参考にしてください。
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