雌阿寒岳はどんな山?
阿寒湖の南西部にある雌阿寒岳(標高1,499メートル)は、阿寒山群の主峰です。阿寒山群は、2万年ほど前から火山活動を始めて噴火を幾度も繰り返し、10の複雑な山体を形成しました。
4,000年ほど前にできた雌阿寒岳はアイヌ語でポンマチネシリ(女山)とも呼ばれ、阿寒湖を挟んで向かい合う雄阿寒岳がピンネシリ(男山)と呼ばれています。今も活発な火山活動が続き、断続的に水蒸気爆発が起こっています。
雌阿寒岳の魅力を登山で満喫
雌阿寒岳の魅力:景色
雌阿寒岳の最大の魅力は山頂からの眺望で、晴天時には周囲の阿寒火山群や雄阿寒岳・阿寒富士・阿寒湖・オンネトーなどが観えます。文筆家の深田久弥が『日本百名山』で選定しただけあり、誰もが認める素晴らしさです。
雌阿寒岳の山頂では、雨水のたまった青沼と赤沼が火山ならではの独特の美しさを見せており、これもまた見逃せません。
雌阿寒岳の魅力:動植物
雌阿寒岳の山麓では、北海道に多いアカエゾマツやエゾマツ、ダケカンバなどの針葉樹が広がり、登山のスタートから針葉樹のよい香りを楽しめます。3コースはすべて途中でハイマツ帯が現れるので、植生の移り変わりを観察しましょう。
6月から8月、ハイマツ帯も消える岩礫地では、雌阿寒岳の名前が付いたメアカンキンバイやメアカンフスマなどの高山植物が登場します。
絶滅危惧種や希少種
メアカンキンバイは北海道の固有種で、絶滅危惧種Ⅱ類、メアカンフスマは準絶滅危惧種に登録されています。ほかには、イワギキョウ、イワブクロ、盗掘されて激減していますがコマクサなども楽しめます。
動物
自然豊かな北海道東部地方の森林は、さまざまな動物が生息しています。谷や高山地帯などの幅広い地域で観られるエゾシマリス、冬眠せずに一年中観られるエゾリス、準絶滅危惧種のエゾクロテンなどです。
注意したいのが、日本では北海道だけに生息するヒグマで、春から初冬まで活発に活動するため、熊に出合わないように気を付けなければいけません。
雌阿寒岳の魅力:近くに名所がある
雌阿寒岳の付近には、湖を始めとし、火山由来の自然現象が多く観られます。有名なのが美しい色合いを見せるオンネトーですが、近くにある湯の滝は知る人ぞ知る名所です。阿寒湖の泥の中からあふれ出すボッケも見逃せません。
登山だけではなく、雌阿寒岳の登山前後には、ぜひ訪れてみましょう。
オンネトー
周囲2.5キロメートルのオンネトー(温根湯)は雌阿寒岳の麓にある湖で、季節や天候、角度によってさまざまな色に変化します。湖の半周ほどに遊歩道が設置されており、車道と合わせると1時間半ほどで一周できるので、余裕があれば歩いてみましょう。
オンネトー登山口の東岸コースや雌阿寒温泉コースなどの4コースがあります。車道の途中にある展望デッキからの雌阿寒岳と阿寒富士、オンネトーの共演は見事です。
オンネトー湯の滝
天然記念物のオンネトー湯の滝は、30メートルの高さから温泉の滝が流れてくる名所です。乾電池などの原料になるマンガン酸化物の生成現象が、世界で唯一地上で観察できる場所です。マンガンは地球上では海底で生成されるため、世界からも注目されています。
雌阿寒岳の登山前後にはぜひ訪問してみましょう。行き方は、オンネトー南側の駐車場に車を停め、1.4キロメートルの散策路からアクセスします。
阿寒湖のボッケ
面積が13平方キロメートルあり、北海道で5番目の大きさの阿寒湖は、約15万年前の噴火で誕生したカルデラ湖です。特別天然記念物マリモの展示施設やアイヌコタンなどで有名ですが、ぜひ観察してほしいのが、アイヌ語でボッケ(泥火山)と呼ばれる現象です。
温泉街の湖畔右側から始まる遊歩道があり、15分ほどで到着できます。近くに阿寒湖畔エコミュージアムセンターもあるので、予備知識を入れてから観るとよいでしょう。
初心者向け「雌阿寒温泉コース」
雌阿寒温泉コースは、3コース中で最も利用者が多く、距離は約3.3キロメートル、往復歩行時間は約4時間10分です。登山口は、標高710メートルの雌阿寒温泉(野中温泉)横にあり、アカエゾマツ林の遊歩道から入山します。
急登の4合目付近でハイマツ帯が現れ、少し登るとオンネトーが観えてきます。8合目付近で岩礫地となり、9合目付近で外輪山の上に出て火口が観えます。そこから山頂まではゆるやかな登りです。
おすすめの時期
雌阿寒岳は、積雪期も登れるため、登山シーズンは一年中といえます。北海道の東部地域は西部地域に比べると積雪量が少なく、雌阿寒岳も入山できないほどの雪が積もるわけではありません。
おすすめ時期は、雪解け後の植物が咲き始める6月ころから、紅葉の美しい9月ころです。春、山麓ではゴゼンタチバナやジンヨウイチヤクソウなどが、山頂近くでは雌阿寒岳で発見されたことから名づけられたメアカンフスマなどが楽しめます。
難易度
歩行時間は4時間ほどで難所がないため難易度は高くなく、初心者でも問題ありません。注意してほしい点は、4合目付近から急登になるのでゆっくり登ることと、岩礫地で道から外れないようにすることです。
雌阿寒岳の山頂近くは火山性由来の岩礫地のため、登山道がはっきりしていません。ガスや降雨などの視界不良時、残雪期も道が分からなくなり、ルートを外してしまうことがあるため、十分にご注意ください。
装備と服装
装備は、登山地図やヘッドライト、熊鈴も含めて、時期に合わせた一般的な登山用品をご準備ください。服装は、ウィンドブレーカーやフリースなどの防寒具は、寒い日がある北海道東部地域では欠かせません。雨具も、降水確率が0パーセントでも急変に備えて用意しましょう。
冬期の装備は、積雪量は多くありませんが、アイゼンやピッケルがあると安心です。服装は、ウール混紡のセーターに保温・発汗性の高いウェアを着用しましょう。
金属類は身に着けない
全コースに共通していることですが、金属類は身に着けないでおきましょう。雌阿寒岳の山頂は樹木が一本も生えていない裸の山です。そのため落雷があると人間に被害が起きてしまいます。実際1972年に、登山遠足のときに小学生が亡くなるという痛ましい事故が起きています。
アクセスと駐車場
路線バスは通っていないので、車でアクセスしてください。行き方は、阿寒湖温泉街から、国道241号と国道664号を通り、40分ほどで雌阿寒温泉に到着します。駐車場は雌阿寒温泉横にあり、40台ほど停められます。
初心者向け「オンネトーコース」
オンネトーコースは、雌阿寒温泉コースの次に利用者が多いコースです。距離約4.2キロメートル、往復歩行時間は約4時間50分です。登山口は標高640メートルのキャンプ場にあり、入山後はアカエゾマツ林を通ります。
4合目付近まで急登で、5合目付近からアカエゾマツとハイマツの混生地です。阿寒富士が観えてくるとオンネトーも観えてきます。1,250メートル付近が阿寒富士との分岐で、岩礫地に変わります。
おすすめの時期
おすすめ時期は、ほかのコースと同じく6月ころから9月ころです。新緑や高山植物、麓の紅葉などを楽しみながら登山し、山頂では阿寒湖と阿寒富士の360度の景観をゆっくり堪能しましょう。
阿寒富士との分岐は、高山植物の季節にはお花畑となり、絶好の休憩ポイントです。雌阿寒岳で発見されたことから名づけられたメアカンフスマを始め、イワギキョウやミネズオウ、コマクサなどの高山植物が観察できます。
難易度
オンネトーコースも急勾配ですが難所があるわけではなく、距離も短いため難易度は高くはありません。注意点は、岩礫地での転倒や視界不良時の道迷いです。岩礫地は登山道が明確ではないため、道迷いが過去に発生しています。
初心者は単独での登山は避けて、グループの場合も視界不良時には引き返すなど、無理をせずに行動しましょう。
装備と服装
装備は、登山地図やヘッドライト、熊鈴、時期に合わせた最低限の登山用品です。服装は、夏期でも寒くなることを考えて、フリースやセーターなどの防寒具も用意してください。雨具は、登山の場合は降水確率が0パーセントでも必ず持参しましょう。
冬期は、初心者は登らないほうが無難ですが、登る場合の装備は、念のためにアイゼンやピッケルを用意しましょう。服装は、保温性と発汗性の高いウェアは必須です。
アクセスと駐車場
路線バスは通っていないので、車でアクセスしましょう。行き方は、阿寒湖温泉から国道241号と国道664号を通り、45分ほどでオンネトーキャンプ場に到着します。駐車場はオンネトーキャンプ場にあり、40台ほどが停車できます。
初心者向け「阿寒温泉コース」
阿寒温泉コースは、一番距離が長いことから利用者が少ないコースです。距離は6キロメートル、往復歩行時間が6時間もあります。登山口は、阿寒温泉の西端にあるフレベツ林道を車で6キロメートル走った地点にあり、標高790メートルです。
トドマツ林を抜けて4合目付近でハイマツ帯、岩礫地に出て視界が開けると、1,042m山や剣ヶ峰が観えてきます。これらの山腹を巻きながら中マチネシリ火口の縁を過ぎて山頂に到着です。
おすすめの時期
おすすめ時期は、ほかのコースと同じく6月ころから9月ころです。新緑や高山植物、麓の紅葉などを楽しみながら登山し、山頂では阿寒湖と阿寒富士の360度の景観をゆっくり堪能しましょう。3コース中で一番火山の醍醐味を感じられます。
剣ヶ峰付近では、イワギキョウやイワブクロなどの高山植物が観察できます。火口縁に沿って岩礫地の尾根を歩き、阿寒湖や雄阿寒岳の絶景を満喫してください。
難易度
距離がほかの2コースと比べて長いのですが、勾配はゆるく、難所はありません。体力がものをいいますが難易度は高くないでしょう。火山の荒涼とした景観をじっくり味わいながら登れます。岩礫地はほかの2コースと同じように登山道が不明瞭なので、視界不良時には十分に気を付けましょう。
フレベツ林道は、林道の途中で三叉路があるので標識を見落とさないようご注意ください。7月初旬から10月中旬までの限定利用となります。
装備と服装
装備は、登山地図やヘッドライト、熊鈴も含めて、時期に合わせた一般的な登山用品をご準備ください。服装は、ウィンドブレーカーやフリースなどの防寒具は、寒い日がある北海道東部地域では欠かせません。雨具も、降水確率が0パーセントでも急変に備えて用意しましょう。
冬期の装備は、積雪量は多くありませんが、アイゼンやピッケルがあると安心です。服装は、ウール混紡のセーターに保温・発汗性の高いウェアを着用しましょう。
アクセスと駐車場
路線バスは通っていないので、車でアクセスしましょう。行き方は、阿寒温泉からフレベツ林道を通り、30分ほどで登山口に到着します。駐車場は4台ほどしか停められず、無理な駐車は危険なので控えましょう。
元気があれば阿寒富士も登ってみよう
阿寒富士は標高1476.33メートルで、1,250メートルまではオンネトールートを使います。標高差は200メートルほどで、40分くらいで山頂です。注意点は、登山道が不明瞭なことです。植生もないため、ガスや風雨などの視界不良時は道迷いしないように気を付けてください。
2,000年ほど前にできた雌阿寒岳の寄生火山といわれている阿寒富士ですが、その名の通り左右対称の美しい姿の山頂にも立ってみましょう。
雌阿寒岳の登山前後の宿泊施設
雌阿寒温泉「野中温泉」
遠方から雌阿寒岳に登山する場合は、ホテルやキャンプ場などでの前後泊をおすすめします。雌阿寒温泉コースから登るときは、唯一の宿泊施設である「野中温泉」がおすすめです。
源泉かけ流しの硫黄成分の強い泉質で、入浴後しばらくは硫黄の匂いが消えないという人もいます。ぜひ登山前後に宿泊し、素晴らしいお湯をお楽しみください。
オンネトー国設野営場
キャンプが好きな人は、阿寒湖から車で30分ほどのオンネトーコース登山口のキャンプ場での宿泊がおすすめです。キャンプ場には炊事場・トイレしかないため、食材などを阿寒温泉街のコンビニなどで購入しておきましょう。
野中温泉からの距離は10キロメートルで、車で5分ほどなので日帰り温泉を利用するのもおすすめです。
雌阿寒岳の3登山コースは初心者もOK!
雌阿寒岳の登山コースは3つあり、いずれも難易度は高くはありません。強いていえば「阿寒温泉コース」は、距離が長いことから体力があまりない人は少しきつく感じられるようです。
ただし勾配は「雌阿寒温泉コース」「オンネトーコース」と比べるとゆるいので、時間をかけてのんびり登れば問題はないでしょう。登山地図などの装備を万全にし、時間や天候、宿泊施設なども考えて無理のないコースを選んでくださいね。
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出典:ライター撮影