手稲山登山前のミニ知識
手稲山(1,023.1メートル)は藻岩山とともに札幌を代表する山で、冬はスキー場としてにぎわい、夏も多くの登山客が訪れます。火山由来のため各所で火山の痕跡が見つけられるとおり、金銀銅などの採掘も行われて札幌の歴史に大きな影響を与えてきました。
手稲山の登山を数倍楽しむために、手稲山についてちょっと知識を深めてみませんか。
手稲山はスキーヤーの聖地
山頂にテレビ局のアンテナが立つ手稲山は、札幌市街地から直線距離で東西15㎞ほどの場所にあり、市街地からもその姿を観られます。
明治末に登山道ができ、北海道大学スキー部の拠点となる日本最古のスキー小屋「パラダイスヒュッテ」が1926(大正15)年に建てられました。1972(昭和47)年の第11回冬季オリンピック札幌大会では会場になり、以降はスキーヤーの聖地として知られています。
手稲山は溶岩によってできた山
手稲山の標高700メートルくらいまでは、手稲山の土台となる海底噴火による地層が広がっています。その後、大地が隆起して土地が陸地化し、新たな火山活動が始まりました。
溶岩と火山灰を噴出しながら次第に高くなり、山頂などの広い範囲に、いくつかの平坦な溶岩を流したのです。大地の隆起は続き、浸食力が強くなった川は山を削って深い谷をつくりました。これらの地球の動きを、ぜひ山頂に立って想像してみましょう。
手稲山の名前の由来
現在の手稲山の名前は、アイヌ語の「湿った所」を意味する山麓地域の「テイネイ」が由来です。山そのものは、「長い断崖」を意味する「タンネウェンシリ」と呼ばれていました。
手稲山の北側になるロープウェイ山麓駅付近の、落差400メートルの長い崖のことを指しているそうです。山頂部分が崩れて崖になり、崩れた岩石が広がって緩斜面をつくりました。
手稲山は金などの採掘地
火山ということは、「金山」という地域もあるように金銀銅などが採れることを意味します。金銀銅のほかに青色の美しい手稲石なども発見されました。
手稲山には、明治時代に星置川で砂金が発見されたのをきっかけとし、1971(昭和46)年に三菱鉱業が閉じるまで、鉱山としての長い歴史があったのです。
手稲山登山の魅力
手稲山は絶景スポット
手稲山の頂上からは、北方向から東方向にかけてがよく観えます。眼下の石狩平野はもちろん、日本海、近くの藻岩山、不思議な形をした定山渓天狗岳がすぐ目につくことでしょう。
晴天時には遠くに増毛山地や夕張山地、羊蹄山、さらに空気が澄んでいれば大雪山系も観られます。苦労した甲斐がある、すばらしい絶景をご堪能ください。
手稲山の火山の痕跡
手稲山は、数度の噴火と隆起によってできた溶岩台地と、山が崩れて起きた地滑り地です。スキー場で活用されている急斜面や緩斜面は、これらの地形を活かしたものなのです。
登山では、火山噴出物の安山岩や柱状節理が崩れたガレ場や、川が削った深い谷底のルートも通ります。手稲山を登山するときはぜひ、地形や岩石などからダイナミックな地球の活動に思いをはせてみませんか。
手稲山の動植物
いろいろな植物が観察できますが、リフトやロープウェイなどのスキー場の人工物が植生に影響を与えているのは間違いありません。本来、山頂に生えるハイマツ群落は消え、自然植生が残っているのは3ルートのうち一つしかないとの指摘があります。
いろいろな条件下にある生態系を観察しながら、キタキツネやエゾユキウサギ、クマゲラなどの動物の気配にも耳を澄ませてみましょう。
植物
手稲山の植物は、ダケカンバやエゾマツなどの各種の広葉樹と針葉樹を始め、さまざまな高山植物も観られます。モイワシャジンやエゾミセバヤ・ミヤマオダマキ・イワキンバイ・ハクサンチドリなどが咲き、開発されながらも豊かな自然を維持しているといえるでしょう。
子供と一緒に植物を観察しながら登るのも、いろいろな発見があって楽しいですよ。
動物
手稲山は、野鳥を始めとするさまざまな動物も観察できます。運がよければ、天然記念物のクマゲラを始め、エゾユキウサギや大人気のシマエナガに出合えるかもしれません。
注意してほしいのがヒグマで、手稲山では春先と秋に出没情報がたびたびあります。携行食の食べ残しは必ず持ち帰ることと、熊鈴の持参を心がけてください。
ご利益を期待できる登り方
手稲山登山は、ご利益の期待できる方法があります。手稲山の山頂には、北海道で一番高い場所にある手稲神社の「奥宮」があります。登る前にJR手稲駅近くの手稲神社「本宮」で「叶い石」を授かり、登ってから奥宮にある「願い石」に重ねてお願いをしましょう。
御神徳が吹き込まれて自分だけの特別なお守りになると伝えられているので、ぜひ本宮もお訪ねください。
変化に富んだ3つの登山ルート
手稲山には、難易度や景色・見どころが異なる3つのルートがあります。西区にある一番人気の「平和の滝ルート」と、手稲区に2つの入口がある「北尾根ルート」(手稲本町入口と金山入口)です。
平和の滝ルートは、林道ありガレ場ありの変化に富んでいる点が魅力です。北尾根ルートの魅力は、入山者が多くないため静かな山歩きを楽しめるといった点でしょう。
ラクしたい人はスキー場入口に直行
手稲山からの絶景をラクに楽しみたい場合は、「北尾根ルート」の終盤に合流する、サッポロテイネの「スキー場入口」ルートまで車で一気に行ってしまいましょう。
パラダイスヒュッテ前の駐車場に停め、標高差450メートル、距離1.5キロメートルの女子大回転のスキー場を1時間掛けて登ります。急登ですが、登り切った後は格別の気分を味わえるはず。
スキー場のゲレンデは私有地
スキー場から山頂を目指すルートは、厳密にいえば私有地のため札幌市が推奨している登山道ではありません。そのため作業で使用する3キロメートルの車道を使って山頂を目指す人もいます。スキー場を通る場合は、明確ではありませんがいくつかの踏み跡があります。迷惑にならないよう、気を付けてご利用ください。
【初心者】手稲山登山コース:「平和の滝ルート」
ルートの総距離は5.5キロメートルで、登りの標準時間は2時間40分です。平和の滝入口から布敷の滝までの2.5キロメートルは、琴似発寒川沿いの気持ちよいルートで、60分ほど掛けて少しずつ高度を上げていきます。
布敷の滝を超えると急登になり、山頂までの3キロメートルを100分掛けて目指します。山頂近くになると、手稲山最大の名所である「ガレ場」に到着です。ガレ場を抜け切ると溶岩台地の平坦地に出られます。
難易度
難易度は3ルート中で一番高くないといえますが、布敷の滝を超えてガレ場に入る前の急登は、子供や初心者にはきつく感じられることでしょう。
最大の難所は山頂近くの長いガレ場ですが、慎重に登れば子供や初心者でも問題ありません。岩に進行方向を示す赤い矢印が書かれてありますが、ガスの発生時は迷いやすくて距離も長いので、慎重に登りましょう。遭難事故も起きているので、決してあなどらず山頂を目指してください。
時期・景色
おすすめの時期は、新緑が美しい5月・6月と紅葉の9月から11月ころです。4月は山頂近くのガレ場に雪が残っていることもあり、遭難を避けるためには雪がすっかり解ける時期がよいでしょう。
ルート前半は琴似発寒川沿いにあり、平和の滝と布敷の滝の2つが観られます。真夏はマイナスイオンを浴びに、避暑地代わりに訪れるのもよいですね。
ガレ場には風穴地がある
風穴は地すべり地形で観られる現象で、岩のすき間が風穴になって岩の下から冷たい風が吹いてくるのです。名所のガレ場は山頂の柱状節理が崩れたものですが、想像すると自然の脅威を感じずにはいられません。
余裕があれば、目印を見失わないように気を付けながら風穴もチェックしてください。
装備・服装
装備は、一般的な日帰りのもので十分です。動きやすくて発汗作用のある服装と帽子のほか、登山靴は必須です。万が一の場合を考えて、晴天時でも雨具の携行をおすすめします。食事は、おにぎりなどの軽食とおやつ、飲料水はペットボトル3本ほどを用意しましょう。
ロープウェイの運行はスキー場の開設時期限定のため、帰りも同じルートを通らなければいけません。長丁場になるので、装備をしっかりとご用意ください。
コース・アクセス
平和の滝ルートへアクセスする最寄りのコースは、地下鉄とバスの乗り継ぎです。地下鉄東西線の琴似駅からJRバス「西野平和線」に乗車して終点の「平和の滝入口」で下車し、入口まで徒歩約20分。駐車場もありますが、満車のときもあるため注意してください。
【中級者向け】手稲山登山コース:「北尾根ルート:金山入口」
ルートの総距離は7キロメートル、標準時間は3時間30分です。金山入口から50分ほど掛けて2.6キロメートル登り、滝の沢分岐に到着です。左側の登山道から40分ほど掛けて1キロメートル進んで、手稲本町入口ルートに合流します。
1.5キロメートル登ると、手稲ランド研修センター前とパラダイスヒュッテ前の分岐です。右側のパラダイスヒュッテ前の登山道へ進むとスキー場入口があり、1時間ほど登れば山頂です。
難易度
金山入口ルートの難易度は、距離の長さからすると高めといえます。平和の滝ルートに比べると難所はありませんが、利用者が少ないので子供や初心者には不安に感じられるルートです。
滝の沢分岐から男子大回転ゴール跡に進むルートは遠回りになるため、十分にご注意ください。男子大回転ゴール跡を見たい人で、かつ健脚な人は、ぜひ挑戦してみましょう。
時期・景色
おすすめの時期は、4月から11月頃の無雪期です。利用者が少ないため、滝の沢川を沿うように静かな山歩きを楽しめます。1キロメートルほど登ると、このルートの名所である、落差が約8メートルで2段になっている乙女の滝の分岐に着きます。
乙女の滝は、登山道から逸れて300メートル、5分ほど歩くと観えてきます。前半は、滝と川と森林景色を、後半はスキー場の急登から見える海をお楽しみください。
装備・服装
装備は、長い距離を歩くため、機動性と発汗作用のある服装を着ましょう。靴は、ガレ場はないためスニーカーでも歩きやすいですが、履きなれているものをおすすめします。
雨具は、晴天時でも用意したほうがよいでしょう。食事はおにぎりなどの軽食やおやつ、ペットボトル3本ほどの飲料水が目安です。手稲本町入口まで下山できないときは、タクシーをスキー場入口まで呼びましょう。
コース・アクセス
金山入口ルートへアクセスする最寄りのコースは、JRまたはJRバスで手稲駅まで行き、そこから手稲鉱山行きのJRバスに乗車します。登山入口までは徒歩約10分ほどです。駐車場も数台停められます。
【高難易度】手稲山登山コース:「北尾根ルート:手稲本町入口」
ルートの総距離は7キロメートルで、登りの標準時間は3時間30分です。手稲本町入口から自然歩道に入り、北尾根経由で山頂を目指します。110分ほどで4.2キロメートル地点にある、金山口につながる滝の沢分岐点に到着です。
左側の登山道を30分ほど掛けて1.5キロメートル進むと、手稲ランド研修センター前とパラダイスヒュッテ前の分岐です。右側に進むとスキー場入口に出て、山頂まで1時間ほどの急登となります。
難易度
このルートは長い点や分岐点が3つと多い点から、子供や初心者には難易度が高いといえます。往復の標準時間は6時間ほどのため、相当な体力が求められます。
十分な装備のほか、分岐点で道を間違えないようにしっかり標識を確認するなど注意してください。
時期・景色
おすすめの時期は、新緑の5月・6月や紅葉の9月・10月ころです。樹林帯を通り抜けるので気持ちよい景色が続きます。平和の滝ルートに比べると変化に乏しく感じますが、入口から2.8キロメートルの見晴台では石狩平野と日本海が眺望できます。
終盤でパラダイスヒュッテ前の駐車場に出て、スキー場入口となります。スキー場の女子大回転の急登を超えると、再び日本海が見えてきます。
装備・服装
装備は日帰りのもので十分ですが、機動性と発汗作用のある服装にしてください。靴は、平和の滝ルートよりも歩きやすいですが、しっかりしたものをおすすめします。雨具も念のために用意したほうがよいでしょう。
分岐点が多いので地図やコンパスは必須です。食事はおにぎりなどの軽食やおやつ、ペットボトル3本ほどの飲料水が目安です。疲れて手稲本町入口まで下山できないときは、タクシーをスキー場入口まで呼んでください。
全体コース・アクセス
手稲本町入口ルートへアクセスする最寄りのコースは、JRまたはJRバスで手稲駅まで行きます。手稲駅南口から手稲本町入口までは徒歩で20分です。JR手稲駅南口から手稲本町までのJRバスもあり、バス停から入り口は徒歩10分ほどです。
札幌稲雲高校裏にある自然歩道が、手稲本町入口になっています。駐車場も20台ほどありますが、満車の場合もあるのでご注意ください。
手稲山登山は平和の滝ルートから始めよう!
手稲山の3つの登山ルートで一番人気は「平和の滝ルート」で、川や滝、林間や急登、ガレ場と変化に富んでいます。ほかの2ルートは距離が長くて利用者も少ないため、初心者や子供は平和の滝ルートで慣れて体力がついたら、ぜひ挑戦してください。
短時間で絶景を楽しみたい場合は、北尾根ルートの市民スキー場入口から登りましょう。ぜひ、手稲山登山で札幌の美しさをご堪能ください。
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出典:ライター撮影