グラウト剤とは
グラウト(grout)材とは、建築や土木の工事で発生した空洞、隙間、亀裂などを埋めるために注入する流動性のある液体材料のことです。グラウトの動詞の「grouting」の意味はグラウチングあるいは薬液注入となり、グラウト材を注入することで地盤改良などに機能します。
最も良く使われるのは建築関係で、皆さんもDIYでセメントを使って建築工事の真似事をする場合には使用することがあるかもしれません。この記事では建築関係で使われるグラウト材を中心に解説していきます。
グラウト材の種類、セメント、コンクリート、モルタル
まずは、予備知識として、グラウト材の種類や関連するセメント、コンクリート、モルタルなどといった建設の基礎材料の意味や違いについて説明していきます。
グラウト材の種類
セメント系
グラウト材は使用する素材によって多くの種類がありますが、主な3種類について紹介します。セメント系から始めます。建築現場などでよく使用されるのがセメント系で、この記事で主に紹介する「無収縮モルタル」も、セメント系グラウト材です。
ホームセンタ-や通販でも購入でき、 基本的に現場で水を加えて練りこむだけで手軽に使用できます。
ガラス系
土木工事や大規模ダムの地盤改良工事などでよく使用されるのがガラス系です。ガラス系グラウト材は粘度が低いためサラサラの状態で細かい隙間によく浸透し、施工後乾燥すると強度を持って固まります。主な用途は地盤改良などの施工工事です。DIYで使用されることはありません。
合成樹脂系
合成樹脂を配合したグラウト材なので合成樹脂系と呼びます。セメント系よりも軽量で扱いやすく、また簡単に施工ができます。乾燥後の付着性もよく、建物の補修工事にはよく使われます。
セメントとコンクリートについて
建築に詳しくない一般の人は、セメント、モルタル、コンクリートといった建設基礎材料の意味の違いを理解せずに混同してしまう場合があります。
簡単に意味を説明すると、セメントは接着剤であり、セメントに砂、砂利、水を混ぜたものがコンクリートになります。セメントには何種類かあり、一般的に良く使われるのが「普通ポルドラントセメント」です。
セメントの種類
セメントの種類としては、普通の「ポルドラントセメント」のほかに、施工後1時間もしないうちに乾燥する「速乾性セメント」や定量の水を加えるだけですぐにコンクリートとして使うことができる「インスタントセメント」などもあります。
モルタルについて
モルタルは、セメント、水、砂を混ぜたものです。モルタルは砂利が入っていないため比較的簡単に素人でも作れますが、コンクリートは砂利が入っているため、均一になるまでかき混ぜる作業が大変です。
安価な材料の砂利が入っていないためコンクリートよりコストは高くなります。コンクリートの打ちっぱなしは表面がガサガサしていて粗悪ですのでコンクリートの床、壁、天井などの表面に塗って仕上げ的な意味で使われる場合が多いです。
グラウト材といえば無収縮モルタル
建築関係で使用されるグラウト材はほとんどの場合セメント系の「無収縮モルタル」です。通常のモルタルはセメントに砂と水を混ぜたもので、完全乾燥まで数日~20日程度かかり乾燥後には収縮しますので、歪みや亀裂が入りやすいです。
「無収縮モルタル」はセメントに膨張剤をミックスさせてあり、モルタルが乾燥した時に収縮しないように工夫されていて、乾燥時にひずみや亀裂が入ることはありません。また混和材が加えてあり流動性に優れ、流し込んだり注入した場合に隅々まで充填できる特徴があります。
グラウト材(無収縮モルタル)の詳細
グラウト材(無収縮モルタル)については多くの会社がそれぞれの特徴を持った製品を販売しています。ホームセンターやネット通販でも1袋25kg入りが多く売られています。
ところがその製品がどのような原料をどのような割合で含んでいるかなどの詳細については記載していないものがほとんどです。そこで、無収縮モルタルとは何ぞや?という方に紹介していきます。
無収縮モルタルにはいろいろな種類がある
無収縮モルタルのあるメーカーのHPには、一般用、低発熱型、速硬型、高強度型、軽量型、などなど合計10を超えるタイプの無収縮モルタルが載っていました。
使用目的や施工条件によって要求される機能に対応した多くのタイプの製品を取り揃えているのです。無収縮モルタルという何かの規格があって、それに対応した製品が売られていると思っていましたが、そうではないのです。要するに「収縮しないモルタル」はすべて「無収縮モルタル」ということなのです。
モルタルという用語はJIS規格に規定されていない
無収縮モルタルとは収縮しないモルタルのこと、と説明しましたがモルタルという用語自体が建築基準法にも国の標準仕様書にもJIS規格にも規定されていない一般用語なのです。
モルタルはセメントと砂を混ぜたものですが、それに砂利を加えたコンクリートについては、JISA5308で規定されています。しかし、モルタルについては何も無いのです。
ただ、無収縮モルタルの基礎的な用途の一つ「柱底均し(はしらそこならし)モルタル」についてのみ国の標準仕様書があります。
柱底均しモルタルについての規定
国の標準仕様書に「柱底均しモルタルの材料は,調合は容積比でセメント1:砂2とする」とあります。また,圧縮強度は45N/m㎡(ニュートン/m㎡)以上であること、とも規定されています。
グラウト材(無収縮モルタル)が使われる場面
建築関係でグラウト材(無収縮モルタル)がどのようなところで使われるのか紹介します。グラウト材は通常のコンクリートやモルタルなどの建築材料に比べるとコストがかなり高くなります。
そのため、コンクリートやモルタルの代わりに全面的に使用されることはありません。具体的に鉄骨、鉄筋建築のどのような場面でグラウト材が使用されるか、具体例を紹介していきます。
鉄骨柱のベースとコンクリート基礎との結合
コンクリートの基礎部材と鉄骨柱のベース部材を接合するときは、必ず「柱底均し(はしらそこならし)モルタル」(無収縮モルタル)なるものが使われるのです。
鉄骨のベースプレートはコンクリート基礎の上に乗りますが、この鉄骨ベースの裏はツルツルであるのに対してコンクリート基礎の上面はデコボコしています。鉄骨を正しい位置に置いてコンクリートとしっかり結合するために無収縮モルタルを基礎と鉄骨ベースの間に充填して安定させるのです。
鉄筋コンクリート建物の柱鉄筋とコンクリートとの結合
鉄筋コンクリート建物の柱は、まず最初に鉄筋を芯として立て周りにベニヤ板で型枠を作り、そこに液状コンクリートを流し込んで作ります。
このときに鉄筋とコンクリートの間にはわずかな隙間できますので、中心の鉄筋部分にグラウト材(無収縮モルタル)を注入していきます。この作業により鉄筋とコンクリートの結合が強固になり、柱の強度と耐震性が大きく向上するのです。
耐水性が必要な場所での仕上げに使用
高層建築物の場合、屋上などの広い部分については、シート防水、ウレタン防水などが主に施工されますが、防水面で要となる重要な限られた箇所、例えばひび割れなどが生じて内部の構造材まで雨水が浸透すると致命的な被害をもたらすような場所については、グラウト材(無収縮モルタル)を使用して防水仕上げする場合が多いのです。
建築構造体の水平確保に
グラウト材(無収縮モルタル)は粘度が低くてサラサラですので、建築構造体の中で水平でなければならない場所に使用すると、特別な作業をしなくても表面を水平に、又きれいに仕上げることができます。限られたケースですがこのような水平と仕上げを兼ねた施工法もあります。
その他
新築時ではなく、建築後年数がたった鉄筋鉄骨建物での亀裂、ひび割れ部分の補修補強、防水工事などにも利用されます。また、ブロック塀などのブロック組み立て作業などでも鉄筋とブロックとの結合によく使われます。
セメントとグラウト材(無収縮モルタル)の違い
セメント (cement) は水と反応して硬化する性質のある粉のことでコンクリートやモルタルを作る場合に砂や砂利との接着剤としてはたらきます。建築関係で使われるグラウト材とはイコール無収縮モルタルのことです。
無収縮モルタルは普通のモルタルに膨張剤を混ぜることにより収縮しないようにしたものです。無収縮モルタルはセメント、砂、水、膨張剤などから構成されていますので、セメントは無収縮モルタルの主要な材料の一つで接着剤の役割を持つもの、ということになります。
コンクリートとグラウト材(無収縮モルタル)の違い
高層建築物の構造体の大部分はコンクリートでできています。コンクリートの表面はザラザラしていて粗悪ですので表面に仕上げ材を塗る必要があります。その仕上げ材には通常モルタルが使われます。
無収縮モルタルは、モルタルと同じように仕上げ材料として使われることもありますが、価格が普通のモルタルに比べて格段に高くあまり意味がありません。
意味のある使用法はコンクリートと鉄骨、鉄筋とを強固に結合する場面に限られます。無収縮モルタルの重要な機能はコンクリート建築構造体の強度や耐震性を高めることなのです。
グラウト材(無収縮モルタル)の良い点と悪い点
無収縮モルタルの良い点と悪い点はこれまでにも触れられていますが、改めてまとめてみます。
良い点としては、無収縮モルタルを使用すると鉄骨や鉄筋とコンクリート構造物とがしっかりと固着し一体化して構造物自体の強度や耐震度を高めることができることです。また、耐水性や防水性が高くなり劣化しにくくなる、施工面を水平に、きれいに仕上げられる、などがあげられます。
一方、悪い点としては、通常のモルタルに比べてコストが数倍高いこと、正確な注入には専用の注入具が必要な場合もあり、それなりの知識や技術がないと正しく注入できない場合があるということです。
おわりに
建築関係で使われるグラウト材(無収縮モルタル)を中心にして紹介してきました。ここまでお読みいただき有り難うございましや。いかがでしたか?
無収縮モルタルについては、DIYでコンクリートやモルタルを良く使う人は知っているかもしれませんが、一般の人には知られていません。ですが多くの人が住むマンション建物にも強度保持、耐震、防水、補修など多くの場面で使われているのです。
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