ミル貝ってどんな貝?
回転するお寿司屋さんでいただくととても得した気分になれる「ミル貝」。カウンターのお寿司屋さんでいただくと「時価」などと書かれていてなかなか手が出せませんね。これには訳があります。高級食材のミル貝の漁獲量が減ってしまい、なかなか手に入らなくなってしまい現在では似た別の貝をミル貝として販売しているからです。本来のミル貝を「本ミル」、代替えミル貝を「白ミル」と呼ぶことが多く、市場では白ミルは本ミルの半値以下で取り引きされています。
2種類のミル貝とは
高級食材
本家のミル貝は「バカ貝科」の二枚貝で、全体的に黒っぽい貝です。自分の体を貝殻にしまえない妙な進化を遂げてしまった貝で、貝の大きさは約15cmほどのものがよく流通されています。通常貝類は貝柱を食すのですが、ミル貝はそのしまえなくなって外に飛び出している「水管」がメインの食材になります。漁獲量が減り、名産地の旬の時期のものはアワビと同等かそれ以上の値段で取り引きされることもある高級食材です。ですからちょっと良いお店などではわざわざ「本ミル」と表記したりしますね。
半値以下の庶民の味方
生態も似ていて、ほとんど同じ姿で色違いのように見える代替品の貝が「ナミガイ」です。通称「白ミル」。本家のバカ貝科とはまったく種の違うオオマトイガイ科の貝です。食用の部分は本家と同じ水管部分なのですが、歩留まりはこちらの方が良く料理屋さんには喜ばれます。また一個単価も安く、産地では一つ500円~1000円ほどで売られています。食味は良好で、甘味もあり歯ごたえも良く回転寿司などでは重用されています。
本ミル貝(ミルクイ)
漢字では「海松食い」
本ミル貝は本名を「ミルクイ」と言います。漢字では「海松食い」。ですから正確には「ミルクイガイ」となり、漢字で書くと「海松食い貝」となります。これはミルと呼ばれる海草が水管の先に寄生し、その姿がまるでミル(漢字では海松)を食べているように見えることからつけられました。ちょっとグロいですよね。しかしたまたま海松を付けている個体が多いだけで、実はいろいろな海草を付着させる生態を持っています。
海松(ミル)とは
ミル貝産地の三重県の伊勢湾から愛知県の三河湾あたりまでは食卓に登ることも多いミル。漢字で書くと「海松」と書くように松葉のような姿をした海草です。よく水洗いしたものをさっと湯通しして酢味噌などでいただきます。海草自体に味はあまりありませんが、しゃくしゃくとした歯ごたえの、食感の美味しい海草です。豆知識ですが、英語色名の「olivegreen」は海松色のことだと言われています。
白ミル貝の生態
本名「ナミガイ」
一般家庭の食卓にも登る機会のある白ミル貝、本名を「ナミガイ」といいます。漢字では「波貝」。英語では「Geoduck」。確かに特徴的なアヒルのようなシルエットをしていますね。本ミル貝の漁獲量が減って魚屋さんでも時々この貝を「ミル貝」として店頭売りしているのを見かけます。調理が簡単で甘みがあり、歩留まりが良く安いのでぜひ旬の時期に見かけたら手に入れてみましょう。英語表記そのまま「グイダック(ジオではない)」の名前で売られていることもありますよ。
旬は「春」
ナミガイの旬は産卵前の「春」だと言われています。具体的には3月から5月。しまいきれない特徴的な水管を砂から突きだし、本体は30~40センチほど砂の中に潜り生活しています。日本の沿岸の砂地ならどこにでも居る可能性はありますが、漁獲が多いのは愛知県の三河湾周辺になります。産地では潮干狩り感覚で小型のものが取れる場合もありますが、通常は「特殊潜水漁」で水深20~30mの漁場で獲ります。
本ミル貝の生態
本ミル貝の産地
本ミル貝(ミルクイ)もまた日本の沿岸各地で漁獲することができます。ただし本ミル貝漁が解禁になった途端に乱獲してしまい、現在では一部の産地での出荷と、韓国などからの輸入にたよっています。日本での名産地はやはり白ミル貝と同じように愛知県、三重県。関東ですと千葉県での漁獲が多いようです。獲り方も白ミル貝と同じく潜水漁になります。乱獲を避け、種苗の育成を行って欲しいものですね。
本ミル貝の旬
「房総の潜水器漁業史」(大場俊雄 1993年5月 崙書房刊 新書判)
— 自然誌古典文庫B室 (@dokurohigh) April 14, 2019
アワビ、タイラギ、ミルクイの潜水器漁業の房総に於ける歴史を詳述した労作。潜水器漁業は漁業としては特異なのか論著が無いという pic.twitter.com/PWJPjU3YbK
本ミル貝には旬の時期が二回あります。白ミル貝と同じように春、3~5月もおいしいのですが、水温の下がる冬場時期の本ミル貝は甘味が強く絶品です。旬は12~2月。寒の本ミル貝はぜひ一度口にして頂きたい逸品です。
本ミル貝の寿命は160年?
ミル貝の寿命、生態についてはいろいろな説があり、実は何年が本当の寿命なのかがわかりません。調べてみると寿命は15年程度だとしているものから、100年以上の寿命であるとしているものから、まことしやかに「ミル貝の寿命は160年である」としているものまであります。実際に貝の年輪から140歳ほどのものは見つかっているようですので寿命は150年ほどと考えて良さそうですが、10歳から15歳ほどの幼貝(?)のうちに食べてしまうので、本当の寿命はいつまでも謎のままかも知れません。
ミル貝のさばき方
特徴的な皮むき
ミル貝をさばいている動画がありましたので載せておきますが、ミル貝のさばき方は難しくありません。貝の両側に二つづつの貝柱があり、それをペティナイフなど(筆者はスプーンの柄でやります)でこそげ切ります。本体を外したら肝を切り取り、水管に縦に包丁を入れて熱湯に落とします。この時包丁を入れずにやると皮がクルリと剥け気持ちが良いのですが、身の内側が生すぎて味に好き嫌いが出ますので切った方が良いと思います。
茹でて変色したら皮を剥く
5~6秒熱湯にくぐらせ、皮が白く変色してきたらすぐに冷水(できれば氷水)に落として内身を軽く洗います。皮を剥いたら切りつけていきますが、カットの仕方は食べ方によって変えましょう。基本は水管の筋線維を断つように切ります。火を入れるのならばブツ切り、お刺身なら細切りか削ぎ切り、お寿司にするなら縦に軽く飾り包丁を幾筋か入れてから削ぎ切りがいいでしょう。
ミル貝の美味しい食べ方①
まずは「お刺身」
ミル貝は、白ミル貝でも本ミル貝でもまずは「お刺身」で食べて頂きたいものです。独特の甘味と歯ごたえ、食感はどちらのミル貝でも1級品です。旬の時期を多少逃してもおいしさはあまりかわりません。画像のように薄い削ぎ切りでいただくのが一般的ですが、太めの細切りにして食感を楽しむのもいいでしょう。
ミル貝の美味しい食べ方②
やっぱり「お寿司」
ミル貝の代表的な食べ方にお寿司がありますね。本ミル貝、白ミル貝、どちらも寿司ネタとしてはおいしいのですが、順位を付けるとなるとやはり白ミル貝は本ミル貝には味も食感もかないません。回転寿司店などで提供されるミル貝の中には冷凍の外国産白ミル貝がけっこう混じります。時々「いつ呑み込めばいいんだろう」というくらい硬いミル貝に当たることがあります。ぜひ白ミル貝でも国産の生きたものを食べて下さい。充分おいしいですよ。
アメリカで大人気のミル貝
白ミル貝は英語で「グイダック」と説明しましたが、実は英語表記はこれだけではありません。なぜならあまり生の貝を食さないアメリカの人もミル貝は大好きなんです。ですからいろいろな英語表記でアメリカ中で愛されています。英語でのミル貝の呼び方を幾つか紹介しますと、「ホースネック・クラム」や「ロングネック・クラム」、また「ジャイアント・クラム」などと呼ばれています。人気のあるものほど呼び名が多いのは世界中同じなんですね。
ミル貝の美味しい食べ方③
深い味わい「バター焼き」
どんな貝類でも言えることなのですが、どうして貝とバター醤油ってあんなに相性が良いのでしょう。特にミル貝は相性が良い気がします。レシピらしいレシピは無いので作り方の基本だけ書いておきますね。コツはミル貝にあまり火を通しすぎないことだけです。
焦がし醤油で深みアップ!
フライパンにサラダオイル小さじ1、バター10g、チューブにんにく1cmを載せ火にかけます。にんにくの香りがたってきたらぶつ切りにしたミル貝を炒めていきます。さっと火を通したら醤油を鍋肌から一周回しかけ、フライパンを煽ります。お皿に移して黒胡椒を適量振りかけたら出来あがりです。
ミル貝の美味しい食べ方④
無駄無し「お味噌汁」
ミル貝をご自分でさばくことがありましたら、ぜひお味噌汁に挑戦してみて下さい。あの特徴的な水管はお刺身にするとして、「ヒモ」と「内臓」「貝柱」は残ります。内臓を二つに割り、黒っぽいところを包丁で外して捨てたらすべての材料を適当に切ります。これを水から沸かし、アクをすくったら味噌を投入。これだけでとてもおいしいお味噌汁の出来あがりです。産地の愛知県では赤味噌に合わせますが、これが絶品です。
ミル貝の美味しい食べ方⑤
イタリアンにぴったり!
貝類を使ったイタリアンは多いですが、ミル貝はどんなイタリアンにも良く合います。アヒージョ、パスタ、カルパッチョなど生でも火を入れてもとてもおいしくいただけます。オリーブオイルとにんにく、バジルなどとの相性が良いのでしょうね。
ミル貝のアヒージョレシピ
ミル貝をぶつ切りにします。ポットやパン(英語のPan)の大きさ、食べる人数などによって50~100ccのオリーブオイルをパンに入れます。塩小さじ2分の1、鷹の爪少量、にんにく2片スライスしたものを弱火で温めていきます。醤油小さじ1を揉みこんだミル貝をパンに入れたら、強火でグツグツするまで火に掛けて出来あがり。バゲットにたっぷりのオリーブオイルをからめながらいただきましょう。
ミル貝に付く寄生虫
寄生虫はほとんど内臓
ミル貝の特徴的な水管の先には寄生虫のようなものが入っていることがあります。ただこれは寄生虫ではなくミル(漢字で海松)にとりつくワレカラ(漢字で割殻)の仲間だと思われます。ワレカラは甲殻類の仲間で、危険はありません。しかしやはりミル貝の内臓部分には寄生虫が入ることがあります。ですから内臓をいただく時にはきちんと火を通しましょう。また生で食べたい場合は内臓をきれいに外し、「内臓膜」のみをさっと湯通ししていただきましょう。
寄生虫よりも・・
ミル貝については寄生虫の害の報告はほとんどありません。それよりも「貝毒」の方が報告されています。寄生虫と違い貝毒は目に見えません。発生すると必ずニュースなどになりますし、農林水産省にデータもあります。生食する前に確認することをおすすめします。
ミル貝を堪能しよう!
旬の時期は逃してしまいました(2019年10月執筆)が、ミル貝は周年いただけます。またもう少し待てば寒の本ミル貝が出回り始めます。高級食材とはいえ個人で購入し、自分で捌けばそう高いものでもありません(特に白ミル貝は)。魚屋さんの前を通った時など、イケスが目に入ったらあの特徴的な姿を捜してみましょう。運よくゲットできたらぜひ食してみて下さい。病み付きになってしまうかもしれませんよ。
貝類の生態が気になった方はこちらもチェック!
今回ミル貝の生態や美味しい食べ方などをレポートしましたが、日本近海にはまだまだ美味しくて不思議な生態を持った貝類がたくさんいます。「暮らし~の」のサイトの中にはさまざまな貝類を紹介した記事があります。併載しておきますので、気になった方はぜひこちらもチェックしてくださいね。
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